艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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115話 救われた命のミライ(2)

「いやぁ〜‼︎たまにはシンプルなんもいいねぇ‼︎」

 

「お前はジジイか‼︎」

 

「さっ⁇目当てのモン探すとすっか‼︎」

 

「四階にオモチャ売り場がある」

 

また階段を使って、今度は四階へと下る

 

「うへぁ〜…今じゃアンティークだぜ⁇」

 

木で作られたおままごとセットや、ぬり絵等、一昔前二昔前のオモチャが所狭しと並んでいる

 

「あいたっ‼︎」

 

目当ての物を探していると、オモチャをてんこ盛り持った女の子がぶつかって来た

 

その拍子に、持っていたオモチャが床に散乱してしまった

 

「すまんすまん‼︎前見てなかった‼︎」

 

「いえ‼︎私が見てなかったんです‼︎すみません‼︎」

 

互いにオモチャを拾う中、ギザギザ丸は俺の方を睨んでいた

 

「すみませんでした‼︎」

 

再び女の子がオモチャを持ってレジに向かうのを見届けた後、ギザギザ丸が服を引っ張って来た

 

「なんだ⁇欲しいモンあったか⁇」

 

「…あんまこの時代の人間と関わんな。未来が変わっちまう」

 

「今のは違うさ」

 

「お父さんは正義感が強い。だから未来も変えちまう。何でアタイが第二次世界大戦の最中に行かせなかったか…分かるだろ⁇」

 

「まさか…俺一人で未来が変わるとは思えんな」

 

「お父さんは変えちまうんだよ‼︎負けかけてた日本だって、簡単に救っちまう…それとな、この時代にアタイ達は存在しない。アタイはギザギザ丸で良いけど、お父さんは別の名前を使ってくれ」

 

「分かった分かった‼︎気を付け…」

 

途中で言葉が詰まる

 

「何だ⁇何か臭いぞ⁇」

 

ギザギザ丸も気付いた

 

「火事だ‼︎」

 

悲鳴を上げながら、店員が避難していくが、火の回りが速い

 

木製のオモチャや、セルロイドの人形に一気に燃え移り、四階オモチャ売り場は地獄絵図と化した

 

「未来へ帰るぞ‼︎早く‼︎」

 

「待て‼︎」

 

「この時代の人間に関わるなと言ったばっかだろ‼︎言う事聞いてくれよ‼︎」

 

ギザギザ丸が服を引っ張って止めようとするが、俺はそれを振り払った

 

「今助けなきゃ…俺は死ぬまで後悔する」

 

「誰か助けた時点で、アタイもお父さんも消えるかも知れないんだぞ⁉︎」

 

「俺の娘なら、それ位の覚悟は出来てるだろ」

 

「あ…」

 

ギザギザ丸は俺の目を見て、何かを悟ったらしい

 

「ったく…過去も未来も、お父さんは変わらないなぁ…あぁったよ‼︎助けりゃ良いんだろ‼︎やってやんよ‼︎」

 

「ギザギザ丸は避難誘導を頼む。ヤバくなったら、俺を置いて未来へ帰れ。分かったな⁉︎」

 

「…置いてかねぇよ。心配すんな」

 

ギザギザ丸はため息を吐き、避難誘導を始めた

 

「早く下へ行け‼︎くたばっちまうぞ‼︎」

 

ギザギザ丸を見届け、俺は遅れた人を探し始めた

 

「ゲホッ…誰か…」

 

「大丈夫か⁉︎」

 

さっきオモチャをてんこ盛り運んでいた女の子が、床にへたり込んでむせ込んでいた

 

「来い。出るぞ‼︎」

 

「貴方はさっきの…」

 

女の子を抱え、階段へと向かった

 

「お父さん‼︎階段はダメだ‼︎焼け落ちちまった‼︎」

 

「退路は無いってか…」

 

「死にますか…私…」

 

煙を吸ってガラガラ声になってしまった女の子は、片手にセルロイドの人形を大事そうに抱き締めながら、俺に抱き着いていた

 

「心配すんな。死ぬ時ゃ一緒だ」

 

「窓から出るしかなさそうだな…」

 

「窓って…四階だぞ⁉︎」

 

「行くだけ行ってみよう」

 

窓際に向かっていると、急に悲鳴が聞こえたと思った瞬間、上から人が落ちて来た

 

「おいおいおい‼︎」

 

「人が落ちた‼︎」

 

ギザギザ丸が下を見ようとした

 

「見るな」

 

「うわっ‼︎」

 

ギザギザ丸の目元に手を置き、そのまま後ろに引っ張った

 

「人の生き死には見るモンじゃない」

 

「分かったよ…ったく。でっ⁇どうすんだ⁇八方塞がりだぞ⁇」

 

「まっ…少し考えるさっ…」

 

窓際には火が回っておらず、女の子の呼吸も少し落ち着いて来た

 

「呑気にタバコ吸ってる場合かよ‼︎」

 

「こう言う時にこそ冷静さがいる」

 

「あの…」

 

「なんだ⁇」

 

「はしご車…はしご車が…」

 

窓の外を見ると、はしご車がギリギリ届いているのが見えた

 

「ようやくお出ましか…」

 

しかしはしご車までは距離があり、尚且つ乗れて後せいぜいギザギザ丸か、この女の子位だ

 

「君が行くんだ。俺が渡してやる」

 

「待って下さい‼︎貴方達は⁉︎」

 

「心配すん…なっ‼︎」

 

女の子を抱えたまま、窓の外にいる救助隊員に渡した

 

「しっかり持ったか‼︎」

 

「大丈夫だ‼︎すぐ助けに来る‼︎」

 

「待って‼︎名前を教えて下さい‼︎」

 

「マー…」

 

名前を言おうとした時、ギザギザ丸が足をつねって来た

 

そうか

 

俺達はこの時代に存在しないのか

 

「り、リヒターだ‼︎お嬢ちゃんは⁉︎」

 

「か……です‼︎」

 

「何だって⁉︎」

 

聞こえず仕舞いで、女の子ははしご車で地上へと向かって行った

 

「ギザギザ丸‼︎俺にくっ付け‼︎」

 

「こうか⁇」

 

ギザギザ丸は俺の服の裾をギュッと握った

 

…ムカつく位可愛い

 

「違う‼︎」

 

「おっ‼︎」

 

ギザギザ丸を抱きかかえ、しっかりとしがみ付いたのを確認した後、窓から飛び降りた

 

「嘘だろ⁉︎バカバカバカ‼︎」

 

「よっと」

 

外壁に沿って垂れていた紐の様な物に掴まり、地上までスルスルと降りた

 

「は〜…マジでビビった…てかお父さんはアホか⁉︎普通飛び降りるか⁉︎」

 

「普通は飛び降りないな‼︎ハッハッハ‼︎」

 

「リヒターさんっ‼︎」

 

「おっと…」

 

さっきの女の子が抱き着いて来た

 

「大丈夫か⁇」

 

「えぇ‼︎私は神風と言います‼︎お、お礼をさせて下さい‼︎」

 

「んなもんいい。これ着とけ」

 

神風は服が少し焦げていた

 

革ジャンを神風に着せ、野次馬の群れから出た

 

「とにかく病院行くんだ。俺達も行く」

 

「あ、はい」

 

救助隊の車に乗せられ、神風は運ばれて行った

 

「なぁ、お父さん」

 

「何だ⁇」

 

ギザギザ丸がニヤついている

 

「さっきの車、ありゃ何て車だ⁇」

 

「ピー…救急車だ」

 

「へっ、やっぱ治ってねぇなぁ‼︎」

 

「未来の俺はまだピーポー車って言ってるのか…」

 

「まぁいい。アタイ達も病院行こう」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

神風が搬送された病院に着くと、神風は点滴を受けていた

 

「ちょっとはっ…良くなったか⁇」

 

神風の横に座り、彼女の髪の毛を掻き上げた

 

「えぇ。貴方達のおかげです」

 

「人形、好きなのか⁇」

 

「着せ替え人形なんですよ⁇良ければあげます」

 

神風は持っていたセルロイド人形を俺に渡した

 

「いいのか⁇」

 

「えぇ。お家にあるんですよ、今日はぬり絵とか、新しい着せ替えの服を買いに行ってたんです」

 

「じゃあ…ありがたく貰うよ。探してたんだ」

 

セルロイド人形を受け取り、神風の点滴が終わるのを待った

 

「綺麗な髪だな」

 

神風の髪の色は、赤みがかってツヤツヤしていた

 

「遺伝なんですって。みんな黒いのに、私はこんな髪色だから、みんなから好奇の目で見られて…」

 

「俺は綺麗だと思うぞ」

 

「綺麗…ですか⁇」

 

「俺の知り合いも、昔赤い髪だったんだ。そいつは自分の髪に誇りを持ってた」

 

「はぁ…」

 

「そいつは口煩くて、ケンカばっかしてたんだけどな、気付けば隣にいた。俺は多分、そいつの芯の強さに惚れたんだろうな…」

 

「私も、この髪に誇りを持っていいんですか⁇」

 

「そうだぞ。人と違うのは、自分にしか無いって事だ」

 

「ん…頑張ってみます」

 

「無理はするなよ」

 

点滴が終わるまで、話は絶えなかった

 

ギザギザ丸は待合室でジュースを飲んでいた

 

「今度はアップルジュースか⁇」

 

ギザギザ丸の横に座り、タバコに火を点けた

 

「病院だぞ⁉︎」

 

「この時代はいいんだよ。百貨店でも吸ってる奴居ただろ⁇」

 

「ったく…それでも医者かよ」

 

「俺は未来で医者なのか⁇」

 

「あ」

 

「ふっ…」

 

ギザギザ丸が「口が滑った‼︎」みたいな顔をしている所を見ると、俺は未来で医者をしているらしい

 

「それ位は教えてくれてもいいだろ⁇」

 

「…まぁ、それ位ならいいさ。確かにお父さんは、アタイ達が暮らしてる居住区で医者をしてる。簡単な手術もしてくれるから、人気モンだぜ⁇」

 

「それと、もう一つ…鹿島が嫁で無くなった以上、嫁は横須賀だな⁇」

 

「それは言えないな。だけど、この髪色は、お父さんの遺伝とだけ言っておくよ」

 

「…何と無く分かったよ」

 

「リヒターさん‼︎ギザギザさん‼︎ありがとうございました‼︎」

 

神風が帰って来た

 

「迎えはあるのか⁇」

 

「えぇ‼︎表に迎えが来ています‼︎」

 

「行こう」

 

病院から出ると、一台の車が停まっていた

 

「お父様、この方が私を助けて下さったの‼︎」

 

「これはこれは…」

 

俺は降りて来た人物に息が詰まりそうになった


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