艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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14話 孔雀の誘い(3)

武蔵を見送った後、私は一人で歩き始めた

 

「ん⁇」

 

何処かで見覚えのある後ろ姿が、ビールの売り子をしている

 

次に私の口から出た言葉は決まっていた

 

「みほ‼︎」

 

「…大佐っ‼︎」

 

抱き付いて来たみほの目には、涙が浮かんでいた

 

「逢いたかったのよ⁇ずっと…ここに来れば逢えると思って…」

 

「俺もだ…」

 

「ご、ゴホン…」

 

「はっ…」

 

後ろに居たのは横須賀君だった

 

「愛情表現は大いに結構。ですが、多勢の前ですので…その…」

 

「ははは…すまんすまん」

 

「そろそろBBQの準備を始めます。みほさん、お願いするよ」

 

「はいっ、元帥」

 

みほは私達にウインクした後、BBQ会場に消えていった

 

「元帥だったのな」

 

「貴方に頭は上がりませんがね。ここまで私を育ててくれたのは、貴方である事をお忘れ無く」

 

「ちゃっかりしちゃって…」

 

帽子を直し、横須賀君も会場に消えていった

 

「パパ〜‼︎」

 

水風船やら綿菓子の袋やら沢山持ったたいほうが走って来た

 

「いっぱいあそんだよ‼︎ちぇるしーがね、これとってくれたの‼︎」

 

たいほうの手にぶら下がった袋の中には、おもちゃが詰まっていた

 

「ありがとう、チェルシー」

 

「チェルシー、ゲームトクイ」

 

そう言うチェルシーの頭にも、お面が付けられている

 

「二人共、もうすぐそこでBBQが始まる。行っておいで」

 

「うんっ‼︎」

 

「オナカスイタ」

 

二人共、嬉しそうに走って行った

 

「提督は行かないんですか⁇」

 

いつの間にか、横にはまかぜがいた

 

「楽しいか⁇」

 

「えぇ、とっても。綿菓子とたこ焼きを食べた後、ストラックアウトをしました」

 

よく見れば、はまかぜの髪飾りが純金になっている‼︎

 

「どうしたんだ、これ。高かっただろ⁇」

 

「これがストラックアウトの景品です。予想外に豪華でした」

 

「ははは‼︎俺はもう少し後で会場行くよ」

 

「武蔵さんはもう行きましたよ。私もそろそろ行きます」

 

「あぁ、行っといで」

 

はまかぜも会場に向かった

 

いつの間にか、辺りは暗くなっていた

 

気がつかなかったな…

 

余程楽しめたんだな

 

よく見ると、所々出店が閉まっている

 

出し巻き卵売りの瑞鳳…

 

射的屋の天龍…

 

輪投げ屋の夕立…

 

綿菓子売りの日向…

 

それと…

 

最後に目をやった出店が閉まっている事を確認した

 

さて…行くか

 

 

 

 

 

 

BBQ会場から少し離れた海辺近くの階段に、一人の女性が座っている

 

「うんっ、美味しい‼︎やっぱりドイツは最高ね‼︎」

 

独り言を言いながら、一本のフランクフルトを頬張る

 

ブロンドの美しい髪が、海風に靡いている

 

「あ…」

 

ふと、誰かに頭を撫でられた

 

懐かしい撫で方…

 

振り返ると、見覚えのある優しい顔が…

 

「こんな所に居たのか」

 

「隊長さん…」

 

「…ビスマルク」

 

私は、この人を知っている

 

いいえ、忘れる事なんて…出来なかった…

 


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