艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、波乱の127話が終わりました

今回のお話は、散々伏線を貼って来た一件を回収しようと思います

毎週金曜恒例の子供達の学校の日

子供達に信頼されるレイを見て、とある人物が動きます


128話 Agape(1)

今日は毎週恒例の子供達の学校の日

 

今日は珍しくたいほうはお休みで、基地で隊長達とお留守番だ

 

はまかぜ、霞、秋月が学校に向かう

 

学校に行かないと分かっているたいほうは、照月と一緒に教育番組を見ている

 

「よしっ。んじゃ行くか‼︎」

 

「はい」

 

根が真面目な三人を連れて行くのは楽だ

 

だが、真面目過ぎるのも逆に静かで何だか怖い

 

照月やたいほうの様に、少し騒がしい子の方が俺は好きなのかも知れない

 

 

 

「お兄ちゃん、今日横須賀さん抱くって言ってた‼︎」

 

「だく⁇だっこのこと⁇」

 

「てぃーほうはまだ覚えなくていいわ」

 

「わぁ」

 

まるで猫でも抱き上げるかの様に、私はてぃーほうを膝の上に置いた

 

「照月も‼︎」

 

「照月は次ね」

 

私はここに来てから、子供達の母親代わりとなっている

 

貴子さんが手が離せない時は、私がこうして子供達を相手する

 

特にまだ甘えたい盛りのてぃーほうと照月は良く私の周りにいる

 

「ひめはすてぃんぐれいのおかあさん⁇」

 

「あら。知ってたの⁇」

 

「だって、たいほうのおかあさんがたいほうにしてくれること、ひめはすてぃんぐれいにしてるもん」

 

「例えば⁇」

 

「すてぃんぐれいがねんねするとき、あたまなでなでするのとか、すてぃんぐれいがいってきますするとき、ひめはすてぃんぐれいだっこするの」

 

「てぃーほうもおかあさんにして貰うの⁇」

 

「たいほうはおかあさんと、パパと、すてぃんぐれいにしてもらうの‼︎」

 

「ふふっ。てぃーほうはみんなの事を良く見てるのね⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

 

 

 

 

「よしっ。じゃあまた夕方な」

 

三人を学校まで送る

 

はまかぜと秋月は「はい」と返事をして中に入るが、霞だけは立ち止まって振り返った

 

「優しくするのよ⁇」

 

「うん」

 

「後悔ないようにね‼︎」

 

「へ〜へ〜」

 

散々霞に箔を押されながら、執務室で待つ横須賀の元に来た

 

「今日は私が運転するわ‼︎」

 

「お前の運転は不安だ。俺がす…」

 

横須賀がチャラチャラ音を立てて見せびらかすキーを取ろうとするが、背後に回されたので取れなくなった

 

「…事故するなよ⁇」

 

「こう見えて運転免許位持ってます〜‼︎」

 

嫌々横須賀の運転する車の助手席に乗り、窓枠に付いた取っ手を左手で”しっかり”握る

 

「よし、出すんだ」

 

「レッツゴー‼︎」

 

不安を残したまま、横須賀の運転する車は走り出した…

 

 

 

 

 

「おひるごはん」

 

基地では、お昼ごはんが机の上に置かれて行く

 

てぃーほうと照月に前掛けを着けて、食べる準備は整った

 

私は直前まで食堂の机で書類整理をしていたので、メガネを掛けたままてぃーほうの横…つまり、いつもはマーカスのいる場所に座っている

 

「さっ、出来たよ〜」

 

「チャーハンだ‼︎」

 

きそは貴子さんのチャーハンが好きだ

 

「ギョーザもあるよ」

 

「ぎょーざ‼︎」

 

てぃーほうはグラーフのギョーザが好きだ

 

「いただきます‼︎」

 

私は早速てぃーほうのギョーザを小さく切ろうとするが、横に貴子さんがいる事に気付き、手を引いた

 

「おいひ〜‼︎」

 

反対側では、照月がバクバク食べている

 

「姫。たまには何にも考えずに食べてみたら⁇」

 

対面した席に座っていたきそに言われ、ようやく箸を手に取った

 

「そうね。頂くわ」

 

濃いめの味付けの貴子さんのごはんはいつも美味しい

 

はまかぜの料理も勿論美味しいのだが、バランスが取れ過ぎている気がする

 

私も一応ごはんは作れるのだが、どちらかと言えばオヤツを作る方が得意だ

 

私は終始ボーッっとチャーハンやギョーザを口に運ぶ

 

マーカスの言っていた”急に手持ち無沙汰になる”と言うのはこの状況なのだろう

 

「あっ」

 

私の前に緑色のゼリーが置かれた

 

「消化を良くするゼリーよ。私、洗い物するから子供達をお願いしますね⁇」

 

「オーケー、貴子」

 

ようやく出番が来た‼︎

 

とは思ったが…

 

流石にゼリーはてぃーほうでも自分で食べられるか…

 

両隣の二人の顔を見て、静かにため息を吐き、私もゼリーを口に入れた

 

二、三口食べると、横から赤色のゼリーを乗せたスプーンが小刻みに動いているのに気が付いた

 

「ひめ、あ〜ん‼︎」

 

てぃーほうは私にゼリーを食べさせようとしている

 

マーカスがいつもしているので、それを覚えたのだろう…

 

「あ〜…んっ‼︎」

 

てぃーほうのスプーンを口に入れ、ゼリーを食べる

 

てぃーほうの好きなイチゴの味がして美味しい

 

「おいしい⁇」

 

「…うんっ、おいしいわ‼︎私もあげる‼︎」

 

「あ〜…」

 

口を開けて待つてぃーほうの口に、私の分のゼリーをスプーンで掬い、ゼリーを食べさせる

 

「おいしいね‼︎」

 

「ふふっ」

 

てぃーほうが笑うのを見て、私も微笑む

 

マーカスが言っていたのは、満更嘘でも無いようね…

 

てぃーほうの傍にいると、少しだけでも親の気分を味わえる…

 

 

 

 

デザートを食べ終えると、子供達は外で遊び始めた

 

ウィリアムが外でボールで遊びながら子供達の面倒を見ている

 

食堂に残っている子供はきそと照月だけ

 

きそは机でコーラを飲みながら何かの設計図を書いている

 

照月は口を開けて天井を見ながら大の字で仰向けになっている

 

「照月、カモン」

 

「やった‼︎」

 

約束通り、照月も膝に置いて抱き締める

 

…ちょっと重いわね

 

「お兄ちゃんに抱っこして貰う時と一緒だぁ…」

 

「照月、きそ」

 

「ん⁇」

 

「はい」

 

「マーカスの事、好き⁇」

 

照月もきそも即答した

 

「うんっ‼︎お兄ちゃんが一番好き‼︎」

 

「うんっ‼︎レイはカッコいいし、優しいから好き‼︎」

 

二人共、嘘偽りの無い目をしている

 

…好かれているのね、マーカス

 

「姫さんはどうしてお兄ちゃんに、自分がお母さんだ〜‼︎って言わないの⁇」

 

「あら。照月も知ってるのね⁇」

 

「何と無く分かるよ。照月、お兄ちゃんの好きな人も好きだもん‼︎」

 

「ふふっ…そうね。少しだけ話しましょうか」

 

「僕も聞いていい⁇」

 

「えぇ。きそもいらっしゃい」

 

きそが設計図を片付けている間に照月を右の脇の下に座らせ、片付け終えたきそを左の脇の下に座らせた

 

「あれは…」

 

私は少しだけ話した

 

内戦に巻き込まれ、二人の赤ん坊と旦那を置いて行かなければならなかった…

 

私だけが助かった…

 

赤ん坊を置いて、母親だけ助かるなんて、母親あるまじき行為だ

 

私は今更、子供に合わせる顔が無い

 

旦那にも…

 

だから、私にマーカスが向ける、子供達と同じ様な愛…

 

私は憎い

 

どうして私は愛してあげられなかったのに、マーカスは私を愛してくれるのだろう…

 

二人に話すと、すぐに答えは出た

 

「お兄ちゃんはみんなに優しいんだよ⁇」

 

「レイが怖いのは空だけだよ⁇」

 

マーカスの事を悪く言う人を見た事が無い

 

マーカスのお嫁さん…ジェミニは時々マーカスの事を言っているけど、彼女はどうも悪口に聞こえない

 

だから、あの子は例外ね

 

「きっとレイは怒らないよ」

 

「だと良いのだけど…」

 

「たいほうちゃんの事、姫に話したっけ⁇」

 

「いえ…」

 

「たいほうちゃんはね、ずっとお母さん…つまり貴子さんに捨てられたと思ってたんだ」

 

「てぃーほうが⁉︎」

 

「それでね、たいほうちゃんはレイに相談したんだ。自分のお母さんに会ったら、叩いたり蹴ったりしていいか、って。それ程、たいほうちゃんは怒ってんだ」

 

「マーカスはなんと⁇」

 

「叩いたり蹴ったりしたらダメだって。まずは話し合いからだ、って」

 

「マーカス…」

 

「そう言えば、隊長さんもお兄ちゃんも、人を叩いたりしてる所見た事無いね」

 

「それ教えたの、姫なんでしょ⁇」

 

「えぇ…」

 

「なら大丈夫だよ‼︎」

 

二人の顔を見て安心する

 

決心が付いた

 

マーカスが帰って来たら、言う事にしよう…

 

 

 

 

その頃、事が終わった俺はホテルのベッドの端に座り、タバコに火を点けた

 

「…痛かったか⁇」

 

「うん…」

 

「まさか初めてだったとはなぁ…」

 

横須賀は処女だった

 

顔立ちも良く、胸もデカいので、最低でも一人二人位は経験があると思っていた

 

「アンタだって経験少ないでしょ⁉︎」

 

「まぁな…」

 

「んで、コレよ」

 

横須賀を抱くのが俺の今日の目的だったが、横須賀は違ったらしい

 

「なんだ⁇」

 

「みんなの前じゃ渡せないから、今ここで読んで」

 

横須賀の手には、大きめの封筒が握られている

 

「機密文書か⁇」

 

横須賀は何も言わず、俺にもう一度書類の入った封筒を突き付けた

 

「…分かったよ」

 

封筒を受け取り、中を見る

 

中に入っていた書類には、大分前に見たDNA検査と良く似た図が書かれていた…


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