艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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142話 リベッチオ・パスタ(2)

「ローマ」

 

「何⁇」

 

いつ話掛けても半ギレだ…

 

「リベッチオって子、知ってるか⁇」

 

俺がそう言うと、ローマの顔色が変わり、周囲を見回した後、俺の耳元に口を近付けた

 

「…あの子が横須賀に来てるの⁇」

 

「…パスタ屋で働いてる」

 

「兄さんには絶対黙ってて。良いわね⁇」

 

「何か理由があるのか⁇」

 

「…私を強請ろうっての⁇」

 

「理由くらい聞かせてくれたっていいだろ⁇」

 

「はぁ…来なさい」

 

俺はローマに連れられ、ローマの部屋に来た

 

「これ見て」

 

ローマに一枚の写真を渡される

 

「リベッチオだな」

 

「私の娘よ。兄さんとのね」

 

「事情がありそうだな…」

 

「…いい⁇絶対兄さんには黙ってて。良いわね⁇」

 

「分かったよ」

 

部屋のベッドの端に座り、ローマは話し始めた

 

 

 

 

だいぶ昔に、俺達はパスタの国の護衛に就いた事があった

 

その時、ローマは看護師

 

隊長は勿論パイロット

 

互いに二人は初対面だと思っていたが、実は生き別れの兄妹

 

そうとは知らず、二人はその場限りの体の重ね合いをしてしまった

 

言っておくが、この時点で貴子さんは死んだ事になっている

 

だから、隊長が寂しさを紛らわす為に女を抱くのは普通の事だ

 

その時の子がリベッチオだ

 

因みに俺はその時、グラーフに恋していた真っ最中だ

 

 

 

 

「てな訳」

 

「なるほどな…まっ、寂しさ紛らわすには一番手っ取り早い行為だわな」

 

「いい⁇絶対兄さんには内緒よ⁇こんな事がバレたら私…」

 

「言わねぇよ。心配すんな」

 

そう言い残し、俺は部屋を後にした

 

ローマは不安でいっぱいだった

 

一番知られたくない弱みを握られたからだ…

 

 

 

 

次の日から、ローマはちょくちょく俺の様子を伺いに来た

 

「対空性能は飛び抜けて良いね」

 

「問題は軽量化か…」

 

俺ときそが兵装の相談をしていたら、ローマは壁から顔を半分出して此方を見ていたり…

 

「もう怪我は大丈夫そうだな⁇」

 

「へへっ、心配ありがとう」

 

スカイラグーンで一服していても、背後の席にローマがいて、俺をジーッと見てくる…

 

グリフォンに乗り、ようやくローマの目から離れる

 

《ずーっと見てくるね、ローマさん》

 

「心配する必要ねぇのになぁ…」

 

だが、その内緒はある日突然バレてしまう…

 

 

 

 

俺はその日、毎週恒例の子供を連れて学校に送り、その後はいつもの様に横須賀とデートしていた

 

「レイ。アンタ、リベッチオ・パスタ食べたんですって⁇」

 

「あぁ。まぁまぁ美味かったぞ」

 

「行きましょ。定期視察がまだななの」

 

横須賀と手を繋ぎ、リベッチオ・パスタを目指す

 

「いらっしゃいませ〜‼︎」

 

相変わらずリベがてんてこ舞いに動いている

 

「あらっ。可愛いウェイトレスさんね⁇」

 

「横須賀さん。いらっしゃいませ〜」

 

巻き髪が挨拶した後、リベの案内で席に案内される

 

「メニューは此方になります‼︎」

 

「ありがと」

 

「俺はミートソース」

 

「馬鹿の一つ覚えね。すみませ〜ん‼︎」

 

「ぐっ…」

 

横須賀はサラッと酷い事を言ったあと、リベを呼んだ

 

リベはすぐに此方に来て、手元には伝票に注文を書く準備が整っていた

 

「ミートソース二つね」

 

「ミートソースを二つ。畏まりました〜‼︎」

 

リベが去り、俺は何となくメニューを見た

 

 

 

 

”新商品‼︎”

 

ナポリタン、嫌々始めました‼︎

 

280YEN‼︎

 

注※本場イッタリーにナポリタンはありません

 

 

 

 

「へぇ〜。イタリアってナポリタンないんだ⁇」

 

「らしいな。あのケチャッ”ピ”の絡んだパスタは中々好きなんだがな…」

 

「…アンタ、今なんて⁇」

 

「パスタは中々好きだ」

 

「その前よ‼︎ケチャッピ⁉︎」

 

「ケチャッピだろ⁇あのトマトのやつ。ホラ、マヨネーズと良く似た容器に入った…」

 

「はぁ〜…」

 

横須賀は深いため息を吐いた

 

どうやらケチャッピでは無いらしい

 

「ケチャッ”プ”‼︎はい、復唱‼︎」

 

「ケチャップ‼︎」

 

「もぅ…清霜でもそれ位分かるわよ⁉︎」

 

俺は自分の娘以下の知識か…

 

なんと情けない…

 

「お待たせしました‼︎」

 

「あらっ、早いわね⁉︎」

 

「横須賀さん、フーフーして食べて下さいね⁇」

 

「えぇ、ありがと」

 

横須賀はリベに手を振り、さっそくパスタを口にする

 

俺はそんな横須賀の食べる顔を見ていた

 

「あらっ‼︎美味しいわね‼︎」

 

「だろ⁇」

 

「うんっ‼︎イケるわ‼︎」

 

嬉しそうに食べる横須賀の顔を見て、俺もパスタを口にする

 

「リベッチオって子、日本語上手ね⁇」

 

横須賀が言った言葉で背筋が凍る

 

「まぁ、な…⁇」

 

背後から殺気がする…

 

ろ、ローマだ…

 

「あらローマ‼︎こっちいらっしゃいよ‼︎」

 

「…いいわ、別に。私ココで食べる」

 

「マーマ‼︎」

 

ある程度仕事が落ち着いたリベがローマに抱き着いた

 

「リベ…ごめんね⁇マーマ、リベの傍にいれなくて…」

 

ローマはリベの頭を愛おしそうに撫でる

 

やはり母親なんだな…

 

「いいよ。リベ、リットリオさんとパスタ作るの好きなの‼︎」

 

「レイ」

 

「な、何だ⁇」

 

リベとローマの方を向いていた首を横須賀に戻す

 

「隊長の子なんだってね⁇リベちゃんは」

 

「知ってるのか⁉︎」

 

「乙女はすぐに気付くわよ」

 

「どの口が…」

 

「隊長も薄々気づいてるしね、自分にたいほうちゃん以外に血の繋がった娘がいるって事」

 

「待ちなさい」

 

横須賀の話を聞いて、ローマが急に立ち上がった

 

「兄さんには言わないで頂戴」

 

「いつかはバレるわ」

 

「くっ…」

 

何故か分からないが、横須賀とローマはメンチをきり合う

 

「ま、まぁ待て。ローマ、横須賀が言ってるのも正しいのは分かるな⁉︎」

 

「…えぇ」

 

「俺達はお前を責める気はサラサラ無い。逆に手伝ってやるよ‼︎な、横須賀‼︎」

 

「ローマに気があればね」

 

今日の横須賀は何故か冷たい

 

「…ホントに手伝ってくれるんでしょうね⁇」

 

「当たり前だ‼︎何なら、後でローマの愚痴のサンドバックにもなってやる‼︎」

 

ローマは少し悩んだ

 

「マーマ…」

 

リベッチオの悲しそうな顔を見て、ローマは決心が付いたようだ

 

「いいわ。なら手伝って頂戴」

 

「オーケー。なら善は急げだ。横須賀、行くぞ」

 

「んっ」

 

「ローマ、お前は高速艇で帰って来い。リベを連れてな⁇」

 

「えぇ」

 

何故か半ギレの横須賀を連れ、俺はリベッチオ・パスタを出た

 

グリフォンに乗るまでの間、横須賀は俺の腕を終始締め付けるかの様に抱き着いていた

 

何故キレていたかは、後で分かる事になる…

 

 

 

 

 

 

基地に着くと、いつも通り子供達がカーペットの上で遊んでいた

 

「えいしゃんぱすたたべたか⁇」

 

「おいしかった⁇」

 

「あぁ、美味しかったぞ。二人共、もう少し歯が生えたら食べに行こうな⁇」

 

「レイ、どうした⁇」

 

「え⁉︎」

 

「冷や汗が出てるぞ⁉︎」

 

隊長は勘が鋭い

 

隠し事は出来ないな…

 

「あぁ、あはは‼︎た、隊長、話があるんだ‼︎」

 

「待ちなさい。私から話すわ」

 

高速艇で帰って来たローマとリベッチオが来た

 

「とりあえず単刀直入に言うわ。兄さんと私の子よ」

 

「あらあらあら‼︎貴方がリベちゃん⁉︎」

 

一番最初に反応したのは、なんと貴子さんだった

 

「私は貴子。宜しくね⁇」

 

「うんっ、よろしく‼︎」

 

貴子さんとリベは普通に接している

 

「ローマ」

 

リベと話した後、貴子さんは顔を上げた

 

「貴子…ごめんなさい…」

 

「どうして早く言わないの」

 

「えっ⁉︎」

 

貴子さんはローマをギュッと抱き締めた

 

「ごめんなさい…貴方一人に抱えさせてしまって…」

 

「あ…」

 

ローマは思った

 

貴子は私が思っているより遥かに母性が強い

 

それは子供達が感じるモノではなく、大人であり、同性の私が感じられる位だ

 

私が気にしていたのは、一体何だったのだろう…

 

こんな事なら、もっと早く打ち明ければ良かった…

 

「私は誰も責めないわ。貴方も、ウィリアムも…私が悪かったの。あの時、ウィリアムに寂しい思いをさせてしまったから…」

 

「貴子…ありがと…」

 

「何にも気にしなくていいの。現に見なさい」

 

貴子さんが隊長の方を見ると、隊長の膝の上でリベが座っていた

 

「マーマ‼︎パーパはあったかいね‼︎」

 

ローマは安堵から涙を二粒こぼした

 

 

 

 

 

実は、隊長はリベの事を大分前から知っていた

 

それは貴子さんが武蔵だった頃にだ

 

貴子さんが記憶を戻した後、隊長は貴子さんにリベの話をした

 

貴子さんは何一つ怒らなかった

 

逆に、寂しい思いを貴方にさせてしまったと、本人自体が後悔していた位だ

 

 

 

 

「まっ、良かったじゃない。そろそろ迎えに行くわよ」

 

「あぁ、そうだな」

 

「高速艇で帰るわ。隊長、それでは失礼します」

 

「わざわざ済まなかったな…」

 

隊長は若干申し訳なさそうだ…

 

まぁ、仕方ないか…

 

高速艇に乗ると、ようやく横須賀が半ギレの原因が分かった

 

高速艇に乗っても、横須賀は握った俺の手を離さなかった

 

「今日はどうした⁇随分ご立腹だな⁇」

 

「…アンタ、ローマがアンタの事好きって、知ってる⁇」

 

「マジか」

 

「マジよ」

 

ようやく分かった

 

横須賀はローマに俺が取られると思っているのだ

 

だからこうして手を離さないでいる

 

要は嫉妬しているのだ

 

「心配すんな。俺の嫁は生涯一人だ」

 

「嘘ついたら清霜行きね⁇」

 

「分かったよ」

 

横須賀はようやく笑った

 

ここ数日、ハチャメチャ続きだったが、これでようやくゆっくり眠れそうだ…


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