艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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148話 アイヌの恋人(2)

「ちょっとだけ艦長を借りていいかい⁇一瞬だからさ⁉︎」

 

「えぇ、どうぞ」

 

「来なっ‼︎」

 

ボスに手を引かれ、岩井は操舵室から出た

 

操舵室から出てすぐ、岩井はボスに壁ドンされる

 

「私見て鼻血出したのかい⁉︎」

 

「まっ、まぁにゃ⁉︎」

 

岩井は鼻に真っ赤に染まったティッシュを詰めているので、言葉が変になっていた

 

「おまじないをしてやる‼︎」

 

「んっ⁉︎」

 

ボスは何を思ったのか、ヘモグロビン噴出中の岩井に追い撃ちをかけるかの様に岩井の顎を持ち、唇を合わせた

 

岩井は出航前なのに意識を持って行かれそうになっている

 

ボスとの深いキスが終わると、岩井はボスを抱き締めている事に気が付いた

 

「フフッ。私のファーストキスは高く付いたよ⁇」

 

「絶対護り抜けって事か…⁇」

 

「そう言う事っ…頼んだよ、相棒っ‼︎」

 

ボスは白く美しいアルビノの髪を揺らし、シャンプーの甘い香りを振り撒きながらガンビアから降りて行った

 

ボスが去り、岩井は唇が当たった部分をなぞる

 

実は岩井も初めてのキスだったのだ

 

「ふぅ…」

 

ため息を吐いた後、岩井は操舵室の扉を開けた

 

「「「うわぁ〜‼︎」」」

 

ドサドサ〜‼︎っと、ガンビアの乗組員が転げ落ちて来た

 

「お前ら…」

 

「い、いや‼︎艦長が心配で‼︎」

 

「決して下心では‼︎」

 

「くっ…こんなザマでは怒っても仕方あるまい…行くぞ‼︎」

 

「「「了解です‼︎」」」

 

岩井はヘモグロビンをせき止めていたティッシュを抜き、操舵室に入った

 

岩井は相変わらずの指揮で艦隊を進める

 

だが、頭の片隅にはボスがいた

 

産まれて初めて、明確に護ってくれと言われたのだ

 

それも格段の美人にだ

 

岩井は完全にボスに惚れ込んでいた

 

だが、それでも他人への接し方は変わらない

 

相変わらず乱入してくる照月にも、いつも通りに優しく接する

 

「照月ちゃん、今日はおでんがあるよ‼︎」

 

「照月、おでん大好き‼︎」

 

「乗組員全員に告ぐ‼︎お嬢のご来艦だ‼︎」

 

《了解です‼︎おでんの準備は整っています‼︎》

 

「行ってきま〜…」

 

《なんだい⁇そっちはおでんかい⁇》

 

「あっ‼︎」

 

無線の声が聞こえた途端、照月が下唇を噛み締めた

 

《誰かいるのかい⁇》

 

「照月のチョコレート返して‼︎」

 

《おや、照月ちゃんかい。いいよ。チョコレート食べさしたげる‼︎でも、今はお仕事中だから、照月ちゃんの基地に置いておくよ》

 

「ホント⁉︎」

 

《あぁ本当さ‼︎私は嘘はついた事はないんでね‼︎》

 

「なら許してあげる‼︎でもボス、もうとまほぉく撃たないでね⁉︎」

 

《勿論さ‼︎艦長に代わってくれるかい⁇》

 

「うんっ‼︎はいっ‼︎」

 

照月は無線を岩井に返し、おでんを食べに向かった

 

《今日は私が晩御飯作ってあげるよ。楽しみにしとくんだね》

 

「了解した。楽しみにしておくよ」

 

仕事と割り切り、無線を切る

 

だが、顔はニヤついている

 

「はは〜ん…」

 

「な、なんだ…」

 

いつもガンビアに乗ると、横に着いている乗組員がニヤニヤしながら岩井を見ている

 

「女っ気の無かったウチの艦長も恋ですかぁ…」

 

「恋…これが恋なのか⁉︎」

 

「「「気づいてなかったんですか⁉︎」」」

 

そこにいた一同全員がひっくり返る様な衝撃を受ける

 

「だって、初めてだから…」

 

「仕事は完璧なのになぁ…」

 

岩井は乗組員に散々弄られながらも、仕事に支障は出なかった

 

やはりそこは仕事と割り切っているのだろう

 

 

 

 

 

大湊に帰って来ると、ボスは一服した後厨房に立った

 

「ホラホラっ、男は禁制だよっ‼︎」

 

「どいたどいたぁ‼︎」

 

ガンビアの優秀すぎる炊事専門の乗組員達が、大湊の厨房から放り出される

 

ボスは手下数人と共に厨房に入り、メニューにあったカレーを作り始めた

 

一時間後…

 

「野郎共〜‼︎出来たぞ〜‼︎」

 

ボスがおたまとフライパンをカンカン鳴らすと、ゾロゾロと大湊の連中が出て来た

 

「さぁ‼︎食べな‼︎」

 

ボスの声と共に、全員がカレーを口にする

 

「美味い‼︎」

 

「野菜が柔っこいな‼︎」

 

ボスのカレーは美味しかった

 

カレーは程良く辛く、野菜も柔らかくなるまで煮込んである

 

絶妙なバランスで成り立ったカレーはかなり好評で、ガンビアの炊事班が舌を打つ位だ

 

「ご、ごちそうさま…」

 

「コラ‼︎ニンジン残してる‼︎」

 

岩井はニンジンが嫌いだ

 

いつも照月に食べさせる位嫌いで、大体は他の乗組員に食べさせている

 

「美味しくしてあるから食べてみな⁇」

 

「ううっ…」

 

岩井はニンジンから目を逸らす

 

「仕方ないねぇ…」

 

ボスは岩井の前に座り、スプーンでニンジンをすくい、岩井の前に持って行く

 

「あ〜ん‼︎」

 

「ううっ…」

 

「今日は一個だけ頑張ってみな⁇」

 

岩井はニンジンから目を逸らす

 

どうしても食べたくないのだ

 

「ニンジン食べない男は嫌いだよ‼︎」

 

「それはいかん‼︎」

 

岩井は意を決してニンジンを口にした‼︎

 

「艦長が…」

 

「ニンジンを…」

 

「食っただと…」

 

ガンビアの乗組員が息を飲む

 

岩井のニンジン嫌いは有名であり、皆が黙認していた事だ

 

それが今、惚れた女によって変わろうとしている

 

「食べた…」

 

「よ〜っし良い子だ‼︎」

 

「「「ウォォォォオ‼︎」」」

 

食堂から歓声が上がる

 

大の大人がニンジンを食べただけである‼︎

 

それでもガンビアの乗組員は、岩井の恋路を応援していたのだ

 

「少しずつ増やして行こうな⁇」

 

「う、うん‼︎」

 

ボスの笑顔に、岩井は骨抜きになっていた


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