艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

409 / 1086
129話 双子丸(2)

「言っただろ⁇アタイはお父さんの娘だって」

 

「言ってたな」

 

「だから、アタイが産まれたら、このアタイはもうお父さんと逢えなくなる。歴史が変わっちまうからな…あ、でも気にすんな‼︎アタイとはすぐ逢える‼︎」

 

「変な話だな…」

 

「最後に色々話しておこうと思ってな」

 

「俺は…産まれて来るお前を、ちゃんと面倒見れるだろうか⁇」

 

「見れるさ‼︎現にアタイは此処に居るんだぜ⁉︎見れてる証拠さ‼︎」

 

「そっか…」

 

「な〜にヘタレてんだよ‼︎」

 

ギザギザ丸は立ち上がり、俺の背中をバシッと叩く

 

「お父さんのやる気がなきゃ、アタイまで変になるだろ‼︎いいか⁉︎今からのお父さんの行動で未来は幾らだって変えられる‼︎」

 

「例えば⁇」

 

「例えば、そうだな…あっ、ホラ‼︎アタイとたいほうちゃんをなるべく遊ばせるとか‼︎」

 

「そんなので変わるのか⁇」

 

「変わるさ‼︎んじゃ、最後だから特別に教えてやろう‼︎たいほうちゃんは未来で学校の先生になって、横須賀に住んでるんだ。容姿もメッチャ綺麗になってる‼︎だから最初、アタイは分からなかったんだ」

 

「なるほど。なら、ギザギザ丸とたいほうをなるべく一緒に居させれば良いんだな⁇」

 

「そうさ‼︎」

 

ギザギザ丸と話せば話す程、自分の子供だという事を嫌と思う程理解させられた

 

話す時に顎の下を掻く癖

 

笑った時に、少し後ろに仰け反る癖

 

口が悪いのか面倒見が良いのか分からない、横須賀譲りの口調

 

横須賀譲りの目付き

 

完璧に俺の子だな…

 

「おっ。時間だ…お別れだな」

 

ギザギザ丸は立ち上がり、身嗜みを軽く整える

 

「もう行くのか⁇」

 

「あぁ。未来のお父さんに伝える事はあっか⁇今なら伝えてやんよ‼︎」

 

「そうだな…じゃあ、こいつを渡してくれるか⁇」

 

俺は、あの日御礼の品として貰ったオートマチック式の拳銃をギザギザ丸に渡した

 

「今の未来の俺はこいつを持って無い。ギザギザ丸、お前が俺の未来を変えてやってくれ」

 

「分かった。ちゃんとわた…」

 

ギザギザ丸が拳銃を受け取り、腰に付けた直後、俺はギザギザ丸をギュッと抱き締めた

 

「心配すんな。アタイは未来のお父さんにもこうして貰ってる…いいお父さんだぞ…今も、昔もな」

 

「すぐ会おうな…」

 

「あぁ…分かったよ」

 

ギザギザ丸は俺から離れ、雪の中を歩いて行った

 

「あっ‼︎そうだ‼︎」

 

途中、何かに気が付き、此方に振り返った

 

「アタイの名前は心配すんな。もうすぐお父さんが付ける‼︎アタイはこの名前、スッゴク気に入ってるぞ‼︎”もう一人”はお母さんが決めてるから心配すんな‼︎じゃな‼︎」

 

「ちょっと待て‼︎もう一人ってなんだ‼︎」

 

そう言うが、既にギザギザ丸は消えていた

 

「ったく…結局ヒントは無し、か…」

 

ギザギザ丸が居なくなって、少し考え、また分娩室の前に戻って来た

 

そして、ギザギザ丸が言っていた”もう一人”の意味が分かった

 

「レイ‼︎もうすぐ産まれるぞ‼︎双子だぞ双子‼︎」

 

「双子だぁ⁉︎」

 

そう言った時、分娩室から産声が聞こえた

 

「産まれた‼︎」

 

「元気の良い声ね‼︎」

 

散々ウロウロしていたきそと叢雲が戻って来た

 

俺の心臓の鼓動はは異常なまでに速くなっていた

 

そうこうしていると、分娩室から明石が出て来た

 

「レイさん‼︎産まれましたよ‼︎此方へ‼︎」

 

「行って来い」

 

アレンに背中を押され、マスクやら白い服を着て分娩室の中に入った

 

「産まれたわよ…ふぅ…」

 

横須賀は憔悴しきっていた

 

「よく頑張ったな。ありがとう」

 

横須賀の髪を上げ、ついでに頭を撫でる

 

「うんっ。ホラ、赤ちゃん抱っこしてあげて⁇」

 

「どうぞ‼︎」

 

「ありがとう」

 

明石から赤ちゃんを受け取る

 

「はじめまして、だな」

 

目は開いてはいないが、何と無く俺の声がする方を見ている気がする

 

命の重さ…

 

こんなにも重いのか…

 

「レイはその子の名前、私はこの子の名前ね⁇」

 

「もう決めた」

 

「聞かせて⁇」

 

「”朝霜”だ」

 

「朝霜⁇」

 

「そっ」

 

「なら、この子は”磯風”にしようかしら⁇」

 

「良い名だ…おっ」

 

朝霜と名付けられた赤ちゃんは、俺の服の裾をギュッと握り締めていた

 

「もう懐かれてるの⁉︎」

 

「ははは。朝霜…」

 

「…まぁいいわ。ホラ、磯風も抱っこしてあげて⁇」

 

「おっ…」

 

横須賀と赤ちゃんを交換し、今度は磯風を抱く

 

「いでででで‼︎」

 

磯風は磯風で俺の腕の肉をつねる

 

しかも横須賀の腕の中にいた時の倍以上泣かれる

 

産まれながらに懐く親が決まっている様だ

 

「あら⁇見て‼︎」

 

横須賀が朝霜の口を開けている

 

「もう歯が生えてる…」

 

「ギザギザだな」

 

朝霜は少しだが既に歯が生えていた

 

何処かで見た、ギザギザの歯だ

 

「レイさん。この子達は自力で歩行出来る様になるまで横須賀で預かろうと思うんです」

 

「そうだな。今しばらくは母親の愛情が必要だしな」

 

明石の言う通りだ

 

流石の俺も産まれたての赤ちゃんに与える愛情は横須賀に勝てない

 

それに、いつでも逢いに来れる

 

「ちゃんと歩ける様になったら、一週間おきに基地に送りますよ」

 

「そうしてくれ。朝霜、磯風、元気に育てよ…」

 

そう言って朝霜と磯風を撫でる

 

朝霜はスヤスヤ眠っているが、磯風は俺の手を嫌そうにしている

 

「お前に似たのか⁇」

 

「見たいね…ふふっ。大丈夫よ、その内レイの事も好きになるわ⁇」

 

「だと良いんだが…」

 

その日の夜、各基地から訪れたメンバーと共に、瑞雲でアレンと俺の出産祝いが行われた

 

最近、瑞雲で集まる事が多い気がする…

 

「レイ。その内歩きだすぞ⁇」

 

「生傷が絶えない生活もっ、案外悪くないものですよ⁇」

 

「レイさんなら大丈夫ですよ」

 

アレン、健吾、ラバウルさんは子育て経験者

 

アイちゃんで今しばらくケガだらけの生活を送っていた

 

「基地の子達も大騒ぎよ⁇」

 

「心配するな。きそがお姉ちゃんなら大丈夫さ」

 

隊長、貴子さん、この二人も子育て経験者

 

俺の周りには、なんやかんやで助けが多い

 

「マーカス大尉。瑞鳳が離乳食なら任せろと言っていたぞ」

 

日向の言伝を聞き、少し安心する

 

「とにかく食え‼︎今日はめでたい‼︎」

 

「そうだな‼︎」

 

隊長の言葉で、ようやく箸を手にする

 

信頼するメンバーに囲まれ、俺は幸せな1日を送った…

 

 

 

 

 

朝霜と磯風が産まれました‼︎




朝霜…レイと横須賀の子供その1

レイと横須賀の間に産まれた、双子の長女

産まれてすぐにギザギザの歯が生えてる

レイやきそに良く懐き、一週間で磯風と交代で基地に遊びに来る

性格がレイに良く似ており、何に対しても恐れずに立ち向かう勇気があり、まずは話し合いの精神をキチンと受け継いでいる

名付けたのはレイで”朝方に見る霜の様に美しく育って欲しい”との意味を込めて付けた

愛称は次回分かる




磯風…レイと横須賀の子供その2

レイと横須賀の間に産まれた双子の次女

産まれながらにレイに懐かず、横須賀にベッタリ

嫌いな人にはすぐに噛み付く

全てが横須賀に酷似しており、親子だと一発で分かる

横須賀と同じく、口は強い割に案外ヘタレ

レイ以外には暴力を振るわないが、レイが触るとフルボッコにする

名付けたのは横須賀で、父親であるレイがいつも”磯の風”に乗って逢いに来てくれるので、いつしかこの風が好きになり、この名を付けた

一時期パチモンの磯風をしていたからこの名前を付けた訳じゃないらしい

愛称は次回分かる

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。