艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

382 / 1086
120話 若妻達の白昼夢(4)

屋上では小さいながらも立派な観覧車があり、その周りに、これまた小さいながらも親子で楽しめる簡単な遊園地が出来上がっていた

 

「いらっしゃいまへ‼︎」

 

屋上に着くなり、プレハブで店を構えている女性から間の抜けた声が聞こえた

 

興味を示した横須賀はプレハブの前に行き、中に居た金髪の女性に話し掛けた

 

「これなぁに⁇」

 

「阿武隈ドーナツです‼︎試食ど〜ぞ‼︎」

 

つまようじの先に、小さく切ったドーナツが刺さっいるのを渡され、俺達はそれを食べてみた

 

「あら、結構美味しいわね…」

 

「甘さ控え目で中々だな」

 

「一個幾ら⁇」

 

「一個50円です‼︎」

 

「それ二つ。たまには奢ってあげるわ‼︎」

 

「サンキュ。向こうでコーヒー買ってくる。ホットでいいか⁇」

 

「うん。ブラックは嫌よ⁉︎」

 

「はいはい」

 

横須賀から少し離れた場所の自販機でコーヒーを買い、手元で軽く上に投げながら、また戻ろうとした時だった

 

「ん⁇」

 

すれ違った女性に何かを感じた

 

振り返ってその女性を見る

 

赤い髪…

 

風に踊るスカート…

 

此方を見る目…

 

向こうも振り返っているのを見ると、どうやら何かを感じたのは俺だけでは無いみたいだ

 

「綺麗な人だ…」

 

そう小声で言うのも無理なかった

 

初めて会ったはずなのに、何処かで会った気がする…

 

そう思ったのも束の間

 

女性は此方に向かって来た

 

「サラに御用ですか⁇」

 

「い…いや…」

 

「レイ〜‼︎コーヒーまだ〜⁉︎」

 

両手にドーナツを持った横須賀が来た

 

来た途端、横須賀は女性を見て食べている方のドーナツを手から落とした

 

「おっと‼︎」

 

何とかギリギリでドーナツをキャッチ出来た

 

「お…お母さん…」

 

「ジェミニ⁉︎」

 

「お母さぁん…」

 

数秒前までコーヒーでゴネていた横須賀の目からは、大粒の涙が溢れていた

 

二人は抱き合い、横須賀に至っては女性の胸で泣きじゃくっている

 

「死んじゃったかと思った‼︎」

 

「ごめんなさい…お母さん、ジェミニに心配かけたね…」

 

女性は横須賀の頭を撫で、落ち着かせ様としている

 

どうやら、女性の正体は横須賀の母親の様だ

 

数分後、まだしゃくり上げてはいるが、ようやく横須賀は少し落ち着き、女性の胸から離れた

 

「大丈夫よジェミニ。お母さん、ここにいるから。ねっ⁇」

 

「うんっ…」

 

横須賀の頭を撫で、女性は俺の方を向いた

 

「ジェミニ⁇この方は⁇」

 

「私の旦那…マヌケなの」

 

「変わった名前ね…」

 

「ちょいちょいちょい‼︎マヌケじゃない‼︎マーカスだ‼︎」

 

「マーカス…貴方、マーカス・スティングレイ⁉︎」

 

「そう」

 

「この度は基地の者が…」

 

そう言って女性は頭を下げた所を見ると、どうやらタウイタウイで勤務している様だ

 

阿武隈ドーナツの前に戻り、テーブルの周りにあった椅子に、三人は腰掛けた

 

「私はサラ・コレット。ジェミニの母です」

 

「お母さん‼︎むっ、娘さんと結婚させて下さい‼︎」

 

「ふふっ、面白いお方っ。此方こそ、娘を貰って頂き、ありがとうございますっ」

 

互いに頭を下げる

 

頭を下げた時、サラの首から下がったネームプレートと、横須賀に負けない谷間が見えた

 

「サラ…トガ⁇」

 

「えぇ、サラトガです。こう見えてサラは艦娘なんですよ⁇出撃しませんけどっ‼︎」

 

サラがガッツポーズを決める

 

性格は似てないが、こうして横に並べると確かに似ている

 

一昔前の横須賀にソックリだ、特に胸が

 

「お母さん、いつからここにいたの⁇」

 

「タウイタウイモールが出来る少し前からよ⁇お母さん、タウイタウイの秘書と、ここの店長してるの‼︎」

 

「もうずっとここにいる⁉︎セクハラ受けてない⁉︎」

 

「大丈夫よ」

 

「何かあったら言ってね⁇レイを使って迎えに行くから‼︎」

 

「本当ですよ。迎えに行きます」

 

普段周りの人間に敬語を使わない俺だが、サラには使わなければいけないのは分かる

 

「二人共ありがとう。そろそろ行かなきゃ‼︎ジェミニ⁇旦那は大切にしなさい⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

横須賀はこの日一番の笑顔を見せた

 

「マーカスさん。じゃじゃ馬ですが、娘を宜しくお願いしますね⁉︎」

 

「此方こそ、宜しくお願いします」

 

サラは忙しそうに下の階に向かった

 

「レイっ‼︎お母さん生きてた‼︎」

 

「良かったな…」

 

抱き付いて来た横須賀を抱き返し、サラと同じ様に頭を撫でた

 

 

 

お母さん…か

 

 

 

俺もいつか、本当の母親と出逢える日が来るのだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

「クシュン‼︎」

 

「かぜひいた⁇」

 

「大丈夫よてぃーほう」

 

 

 

 

 

 

 

 

昼過ぎ、子供を迎えに行く為、タウイタウイモールから飛び立った

 

相変わらず下では男衆が見送ってくれていた

 

「難儀な連中だぜ…」

 

「レイ。ありがと」

 

「なんだ急に」

 

「今幸せなの。幸せな内にお礼しておくわ」

 

「結婚してくれてありがとう」

 

「え⁉︎」

 

「アイリス。横須賀に帰ろう」

 

《畏まりました》

 

「ちょっと‼︎何て言ったのよ‼︎」

 

 

 

 

横須賀に着くと、学校からゾロゾロと子供達が帰って来ていた

 

「マーカスサン、サヨウナラ」

 

深海の駆逐艦の子が、俺に気付いて頭を下げた

 

「んっ、さようなら。寄り道すんなよ〜‼︎」

 

「レイー‼︎」

 

ドタドタ〜っと、きそが走って来たので、きそを受け止めた

 

「学校どうだった⁇」

 

「楽しかった‼︎」

 

「しおいも楽しかった‼︎」

 

しおいも帰って来た

 

「レイ‼︎あのね…」

 

どうやらきそもしおいも楽しめた様だ

 

「レイ…」

 

「どうした⁇」

 

夕日に照らされた横須賀は、いつもより綺麗に見えた

 

「また、連れて行ってね⁇」

 

「あぁ。楽しみにしてろよ⁇」

 

「…うんっ‼︎」

 

満足気な横須賀は、幸せなまま帰って行った

 

「上手く行った⁇」

 

「まぁな。いつもの倍は可愛かったな」

 

「良かった良かった‼︎えへへ」

 

 

 

 

帰りはきそがフィリップに入り、今日も1日、無事に終わった…




コマンダン・テスト…椎名さんの嫁

エクステの色が個性的なフランス人の元艦娘

海軍総司令官である椎名さんの嫁であり、椎名さんは彼女にデレッデレで、それは周りがドン引きする程

彼女も椎名さんにデレデレであり、未だに熱々のカップルの様な振る舞いをする

息子であるあかりが、中々恋が出来なかったのは、この濃い母親の所為でもある




山風…大人しフワフワ駆逐艦

呉さんと隼鷹の娘

性格は呉さん

外見は身長の割に胸がある事や、髪質で隼鷹に似ているとすぐ分かる

あまり他人に構って欲しくないらしく、ちょっとポーラが苦手

アーケードゲームより家庭用ゲームの方が得意であり、最近ようやくWi-Fiを手に入れた




サラトガ…横須賀のお母さん。未亡人空母艦娘

死んだと思っていた横須賀のお母さん

横須賀を隣に置くと一昔前の横須賀に本当に似ているが、横須賀は若干ツリ目である

少し抜けている気があり、人の言葉を鵜呑みにしやすいが、未だ誰も彼女を騙した事が無い

胸の大きさは完全に横須賀に遺伝している

今はタウイタウイモールの店長兼タウイタウイの秘書艦を兼任している





阿武隈…ドーナツ売りの子

タウイタウイモールの屋上のプレハブでドーナツを売っている金髪の女の子

”せ”が言えず”へ”になるのが癖

ドーナツは一級品で、生地にハチミツを練り込んでいるので、ヘルシーなのに甘くて美味しいと女性の間で評判になっている

10個買った時に”あぶくま”を漢字で正確に書くと1個追加して貰える

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。