艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

378 / 1086
レイは一体何をしようとしているのか…

二人はどうなるのかな⁉︎


119話 シンデレラの愛鳥(2)

浴場を出た俺は工廠に向かった

 

棚にある大きなケースを取り、工廠の裏に来た

 

真っ暗だが、遠くの方でサーチライトが照らされているのが見え、月明かりが綺麗に海面を照らしていた

 

俺はケースを開け、サックスを取り出した

 

腕時計の時間を見る

 

「間に合った…」

 

秒針が12に差し掛かった瞬間、俺はサックスを吹き始めた…

 

 

 

 

「ん…」

 

俺のサックスの音で、貴子さんが目を覚ました

 

「子供達かしら⁇」

 

「貴子」

 

一緒に寝ていた隊長が武蔵を布団に入れた

 

「今日は許してやれ…俺達にとっては、今日は特別な日なんだ」

 

「…特別な日⁇」

 

「今日はな…」

 

 

 

 

サックスを吹き終え、次はハーモニカ

 

ハーモニカで奏でるのも、サックスで吹いた曲と同じだ

 

 

 

その頃、子供達もゾロゾロと起き始めていた

 

「すてぃんぐれいのはーもにか」

 

「綺麗な音…」

 

「なんだろ…何か悲しい音だね…」

 

 

 

 

ハーモニカを吹き終え、最後にギターを出した

 

「マーカス…」

 

お風呂に入ってサッパリした姫が、膝にいつも持っている箱を置きながら顔を見せた

 

「イギリスの曲が聞こえたわ⁇」

 

「夜風は身体に悪いぞ…」

 

「マーカスのジャンパーを借りたわ。温かいわね…」

 

「後で返してくれよ。大切な物だ」

 

ギターに手を掛けた時、姫は俺の横に来た

 

微笑む姫を見て、俺はギターを弾き始めた

 

しばらくギターを弾いていると、今まで大人しく聞いていた姫が口を開いた

 

「♪〜」

 

透き通る様な声で、姫はギターに合わせて歌った

 

いつまでも聞いていたい声ってのは、こんな声なんだろうな…

 

ギターを弾き終えると、姫はすぐに口を開いた

 

「”ありがとう”マーカス…」

 

「これで分かっただろう⁇俺の手は人を殺した手だって…」

 

「マーカス…」

 

今日は俺や隊長にとっては特別な日だ

 

一般市民を巻き込んだ、あの夜戦…

 

今でも忘れない、あの街の灯…

 

本当に美しかった…

 

この街の灯りの下には、一つ一つ…いや、それ以上の命があると良く分かった…

 

この街は護らなければ…

 

結果、俺達は街を護れた

 

だが、それは結果を見ればの話だ

 

市民が大勢犠牲になり、パイロットも大勢墜ちた

 

その中には勿論仲間だっていた

 

当時仲良くなった仲間も、その戦いで墜ちた

 

彼等は軍楽隊も兼ねたパイロットだった

 

俺はその仲間達が愛していた楽器を、それぞれが死んだ時間に合わせて、それぞれの楽器を演奏していた

 

それは彼等に宛てた曲でもあり、戦争の為に血を流した市民の為に宛てた曲でもあった

 

姫が礼を言った通り、あの夜戦はイギリスの街で起こった

 

姫も忘れる事が出来ないのだろう…

 

 

 

「この日が来る度、俺は人殺しだと分かる…仲間がどんどん死んで、俺は生き残った…そこに何か意味はあるんだろうか…」

 

「あるわマーカス。子供達と出逢えたじゃない‼︎」

 

「子供…か」

 

海面を見詰める俺を見て、姫は鼻でため息を吐いた

 

「…いいわマーカス。今日は特別な日にしてあげる」

 

姫は箱を開け、そこからまた小さな箱を取り出した

 

「私…車椅子に乗らなければ移動も出来ないわ…トイレだって、お風呂だって、誰かの力を借りなければ生きて行けないわ。でも、そんな時、マーカスはいつも嫌な顔せずに手を差し伸べてくれた…これはその御礼よ」

 

姫はその小さな箱を開けた

 

中にはネックレスが付いた指輪が入っていた

 

「あまり重たい意味で取らないで⁇これは、私から貴方に贈る尊敬を形にした物…それだけよ」

 

「姫…俺は‼︎」

 

姫は背伸びをして、俺の口を人差し指で止めた

 

「私が、その寂しさを埋めて差し上げます…貴方は背負いすぎです」

 

「…姫」

 

「無理にとは言いません」

 

「俺は…」

 

「マーカスっ‼︎」

 

姫は思い切り俺を抱き締めた

 

涙は出なかったが、物凄く安心した

 

あぁ、貴子さんが出撃の時に俺と隊長にしてくれるナデナデとハグと一緒の安心感だ

 

俺は、どこかで母性を求めていたのかも知れない…

 

「お願いマーカス…自分を責めないで…私も悲しくなります」

 

「分かった…」

 

「約束ですよ⁇」

 

「うんっ」

 

姫は俺を離し、俺は指輪を取った

 

「これからも変わらずに…ね⁇」

 

「ありがとう。似合うかな⁇」

 

鹿島と別れた後、左手の薬指には横須賀との指輪を付けているので、首には何も付けていない

 

俺は再び、指輪付きのネックレスを首から下げた

 

「ありがとう。大事にする」

 

「ふふっ。さぁ、帰りましょうか‼︎」

 

「さぁ、行こう‼︎」

 

「Sally go‼︎よ⁉︎」

 

姫の車椅子を押し、俺達は基地に戻った…




レイとwarspiteがコッソリケッコンしました‼︎

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。