艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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レイ目線に戻ります

元気になった誰かが再登場します


154話 雷鳥は踊る(3)

先程とは違い音楽が流れ、俺は横須賀の手を強く握った

 

「レイ」

 

「何だ⁇」

 

「幸せよ…私」

 

「けっ」

 

横須賀はぎこちない笑顔を俺に送る

 

「何かあったのか⁇」

 

「ううん。何か、ふと幸せだなぁ〜って」

 

「しみったれた顔はお前には似合わんぞ。あの二人を見てろ⁇」

 

横須賀の手を握って踊りながら、御馳走が用意されている場所から此方を見ていたいよとひとみに歯を見せた

 

すると、二人はいつも通り俺に歯を見せて笑い返した

 

「あらっ‼︎」

 

「あぁやって笑ってろ。お前はそっちの方が似合う」

 

「…うんっ‼︎」

 

横須賀に笑顔が戻る

 

少し疲れているのかも知れないな…

 

ずっと子供を任せっぱなしだからな…

 

「レイ、またデート連れてって欲しいわ…」

 

「なら、今週の金曜なんかどうだ⁇映画見て、買い物して、みんなで飯食って…」

 

「レイと二人が良いわ…」

 

こんな事言うのは珍しい

 

「分かった。たまには二人で行こう」

 

また横須賀が笑顔になる

 

こういう時、無性に愛おしくなるんだよなぁ…

 

横須賀とのダンスが終わり、一旦休憩となった

 

「おかえい‼︎」

 

「おかえい‼︎」

 

「ただいま。よいしょ…」

 

すぐに二人がよじ登ろうとして来たので、抱き上げて肩に乗せる

 

「たいほうは何処行った⁇」

 

「たいほ〜あっち‼︎」

 

「パパしゃんのとこお‼︎」

 

二人が指差す方向には、隊長の頭に乗っているたいほうがいた

 

「イディオットはホントに子沢山だな」

 

「がんこちゃんら」

 

「しゅくしぇ〜ちゃん」

 

何処で覚えたのか、二人はガングートを知っていた

 

「ガン子の名も有名になって来たな‼︎」

 

ガングートは少し前から自分の事をガン子と言い始めている

 

それをガングートは気付いていない

 

チョットマヌケなのかも知れないな…

 

「どうだ⁇こっちは楽しいか⁇」

 

「うんっ‼︎イディオットの娘と友達になった‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

「ロシアにいた時は友達と呼べる存在が居なかったんだ…ガン子は今の生活を気に入っている」

 

「俺が居ない間に横須賀達に何かあったら頼むぞ」

 

「う、うん…」

 

何故かガングートはソワソワしている

 

「きょっ、今日はナデナデしてくれないのか⁇」

 

「あぁ‼︎そうだなっ…」

 

ガングートの頭を帽子越しに撫でた

 

ガングートは嬉しそうにしている

 

「ロシアでは…こんな事して貰った事なかった。イディオットも、ホルスタインも、ガン子をナデナデしてくれる」

 

「言っただろ⁇娘みたいなモンだって」

 

「あ、ありがとう…ガン子は嬉しいぞ」

 

ガングートは照れたまま、何処かに行った

 

「がんこしゃんかあいいね‼︎」

 

「しゅくしぇ〜しない‼︎」

 

「お前ら、何でガングートの事知ってるんだ⁇」

 

「はんま〜からきいた‼︎」

 

「しまうましゃん‼︎」

 

「…なるほどな」

 

…榛名か

 

榛名はたまに基地に遊びに来る

 

その時に話を聞いてたのだろう

 

「ん⁇」

 

肩に乗せた二人と話していると、服の裾をクイクイ引っ張られた

 

どうやら最後のダンス相手が決まりそうだ…

 

「えいしゃんおどう⁇」

 

「らんすすう⁇」

 

「そうだなっ…よいしょ‼︎」

 

二人を肩から降ろす

 

「そおいどこいった⁇」

 

「めがねのよこ‼︎」

 

「そおい〜‼︎」

 

「めがね〜‼︎」

 

二人は肩から降りた瞬間、しおいとローマの所に行った

 

「ふふっ」

 

「行くか⁇」

 

「お願いしてもいいかしら⁇」

 

「母さんが良ければ」

 

「端っこの方に行きましょう」

 

最後のダンス相手は母さんだ

 

曲が始まり、周りではダンスが始まる

 

母さんは車椅子に乗っているので、手だけで出来るダンスをする

 

激しい事は出来ないが、母さんと手を繋いで、俺が母さんの周りをクルクル回るだけでも母さんは楽しいみたいだ

 

「若い時にリチャードにこうして貰ったわ…」

 

「そういや、親父と何処で出逢ったんだ⁇」

 

「私とリチャードは上司と部下の関係だったの。私が上司で、リチャードが部下」

 

「俺と横須賀みたいにか⁇」

 

「そうね…ちょっとビックリしたわ」

 

どうやら親の恋愛の仕方は、子に遺伝する場合があるらしい

 

母さんとのダンスも終わり、御馳走のある場所に戻って来た

 

後は食べるだけだ

 

「オトンは楽器が好きなのか⁇」

 

いざ食べようとした時、磯風が来た

 

「昔暇潰しにやってただけだ」

 

「アレも出来るのか⁇」

 

磯風の目線の先には、バイオリンがある

 

「まぁ…チョットだけならな⁇」

 

「オトンは凄いな…」

 

磯風が驚いている

 

口の片方だけ開けて驚く癖は横須賀譲りだ

 

 

 

 

食事が終わり、パーティーがお開きになり後片付けが始まるが、外は余韻でまだまだ騒がしい

 

外は真っ暗になってはいるが、これからデートに出掛ける提督と艦娘も少なくないだろう

 

俺は妖精達が片付けているのを見ながら、残っていたバイオリンを手に取った

 

”なんや、バイオリン弾けるんか⁇”

 

”聞いてみよや”

 

妖精達しか居なくなった教会の中心に立ち、深く息を吐いた後、記憶の中にある一曲を弾く

 

”おぉ…”

 

”綺麗やなぁ…”

 

亡き王女へのなんちゃらとか言う曲が教会の中、そしてうっすらだが教会の外の連中の耳にも届く

 

 

 

「あら、素敵…」

 

「懐かしい気分だな…」

 

外の連中がザワつき始める中、一人だけ違う感覚に苛まれていた

 

「…マーカス様⁇」

 

 

 

 

弾き始めてからしばらくすると、オルガンの音が混じった

 

バイオリンを弾いたままオルガンの方を見ると、きぬが同じ曲をオルガンを弾いており、笑顔を送ってくれた

 

俺も笑顔を送り返し、またバイオリンへ集中する

 

「こっちからきこえるお‼︎」

 

「あっ‼︎えいしゃん‼︎」

 

「し〜っ、ですよ⁇」

 

「し〜っ」

 

「し〜っ」

 

ひとみといよがはっちゃんの手を弾いて教会に入って来た

 

三人はいつも通りの場所に置かれた

椅子に座り、静かに演奏を聴き始めた

 

そしてまた一人、演奏に参加する

 

今度はアレンだ

 

アレンは黙ったままもう一つのバイオリンを手に取り、俺に追従して弾き始めた

 

「この曲…」

 

曲を聴きながら小さく首を左右させるひとみといよを両脇に置いたはっちゃんは不思議な感覚に苛まれていた

 

演奏が終わり、きぬとアレンに礼を言う

 

「ありがとう」

 

「懐かしい弾き方が聞こえたからな。まっ、楽しかったぞ‼︎」

 

「きぬも楽しかったです‼︎」

 

ホントは隊長とラバウルさん辺りも居てくれれば良いんだが、二人はクラシックよりバンド向きだからなぁ…

 

「えいしゃんすごかったお‼︎」

 

「ひとみ、えいしゃんのがっきしゅき‼︎」

 

「そっかそっか‼︎」

 

「マーカス様、今の曲…」

 

「聞いた事あるか⁇」

 

「はい。はっちゃんがまだAIの時に聞いた事があります」

 

「ふふっ…やっぱな」

 

はっちゃんがAIの時、沢山クラシックを聴かせた

 

あの時ムーンリバーを流したのも、もしかするとクラシックからの影響かも知れない…

 

 

 

 

こうして、パーティーはお開きになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、ロシア領土〜北極海〜

 

北極海で謎のレーダー反応があり、ライコビッチはそれの偵察に向かっていた

 

《ベルーガ。反応はその辺りだ》

 

「ベルーガ了解。一応付近を偵察する」

 

ライコビッチはレーダーの反応がある付近を飛び回るが、流氷やアザラシが居る位で、反応にあった艦は見当たらない

 

「こちらベルーガ。付近に不審な艦は見当たらない。故障じゃないのか⁇」

 

「ベルーガ…君の真下だ‼︎」

 

「真下って…」

 

ライコビッチは機体を逆さにし、海面を見た

 

「クジラ…か⁇」

 

巨大な影は海面に薄っすらと姿を見せ、そしてまた海底へと消えて行った

 

《ベルーガ‼︎反応が消えたぞ‼︎何が起こった‼︎》

 

「分からん…クジラの様な影が一瞬見えただけだ」

 

《…了解した。帰投しろ》

 

「了解。RTB」

 

ライコビッチの乗ったT-50が引き返していく

 

 

 

 

 

 

「寒いのは…もう嫌でち…」


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