艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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たまには番外編

色々リクエストがありましたので、一番書き易そうなものをさきに書きました

また順を追ってリクエスト回も投稿していきます

今回のお話は、久々のパパ目線のお話です


番外編 パパとママとたいほう

最近、平和な日々が続いている

 

表ではレイやたいほう達子供が遊んでおり、食堂ではひとみといよが姫と積み木をして遊んでいる

 

私はデスクワークの手を止め、外で遊んでいるレイ達を見ていた

 

「平和ねぇ…」

 

貴子がコーヒーを持って来てくれた

 

「貴子。今幸せか⁇」

 

「ふふっ。何を今更…」

 

貴子は私の質問を鼻で笑った

 

「幸せじゃなかったらここにいないわ⁇」

 

「そっか。そうだよな」

 

「ウィリアムは幸せ⁇」

 

「幸せさ‼︎これが理想だったんだ‼︎」

 

「たいほうがいて、マーカス君がいて、子供達も沢山いて…」

 

貴子は普段を見ている限り、かなり幸せそうだ

 

あの時と比べると見違える程違う

 

虚ろな目で童謡を口ずさむ貴子には、もう戻って欲しくない

 

「ウィリアムもマーカス君も、ずっとみんなに優しくしてくれてるわ。私が深海の時だって…」

 

貴子は私が知っている中では、最初に味方になった深海棲艦だ

 

戦艦タ級のマリア

 

今でも覚えている

 

今思えばあの時、私達家族は元の形に戻っていたんだな…

 

今じゃすっかり大家族だ

 

「マリアの時も、武蔵の時も、ウィリアムは私を抱き締めてくれたわ…そう考えると、マーカス君はウィリアムに似てるわね⁇」

 

「ふっ…もうレイの方が上かも知れんな…」

 

「ところでウィリアム…」

 

「何だ⁇」

 

貴子の目つきが、武蔵の時の様に鋭くなる

 

「リべちゃんの事だけど…」

 

「そうだな…ここに呼ぼうとも考えてたんだが…リベは今の方が良いらしい」

 

「あら。考えてたのね⁇」

 

「まぁな…自分で撒いた種だからな」

 

「種だけに⁇」

 

「…お前はきそか」

 

「ふふっ」

 

貴子は時折、きその様なイタズラな表情をする

 

元から下の話は平然と受け答えするか、受け流す貴子だが、武蔵の時から更に輪を掛けて下ネタに強くなった気がする

 

始まりは、傷付いた子や戦えなくなった子達の止まり木になれば…位には考えていた

 

戦うのは我々男だけで良い…

 

そう思っていたのは最初だけだ

 

いつしか護る側から、護られる側に移っていた

 

「パパしゃんひまか⁇」

 

「パパしゃんおひま⁇」

 

「え⁉︎どっから来た⁉︎」

 

いつの間にか足元にひとみといよがいた

 

「ここからきたお‼︎」

 

「おっきぃあな‼︎」

 

いつしかたいほうがほじくって開けた穴が、今ではひとみといよ位なら這いずって通れるまで大きくなっていた

 

因みに反対側にはソファーがある

 

「この穴も懐かしいわね…ずっとある」

 

「直すに直せなくてな…ははは」

 

「パパしゃん、いるかしゃんきあい⁇」

 

「ぴーぷーなるの」

 

ひとみといよは愛おしそうにイルカのぬいぐるみを抱き、ピープー鳴らす

 

そう言えば、姫が欲しそうに見ていたな…

 

「二人は何したい⁇」

 

「「おえかき‼︎」」

 

「こっちおいでっ‼︎」

 

貴子がそう言うと、二人は貴子の所に行った

 

貴子は執務室に備えられた小さな机の前に不要になった資料数枚と共に色鉛筆を置いた

 

二人はイルカのぬいぐるみを置き、いよは私、ひとみは貴子の膝の上に乗り、おえかきを始めた

 

「こうしてると、ホントに子育てやり直してるみたいね」

 

「そうだな…」

 

貴子はずっと子供を欲しがっていた

 

やっと出来た子供は国に無理矢理堕ろされ、きっと絶望しただろう

 

私もあの日、何もかも失った気分になった

 

今はどうだ⁇

 

娘は最高の友人に助けられ、今外でそんな彼と遊んでいる

 

「パパしゃんとたかこしゃんはころもひとい⁇」

 

「たいほ〜⁇」

 

「そっ。たいほうだな」

 

「いよはえいしゃんのころも‼︎」

 

「ひとみも‼︎」

 

「そしたら、お母さんは横須賀さん⁇」

 

「おかあしゃんはたかこしゃんとよこすかしゃん‼︎」

 

「おとうしゃんはえいしゃん‼︎」

 

「そっか…ははは」

 

貴子には気付かれたが、どうやら私は悲しそうな顔をしているらしい

 

「パパしゃんはパパしゃん」

 

「パパってろ〜いういみ⁇」

 

「わからん…」

 

おえかきしながら二人が悩む

 

「パパって言うのは、お父さんって意味なのよ⁇」

 

「しょっかぁ‼︎パパしゃんもおとうしゃん‼︎」

 

「おとうしゃん‼︎」

 

二人は色鉛筆を置き、私に抱き着いた

 

「おわっ‼︎ははは‼︎」

 

「良かったわね、お父さん⁇」

 

貴子がおちょくる

 

どうやら、私も気付けば子沢山になっていた様だ

 

 

 

 

 

「オトン。これは何だ。グラーフへの当て付けか」

 

食堂に戻ると、グラーフが外から戻って来たレイに怒っていた

 

グラーフの前には、レイが昨日横須賀で買って来てくれた色とりどりのポップコーンが入ったプラスチックの容器がある

 

「ちっ、違わい‼︎美味いから買って来たんだ‼︎」

 

「ホントか」

 

「ホントだ‼︎」

 

「…怪しい」

 

「…なら食うな‼︎」

 

「あっ」

 

珍しくレイがキレ気味でグラーフからポップコーンを奪った

 

「たいほう、俺とポップコーン食べるか⁇」

 

「たべる‼︎すてぃんぐれいのぽっぷこーんすき‼︎」

 

「よしよし‼︎」

 

「ぐぬぬ…」

 

グラーフは本気で言っていた訳では無く、ちょっとレイをおちょくるつもりで言ったみたいだ

 

そんなグラーフをよそに、レイはたいほうを膝の上に乗せ、テレビを見ながらポップコーンを食べ始めた

 

グラーフは机の上でションボリしている

 

「たいほう」

 

「ん⁇」

 

「グラーフみたいになってはいかんぞ⁇」

 

「すてぃんぐれい、ぐらーふきらい⁇」

 

「…」

 

レイはたいほうに何か耳打ちしている

 

「ふふふ…」

 

「内緒だぞ⁇」

 

「わかった…」

 

何故かたいほうは嬉しそうにしている

 

ポップコーンを食べ終え、レイは工廠に戻って行った

 

食堂には、未だダラけているグラーフとたいほうと私

 

厨房には貴子とローマがいる

 

「あんまり落ち込むなよ⁇」

 

「言い過ぎた」

 

「ぐらーふないてるの⁇」

 

たいほうはなだめるかの様に、小さな手でグラーフの背中をさする

 

「ぐらーふはすてぃんぐれいきらい⁇」

 

「嫌い…だってすぐ拗ねるもん…」

 

「すてぃんぐれいはね、ぐらーふのこと、だいすき‼︎っていってたよ⁇」

 

その瞬間、ローマがビクッとしたのを、私は見落とさなかった

 

「嘘だ。ジェミニが良いはず」

 

「ぐらーふもすきなんだって。あのね⁇すてぃんぐれいのはつこいのひとはぐらーふなんだって‼︎」

 

「…知ってる」

 

「あらっ‼︎そんな関係だったの⁉︎」

 

今度は貴子が興味津々で厨房から身を乗り出して来た

 

「たいほうもぐらーふすきだよ‼︎」

 

「グラーフもたいほう好き」

 

昔から愛憎劇にはなるべく首を突っ込まなかったが、今回も突っ込まなくて良い様だ

 

「…でも何でオトンはグラーフの事好きになったんだろ」

 

「たいほうしってるよ」

 

「教えて」

 

「だめだよ。たいほうとすてぃんぐれいのないしょ‼︎」

 

「教えて下さいな」

 

「だめだよ‼︎くうぐんはうそつかないんだよ‼︎たいほうもうそつかない‼︎」

 

「…たいほうは偉いね」

 

グラーフはうっすらと笑った後、諦めたかの様にたいほうの頭を撫でた

 

「あっ。すてぃんぐれいがね、あとでおれのところにこい‼︎っていってた‼︎」

 

「分かった。行ってくる」

 

グラーフは立ち上がり、工廠へと向かった

 

たいほうはグラーフの座っていた椅子によじ登り、グラーフが食べ残したクッキーを口に放り込んだ

 

私は頬杖をつきながら、たいほうに聞いてみた

 

「レイに何教えて貰ったんだ⁇」

 

「ぐらーふにいわない⁇」

 

「言わないよ」

 

どうやらたいほうは私とレイには隠し事をしないみたいだ

 

「あのね、すてぃんぐれいはぐらーふのおっぱいもすきだけど、おりょうりがすきなんだって‼︎」

 

「グラーフの料理は美味しいもんな…」

 

「それでね、すてぃんぐれいはね、ぐらーふのわらったかおがすきなんだって‼︎」

 

グラーフは常に眠たそうな顔な時が多い

 

そんなグラーフが時たま見せる笑顔に、レイは落ちたのだろう

 

「でもね、ぐらーふときどきないてるの」

 

「どうしてだ⁇」

 

「みはいるさんにあえないからだって」

 

「ミハイルは忙しいからなぁ…」

 

「すてぃんぐれいはね、それをしってるから、ぐらーふともっといっぱいおしゃべりしたいんだって‼︎」

 

「そっか…ありがとうな」

 

たいほうよ

 

たいほうは今、大人からすればかなり重荷を背負っている状態だぞ

 

複雑な恋の板挟みに遭っているんだ

 

たいほうは無邪気さ故にそれを分からないでいるが、今はそのままで良さそうだ…

 

「あっ。そうだ。あのねパパ」

 

「ん⁇」

 

「ぐらーふ、ときどきよなかうるさいの」

 

「寝言か⁇」

 

「わかんない…いく‼︎いくっ‼︎とか、もっともっと‼︎とか、みはいる〜‼︎とかいってるよ⁇」

 

「…たっ、たいほう⁇」

 

貴子が厨房から出て来た

 

貴子はたいほうの前にオレンジジュースの入ったコップを置き、たいほうに飲ませ、飲み終わった後、貴子はたいほうの両手を握った

 

「それはね、ミハイルさんに逢いたいから泣いてるのよ⁇」

 

「ぐらーふさみしい⁇」

 

「そうよ〜。たいほうだって、パパやマーカス君に逢えなくなったら寂しいでしょ⁇」

 

「さみしい…」

 

「グラーフも一緒なの。大好きな人に逢えなくて、とっても寂しくて、夜に一人で泣いてるのよ⁇」

 

「たいほうじゃだめなの⁇」

 

「そうね〜。グラーフの思うたいほうの好きと、ミハイルさんの好きは、ちょっと違うかな⁇」

 

「たいほうもいつかわかる⁇」

 

「分かる分かる‼︎たいほうが良い子にしてたら、きっと分かるわ‼︎」

 

「わかった‼︎たいほう”いいこちゃん”にする‼︎」

 

貴子が笑顔を送り、たいほうは椅子から降り、アイガモの散歩の為に靴を履き始めた

 

「ついでに工廠のみんな呼んできてくれる⁉︎」

 

「わかった‼︎」

 

たいほうが散歩に向かうと、貴子はたいほうを見ながら口を開いた

 

「たいほうもちょっとずつ敏感になってるのかしら…」

 

「成長してるんだよ、きっと」

 

「マーカス君に似て来たしね⁇」

 

「良い子ちゃんとかな」

 

レイはいつも出掛ける時、子供達に”良い子ちゃんで待ってるんだぞ〜”と言ってから出る

 

たいほうはちゃんと言う事を聞いているみたいだ

 

「おやつ‼︎」

 

「ひめしゃんつえてきた‼︎」

 

膝の上にひとみといよを乗せた姫が食堂に来た

 

「あらっ⁇てぃーほうがいないわ⁇」

 

「すぐ帰って来るわ。さっ‼︎ひとみちゃん、いよちゃん‼︎お手伝いしてくれる⁉︎」

 

「しゅる‼︎」

 

「えぷおんつけて‼︎」

 

貴子は二人に小さなエプロンを付け、自分達の分、そして姫ともう一つのオヤツを二人がいつも座る机の上に運ばせる

 

チョコチョコ歩く二人を見ていて、危なっかしいと思う反面、見届けてやらねばと思うと目が離せなくなる

 

「くっきーら‼︎」

 

「たいほ〜のしゅきなおやつ‼︎」

 

「もうそんな時間か⁉︎」

 

工廠に居た面々が帰って来た

 

レイの頭の上にはたいほうもいる

 

「どっこらせ〜…」

 

「すてぃんぐれいきょうあっち‼︎」

 

「あっち〜⁇」

 

「たいほうとたべるの」

 

「たいほうもこっちで食べたらいいじゃないか⁇」

 

「だめっ‼︎きょうはあっち‼︎パパこっち‼︎」

 

「はいはい。ふふ…」

 

「なんだなんだ⁉︎」

 

レイはたいほうに言われるがまま、食堂の椅子に座る

 

「すてぃんぐれいここね。たいほうはここ」

 

「うっ…」

 

たいほうはレイをグラーフの前に座らせ、自身はレイの横に座った

 

グラーフは目の前に座った瞬間、気まずそうな顔をした

 

「すてぃんぐれい、ぐらーふ。きょうはたいほうのおやつたべよ⁇」

 

「おっ‼︎グミか⁉︎」

 

「じゃん‼︎」

 

たいほうが後ろ手で隠していたのは、先程ケンカの原因になったモノと同じポップコーンだ

 

「ぐらーふたべて‼︎」

 

「うん」

 

「すてぃんぐれいも‼︎」

 

「お、おぉ…」

 

二人はたいほうに言われるがまま、ポップコーンを食べ始めた

 

「おいしいね‼︎」

 

「うん」

 

「だな」

 

二人共笑っている

 

たいほうが言いたいのはケンカはするな、だろう

 

何ともたいほうらしい解決の仕方だ

 

後々聞くとその日の夜、グラーフはまたうるさかったらしい

 

そして何故か、レイの声もしていたらしい…

 

 

 

 

 

 

 

「たまには三人で話してもいいだろ⁉︎」

 

「エッチな事してると思ったか」

 

「「残念だったな‼︎そいつは正解だ‼︎」」




グラーフは一人で慰める時うるさいんだって

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