艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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135話 双子の記憶(4)

「じゃあ、もう一つの質問だ。どうやって分離した」

 

「勘の良い男は嫌いだ…」

 

菊月は椅子を回転させ、窓の方に向いてしまった

 

「…セイレーン、シレーヌ。私が誰か分かるな⁇」

 

「きくづき‼︎」

 

「きくづき‼︎」

 

やはりひとみといよは、当時のきくづきの乗組員を覚えている

 

「私はあの艦…きくづきのAIだったんだ」

 

菊月は過去の話を少しだけしてくれた

 

菊月がまだきくづきだった頃…

 

彼女は戦闘補助のAIであり、今のひとみといよの監視AIでもあった

 

きくづきが爆撃を受け、乗組員が退艦していく中、艦長は敵に情報を奪われない様にする為、きくづきのAIを抜き取り、きくづきから脱出した

 

だが、当の二人はどうしても助け出す事が出来ず、二人を置いて逃げるしかなかったのだ

 

きくづきのAIは軍部に渡り、いつの日か忘れ去られるまで封印される事となった

 

そして数年後、きくづきは再び陽の目を見る事になる

 

今度は別の体、別の人生で…

 

「私が語れるのはここまでだな」

 

「なるほどな…」

 

「…」

 

一瞬きそと目が合ったが、何故かすぐに目を逸らした

 

「きそ⁇」

 

「まさかこんな所にいるとはね…」

 

「私は彼女…研究者のきそに、ボディを頂いた」

 

一同の視線がきそに行く

 

「黙ってるつもりは無かったんだよぉ‼︎」

 

「いや…全然怒っちゃいねぇけど…」

 

「褒められるべき事です」

 

「…きくづきは、僕が一番最初にAI分離を試したAIなんだ」

 

「お陰で体を得られた。感謝している」

 

「いやぁ〜、すまんすまん‼︎腹痛が収まらなくてな‼︎」

 

「お父さん‼︎」

 

執務室に入って来た小太りの提督に、菊月が抱き着き、たいほうが俺にそうする様に、菊月もまた一軸さんの肩に乗り、頭に掴まる

 

「おおっと‼︎ははは‼︎」

 

「いちじくしゃんら‼︎」

 

「いちじくしゃん‼︎」

 

どうやら彼がここの提督、一軸さんの様だ

 

「ほぅ⁉︎ほぅほぅほぅ‼︎私は夢でも見てるのかな⁉︎」

 

「お久し振りです”艦長”」

 

「清政。私はもう艦長じゃない、提督だよ提督」

 

「あぁ…はいっ、お久し振りです、一軸提督」

 

「ご無沙汰です、中将」

 

どう考えても呉さんの方が年下なのだが…

 

「「いちじくしゃん‼︎」」

 

「おぉ〜セイレーン‼︎シレーヌ‼︎」

 

いよは一軸さんの左足

 

ひとみは右足に乗る

 

「いよ‼︎」

 

「ひとみ‼︎」

 

「いよ⁇ひとみ⁇それが今の名前か⁇」

 

「そう‼︎」

 

「そう‼︎」

 

「貴方がウィリアム大佐、そしてマーカス大尉ですね⁇私は一軸と申します」

 

「よろしくな」

 

「よろしく。早速で悪いが、この二人の事について聞きたい。あぁ、タダとは言わないぜ⁇外のアレ、あんたにやるよ」

 

俺が親指で指した先にはきくづきが停泊している

 

「あれは…内部設備は生きているのか⁇」

 

一軸さんは驚いた目をしている

 

「ある程度は修復出来た。先に見るか⁇」

 

「あぁ。その方が説明も早い」

 

全員腰を上げ、きくづきへと向かう

 

 

 

 

きくづきに入ると、一軸さんはすぐに操舵室に入った

 

「懐かしいな…」

 

艦長を務めていた時にも触れたであろう場所に触れ、深く息を吐き、本題に切り替えた

 

「セイレーン・システムは、反攻作戦の際に使用された、プロトタイプの兵器だ」

 

「そこまでは何となく知ってる。片方が索敵、片方が攻撃だろ⁇」

 

「そう。セイレーン…今はいよ、だったかな⁇彼女が攻撃役、シレーヌ…今のひとみが索敵役だった」

 

「当時、此方側の兵器がほとんど無力化される中、セイレーン・システムを積んだこの艦だけ、敵に有効打を与えられたんだ」

 

「なるほどな…」

 

少し前に解析していたブラックボックスの中にもそれらしき音声は残っていたが、確信にはならなかった

 

「シレーヌが敵の弱点を見つけた後、セイレーンがそこに攻撃を当て、防御に穴を開ける。との寸法だったのだがなぁ…」

 

「艦長は嫌だったのですよね⁇年端のいかない少女を戦わせるのは」

 

「提督だよ。樹」

 

「はっ、提督」

 

先程のひとみといよ、そして一軸さんの話を聞いていると、イカさんの名前は”いつき”らしい

 

「提督は言っていましたね。あの二人を戦場に出した時点で、我々は何の為に戦っているのか分からなくなる…と」

 

「まぁな…特に二人は赤ん坊だったからな。それに、この子は頑張り屋だった。何隻かは航行不能に出来たんだが…」

 

一軸さんは窓の外を眺め、船の先っちょに座っているひとみといよを見た

 

相変わらずいよが突然何処かを指差しては、ひとみが反応し、何か話している

 

「心残りがあるとすれば、あの子達を置いて行ってしまった事だ」

 

「そんだけ後悔してりゃ、あの二人も許してくれるさ」

 

「嫌いなら三人の名前も覚えていないハズさ」

 

「だと良いのだが…」

 

一軸さんは下を向きながら帽子を直している

 

「まっ、あれだ。あの二人にはまたその内どっかで逢えるさ。その時、しっかり接してやりゃあそれでいいと思う」

 

「そこまで二人を大切に…樹、清政、いいな⁇」

 

「はっ、彼等なら任せて大丈夫かと」

 

「同感です」

 

一軸さんは二人の反応を見た後、脇に抱えていた一冊の手記を俺に渡した

 

「話すより見る方が早い。そこに全てが書いてある。会話記録から、戦闘方法までな」

 

「えいしゃんたらいま‼︎」

 

「かえってきた‼︎」

 

「んっ、おかえり」

 

タイミング良くひとみといよが帰って来た

 

「いよちゃん、ひとみちゃん」

 

一軸さんが膝を曲げて声を掛けると、ひとみもいよも一軸さんの方を見た

 

「二人はマーカスさんの事、好きかい⁇」

 

「すき‼︎」

 

「ひとみたちのぱぱ‼︎」

 

二人の答えを聞き、一軸さんはフッと笑う

 

「そっか、分かった。イタズラしちゃダメだぞ⁇」

 

「わかった‼︎」

 

「しない‼︎」

 

一軸さんは二人の頭を撫でた後、艦長が座るであろう椅子に腰掛けた

 

「もう少しここに居ていいか⁇久しぶりに感覚を取り戻したい」

 

「あぁ、約束だからな。きくづきは返すよ」

 

「ありがとう。二人を頼んだ」

 

「此方こそ」

 

ひとみといよを肩に乗せ、部屋から出ようとした

 

「いちじくしゃんばいばい‼︎」

 

「ばいばい‼︎またね‼︎」

 

いよは一軸さんにバイバイを

 

「いっきばいばい‼︎」

 

「ばいばい‼︎」

 

ひとみはイカさんにバイバイする

 

そして最後は…

 

「「じゃあな、きよましゃ‼︎」」

 

「うぐっ…ばっ、ばいばい‼︎」

 

どうも呉さんだけ舐められている

 

だが、何だかんだで好かれてはいる様だ

 

元クルーを残し、俺達はきくづきを出た


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