艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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143話 恋は動き出す(4)

ワンコは商店街エリアに戻って来た

 

まりは本屋でアルバイトしているらしい

 

めぼしい本屋は、とりあえず一件見つけた

 

そして、その本屋は小ぢんまりしており、外からでも中を伺う事が出来た

 

ワンコは窓の外から店内を覗いてみた

 

だが、まりらしき人物は見当たらない

 

ここじゃなかったのか⁇

 

いや、本屋はここしかない…

 

入ってみよう

 

ワンコは頭で色々考えながら、本屋に入った

 

漫画を見る振りをし、店内を見回す

 

だが、まりらしき人物はいない

 

ワンコはすぐに店を出て来た

 

もしかしたら、他に本屋があるかもしれない

 

ワンコはまた歩き出す

 

「イデッ‼︎」

 

後頭部に何か当たった

 

ワンコはすぐに地面に落ちたそれを拾い上げる

 

”いちごだいふく”と書かれた包装紙に包まれたそれが落ちていた

 

それを見た瞬間、ワンコの手は震え始めた

 

「にしし〜‼︎当たった当たったぁ‼︎」

 

モノを投げたフォームで立っていた女の子…

 

それは、ワンコがずっと探していた人物だった

 

「ま…まり…」

 

「ワンコ‼︎」

 

互いに走り、そして抱き合う

 

「迎えに来んの遅いってば…」

 

「ごめん…ごめんよ…」

 

「でも、何となくワンコが来るの分かってた。この前だって、りさの所に健吾が来たもん‼︎」

 

「そっか…そっか…」

 

「でも…まっ、許したげる。ホントに探しに来てくれたんだもん‼︎」

 

まりはあの頃と変わらず明るいままでいた

 

その後ワンコはまりの家に行き、その日一晩出て来なかった

 

 

 

 

一方その頃…

 

「ビスマルク‼︎酒ダズル‼︎酒持って来るんダズル‼︎」

 

「ちょっと…酔っ払い過ぎよ⁇」

 

榛名はビスマルクの家でたむろしていた

 

「アンタ今日は英雄だから、ちょっとはハッチャケて良いとは言ったけど…」

 

榛名はこの日、長年解決出来ないでいた事件を解決していたのだ

 

あの山城先生、実は指名手配犯だったのだが、居住区に警察は立ち入り出来ないので、今まで逮捕出来ないでいた

 

それが今日、証拠も含め、逮捕に至った

 

とっ捕まえたのは勿論榛名

 

だが、榛名にとっては合法的に暴れて破壊出来る場でしかなかったのだ

 

それより気になっていたのは…

 

「どうせ提督は今頃まりとアバンチュールダズル…」

 

「もちょっと自分の旦那を信じなさいな」

 

「提督は昔からまりが好きなんダズル。榛名はただの一幼馴染の可愛い女の子ダズル…」

 

「もう…」

 

ビスマルクは榛名の横に座り、背中をさする

 

「まりだって提督の事が好きダズル。でも、榛名はどっちも好きなんダズルよ⁇まりも提督も…」

 

「優しいのね、榛名は」

 

「しかしな、まりの好きより榛名の好きの方が上ダズル‼︎」

 

「それは提督も分かってくれてるわよ」

 

「ぐわ〜〜〜〜〜…」

 

榛名は眠っていた

 

考えるのに疲れたのだろう

 

ビスマルクは榛名に毛布を掛け、散乱したビールやチューハイの缶を片付け、ソファーで横になった

 

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「榛名。榛名」

 

「んがっ…後二時間ダズル…」

 

「榛名」

 

「ウッセェダズルな…」

 

榛名が目を覚ますとワンコがいた

 

榛名は珍しくワンコの胸に頭をつけた

 

「提督…まりはどうしたんダズル…」

 

「昨日の晩、沢山お話したよ」

 

「…この匂い…さてはまりを抱いたんダズルな⁇」

 

「うん」

 

「野郎‼︎ブッ殺してやるダズル‼︎」

 

榛名は寝起き早々、ワンコの首を絞めた

 

「ぐほぁ…はっ、榛名…」

 

「榛名は一応こう見えて提督の嫁ダズル‼︎」

 

「ま〜、抱いたって言うか、まりが抱いたって言うか…」

 

そこにはまりもいた

 

「まりか。ちょっとそこで待ってるダズル‼︎」

 

「はる、ワンコとケッコンしたんだってね⁇」

 

「そうダズル‼︎それなのにコイツは‼︎」

 

「よっ、と」

 

まりは榛名を背中から抱き締めた

 

「何をするんダズル‼︎離すんダズル‼︎」

 

「昨日の晩、まりはワンコにこうしただけ」

 

「ゼッテー嘘ダズル‼︎」

 

「ワンコはね、お嫁さんは榛名だけだって、まりを抱こうとしなかったんだよ⁇」

 

「…」

 

榛名は急に黙り、ワンコの首を絞めていた手を離した

 

「…本当ダズルな⁇」

 

「本当だって‼︎」

 

「…今日だけ信じてやるダズル」

 

「アンタ達…人ンチ破壊しないでよ⁇」

 

「はっ‼︎すまんダズル…」

 

榛名はここがビスマルクの家である事を忘れていた

 

「榛名、横須賀の繁華街行こっか」

 

「提督とダズルか⁇」

 

「そっ。久しぶりに二人でごはん食べよう⁇」

 

「これは寿司ダズルな。人の奢りで食べる寿司は最高に美味いダズル‼︎」

 

榛名の機嫌はすぐに治った

 

ワンコは榛名を連れ、ビスマルクの家を出た

 

「ビスマルク、色々ありがとう」

 

「気にしないで。榛名、また来なさいよ⁇」

 

「うぬ。次は美味い酒も持って来るダズル‼︎」

 

「ワンコっ‼︎」

 

「うわっ‼︎」

 

別れ際、まりはもう一度ワンコに思い切り抱き着いた

 

「いつか、はるを連れて此処に帰って来てよ…そんで、またみんなでいっぱいお話しよ⁇」

 

「分かった。約束するよ」

 

最後にワンコもまりを抱き返し、ワンコ達は居住区を後にした…

 

 

 

 

「まり、結局ワンコを何回抱いたの⁇」

 

「二回かな⁇ワンコって」

 

「榛名には黙ってなさいよ⁇」

 

「ん…」

 

まりは何故か嬉しそうに左手を撫でていた

 

「へぇ〜。良かったじゃない」

 

「まり、コレずっと欲しかったんだ…」

 

まりの左手の薬指には、銀色の指環が輝いていた…

 

 

 

 

 

帰りのジープ内で、榛名とワンコは後部座席で外を眺めていた

 

「提督」

 

「ん〜⁇」

 

「すまんかったダズル…」

 

「へ⁉︎何が⁉︎」

 

「嫁である以上、あそこではキレないといかんと思ったんダズルよ」

 

「榛名⁇」

 

「まりとアバンチュールしたのは匂いで分かるダズル。多分二回ダズル」

 

「ゔっ…」

 

「別にいいダズル。まりなら。榛名はまりも好きダズル」

 

「ごめん…謝っても許されないよな…」

 

「おい‼︎」

 

榛名が急に大声を出し、運転手の手元が一瞬狂う

 

「二度と榛名に謝るなと言ったはずダズル‼︎それにな、アバンチュールせずにまりを泣かせてみろ‼︎榛名は提督であろうとブッ殺すダズル‼︎」

 

榛名は車内でシートベルトをしているにも関わらずワンコの胸倉を掴んで揺さぶる

 

「わわわ分かった分かった‼︎」

 

「言っといてやるダズル。榛名は提督のした事全部肯定してやるダズル‼︎だがな、お友達やら仲間を泣かしてみろ‼︎そん時は榛名が提督をブッ殺すダズル‼︎いいな‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

「ケッ‼︎」

 

榛名は気が済んだのか、ようやく手を離した

 

「まぁ、最後に言うなら、クソニムを抱いたらブッ殺すダズル。クソニムをな‼︎」

 

「わ、分かった…」

 

榛名はまり達や、今の仲間を大切に思ってはいるが、ニムだけは許していない様だ

 

それは行動に出て、ニムの脳天にハンマーを叩き付けたり、腹が立つとよくニムの足を掴んで振り回している

 

だが、ニムは大体榛名の傍にいる事が多い

 

ニムは少し前に言っていた

 

”自分を止めてくれた榛名を、ニムはとっても感謝してるニム”と

 

ニムは榛名が好きなのだ

 

榛名は勘の良い子だから、恐らくニムの感情にも気付いているだろう

 

…榛名の愛情表現が暴力という事にニムが気付くのはいつだろうか

 

ワンコはそんな事を考えながら、車内でずっと榛名の横顔を見ていた…


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