艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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124話 母性を求めて(3)

次の日、俺、隊長、貴子さん、たいほうは授業参観の為、横須賀に向かった

 

「やまかぜ‼︎おはよう‼︎」

 

「おはよう。よろしくね」

 

山風だ

 

この前も会ったが、ネットの印象とちょっと違う

 

山風はたいほうと共に先に学校へと入って行った

 

「レイ。おはよ」

 

「おはよう」

 

横須賀は俺を見るなり腕を絡めて来た

 

サラが俺の事をお見通しな様に、俺は大体こいつの考えている事が分かる

 

俺がサラと仲良くしているから、取られない様にしているのだろう

 

「コンニチハ♡」

 

「サンカンビトイキテ」

 

中枢棲姫と縦ロールが来た

 

最近、学校に駆逐艦の子や重巡の深海棲艦の子達も通っているので、この二人が来ても驚かなかった

 

「貴方達の事も言われると良いわね⁇」

 

「イワレルトイイナ♡」

 

「キタイシテマス」

 

「さっ、入りましょうか‼︎」

 

教室に入ると、あきつ丸が教壇に立っていた

 

「これはなんと読むでありますか⁇たいほうちゃん。チャレンジしてみるでありますか⁇」

 

「とーちゅーかそー‼︎」

 

「おぉ…偉いでありますなぁ‼︎正解であります‼︎」

 

たいほうは漢字は読めるが書けない

 

最近、ようやくカタカナが書ける様にはなって来た

 

「さぁ。そろそろ始めるであります。みんな、宿題は持って来たでありますか⁇」

 

「もってきた‼︎」

 

「山風も書いたよ」

 

「ジャン‼︎」

 

たいほう達は思い思いに書いた作文を出し、机の上に置いた

 

「では読んで行くであります。まずはイワン君‼︎」

 

イワンと呼ばれたイ級が立ち上がり、作文を読む

 

「ハイ‼︎ボクノオカアサンハ、コウワンナツキデス‼︎オッパイガオオキクテ、イツモクロイジュースヲクレマス‼︎」

 

イワンが終わり、しばらくイ級達の連鎖が続く

 

ただ、それぞれ母親は違う様だ

 

港湾夏姫と言う子がいれば、戦艦夏姫と言う子もいる

 

話を聞いている限り、中枢に行った時にいた、

 

港湾夏姫

 

戦艦夏姫

 

重巡夏姫

 

この三人はかなり面倒見が良い様だ

 

しかし、問題の縦ロールと中枢棲姫の名は上がって来ない

 

「では、次はリノン君」

 

重巡の子だ

 

「ワタシノオカアサンハ、チュウスウセイキサンデス」

 

「オホッ♡」

 

中枢棲姫は嬉しそうに顔を蕩けさせている

 

「イツモオイシイゴハンヲツクッテクレルノデ、ダイスキデス」

 

「ワタシモスキヨ〜♡」

 

「ヒメ、シズカニ」

 

縦ロールが中枢棲姫の口を押さえるが、中枢棲姫の嬉しさは止まらない

 

「よしっ。ではリネア君、行ってみるであります」

 

「ハイ。ワタシノオカアサンハ、ウンガセイキサンデス」

 

「ウヒッ♪♪」

 

散々中枢棲姫にうるさいと言っていた縦ロールも顔をニヤけさせる

 

「ウンガセイキサンハ、ヘイワニツイテイツモセッキョクテキデス。ワタシモイツカ、ウンガセイキサンノヨウニナリタイデス‼︎」

 

「イキテテヨカッタ♪♪」

 

「では〜…次はたいほうちゃん」

 

「はい‼︎」

 

たいほうの番が来た

 

「たいほうのおかあさんは、たかこといいます。おりょうりもじょうずで、いつもたいほうたちとあそんでくれたりします」

 

「あら。私の事を…」

 

「たいほうは、いつかおかあさんみたいに、おっきくて、やさしくて、ひとをだっこできるひとになりたいです」

 

周りが拍手するので、これで終わりかと思っていた

 

「たいほうにはおとうさんもいます。おとうさんはうぃりあむといいます。さんだーばーどたいのたいちょうです」

 

周りから”オォー”と声が上がる

 

「おとうさんはなんでもできます。みんなにそんけいされてて、おともだちもたくさんいます」

 

たいほうの読む作文を聞いていると、隊長の肩が揺れているのに気が付いた

 

顔を見ると半泣きになっていた

 

やはり子供の成長は嬉しい様だ

 

「それと…」

 

たいほうの作文はまだ続いていた

 

「たいほうには、もうひとりおとうさんがいます。それは…」

 

今まで前を向いて読んでいたたいほうが、俺の方に振り返った

 

「まーかす・すてぃんぐれいです‼︎」

 

それを聞いた途端、俺は持っていた作文の束を握り締め、溢れる涙を堪える体制に入った

 

「すてぃんぐれいは、いつもたいほうたちとあそんでくれたり、たいほうたちをまもるためのぶきをつくってくれます。たまにごはんもつくってくれます。たいほうにとっては、すてぃんぐれいもおとうさんです‼︎」

 

「た…たいほう…」

 

作文を持っていた逆の手で口元を押さえるが、すすり泣く声は抑えられなかった

 

拍手喝采で、たいほうの作文は終わった

 

「では、山風ちゃん‼︎」

 

「はいっ。山風のお母さんは、隼鷹と言います。お酒を凄い飲みます。よく、お父さんを襲ってます…」

 

隼鷹と呉さんの性生活がちょっと明らかになった

 

山風の作文が終わり、子供達全員の作文読みが終わった

 

「では、最後に特別枠でマーカス・スティングレイさんに作文を読んで頂くであります‼︎マーカス大尉、此方へ‼︎」

 

教壇に案内され、持っていた作文を広げ、読み始めた

 

「俺には、父も母もいません」

 

教室が軽く騒つく

 

「だけど、父と呼べる人も、母と呼べる人も俺にはいます。父と呼べる人は、俺の隊長。ウィリアム・ヴィットリオ大佐です。隊長は俺に沢山の事を教えてくれました。空…世界…医学…隊長が教えてくれた事は、俺の世界になりました」

 

「レイ…おまっ…」

 

たいほうの作文で大ダメージを受けていた隊長は、此処に来てとうとう崩れた

 

「母と呼べる人は、まずは貴子さん。貴子さんは、俺が知らない母親の愛を、一番最初に俺にくれた人です」

 

「嬉しい…」

 

貴子さんの涙腺も緩んでいる

 

「母と呼べる人は、もう一人います。それは…この鎮守府の提督である、ジェミニ・コレット元帥です」

 

「あらっ」

 

此処に来てようやく横須賀の名が呼ばれたので、当の本人は素直に嬉しそうだ

 

「ジェミニは、俺が知らなかった愛を教えてくれました。俺は今まで、異性を愛する方法を知りませんでした。彼女はそんな無知な俺を、いつも笑って、その愛で包んでくれました」

 

「…アイッテイイネ」

 

「…イイネ」

 

駆逐艦の子のヒソヒソ話が聞こえて来た

 

「この場を借りて、俺は彼女に言いたい事があります。それは、俺が彼女に言いそびれた言葉です…ジェミニ、こっちに来てくれ」

 

「はいはい」

 

横須賀は教壇の前に立ち、俺の目を見た

 

「一度しか言わない…よく聞いとけ」

 

横須賀は頷き「分かったわ」と言った

 

俺は深く息を吐き、原稿用紙を壇上に置き、口を開いた

 

「…俺と結婚してくれ」

 

「はいっ‼︎喜んで‼︎」

 

横須賀は、俺が差し出した手をすぐに取った

 

「ヤッター‼︎」

 

「ケッコンケッコン‼︎」

 

「コクハクコクハク‼︎」

 

深海の子達も祝ってくれている

 

「ヨカッタ♡ワタシモハヤクケッコンシタ〜イ〜♡」

 

中枢棲姫はクネクネしながら再告白した俺達を見ていた

 

「ヒメ。ソノウチイイヒトガキマスヨ」

 

「ジャアマッテヨ‼︎ハクバノオウジサま〜♡」

 

中枢棲姫がちょっと壊れ始めた

 

こうして、授業参観は幕を降ろした…

 

その日の夕飯、貴子さんは豪勢な料理を作ってくれた

 

俺とたいほうの好きなモノばかりだ

 

皆が美味しく食べ、照月がまた暴食をし、また家族の一日が終わる…

 

 

 

 

 

 

「♪〜」

 

「ねぇ、姫」

 

「ん⁇なぁに⁇」

 

「姫の鼻歌と、レイが吹く口笛のメロディ、一緒だね⁇」

 

「あら…ふふっ」

 

姫はレイと似てるとか、同じと言うと何故か喜ぶ

 

きそは、その事実を知っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…親子って、似るんだね」


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