艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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122話 偽りの愛(3)

「鳳翔さんの店か」

 

鳳翔の前のカウンター席に座る

 

サラは相変わらず俺の方を見ている

 

「ふふっ。貴方も大変ですね⁇」

 

「たまにはっ…いいもんさっ」

 

サラにタバコの火を点けて貰い、置いてある灰皿にタバコの灰を落としながら、会話を楽しむ

 

「マーくん、ビールでいい⁇」

 

「あぁ」

 

サラに言われ、ようやくメニューを開ける

 

居酒屋と言う割には、軽食やアルコールのメニューが多い

 

「生チュー二つと唐揚げをお願いします」

 

「はい。少々お待ちを」

 

やはりサラは俺の趣味を知っている

 

俺は趣味思考まで、サラの旦那に似ているのだろうか…

 

「サ…」

 

「あはははは‼︎男なんてシャボン玉よ〜‼︎」

 

後ろの座敷の席で、少し行き遅れた感のある女性が酔っ払って騒いでいた

 

どうやら合コンみたいな男女の集まりが終わり、取り残された様だ

 

「あんたも独り身〜私も独り身〜‼︎」

 

「黙って飲め‼︎」

 

隣で怒鳴っている男には見覚えがあった

 

「真田⁇」

 

「たっ、大尉‼︎任務ご苦労様です‼︎」

 

真田は俺に気付き、すぐに立ち上がった

 

「なぁに〜⁇この人イケメ〜ン‼︎」

 

「この方はマー…」

 

俺は急いで真田の口に手を置いた

 

「マーク・コレットだ」

 

「へぇ〜…マークさん、彼女いる〜⁇ん〜⁇」

 

「後ろにいる」

 

彼女は、俺の後ろで手をヒラヒラするサラの顔を見た

 

「へぇ〜…綺麗な人ね⁇」

 

「足柄。もう帰るぞ」

 

真田は足柄の手を引くが、足柄は諦めない

 

「い〜や〜よ〜‼︎何で私だけ行き遅れとか言われなきゃいけないのよ〜‼︎真田さんの相方だって、ピッチピチの豊満ギャルの彼女がいるのに〜‼︎」

 

足柄は机に伏せて泣き始めた

 

「マーカ…」

 

「マーク」

 

真田の顔を一瞬睨んで、ウインクをした

 

「あ…マークさん。申し訳ありません…ご迷惑をおかけして…」

 

俺は真田の肩を抱き寄せ、互いに後ろに振り返った

 

「お前自身はどうなんだ」

 

「…好きです」

 

思った通りだ

 

真田は足柄が好きらしい

 

じゃなきゃ、合コンみたいな集まりが終わっても一緒に居ない

 

「今が大チャンスとは思わんか⁇」

 

「ど…どうすれば…こういった事は苦手で…」

 

「いいか⁇こう言う時、女は誰かそばにいて欲しいんだ。あんま怒らず、付き添ってやれ。それだけでいい」

 

「了解です」

 

真田の肩をポンポンと叩いて、彼を送り出す

 

俺は席に戻り、横目でチラチラと二人の様子を眺める事にした

 

「どうせアンタもピッチピチの豊満ギャルが良いんでしょ〜⁇」

 

「そんな事は無い」

 

「じゃあキスしなさいよ‼︎キ〜ス〜‼︎」

 

足柄は真田に迫る

 

真田は何を思ったのか、足柄の後頭部に片手を回し、思いっきりキスをした

 

「んー‼︎」

 

足柄は、まさか本当にキスされると思っていなかったのだろう

 

目を見開いて、必死に真田を離そうとしている

 

「なっ…何すんのよ‼︎」

 

「これで分かっただろう」

 

「何がよ‼︎」

 

「私は足柄が好きだ。誰も貰わないなら、私が貰う。いいな」

 

「あっ…」

 

足柄の目は完全に女になっていた

 

「帰るぞ」

 

「…うん」

 

「大尉。我々はこれで。お邪魔しました」

 

「んっ。気を付けてな」

 

帰る時の真田は、いつもの様にシャキッとしていた

 

…ピッチピチの豊満ギャルって、多摩の事か

 

「マーくんの知り合い⁇」

 

「まぁな」

 

「お待たせしました」

 

ビールと唐揚げが置かれた

 

「此方は付け合わせです」

 

鳳翔はタコの酢和えを出してくれた

 

「うっ…」

 

タコは好きだが、酢和えにはキュウリが入っていた

 

だが、食べない訳には行かないと思い、割り箸を割った時、タコの酢和えが横スライドした

 

「ダメよマーくん。マーくん、瓜科のアレルギーでしょ⁇サラが食べるわ‼︎」

 

「あ…ありがと」

 

「し、失礼しました‼︎別の物を‼︎」

 

鳳翔は頭を下げ、代わりに枝豆を持って来てくれた

 

「申し訳ありません…」

 

「言わなかった俺が悪いんだ。気にしないでくれ」

 

申し訳なさそうにする鳳翔を尻目にタコの酢和えをパクパク食べるサラに、俺の疑問は更に深まった

 

「サラ」

 

「ん〜⁇なぁに⁇」

 

「…いや、何でもないよ」

 

今はサラの旦那に徹している事をふと思い出し、口を閉ざす事にした

 

「言ってよ〜」

 

「…俺の事、好きか⁇」

 

サラは笑顔を見せ、俺の肩に頭を置いた

 

「当たり前じゃない…愛してるわ…」

 

「そっか…」

 

「マーくん…」

 

サラは眠っていた

 

普段タウイタウイモールの店長と秘書艦を務めているサラにとって、こうして俺と逢うのは一時の幸せなのだろう

 

偽りの愛で、誰かの代わりの愛…

 

だが、サラにとってはかけがえの無い”旦那”とのデートなのだ

 

余程逢いたかったのだろうな…

 

じゃなきゃ、寝ながら涙は流さない

 

腕だって、離さないようにガッチリ掴まれている

 

こうして見ると、サラが愛おしく見えた…

 

「ご馳走さま」

 

「お代は結構ですよ」

 

「そんな訳には行かない」

 

「失礼な事をしたのです…それに、今回は事情が事情です」

 

「…分かった。次は大勢で来るからな‼︎」

 

「お待ちしております」

 

鳳翔は深々と頭を下げた

 

俺は何も言わずにサラを背負い、鳳翔の居酒屋を出た

 

外は既に真っ暗

 

人通りもほとんど無く、サラを背負ったまま、俺は横須賀の待つ執務室に足を向けた

 

「マーくん…」

 

道中、サラは寝言で俺の名を呼んだ

 

「ん⁇」

 

「行っちゃ嫌よ…」

 

その寝言を聞き、俺は背中にいるサラの顔を見た

 

「行かないさ。サラを置いては」

 

「…」

 

サラの返事は無い

 

寝言に返事をしてはいけないというが、返事をせざるを得なかった

 

執務室の前に着き、ドアを蹴って横須賀を呼ぶ

 

「おかえりなさい‼︎どっ…」

 

「しっ。寝てるんだ」

 

「あ…ごめんごめん…そこに寝かせて⁇」

 

いつも横須賀が横になってお菓子を食べているソファにサラを寝かせ、髪を上げる

 

「おやすみ、サラ…」

 

子供達にそうする様に、額にキスをする

 

「ありがと」

 

「楽しかったよ。今日は横須賀で寝るよ」

 

「私の寝室使っていいわ。浴場も使って⁇」

 

「サンキュ」

 

偽りの愛は、こうして幕を閉じた…

 

だが、俺にとって、胸を締め付けられる恋愛をしたのには間違いはなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マーくん⁇」

 

俺が去った執務室では、サラが目を覚ましていた

 

「お母さん」

 

「マーくんは⁇」

 

「…お父さんは帰ったよ」

 

「マーくん…どこ⁇」

 

サラは旦那の名を呼びながら、手て空を掴む

 

「お母さん…」

 

「マーくん…マーくん…サラを置いて行かないで…」

 

「や…やめてよ…」

 

「マーくんを返して‼︎ジェミニ‼︎マーくんを止めて‼︎」

 

「やめてよ‼︎」

 

サラの行動は段々と激しさを増し、横須賀はサラに対して声を荒げてしまった

 

「助けて‼︎マーくん‼︎サラ一人はもう嫌よ‼︎」

 

「…お母さん⁇」

 

虚ろな目で、叫ぶ様に旦那の名を呼び、横須賀は異変に気付き、サラを抱き締めた

 

「嫌ァッ‼︎イヤイヤイヤァァァッ‼︎サラのマーくんを返して‼︎返して返して返してぇぇぇ‼︎」

 

「お母さん⁉︎チョットお母さん⁉︎どうしちゃったのよ‼︎」

 

「サラ…また一人な…の…」

 

「…」

 

気絶したかの様に、サラは再び眠った

 

「お母さん…寂しかったのね…」

 

サラは本当にレイを旦那と勘違いしていた

 

本当に瓜二つだったのだ

 

何気ない仕草…

 

嫌いな物…

 

額へのキスの仕方…

 

抱き寄せ方…

 

旦那の癖と丸っきり一緒だったのだ

 

サラにとっては、死んだはずの旦那が、自分の所に戻って来たと勘違いしても無理はない

 

それ程、サラの旦那とレイは似ているのだ…

 

「提督‼︎叫び声が聞こえた‼︎」

 

「初月。今日はありがとう」

 

今日二人を護衛していたのは初月だ

 

「大した事はしていない。僕も久々の任務で楽しかったよ」

 

「ここは大丈夫よ。間宮でアイスクリーム食べて来なさい」

 

「んっ。ありがとう。頂くよ」

 

初月が去り、横須賀はサラの目尻に溜まった涙を払った

 

「また逢えるよ…」

 

「…」

 

パニックと軽い幼児退行を引き起こしてしまったが、サラの寝息は段々と落ち着きを見せた…

 

横須賀は胸を撫で下ろし、自身は椅子に座ってリクライニングを倒し、毛布を掛けて目を閉じた…

 

横須賀にとっても波乱の1日も、こうして幕を閉じた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…マーくん」


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