「ビスマ…」
急に視界がおかしくなる
世界が真っ赤に染まる…
「隊長さん⁉︎隊長さん‼︎」
ビスマルクが呼ぶ方に手を伸ばす
「大佐‼︎」
横須賀君が来た瞬間、完全に視界が真っ暗になった
「はっ‼︎」
「目が覚めましたか⁇」
目が覚めると、横には横須賀君がいた
「どれ位眠ってた」
「丸3日ですよ。まだ体が慣れていない証拠ですね」
「ビスマルクは⁇」
「…」
私の問いに、横須賀君は下を向いたまま黙っていた
「どうした⁇」
「貴方が眠った次の日、遠征に出したのですが、それから連絡がありません」
「捜索隊は出したか⁇」
「えぇ。連日連夜出しています」
「海だけか⁇」
「いえ。上空からも捜索していますが…あまり遠くには行けません」
「…」
予感は的中した
何故だろうな
昔から、悪い予感だけは必ず当たる
あの日だって、一瞬頭によぎった不安が現実になってしまった
「T-50を一機、俺にくれないか⁇」
「ダメです。大佐は足が…」
「根性で何とかなる」
「とにかくダメです。T-50は高価ですから。さ…」
横須賀君は私に布団を被せた
私はそれを振り払い、横須賀君の胸倉を掴んだ
「俺の操縦に不満があるのか」
「落としでもしたら、今度は本当に死にます‼︎」
「俺が落とすと思うか」
「それは…」
「T-50は確かに高価だ。良い機体だ。一目で分かる。だがな、戦闘機は代えが効く。ビスマルクは一人だ。あいつだけだ‼︎」
「…」
「頼む‼︎」
「…2時間です。2時間だけT-50を一機、試験飛行に移します。それに乗って、捜索して下さい」
「すまん」
「全く…」
横須賀君は私の手を解き、服を正した
「貴方の腕と、その戦術的勘は、私には持てなかったですからね…」
横須賀君が去った後、私は常に用意していたパイロットスーツに着替え、格納庫に向かった
「機体は⁇」
「これです」
黒いボディに、滑らかな曲線美
エンブレムは無印だが、この際構わない
「上空でのコールサインは、私は”クラーケン”大佐は…」
「イカロスでいい」
「…ではイカロス。スタンバイ‼︎」
機体に乗り込み、操作法を確認する
何とかなりそうだな…よし‼︎
「イカロス機、出る‼︎」
《格納庫から、T-50、イカロス機が発進します。各員、持ち場を離れて下さい》
格納庫から出た瞬間、思い切りアフターバーナーを焚き、空に帰った
「あぁもう全く‼︎昔の癖が抜け切ってないっ‼︎」
大佐は昔からいきなりアフターバーナーをふかす癖があった
確かに離陸しやすくはなるが、辺り一面に書類が舞っている
「今のは隊長さん⁉︎」
「そうだよ‼︎あぁもう‼︎各員、書類を片付けろ‼︎」
「T-50があんな機動するなんて‼︎」
書類を集めていた隊員達が、空を見上げた
大佐の乗ったT-50は、美しいまでに円を描き、数回宙返りをした後、一瞬で空の彼方へ消えて行ってしまった
「やっぱり大佐だ…」
「綺麗…」
「さて…」
機体の中で、私はレーダーに目をやっていた
流石は高性能だな
漁船の位置やら、遠方の駆逐艦の位置まで丸分かりだ
「………る⁇だ……お」
「ビスマルク⁇」
敵のジャミングなのか、無線の先からかすれた声が聞こえて来た
「こちらイカロス、応答せよ。繰り返す、こちらイカロス」
「………たわ‼︎…………ダ……な…の」
「何だ…ここは…」
レーダーには全く映らないが、一つ島がポカンと浮かんでいた
「何だこの島は…レーダーが効かない‼︎」
「……ん‼︎…こよ‼︎」
島に近付くにつれ、無線の声も強くなって来た
「隊長さん‼︎ここよ‼︎」
「ビスマルク‼︎」