艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

49 / 1086
15話 雀と雄鳥(4)

「ビスマ…」

 

急に視界がおかしくなる

 

世界が真っ赤に染まる…

 

「隊長さん⁉︎隊長さん‼︎」

 

ビスマルクが呼ぶ方に手を伸ばす

 

「大佐‼︎」

 

横須賀君が来た瞬間、完全に視界が真っ暗になった

 

 

 

 

 

「はっ‼︎」

 

「目が覚めましたか⁇」

 

目が覚めると、横には横須賀君がいた

 

「どれ位眠ってた」

 

「丸3日ですよ。まだ体が慣れていない証拠ですね」

 

「ビスマルクは⁇」

 

「…」

 

私の問いに、横須賀君は下を向いたまま黙っていた

 

「どうした⁇」

 

「貴方が眠った次の日、遠征に出したのですが、それから連絡がありません」

 

「捜索隊は出したか⁇」

 

「えぇ。連日連夜出しています」

 

「海だけか⁇」

 

「いえ。上空からも捜索していますが…あまり遠くには行けません」

 

「…」

 

予感は的中した

 

何故だろうな

 

昔から、悪い予感だけは必ず当たる

 

あの日だって、一瞬頭によぎった不安が現実になってしまった

 

「T-50を一機、俺にくれないか⁇」

 

「ダメです。大佐は足が…」

 

「根性で何とかなる」

 

「とにかくダメです。T-50は高価ですから。さ…」

 

横須賀君は私に布団を被せた

 

私はそれを振り払い、横須賀君の胸倉を掴んだ

 

「俺の操縦に不満があるのか」

 

「落としでもしたら、今度は本当に死にます‼︎」

 

「俺が落とすと思うか」

 

「それは…」

 

「T-50は確かに高価だ。良い機体だ。一目で分かる。だがな、戦闘機は代えが効く。ビスマルクは一人だ。あいつだけだ‼︎」

 

「…」

 

「頼む‼︎」

 

「…2時間です。2時間だけT-50を一機、試験飛行に移します。それに乗って、捜索して下さい」

 

「すまん」

 

「全く…」

 

横須賀君は私の手を解き、服を正した

 

「貴方の腕と、その戦術的勘は、私には持てなかったですからね…」

 

横須賀君が去った後、私は常に用意していたパイロットスーツに着替え、格納庫に向かった

 

「機体は⁇」

 

「これです」

 

黒いボディに、滑らかな曲線美

 

エンブレムは無印だが、この際構わない

 

「上空でのコールサインは、私は”クラーケン”大佐は…」

 

「イカロスでいい」

 

「…ではイカロス。スタンバイ‼︎」

 

機体に乗り込み、操作法を確認する

 

何とかなりそうだな…よし‼︎

 

「イカロス機、出る‼︎」

 

《格納庫から、T-50、イカロス機が発進します。各員、持ち場を離れて下さい》

 

格納庫から出た瞬間、思い切りアフターバーナーを焚き、空に帰った

 

「あぁもう全く‼︎昔の癖が抜け切ってないっ‼︎」

 

大佐は昔からいきなりアフターバーナーをふかす癖があった

 

確かに離陸しやすくはなるが、辺り一面に書類が舞っている

 

「今のは隊長さん⁉︎」

 

「そうだよ‼︎あぁもう‼︎各員、書類を片付けろ‼︎」

 

「T-50があんな機動するなんて‼︎」

 

書類を集めていた隊員達が、空を見上げた

 

大佐の乗ったT-50は、美しいまでに円を描き、数回宙返りをした後、一瞬で空の彼方へ消えて行ってしまった

 

「やっぱり大佐だ…」

 

「綺麗…」

 

 

 

 

 

「さて…」

 

機体の中で、私はレーダーに目をやっていた

 

流石は高性能だな

 

漁船の位置やら、遠方の駆逐艦の位置まで丸分かりだ

 

「………る⁇だ……お」

 

「ビスマルク⁇」

 

敵のジャミングなのか、無線の先からかすれた声が聞こえて来た

 

「こちらイカロス、応答せよ。繰り返す、こちらイカロス」

 

「………たわ‼︎…………ダ……な…の」

 

「何だ…ここは…」

 

レーダーには全く映らないが、一つ島がポカンと浮かんでいた

 

「何だこの島は…レーダーが効かない‼︎」

 

「……ん‼︎…こよ‼︎」

 

島に近付くにつれ、無線の声も強くなって来た

 

「隊長さん‼︎ここよ‼︎」

 

「ビスマルク‼︎」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。