艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

421 / 1086
132話 小さな潜水艦と白いウズラ(2)

《今週日曜日、橘花マンがタウイタウイモールに来るぞ‼︎みんな待ってろよ‼︎》

 

橘花マンが終わり、たいほうと照月は日課である合鴨の散歩に向かう

 

「うぁう〜」

 

「あぅ〜」

 

遊んでくれる人が去り、ひとみもいよもその辺をハイハイし始め、すぐに朝霜に頭突きする

 

「よっと」

 

朝霜は二人の前に座り、言葉の練習をし始めた

 

「あ・さ・し・も。言ってごらん⁇」

 

「あぅあ〜」

 

「うぁ〜」

 

二人共、朝霜の目は見ているが、言葉は理解していない

 

そんな三人の様子を見て、ローマが言った

 

「兄さん。アレ使えるんじゃない⁇」

 

「アレ⁇」

 

「ほら、レイと鹿島の日本語の練習したフリップよ」

 

「まだ残ってるか⁇」

 

「あるわ。ちょっと待ってなさい」

 

話を聞いていた叢雲はヘラの格納庫に向かい、あの日使っていたフリップを持って戻って来た

 

「いつか犬をおちょくってやろうと思って持ってたのが正解だったわ‼︎」

 

「誰に教えて貰うと分かりやすいかな…」

 

「私は嫌よ。犬に教えれても、赤ん坊はムリよ」

 

「私もムリね。レイで教師は向かないって分かったから」

 

叢雲とローマは開口一番に教師役を拒否した

 

「マーカスは変な事教えそうだわ…」

 

「母さん‼︎」

 

「ただいま‼︎」

 

俺が母さんに吠えていると、たいほうと照月が帰って来た

 

合鴨の散歩と言っても、合鴨専用の限られた敷地をグルッと何周かするだけなので、帰って来るのも早い

 

「そうだ‼︎たいほうにさせてみたらどうだ⁉︎」

 

隊長の言葉で、食堂の机周りにいた人の目線がたいほうに行く

 

「たいほうがせんせいするの⁇」

 

「やってみるか⁇」

 

「うんっ‼︎ぱぱとすてぃんぐれいもきて‼︎」

 

たいほうは叢雲から受け取ったフリップを脇に挟み、俺達を手招きした

 

「たいほうは犬に良く懐いてるわね」

 

「レイ君は子供に好かれやすいからね」

 

「こうして横で眺めるのも悪くないわ」

 

「ふふっ、子供がいっぱいね」

 

四人の目線の先には、いよを膝の上に乗せた隊長、朝霜とひとみを膝の上に乗せた俺、そして、たいほう先生がいる

 

「これはなぁに⁇」

 

たいほうの手元には白い鳥の絵がある

 

「がーがーさんだな」

 

「あぅあぅあん」

 

「おっ‼︎そうだそうだ‼︎偉いぞ‼︎」

 

しばらくすると、いよが急に話せる様になり始めた

 

「つぎいくよ。これは⁇」

 

たいほうの手には、赤い果物の絵がある

 

「あんあ」

 

「おぉっ‼︎凄い凄い‼︎」

 

ひとみもそうこうしている間に話せる様になり始めた

 

後で貴子さんと母さんに聞いた所、どうやら、絵を見せられた後に何か言うと俺達が頭を撫でるので、それが心地良いらしい

 

「これでさいご‼︎じゃん‼︎」

 

最後の絵は飛行機の絵だ

 

「あさしもはわかる⁇」

 

「飛行機だな‼︎」

 

「せいかい‼︎ぱぱとすてぃんぐれいがのってるんだよ⁇」

 

「ぱ〜ぱ…」

 

「そうだそうだ‼︎凄いぞいよ‼︎」

 

隊長がいよを撫でると、いよはニコニコし始めた

 

「う〜」

 

俺の名前が長いのか、ひとみは中々言ってくれない

 

「ひとみ。このひとはれいだよ、れ〜い」

 

「えい」

 

「そうそう‼︎俺はレイだ‼︎もう一回言ってくれ‼︎」

 

「ひとみ、レイだぞ〜。れ〜い〜」

 

朝霜も同じ様に教える

 

そして、何度目かに言った時…

 

「え〜い〜」

 

「そうだそうだ‼︎う〜ん‼︎ひとみは偉いなぁ‼︎」

 

俺は嬉しさのあまり、ひとみを抱き締めた

 

「えい‼︎」

 

「犬の事日本語で呼んでるわね」

 

叢雲の言った事は案外間違っていない気がする…

 

その後も、たいほうの授業は続き、ひとみもいよも段々と言葉を覚えていった…

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「えいしゃ〜ん‼︎おきろぉ〜‼︎」

 

「おっきろぉ〜‼︎」

 

「ぐはっ‼︎おぶっ‼︎」

 

朝っぱらから布団の上で誰かがダムダムと踏み付けてくる

 

が、体が小さい為、思ったよりダメージは無い

 

「えいしゃんおつかれ⁇」

 

「えいしゃんしんだ⁉︎」

 

急に踏み付けが止まり、二人は恐る恐る俺の顔を覗き込んで来た

 

「だ〜れ〜だ〜‼︎悪さする子はぁ‼︎うりゃあ‼︎」

 

「うわーっ‼︎」

 

「つなみー‼︎」

 

飛び起きて二人を布団で包む

 

「えいしゃんおきた⁇」

 

「ひとみたちとあそぼ⁇」

 

「その前にっ、まずは朝ごはんだ‼︎貴子さんに朝ごはんは何か聞いて来てくれ」

 

「あかった‼︎いよがきいてくる‼︎」

 

「ひとみもいく‼︎」

 

二人はパタパタと部屋から出て行った

 

「おはよう、マーカス」

 

「うわ‼︎」

 

全く気配が無かった

 

ベッドの脇に母さんがいた

 

「二人共もう歩いてるわ。流石はマーカスの見込んだ子ね⁇」

 

「俺もビックリしてるよ…」

 

母さんと少し話していると、またパタパタと足音が聞こえ、二人が帰って来た

 

「むぎごはん‼︎」

 

「おみそしりゅ‼︎」

 

「あと、あかいおさかにゃ‼︎」

 

「オーケー、ありがと。さっ、行こうか」

 

「だっこ‼︎」

 

「だっこして‼︎」

 

二人を両脇に抱え、母さんを前に行かせて食堂へと向かう

 

「あさごはーん‼︎」

 

「ひとみのごはんあった‼︎」

 

「いよはこっち‼︎」

 

中身は霞が作ってくれたであろう、哺乳瓶が机の上に置いてある

 

二人は昨日与えられた哺乳瓶をしっかり覚えている

 

…俺は正直、どっちがどっちか分からない

 

「いよちゃん⁇歯見せて⁇」

 

「はーみせる…あっ‼︎いーっ‼︎」

 

いよは貴子さんに歯を見せた

 

「あらっ、可愛い歯ね‼︎」

 

「えいしゃん、ひとみのはもみて‼︎」

 

ひとみは俺に歯を見せてくれた

 

「おっ‼︎ちゃんと生えてるな‼︎」

 

たいほうや朝霜達子供と同じ様な乳歯がうっすらと生えている

 

「えいしゃんごはんたべる⁉︎」

 

「んっ、そうだ。ひとみも食べるんだぞ⁇」

 

「おはよ〜…ふぁ〜」

 

朝霜がアクビしながら食堂に来た

 

「あーしゃん‼︎」

 

「あーしゃん‼︎」

 

「どぁっ‼︎なっ、何だ⁉︎」

 

朝霜を見るなり、二人掛かりで抱き着く

 

朝霜は二人を受け止めつつ、後ろに倒れる

 

「もう歩いてるのか⁉︎元気な奴だなぁ‼︎」

 

「あーしゃんのは、みせて‼︎」

 

いよは朝霜に自分の歯を見せ、朝霜に歯を見せる事を促す

 

「いっ、いーっ…」

 

「ぎざぎざだ‼︎」

 

「あーしゃんぎざぎざ‼︎」

 

「言う事聞かないと噛むぞ‼︎ホラ行け‼︎」

 

「かまれる‼︎」

 

「あーしゃんこあーい‼︎」

 

どうやらこの二人は随分とイタズラ好きみたいだ

 

そんな二人が苦手とする人が一人だけいた…

 

「朝から騒がしいわね…」

 

「う…めがね…」

 

「めがねこわい…」

 

「何ですって〜⁉︎」

 

ローマを見て、二人はたじろぐ

 

すかさずローマは二人の襟首を掴んで持ち上げる

 

「うわー‼︎はなせー‼︎」

 

「えいしゃんたすけて‼︎」

 

ひとみもいよも手足をバタつかせて、何とかローマの手から離れようとする

 

「アンタはここ‼︎」

 

「わ」

 

「アンタはこっち‼︎」

 

「わぉ」

 

子供用の椅子に座らされ、ようやく二人は落ち着いた

 

「いい⁇ちゃんと言う事聞かないと、海へポイするわよ⁇」

 

「うみ⁇」

 

「うみってなぁに⁇」

 

「あそこよ‼︎」

 

ローマが指差す方には、青い海

 

「うみいく‼︎」

 

「ぽいして‼︎」

 

「はぁ…」

 

いよもひとみも海に興味があるみたいだ

 

「とりあえずごはん食べるぞ‼︎頂きます‼︎」

 

「いたあきます‼︎」

 

「いたあきまーす‼︎」

 

二人は俺達の真似をして、キチンと手を合わせた後、哺乳瓶の中身を飲み始めた

 

「あれっ、はっちゃんとしおいは⁇」

 

潜水艦の二人が見当たらない

 

「大湊に行ったわ。何か用事があるんだって」

 

「そっか」

 

「えいしゃんごはんたべた⁉︎」

 

「ひとみもうたべた‼︎」

 

「ちょっと待ってろよ」

 

「それまではアタイと積み木して遊ぶか⁇」

 

「あーしゃんとつみきする‼︎ごちそーさま‼︎」

 

「ひとみもあーしゃんとあそぶ‼︎ごちそーさま‼︎」

 

二人は哺乳瓶を俺の前に置き、朝霜の所へ向かった

 

今まで以上に騒がしくなりそうだ…




えいしゃん…ひとみといよが言うレイの名前

まだ少し舌ったらずな喋り方をする二人だが、この呼び方は案外間違ってはいない

スティングレイは日本語にすると、魚のエイ

なので、二人がレイの事を”えい”と言うのは、ちょっとした意味がある

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。