艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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138話 貴方にもう一度惚れた日(2)

次の日の朝…

 

ガッシュガッシュ‼︎

 

シャコシャコ

 

子供二人が歯磨きをしている

 

朝霜は歯がギザギザなので、すぐ歯ブラシがダメになる

 

レイはそんな二人の横で、手渡した歯磨きセットで歯を磨き始めた

 

「オトン。いーちゃんの仕上げをしてくれ」

 

「仕上げ⁇」

 

「奥歯から前歯に行くのだ」

 

レイが磯風から歯ブラシを受け取る

 

磯風は口を開けて待機している

 

レイは言われた通り、磯風の奥歯から歯ブラシで磨き始めた

 

「こうか⁇」

 

「ほうら」

 

「お父さん、次はアタイな‼︎」

 

磯風の歯磨きの仕上げが終わり、次は朝霜の番

 

朝霜の歯ブラシはハの字に湾曲しており、レイは苦戦しながら朝霜の歯を磨く

 

「ほらっ」

 

「ありがとな‼︎」

 

レイは案外嬉しそうにしている

 

どうやら子供好きは残っている様だ

 

レイの歯磨きが終わり、朝ごはんを食べる

 

レイの隣では、朝霜が巨大なハムを食べにくそうにしている

 

「あ…えと…」

 

「レイ。朝霜よ」

 

「あ、朝霜。切ってやるよ」

 

「おぉ〜ありがたい‼︎」

 

レイはハムを切り、朝霜に返す

 

体が覚えてるのね…

 

「よし、では行って来るぞ」

 

「お父さん‼︎今日は一緒に寝ような‼︎」

 

「あぁ、分かった」

 

子供二人を学校に送り、私達は見えなくなるまで二人を見ていた

 

「レイ。今日は行きたい所があるの」

 

「明石の所か⁇」

 

「ん〜ん。明石の所はもういいの。今日はね、貴方が好きそうな物を見せたげる‼︎来て‼︎」

 

「あっ、おい‼︎」

 

私は今を楽しもうとしていた

 

笑い合う二人だが、私は最低な考えをしていた

 

…このまま

 

…レイがこのまま

 

…記憶喪失のまま

 

…私の所に居てくれたらいいのに

 

よく考えてみれば、レイが記憶喪失になったから、今朝初めての家族団欒が出来た

 

最低な女だ、私は…

 

 

 

 

「ここよ」

 

私はレイを開発中の戦闘機の格納庫に連れて来た

 

「へぇ〜…戦闘機かぁ…」

 

レイの目が変わる

 

やっぱり戦闘機を見ると嬉しそうだ

 

「ジェミニは戦闘機も管理してるのか⁇」

 

「そうよ〜。こう見えて、元パイロットなのよ⁇」

 

「ジェミニは多彩だな」

 

「ふふん♪♪」

 

やっぱりレイに褒められると嬉しい

 

「これは⁇」

 

レイの前には、量産型であるFlak 1のボディが鎮座していた

 

「これは無人機よ。見方を護る為に産まれたのよ⁇」

 

「無人機…」

 

レイはFlak 1のボディに触れた

 

「綺麗でしょう⁇」

 

「綺麗だ…」

 

貴方が造ったのよ、この子…

 

「無人機…か…」

 

「何か思い出した⁇」

 

「何と無く…口煩いイメージがあるんだ…何でだろうな⁇」

 

「きっとそう言う時代も来るのよ。無人機がお喋りする時代が…ねっ⁇」

 

レイは今しばらく、不思議そうにジーッとFlak 1を見つめていた…

 

 

 

 

 

夕方になると、朝霜も磯風も帰って来た

 

「お父さんだ‼︎」

 

「オカンだ‼︎」

 

「おっと‼︎」

 

レイは走って来た朝霜を抱き留めた

 

朝霜は嬉しそうにギザギザの歯を見せる

 

「レイ…レイ‼︎」

 

霞ちゃんがレイに気付いた

 

霞ちゃんもレイに駆け寄る

 

「おっと…」

 

朝霜はスッとレイから離れた

 

霞ちゃんはレイの前で止まり、一旦涙を拭いて、満面の笑みで、屈んでいたレイに抱き着いた

 

「おわっ‼︎」

 

「このクズ‼︎心配したのよ⁉︎」

 

「君も俺の事を知ってるのか⁇」

 

「知ってるわよ‼︎私は霞。私は貴方に助けられたの。貴方が忘れたって、私が忘れる訳ないじゃない‼︎」

 

「…そっか。俺は君を…」

 

「すてぃんぐれい…」

 

今度はたいほうちゃんだ

 

レイが吠えてしまったからか、たいほうちゃんはレイを見るなり一歩退いた

 

レイはたいほうちゃんにも気付き、互いに目を見合う

 

たいほうちゃんはもう一歩退く

 

また怒られると思っているのだろうか…

 

レイはそんなたいほうちゃんを見て、霞の背中を叩き横に置き、腕を広げた

 

「おいでっ」

 

「…うんっ‼︎」

 

たいほうちゃんは迷いなくレイに抱き着いた

 

「怒ってゴメンな…」

 

「いいの。たいほうがわるいの…」

 

「そっか。君はたいほうと言うのか」

 

「あたしたいほう‼︎」

 

レイはたいほうちゃんの頭を撫で、記憶を失ってから一番の笑みを浮かべた

 

そして最後は…

 

「レイ…」

 

「君はきそちゃん、だったか⁇」

 

「うん…」

 

別人の様になってしまったレイでも、やはりきそちゃんはレイの事を好きな様だ

 

ただ、それは男女間の関係の好きでは無く、尊敬、信頼、その全てにおいての”好き”なのであった

 

「君も俺を知ってるんだな⁇」

 

「…るもんか」

 

「ん⁇」

 

「死んだって忘れるもんか‼︎」

 

「きそちゃん…⁇」

 

「僕はレイのパートナーだったんだ‼︎一緒にいっぱい辛い事も乗り越えて来た‼︎いっぱいいっぱい、楽しい事もした‼︎」

 

一言一言言う度に、きそちゃんの目から涙が零れ落ちる

 

「だから…僕の事、いつか思い出してよ‼︎また一緒に色んな事…しようよぉ…」

 

「きそちゃん…」

 

「すてぃんぐれい。たいほう、パパとみんなとまってるからね」

 

「私も待ってるわ‼︎」

 

「僕だって待ってる‼︎」

 

「お前達…」

 

だが、レイは何も思い出せないでいた…

 

三人が帰ると、レイは朝霜と手を繋ぎ、家である執務室に四人で帰った

 

あまりにも幸せ過ぎる光景だ

 

私が求めていた生活はコレだ

 

子供達が居て、貴方が居て…

 

でも、さっきの基地の子供達を見ていると、やはりあの子達にマーカス・スティングレイと言う存在は必要不可欠なのだ…


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