艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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特別編 想い人、想われ人(4)

「降ろすニム‼︎」

 

「おいクソニム‼︎」

 

「何ニム‼︎」

 

「テメェは降ろした途端に潜っちまうダズル。だからこうして担いで連れて行くダズル。いいな」

 

「…チッ」

 

結局、ニムはラバウルに着くまでずっと担がれたままでいた

 

 

 

「さ、着いたダズル」

 

榛名はニムを降ろし、ラバウルさんの居る執務室に向かわせた

 

そして榛名は健吾の居る格納庫を目指した

 

「居たダズル…」

 

健吾と北上が楽しそうに話している後ろで、榛名はコソコソ動きながら、健吾が一人になるのを待った

 

「じゃあ健吾。私は晩御飯の準備するから、また後でね〜」

 

「はい、隊長」

 

北上が格納庫から出た瞬間、榛名は行動に出た

 

「おい」

 

榛名は健吾の後ろから掴みかかり、喉元にトンカチの釘抜き部分を置いた

 

「ゲッ‼︎榛名‼︎」

 

「榛名の言う事を聞くんダズル。いいな」

 

「お…オーケー…分かった…」

 

「戦闘機に乗るんダズル‼︎早く‼︎」

 

「わ、分かった分かった‼︎」

 

健吾は手を上げたまま、T-50に乗り込んだ

 

榛名は後ろに乗るが、喉元に突き付けたトンカチは離さない

 

「横須賀に向かうんダズル」

 

「…何故だ⁇」

 

「つべこべ言わずに出すんダズル‼︎貴様の嫁がどうなっても良いんダズルか⁉︎」

 

「わわわわ分かった分かった‼︎」

 

健吾は嫌々T-50を出し、横須賀に向かった

 

「ん⁇健吾の機体が飛びましたね…」

 

《キ、キャプテン。ち、ちょっとお散歩に行って来ましゅ…》

 

《黙って運転するんダズル‼︎死にてぇのか‼︎》

 

「ホンットすまんニム…」

 

「あ…あはは…榛名さん⁇」

 

《心配すんな。殺しはしないダズル。逆らわなければな》

 

「健吾。榛名さんの言う事を聞くんだよ⁉︎」

 

《り、了解です》

 

健吾は無線を切り、横須賀へとエンジンを吹かせた

 

 

 

 

「よし、着いたダズル」

 

「俺はどうすればいいんだ⁇」

 

「あのジープをパクるダズル」

 

「ちょっと待っててくれ」

 

「いや、密告されたら困るダズル。榛名も行くダズル」

 

榛名は健吾にピッタリくっつきながら、ジープの借用申請所に向かう

 

「も、もう少し離れてくれないか⁇その…胸が…」

 

「サービスダズル。気持ちいいハズダズル」

 

「くっ…」

 

健吾は満更でも無くなって来ていた

 

恐怖と快楽が入り混じると、人は従い易くなるのを榛名は知っていた

 

「じ、ジープを借りたい」

 

「もう夕方ですよ⁇」

 

「は⁇んなモン関係ねぇダズル。一台位貸せ‼︎」

 

「ちょっ、榛名‼︎」

 

「…ま、良いですけど。バンパー以外を擦ったら、返却の際、修理に回して下さい」

 

「よし、最初から素直に貸すんダズル」

 

ジープのキーを健吾に取らせ、榛名

は助手席に乗った

 

「ジープの運転も俺がするのか⁇」

 

「榛名はジープの運転知らんダズル。事故っても良いならするダズル」

 

「…分かった。んで、何処に向かえばいい」

 

「居住区に行くダズル」

 

「分かった」

 

健吾はジープを横須賀から出した

 

二人を見届けた借用申請所に居た係員は、すぐに横須賀に連絡を入れた

 

「提督、柏木中尉が単冠湾の榛名に拉致されました」

 

《あの榛名は何してんのよ、もぅ…何処に向かったの⁇》

 

「居住区かと思われます」

 

《分かったわ。でもまぁ、何か事情があるかも知れないから、ジープの返却時間まで待って。いいわね⁇》

 

「了解しました」

 

 

 

 

ジープを運転する健吾は、軽く震える手でタバコを吸いながら居住区に向かう為の高速道路を飛ばしていた

 

「おい健吾‼︎」

 

「な、何だ‼︎急に大声出すなよ…」

 

「提督と知り合いらしいダズルな」

 

「まぁな…色々あって、今は別々だけど、親友なのに代わりは無い」

 

「そうか」

 

「ワンコに聞いたのか⁇」

 

「そんなとこダズル」

 

「ワンコは何て言ってた⁇」

 

「話は終わりダズル‼︎黙ってハンドル握るんダズル‼︎」

 

「オーケーオーケー‼︎」

 

健吾はトンカチに怯えながら、居住区へとアクセルを踏む

 

居住区に着き、榛名はジープのスピードを緩めさせる

 

「おい、停めろ。ここダズル」

 

一軒家の前に車を停めさせ、健吾一人を車から降りさせる

 

「いいか。ピンポンを押したら”ラバウルの者だ”と言って、出て来るのを待つダズル。いいな」

 

「分かった。行って来る」

 

健吾は何が何だか分からないまま、一軒家のピンポンを押した

 

《はい》

 

「ラバウルの者だが、少し良いか⁇」

 

《少々お待ちを》

 

「これで良い…」

 

健吾が振り返ると、ジープには榛名が乗っていなかった

 

「榛名⁇」

 

「お待たせしましたわ」

 

一軒家から出て来た女性の声を聞き、健吾は目を閉じ、大きく息を吐き、左目から一粒だけ涙を流した

 

「ありがとう…榛名…」

 

「何か御用でして⁇」

 

「いや…顔、見に来ただけだ」

 

「そう⁇変わった人ねぇ…」

 

「変わらないのな、その口調」

 

「私を知っていて⁇」

 

「まぁな…」

 

「此方を向いて頂けませんこと⁇私、貴方が誰だか分からなくて…」

 

女性は健吾の前に回り、下を向いた彼の顔を見た

 

「健吾さん…健吾さんなの⁇」

 

「りさ…」

 

りさは健吾の顔を見るなり、すぐに彼の胸に抱き着いた

 

「もう…何処に行ってましたの⁇」

 

「すまん…随分遅くなった」

 

「とにかく、私の家に入って下さいまし。ゆっくりお話ししましょう⁇ねっ⁇」

 

「あっ…あぁ‼︎」

 

健吾とりさは、家の中に入って行った

 

「さて、問題は榛名ダズルな…」

 

榛名は健吾達を見届けた後、一件の家のピンポンを押した

 

「おい‼︎出て来い‼︎」

 

「誰よ‼︎近所迷惑な‼︎」

 

「おいビス子‼︎榛名を家に入れるんダズル‼︎」

 

ビスマルクは、そっと玄関のドアを閉じた

 

「そういう態度を取るんダズルな…よ〜く分かったダズル。ならば破壊ダズル‼︎」

 

榛名はジープの荷台に置いていたハンマーを手に取り、ビスマルクの家の玄関前で振り上げた

 

「分かった‼︎分〜かったわよ‼︎今日だけよ⁉︎」

 

「ん。すまんな」

 

榛名はビスマルクの家に乱入し、ソファにドカッと座った

 

「迎えは⁇一人⁇」

 

「健吾と来たダズル。健吾はりさのお家でアバンチュールダズル」

 

ビスマルクに出されたビールを飲みながら、榛名は受け答えしていた

 

「ったく…一応横須賀に連絡入れておくわよ。いいわね⁇」

 

「…そうダズルな。健吾はしばらく二人にした方がいいダズル」

 

ビスマルクは一旦リビングから消え、数分後、自分の分のビールを持って戻って来た

 

「でっ。提督とはどうなの⁇」

 

「上手い事行ってるダズルよ」

 

「大佐やレイとは逢ってるの⁇」

 

「そこそこに逢ってるダズル。ぱぱもレイも元気ダズルよ」

 

ビスマルクの家に来ると、何故か皆饒舌になる

 

その日の晩、ビスマルクも榛名も話が尽きる事は無かった

 

 

 

 

次の日の朝…

 

「んじゃあ、榛名はバイバイするダズル」

 

「今度はハンマー無しでいらっしゃい」

 

「うぬ」

 

榛名は居住区に健吾を残し、迎えに来た横須賀の人間に連れられて帰って行った

 

昼下がり、榛名はようやく単冠湾に帰って来た

 

「ただいまダズル‼︎」

 

「おかえり。ご飯食べたか⁇」

 

「ハラペコダズル。おぉ、美味そうな苺大福ダズル‼︎寄越せ‼︎」

 

私の手から苺大福を奪い、榛名は一口で食べてしまった

 

「早く食わん提督が悪いんダズル。あ〜美味しいダズルなぁ‼︎」

 

「ぐっ…」

 

こんな関係になってしまった二人ではあるが、榛名は今、嘘偽り無く、本当に幸せであった

 

数年越しに叶った恋…

 

その事実を知ったワンコは、これ以降、今以上に榛名を大事にする様になった…

 

 

 

 

「気を付けて下さいまし」

 

「ありがとう。行って来ます」

 

りさも健吾も、こうして数年越しの恋愛をやり直していた

 

傍から見ると普通の夫婦に見える二人のやりとりは、少しの間、居住区で噂となった…


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