艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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145話 私をデートに連れてって‼︎(2)

「貴方が…」

 

男性はどうやら俺を知っている様だ

 

「いつも棚町がお世話になっています」

 

「棚町の知り合いか⁇」

 

「棚町さんの兄です」

 

「ほぉ⁉︎兄がいたのか‼︎」

 

「この度は弟共々、日本に招いて頂き、ありがとうございます」

 

棚町の兄は俺とはっちゃんに頭を下げた

 

「あ…いや…」

 

「マーカス様。棚町さんのお兄さんに敵意はありません。本当にマーカス様に感謝しています」

 

「良かった…」

 

俺ははっちゃんに言われるまで不安だった

 

俺は弟を叩き落とした相手だ

 

何をされても文句は言えなかったからだ

 

「戦闘機はお任せ下さい。人目に付かぬ様、格納庫に入れておきます」

 

「任せたぞ」

 

「ではマーカス様、行きましょう」

 

グリフォンが格納庫に牽引されて行き、俺ははっちゃんに牽引される

 

はっちゃんに着いて行くと空港から出た

 

「どこ行くんだ⁇」

 

「バスに乗ります」

 

空港の近くにバス停があり、俺達はそれに乗る

 

チラッと見えたバスの電光掲示板を見て、俺は行き先を理解したが、敢えて黙っておこう…

 

バスが走り出すと、はっちゃんは少しソワソワし始めた

 

「初めてか⁇」

 

「車に乗るのは初めてです」

 

「外見てみ」

 

はっちゃんと共に窓の外を見ると、空港と共に海が見えた

 

「いいものですね…」

 

「いつかドライブに連れてってやるよ」

 

「はいっ」

 

景色を眺めるフリをして、窓に映るはっちゃんの嬉しそうな顔を見る

 

余程”そこ”へ行くのが嬉しい様だ

 

数十分バスに揺られ、バスはある場所に停まった

 

「よいしょ」

 

はっちゃんはバスからジャンプして降りた後、俺もバスから降りる

 

基地とは違った潮風が顔に当たる…

 

「名古屋港”すいぞっ”館です‼︎」

 

はっちゃんが来たかったのは名古屋港水族館だった

 

「色んなお魚が見れると聞きました」

 

「ほら」

 

嬉しそうにはしゃぐはっちゃんに手を差し伸べる

 

「へっ⁇」

 

「今日はデートだろ⁇」

 

「…はいっ‼︎」

 

はっちゃんは喜んで手を取り、俺を館内へと引っ張った

 

入館料を払い、いざ水族館へ

 

「このお魚は見た事あります」

 

館内に入ると、はっちゃんも俺も歩く足を緩める

 

はっちゃんは時々、水槽内の魚を指差す

 

「カツオだな。隊長が捌くのが上手い」

 

「カラフルなお魚ですねぇ」

 

はっちゃんはエンゼルフィッシュを見てウットリしている

 

「エンゼルフィッシュだな。熱帯に住んでる」

 

「朝霜ちゃんの様なお魚がいます‼︎」

 

「そいつはピラニアだ。噛まれたら痛いぞ⁇」

 

「い〜ってしてます」

 

はっちゃんはピラニアの水槽の前で歯を見せる

 

普通の回遊魚を見たり、熱帯魚を見たりと、はっちゃんは忙しそうにしている

 

「面白いお魚がいます‼︎」

 

はっちゃんは一つの水槽の前で足を止めた

 

水槽の中では口を尖らせ、まるでフレンチキスを連発するかの様に口を合わせ合う魚がいた

 

「キッシンググラミーですって」

 

「喧嘩してるんだぞ」

 

「喧嘩してるのですか⁇」

 

「そっ。ここは俺の場所だ〜ってな」

 

「人間のキスとは全然違いますねぇ…」

 

はっちゃんはキッシンググラミーが気になるみたいで、しばらく眺めていた

 

しばらくキッシンググラミーを眺めた後、はっちゃんはパンフレットを片手に握り、トンネルのような場所に来た

 

「サメがいます‼︎」

 

はっちゃんが上を向いて指差す先には、巨大なサメが泳いでいた

 

「サメは嫌いか⁇」

 

「はっちゃん、サメは嫌いです。すぐに噛み付いて来ます。マーカス様は⁇」

 

「美味いんだぞ、サメ」

 

「食べられるのですか⁉︎」

 

「帰ったら貴子さんに聞いてご覧」

 

トンネルを抜けると、今度は哺乳類のコーナーに来た

 

「ビーバー…凄い歯ですねぇ」

 

「おっ」

 

はっちゃんがビーバーを見ていた横目で、俺は何かの骨格標本を見つけた

 

「これは何です⁇」

 

「アマゾンカワイルカだ」

 

骨格標本の横には、体がピンク色の、口の長いイルカが掲載されている

 

「カワ…イルカ⁇イルカさんは海の生き物では⁇」

 

「コイツは川に住んでるんだ。ほら、さっき見ただろ⁇ピラニアの住んでる川だ」

 

「食べられてしまいます」

 

「分からんぞ⁇コイツはピラニアを食っちまうかもしれない」

 

「でも、ピンク色のイルカさんは初めて見ました」

 

「世界は広いぞ⁇」

 

「マーカス様といると、知らない事が沢山です‼︎」

 

はっちゃんはご機嫌だ

 

哺乳類のコーナーを見た後、俺達は昼食を取る事にした

 

喫茶店と食堂が合わさった店の前に立ち、メニューとして用意された食品サンプルを見る

 

「はっちゃんはスパゲッティにします」

 

「俺はラーメン」

 

店内に入り、案内された席に座って、表で決めたメニューを注文し、外を眺めながらお冷を飲む

 

「マーカス様は”すいぞっ”館に行かれた事はありますか⁇」

 

「何回かある。あれは志摩だったかな…マンボウがいる水族館だった」

 

「マンボウ…平べっちゃいお魚ですか⁇」

 

「そっ。今朝、いよとひとみが面白がって見てた」

 

「いつか行ってみたいです」

 

「お待たせしました」

 

スパゲッティとラーメンが運ばれて来た

 

「頂きます」

 

「頂きます」

 

俺は箸を割って、ラーメンをすする

 

はっちゃんはスパゲッティをクルクル巻いて、口に入れる

 

普段、照月のスパゲッティの食べ方を見ているので、はっちゃんの真面目な食べ方が不思議に見える…

 

照月はスパゲッティや麺類は一気にすくって一気に吸い取る食べ方をする

 

はっちゃんの様に音の少ない食べ方ではなく、ズゾゾゾゾ‼︎と音が出る食べ方だ

 

「美味いか⁇」

 

「マーカス様とするお食事は何だって美味しいです‼︎」

 

はっちゃんは笑顔で答えてくれた

 

横須賀と違って素直だな…

 

可愛いってのは、こう言う事なんだろうな…

 

…俺は何を考えてるんだ

 

仮にもこれはデートだ

 

別の女を考えるなんて最低だ

 

目の前のラーメンとはっちゃんに集中しよう

 

俺はラーメンを食べ、頭の中にあった考えを消した

 

「ご馳走さまでした‼︎」

 

「こっち向いてみ」

 

はっちゃんは真面目そうに見えて、まだ子供っぽい所がある

 

こうして、ほっぺたにケチャップを付けるみたいに

 

「ありがとうございます」

 

はっちゃんの頬を拭き、店を出た

 

《この後、イルカショーが始まります》

 

館内にアナウンスが流れた

 

どうやらイルカショーが始まるみたいだ

 

「マーカス様。イルカショーですって‼︎」

 

はっちゃんは見る気満々だ

 

「行こう」

 

「はいっ‼︎」

 

はっちゃんと共に、イルカショーの会場に向かう


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