艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、139話が終わりました

今回のお話は、また少し物語の謎に触れます

一話しかありませんが、勘の鋭い人はスグに分かるかと思います


140話 百年の恋

ラバウルの執務室では、執務を終えたラバウルさんが作曲に勤しんでいた

 

「フフフフ〜ン、フフフフ〜ン…ここはこうですかね…」

 

「作曲ですか⁇」

 

「おおいか⁇」

 

お茶を持って来たおおいは、平和そのもののラバウルさんを見て微笑む

 

停戦協定が結ばれてから出撃の数が減り、ラバウルさんはこうして作曲に勤しんだり、時々やって来るきそちゃんとフェンシングを楽しむ事が多くなった

 

実はラバウルさん、あまり知られていないが、世にそこそこのヒット作を送り出している

 

今手元で作詞作曲しているのも、後に動物のアニメの主題歌となる

 

「あまり根を詰めてはいけませんよ⁇」

 

「フフフ。大丈夫ですよ。好きでやってますからね」

 

「そうですか。なら良いです」

 

おおいは、そんなラバウルさんを見るのが好きだ

 

空に上がれば勇猛果敢に戦い、凶鳥とまでの通り名が付く彼の大人しい姿を見るのが好きで好きでたまらない

 

誰にも邪魔されない、二人だけの空間…

 

おおいが戦っていた頃には無かった幸せだ

 

「エドガー。入るよ〜」

 

「あみさんか⁇どうぞ」

 

横に健吾を付けた北上さんが来た

 

「エドガー聞いた⁇大佐の基地に凄い機体が配備されたって」

 

ラバウルさんは手を止め、北上さんの顔を見る

 

「えぇ。グリフォン…でしたかね⁇写真でしか見た事無いですが、良い機体ですよ。一目で分かります」

 

「今さ、スカイラグーンに居るみたいだから、昼ご飯ついでに見て来ていい⁇」

 

「えぇ、勿論‼︎どんな機体か、しっかり見て来て下さい」

 

「んじゃ、健吾。行くよ〜」

 

「はい、隊長。キャプテン、行って参ります」

 

「気を付けて下さいね⁇」

 

二人が部屋から出ると、私は肩の力を抜いた

 

「緊張しなくても大丈夫ですよ」

 

「ですが…」

 

「過去は過去。終わった話は、私達は掘り返しません。それはあみさんも同じの筈です」

 

そう言った後、ラバウルさんはまた作曲を続ける

 

「貴方は…私を恨んではいませんか⁇」

 

「恨んでいるのなら、妻にはしていませんよ」

 

何の気なしにラバウルさんは作曲を続けるが、実は少し上手く行っていない

 

ラバウルさんは決して口にしないが、おおいと居る事で緊張しているのだ

 

「おおいは、あみさんが嫌いですか⁇」

 

「いえ…好きですよ。人として、ですけど」

 

「”昔から”貴方は思い込む癖があります。貴方が思ってる以上に、あみさんは寛容ですよっ」

 

「だと良いのですが…」

 

「元彼が言うのだから信用して下さい」

 

作曲をしながら、ラバウルさんはとんでもないカミングアウトをした

 

「え⁉︎北上さんとお付き合いしてたんですか⁉︎」

 

「えぇ。おそらくおおいに話すのが最初でしょうね…アレンや健吾にも隠れて付き合って居ましたからね」

 

「…空軍は嘘や隠し事しないんじゃないんですか⁇」

 

私はラバウルさんを睨む

 

睨むと言っても本気では無く、冗談交じりの睨み方だ

 

「うっ…それを言われると痛いですね…」

 

「な〜んて、冗談です‼︎み〜んな知ってましたよ‼︎」

 

「やっぱりですか…」

 

ラバウルさんは、随分前に北上さんと付き合っていた

 

大佐達のジンクスである、”還る場所がある奴は強い”を模してみたらしい

 

だが、北上さんは元から若干のショタコンの気があり、年齢以上にオジンに見えるラバウルさんには、友達以上恋人未満の壁をどうしても超えられなかった

 

北上さんはラバウルさんと別れてしばらくした後、健吾を部隊に入れ、そして恋に堕ちた

 

私は”当時から”そんな北上さんを見ていたので知っている

 

「でも、私は嬉しいです。またこうして、みんなが集まって行くのを眺めているのが好きです」

 

「そうですか。なら、私と同じですね⁇」

 

ラバウルさんもおおいと同じ考えを持っていた

 

今、当時の仲間達が、数を増やしてまた集まっている

 

これ程幸せな事は無い

 

いつだって、どの時代だって、仲間は大切だ…

 

「貴方は…”もう一度”私に空に上がって欲しいですか⁇」

 

「空が恋しいですか⁇」

 

「…こりごりかも知れません」

 

私がそう言うと、ラバウルさんはクスリと笑う

 

「構いませんよ。空は私達に任せて。おおいは私達に美味しいご飯を作って下さい」

 

「分かりました。今晩も楽しみにしていて下さいね⁇」

 

「えぇ。お願いしますよ」

 

私は執務室から出て、厨房に足を向けた

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

一人執務室に残された私は、引き出しの奥から一枚の写真を取り出した

 

そこに写っていたのは、三人の女性と、一人の青年

 

青年を前方に座らせ、女性三人は後ろに横一列で並んでいる

 

中心にいるのはあみさん

 

正面から見て右側にいるのはおおいだ

 

おおいはヘルハウンド隊の一員だったのだ

 

何の因果か分からないが、こうして私達の元に帰って来たのだ

 

そして、今まで一切明かされていなかった謎が、この写真には写っていた…

 

それは、正面から見て左にいる女性

 

彼女の事は良く覚えている

 

クールな外見に似合わない面倒見の良さで、周りからも好かれていた彼女は、初めて自分を力で負かす人物に出逢った

 

レイだ

 

彼女はレイの事が気になって気になって仕方無かったのだが、本人が緊張してしまったのと、彼には当時からジェミニさんが着いていたので、ほとんど声を掛けられ無いまま、彼女は行方不明となった…

 

今思えば、壁から半分顔を出して見る癖はあの頃から治っていない

 

まっ…何となく、今何処にいるかは分かりますがね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぇっくしょ〜〜〜い‼︎うわっ‼︎メッチャ鼻水出た‼︎レイ〜‼︎鼻水拭いて〜‼︎」

 

「ったく…こっち向け」

 

「誰か噂してるのかなぁ⁇」

 

「横須賀辺りがお前を褒めてるんじゃないのか⁇」

 

「お母さんが⁉︎」

 

「ふっ…ホラッ、拭いたぞ」

 

「ありがと‼︎待って〜‼︎」

 

何処かの基地で幸せな誰かが、昔叶えられなかった恋を、自身は気付かないまま、形は違えど、時を超えて果たしていた…


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