艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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153話 試作型深海棲艦(3)

「Mk.0は…俺の事だな⁇」

 

「そうよ…ジェミニから聞いたわ。シャングリラで老人を殴ろうとした時、左腕にDMM化の兆候が見られたって」

 

サラは異様に落ち着いていた

 

机に腰掛け此方を見るサラに向けていた銃口を下げ、ピストルを腰に仕舞った

 

「マーくん…サラの事、嫌いになった⁇」

 

「いや。もっと早く教えて欲しかったな…って思っただけだ」

 

「…来て」

 

サラに連れられ、地下室の更に奥に連れて来られた

 

サラが足を止めた目の前には、ここに続く階段があった扉より遥かに厳重に施錠された扉があった

 

「この扉を開けたら…マーくんはきっとサラを嫌いになるわ」

 

そう言って、俺が言い返す暇なくサラは扉を開けた

 

錆び付いた扉が開く音と共に、中が明らかになった

 

「これは…」

 

扉の向こうには、基地にあるカプセルより年季の入ったカプセルが間隔を開けて並べられていた

 

カプセルは稼働しておらず、大部分は割れたり破壊されていたが、数個のカプセルの中には未だに何かが入ったままでいた

 

俺は未だに中に何か入っているカプセルの中身を見た

 

「深海側の駆逐艦…」

 

サラの方を振り返ると、サラは入って来た扉を閉めていた

 

「…サラ⁇」

 

「サラはね…マーくんじゃないマーくんと一緒に、新しい兵器を造っていたの」

 

規則正しい足音と共に、サラが近付いてくる

 

俺はこの日二度目の恐怖を感じていた…

 

「本国から受けた注文は、死なない兵士を造り出す事…マーくんが造ってくれたこの装置があれば、造作も無い事だった…サラもそう思ってたの」

 

「現実は違ったか⁇」

 

「そう…サラとマーくんじゃないマーくんが造り出したのは、人に憎悪を剥き出しにする子ばかりだったわ…」

 

「その子達はどうした⁇」

 

「暴動を起こして逃げ出したわ」

 

「ちょっと待ってくれ‼︎まさか…」

 

俺の嫌な予感はいつも当たる

 

次にサラの口から出る言葉を聞きたくなかった…

 

「この戦争が起こったのはサラ達の所為なの…サラ達が居なければ、この戦争は起こらなかったの…」

 

「はぁ…」

 

気が抜けた俺は、カプセルに背中を置いた

 

「怒ってるよね…サラの事、嫌いになったよね…」

 

そう言うサラの手には、ピストルが握られている

 

「マーくんっ…ゴメンね…サラ、耐えられないや…」

 

サラは涙で顔をグシャグシャにしながら、手にしたピストルを自身のこめかみに当て、引き金に指を掛けた

 

そして、一発の銃声が響き渡る…

 

「…」

 

「ぐっ…」

 

間一髪でサラの腕を掴み、銃口を別の方向に向けられた

 

だが、銃口が向けられた先には俺の左肩があり、銃弾は左肩を貫通していた

 

「…二度と死ぬなんて考えるな」

 

サラからピストルを奪い、床に落として蹴り飛ばした

 

「マーくんどうして…」

 

「子供達が悲しむ」

 

「あっ…」

 

子供達はサラに懐いていた

 

そんなサラが居なくなれば、子供達が悲しむのは目に見えている

 

そうこうしている内に、左肩の傷が癒えて行った

 

「サラの所為じゃない。気に病む必要も無い」

 

「…」

 

サラはしゃくり上げながら俺を見つめている

 

「それと、さっきサラが言ってた事も心配する必要も無い」

 

「ふふっ…マーくんにはジェミニがいるでしょ⁇」

 

しゃくり上げながら無理に笑顔を見せるサラを、俺は思い切り抱き寄せた

 

「しばらく黙ってろ…」

 

「うんっ…」

 

横須賀がたまに甘えて来る時にそうする様に、しっかりと抱き締めながら、サラの後頭部を撫でる

 

「ふふっ。ホントにマーくんに抱かれてるみたい…」

 

「サラの知ってるマーくんはこの後どうした」

 

「キスしてくれたわ…」

 

俺は何も考えずにサラと唇を合わせた

 

「これでイーブンだな」

 

嫁の母親とキスしたなんて話が出回れば、それこそ清霜に粛清されるだろうな…

 

「ありがと、マーくんっ」

 

唇を離し、すっかり泣き止んだサラを見て、笑みが零れる

 

「帰ろう。たいほうに怒られる」

 

「うんっ」

 

サラは俺が蹴り飛ばしたピストルを拾おうとした

 

「これは預かっとく」

 

「ふふっ…サラが撃たれるのは別のピストルだって言いたい⁇」

 

「そう言う事っ」

 

「もぅ…」

 

俺達は地下室から出た

 

執務室に戻るまで、サラはずっと俺の腕にくっ付いていた

 

ホントはもっと旦那に甘えたかったのだろう

 

究極の甘えん坊の母さんを見ていると、何となくそれが分かる気がする

 

子供達が待つ執務室の前に着くと、サラは腕を離した

 

「マーくん。サラ、マーくんとジェミニの子供、ちゃんと見るわ」

 

「頼むぞ。サラに懐いてるんだ」

 

答えはサラの笑顔を見て分かった

 

執務室の扉を開け、サラと共に中に入る…

 

「ただいま〜」

 

「あ〜っ‼︎やっと帰って来た‼︎イテテ‼︎」

 

執務室では、横須賀が子供達のスーパーボールの標的になっていた

 

「すてぃんぐれいおかえり‼︎」

 

「よっと。たいほうはスーパーボール好きだなぁ⁉︎」

 

いの一番でたいほうが俺に抱き着き、いつも通り抱き上げる

 

「うんっ‼︎すてぃんぐれいとはじめてあそんだのすーぱーぼーるだもん‼︎」

 

「そうだったなっ‼︎」

 

「お父様‼︎きーちゃんの作ったスーパーボール見て‼︎」

 

清霜の手には、ラメ入りのスーパーボールがある

 

「清霜が作ったのか⁇」

 

「うんっ‼︎ガン子ちゃんが教えてくれたの‼︎」

 

「ふふん」

 

ガングートは腕を組み、自慢気に鼻息を漏らす

 

「ありがとうな」

 

たいほうを降ろし、ガングートと清霜を抱き締めた

 

清霜は嬉しそうだが、ガングートは照れ臭さそうだ

 

「う…うん…」

 

「さてっ‼︎ちょっと腹減ったな。何か食いに行くか‼︎」

 

「オトン。い〜ちゃんは伊勢がいいぞ」

 

「今蟹食べたら爆発だもんな…アタイも伊勢がいい‼︎」

 

「たいほうけーきたべるの‼︎」

 

「きーちゃんはピザ‼︎」

 

「イディオット。ピロシキはあるか⁇」

 

それぞれが食べたい物を言い、俺達は伊勢で昼食を食べた…

 

 

 

 

 

”特殊深海棲艦資料”の一部が開示されました‼︎




捉え方は二つあると思います

サラ達研究者が悪いのか…

装置を造ったレイが悪いのか…

その辺りも踏まえて、感想をお待ちしております

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