艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

445 / 1086
139話 戦艦になりたい理由(2)

読者の皆は覚えてるだろうか

 

少し前のお話で、俺がはっちゃんに言った言葉を

 

”人を殺したらクセになる”

 

今の清霜は、一昔前の俺を見ているかの様だ

 

俺は今日に至るまで、山程人を殺して来た

 

一時期、人を殺す事に快感を覚える程にまで悪化していた

 

あの頃のクセがまだ抜け切っていないから、俺は今でも人に向けた銃口をアッサリと弾く事が出来る

 

はっちゃんや子供には、そうなって欲しくないからこそ、今までそう言った事になるべく巻き込まれない様にしていた

 

だが清霜は違う

 

俺の一番最悪なクセを綺麗に受け継いでいる

 

 

 

 

 

「清霜は老人嫌いか⁇」

 

「うんっ嫌い。のうのうと悠々自適に生きて文句ばっかり言うんだもん。きーちゃん大っ嫌い‼︎お父様も嫌い⁇」

 

「…清霜」

 

「ん⁇」

 

俺は足を止め、清霜の前に屈み、清霜の肩に手を置いた

 

「老人はな、その内くたばるから放っておけ」

 

「でも、老人達は国のお金で生きてるんだよ⁇お金の無駄遣いだよ」

 

清霜の目を見ると、黒目が大きくなっていた

 

人の目の色が本当に変わる瞬間を久し振りに見た…

 

「…それは否定しない。だけどな清霜。なにもお前一人が殺さなくても良いじゃないか⁇」

 

「どうして⁇」

 

「お前がやらなくても、みんな同じ考えをしてる。だから、大丈夫だ。それより、お父さんが居ない間、お母さんとお姉ちゃん達を護ってやってくれないか⁇」

 

「…清霜に出来る⁇」

 

急にシュンとなった清霜の手を握り、目を見つめる

 

「大丈夫。それだけの力と考えがあれば出来るさ。清霜は強い子だろう⁇」

 

「うんっ‼︎清霜強い子っ‼︎」

 

「よしよし‼︎」

 

清霜の頭を撫でながら立ち上がると、清霜は少女の顔に戻り、ニコニコしながら俺を見上げる

 

どうやら聞き分けは良い子の様だ

 

後は接し方だな…

 

ようやく繁華街に入り、清霜がはしゃぎ始める

 

「お父様‼︎人がいっぱい‼︎」

 

「…殺しちゃダメだぞ⁇」

 

「何で⁉︎」

 

「暴力は人を護る時に使うんだ。戦艦になりたいんだろ⁇」

 

「うんっ‼︎ならやめとく‼︎」

 

「よしっ。ちゃんと言う事を聞く子にはジュースを買ってやろう」

 

自販機の前に立ち、100円を入れる

 

「どれ飲みたい⁇」

 

「自分で押したい‼︎」

 

「よっと‼︎」

 

清霜を抱き上げ、スイッチを押させる

 

買ったのは瓶の乳酸菌飲料だ

 

「お父様は何にするの⁉︎」

 

「そうだなぁ…一番上の紅茶かな⁇」

 

「きーちゃんが押してあげる‼︎」

 

俺はもう一度清霜を抱き上げ、コーヒーのボタンを押させる

 

「ちがっ‼︎」

 

清霜は紅茶の隣のボタンを押した‼︎

 

「違う⁇」

 

「いや、大丈夫だ。コーヒーの気分になった。ありがとう」

 

「フフッ‼︎どう致しまして‼︎」

 

こうしていると、本当に普通の可愛い娘だ

 

俺達はベンチに座り、ジュースを飲み始めた

 

「お父様のコーヒー、ポスって書いてあるね」

 

「英語の勉強か⁇」

 

「戦艦になる前に、英語の勉強もしないと‼︎」

 

子供っぽくて可愛らしいな…

 

「なぁ、チョット付き合えよ…」

 

「止めてって言ってるでしょ⁉︎」

 

目の前で男二人が女の子にナンパしている

 

それに気付いた清霜は、ジュースを飲みながらナンパしている男達に近付く

 

「清霜‼︎」

 

時既に遅し

 

清霜に気付いた男達は、清霜に目線をやる

 

「なんだオメェ」

 

「お嬢ちゃんは向こう行ってな」

 

「お姉ちゃん嫌がってるよ⁇」

 

「黙ってろよクソガキが‼︎」

 

男の一人が清霜に怒鳴った瞬間、清霜は飲んでいたジュースの中身を飲み干し、そのまま握って割って見せた

 

「止めないとこうなるよ⁇」

 

「いい度胸じゃねぇか…」

 

「清霜‼︎もういい‼︎」

 

清霜に近付こうとした瞬間、清霜は振り返って微笑んだ

 

俺はこの時、無理矢理にでも止めておけば良かった…

 

 

 

 

「もう止めて下さい‼︎」

 

悲鳴虚しく、拳の殴打が続く

 

「俺達が悪かったから‼︎」

 

「きーちゃんにもっと血を見せて‼︎ホラホラ‼︎」

 

清霜は大の大人二人相手にマウントを取り、これでもかと言う位ボコボコにしていた

 

「清霜。もういい‼︎」

 

「ご…ごめんなしゃい…」

 

「すみませんでしたぁ〜‼︎」

 

男二人は一目散に逃げて行った

 

「きよし…」

 

「お怪我はありませんか⁉︎」

 

「あ…うんっ。ありがとうね、勇敢なお嬢ちゃん」

 

助けられた女性は、清霜の頭を撫でた

 

…見覚えのある顔だな

 

「ゲッ‼︎羽黒‼︎」

 

「うっ…レイかよ…」

 

「お父様の知り合い⁇」

 

「そうだよ。羽黒さんって言うんだぞ」

 

「初めまして‼︎清霜です‼︎」

 

「初めまして。ありがとうね⁇」

 

「うんっ‼︎清霜、血が大好きなの‼︎」

 

「レイの子⁇」

 

「うんっ‼︎きーちゃん、お父様の娘‼︎」

 

「そう…今日はもう帰るけど、今度逢ったらお礼をあげるわ」

 

「ホント⁉︎お菓子がいい‼︎」

 

「分かったわ。じゃあね」

 

羽黒は帰って行った

 

「清霜」

 

「ん⁇」

 

世間一般の親なら、ここで一発殴ってるだろう

 

だが、俺はそんな事しない

 

「怪我してないか⁇」

 

「うんっ‼︎大丈夫‼︎きーちゃん頑丈なの‼︎」

 

「おてて見せてみ⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

清霜は両手を差し出した

 

瓶を握り潰した方の手を見る

 

傷一つ無い

 

傷一つ無いどころか、綺麗な手をしている

 

「お父様の言ってた、護るってこう言う事⁇」

 

「そうだな。でも、チョットやり過ぎかな⁇」

 

「どうすればいい⁇」

 

「相手がごめんなさいって言ったら、もう止めてあげなさい」

 

「分かった‼︎」

 

「でもな清霜。その人がごめんなさいって言った後に清霜を殴ったり、同じ事をした時は、そいつは清霜の気が済むまで殴っていいぞ」

 

「ホント⁉︎」

 

「ホントだ。ちゃんと覚えたか⁇」

 

「うんっ‼︎人を護る時は殴っていいのと、ごめんなさいしたら殴るの止める。それと、その後同じ事したら、きーちゃんは殺していい‼︎」

 

「よしっ‼︎ちゃんと覚えたな‼︎偉いぞ‼︎」

 

「ニシシ‼︎褒めて褒めて‼︎」

 

清霜の頭を撫でた後、俺達はお菓子屋の前に来た


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。