艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

412 / 1086
130話 襲撃‼︎黒いウズラ‼︎(3)

「ふふっ…母さん、ですか」

 

マーカスはあれから、私を”母さん”と呼んでくれる

 

私はそれが嬉しくてたまらない

 

「レイ君は嬉しいのよ。お母さんと呼べる人が出来て」

 

「貴子は私が居ない間、マーカスの母親代わりをしていてくれたのでしょう⁇」

 

「私じゃ無理よ…」

 

貴子は私の手を取った

 

「私がレイ君に向ける愛情は、貴方には勝てない。私はどうしてもウィリアムを優先してしまうから…」

 

「そんな事無いわ。マーカスは作文で貴方を母親と言っていたとてぃーほうが」

 

貴子は首を横に振った

 

「レイ君は女性に対しての甘え方を知らないの。レイ君がどれだけ私を母親と言ってくれても、それは教えてあげられ無かった…その代わり、レイ君は甘えられる立場になったの。たいほうや照月ちゃんを見ていて分かるでしょ⁇」

 

言われてみればそうだ

 

マーカスは甘えられる方が多い

 

てぃーほう始め、照月やきそもそうだ

 

「…今からでも間に合うかしら」

 

「えぇ‼︎勿論‼︎」

 

「ふふっ…頑張って見るわ‼︎」

 

微笑ましい二人の会話を、隊長が嬉しそうに見ている

 

その背後で、誰にも気付かれずに会話を聞いていた少女が小さくため息を吐いた

 

「…仕方の無い子ね」

 

少女は誰にも気付かれぬまま、食堂から出た

 

 

 

 

「寝なさい‼︎いでっ‼︎」

 

子供部屋ではいつもと同じく、子供達がワチャワチャと動いている

 

「よ〜し。寝ない子はダズル☆マンの所に連れて行こう‼︎」

 

「ダズル☆マンはレイだ‼︎」

 

「怖くない‼︎」

 

「うおっ‼︎」

 

れーべとまっくすが俺の背中にのしかかる

 

「よし分かった‼︎れーべとまっくすは蒼龍にパックンしてもらおう‼︎」

 

そう言うと子供達はゾロゾロと布団に入って行く

 

「ヤダー‼︎」

 

「パックンは嫌‼︎」

 

れーべとまっくすはちゃんと布団に入った

 

「きそ。ちゃんと寝てるか⁇」

 

「うん。後は任せて‼︎」

 

「磯風は⁇」

 

「きしょねぇにょよこにいりゅ‼︎」

 

「たいほう‼︎…は、寝てるか」

 

「マーカスさん、おやすみなさい」

 

足元ではっちゃんが此方を見ている

 

「あぁ、おやすみ」

 

電気を消し、今日ははっちゃんの額にキスをし、子供部屋を出た

 

次はグラーフだ

 

グラーフの部屋に入る前に、少しだけタブレットを弄る

 

「グラーフ、俺だ」

 

「入れ」

 

グラーフの部屋に入ると、グラーフは布団に包まっていた

 

「エロ同人みたいな事するのか」

 

「んなこたぁしねぇよ。ホラッ」

 

グラーフにタブレットを渡す

 

《グラーフ。寝れないのかい⁇》

 

「ミハイル‼︎」

 

怒っていた顔がパァッと明るくなる

 

テレビ電話の先にはミハイルがいる

 

「あのね。レイがグラーフ叩くの。酷いよね」

 

「よしっ、没収だ」

 

「ウソウソ。ミハイル、嘘だよ」

 

《ははは‼︎レイ‼︎人の女に手を出すなよ⁉︎》

 

「分かってらい‼︎俺じゃなくてグラーフと話せ‼︎グラーフ、返すの明日の朝でいいから、ゆっくり話せ」

 

「うんっ‼︎ありがとう、オトン‼︎」

 

「…そいつでイーブンだからな」

 

人の恋路を邪魔しちゃいけない

 

俺はグラーフの部屋を出た

 

後は工廠の戸締りの確認だけしたら、俺もベッドに飛び込もう…

 

工廠に入り、懐中電灯で一帯を照らす

 

しっかし、この照月の”フラッシュさん”は眩しい位光るな…

 

パソコン良し

 

危険物良し

 

フィリップの格納庫良し

 

クイーンの格納庫良し

 

スペンサーも良し

 

後はヘラだ

 

「ん⁇」

 

ヘラの格納庫に明りが灯っている

 

「誰かいるのか⁇おっと‼︎」

 

ヘラの格納庫の中に入った瞬間、いきなりシャッターが閉められた

 

「なるほど…」

 

一発で分かった

 

女王の反逆だ

 

「こっちへ来なさい」

 

シャッターに向けられていた視線を、格納庫の奥にいた少女に向ける

 

格納庫の奥には、脚立の上で両手で頬杖をついた叢雲がいた

 

フラッシュさんを切り、叢雲の所に向かう

 

「そこに座りなさい」

 

いつも俺かきそがAIの確認作業を行う時に座っている椅子があり、そこに座る

 

「どうしたんだ⁇」

 

叢雲の鼻息が荒い

 

「黙ってなさい。良いわね」

 

「分かったよ…」

 

叢雲は俺の顔を胸に置き、頭を抱え、撫で始めた

 

「いい子ね…」

 

「…」

 

一瞬、またいつも通りからかっているのかと思ったが、心音を聞く限りどうやら違う

 

かなり速い心音だ

 

「貴方は立派よ…”マーカス”」

 

「…初めて名前呼んでくれたな」

 

「犬の方が良かったかしら⁇」

 

「叢雲とヘラだけだぞ。俺を犬と呼んで良いのは」

 

「マーカス。貴方は甘える事を知らない。誰だって良いわ。姫だって、貴方の妻だっていい。甘える人を一人だけでも作りなさい」

 

「俺は子供を持った。強くなくちゃいけない…」

 

そう言うと、叢雲は少しだけ腕の締めを強くした

 

「そんなのダメ。いつか壊れるわ」

 

「…叢雲。俺の話を聞いてくれるか」

 

「んっ。聞いたげる」

 

俺は思いの丈を叢雲に話した

 

母である姫に、どうやって甘えればいいか分からない事

 

横須賀に甘えたいが、同じく甘え方が分からない事

 

そして、俺でも甘えていいのか…と、いう事

 

叢雲は笑って答えた

 

「分からないなら私に甘えなさい。私はいつだって受け止めたげる」

 

「優しいのな、叢雲は」

 

「誰が教えてくれたのよ…」

 

「…」

 

ほんの数分だけ、俺は叢雲に甘える事にした…

 

「ありがとう」

 

「んっ…」

 

「さっ、もう寝ないとな」

 

「もう少しここにいるわ。先に寝なさい」

 

「分かった」

 

 

 

 

ヘラの格納庫から出て、ようやくベッドにダイブしようとした

 

…が、子供部屋をもう一度確認しておこう

 

大体は寝てると思うがな…

 

子供部屋の扉をソーッと開けると、全員寝息を立てていた

 

寝相の悪い照月とはまかぜは布団を蹴り飛ばしている

 

二人に布団を掛け直し、たいほうの顔を見る

 

丸くなって、霞にくっ付いて寝ている

 

霞はそんなたいほうを軽く抱いたまま眠っていた

 

最後に磯風の所を見る

 

「は〜っ…」

 

磯風は布団を蹴り飛ばしているどころか、敷き布団からはみ出し、左にいたはっちゃんの顔をグーで殴った状態、右にいたきその顔面を蹴り飛ばしている状態でイビキをかいていた

 

はっちゃんときそは眠ってはいるが、かなり苦悶の表情をしている

 

「変な所だけ母親似だな…」

 

磯風を抱き上げると、首がカクンと傾き、ヨダレを垂らしながら、またイビキをかく

 

…横須賀ソックリだ

 

「おやすみ、磯風」

 

磯風を布団に入れ、子供部屋を出た

 

俺もそろそろ寝よう…

 

自室に戻り、有無を言わさずベッドに入った

 

明日も騒がしい…だろう…な…

 

明かりを消し、俺も眠りについた…


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。