艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、109話が終わりました

最近楽しい話ばっかりでしたよね

今回どっと落とし、あまりにも予想外の展開になると思います

今回のお話は、ギザギザ丸から貰った設計図の内容が完成します


110話 貴子さん

「よし…」

 

工廠で出来上がった装置を前に、何度も頷く

 

ギザギザ丸から貰った設計図に書かれていた装置が出来上がったのだ

 

「ヘルメットみたいだね」

 

「設計図的にはこれでOKなんだが…」

 

設計図には”頭に被せて使用”と書いてある

 

「造ったからには俺が試そう…」

 

生唾を飲む…

 

この装置は”記憶復元装置”

 

元はVRで戦闘訓練させる物を改良した物だ

 

こいつの主な機能は二つ

 

一つは名前の通り、忘れた記憶を思い出す

 

もう一つは、被った時に頭の中で一番”忘れたい記憶”を一つ抜き取り可能な事

 

俺は後者を確かめる為に、記憶復元装置を被った

 

「オッケー⁇」

 

「きそ」

 

「ん⁇」

 

「俺は何忘れっかな⁇」

 

「賭ける⁇」

 

「いいぞ。俺は親への恨みだ」

 

「じゃあ僕は横須賀さん」

 

「オーケー。俄然やる気が出て来た‼︎」

 

「スイッチオン‼︎」

 

きそがそう言うと、記憶復元装置から音がした

 

「終わったよ」

 

「早いな…よいしょ」

 

装置を外すが、特に変わった様子は無い

 

「失敗したかな、こりゃ」

 

「レイ〜⁇」

 

そんな時、鹿島が顔を見せた

 

俺はすかさずきその後ろに身を隠した

 

「おい…何で鹿島”教官”がいるんだ⁉︎」

 

「なるほど…」

 

きそは納得した様だ

 

「レイ⁇どうかしましたか⁇」

 

「あぁ〜‼︎何でもない‼︎オ、オヤツ⁉︎」

 

「いえ、急に静かになったな〜と。何でもないならいいです」

 

きそが上手く会話し、鹿島を帰らせた

 

「もう大丈夫だよ」

 

「ふぅ…」

 

椅子に腰掛け、一息つく

 

「よいしょ…」

 

「何だ⁇まだするのか⁇」

 

「ちょっとだけ我慢してね」

 

きそは俺の頭に再び装置を付け、スイッチに手を掛けた

 

「ね、レイ。一つだけ教えて⁇」

 

「何だ⁇」

 

そう言うときそは俺の耳元に口を寄せた

 

「…鹿島教官と横須賀さん、どっちが好き⁇」

 

俺は迷う事なく答えた

 

「横須賀に決まってんだろ⁇変な事聞くなよ…」

 

「…そっか。じゃあ押すよ⁉︎」

 

「おぅ」

 

きそはスイッチを押した

 

数秒後に装置は停止し、外してきその顔を見た

 

「う〜ん…」

 

非常に微妙な気分だ

 

「レイ。鹿島教官と横須賀さん、どっちが好き⁇」

 

「鹿島に決まってるだろ‼︎横須賀はヒステリでかなわん‼︎」

 

「うんっ‼︎元に戻ってるね‼︎」

 

この装置は一度取り出した記憶を元に戻す事も出来る

 

だから復元装置なのだ

 

ただ、取り出した時に一つだけデメリットがあった

 

それは、嫌な事を忘れている際の記憶が無い事

 

だから俺は、何を取り出されたのか分からない

 

「完璧な仕上がりだね」

 

「俺は何を取り出されてた⁇」

 

「言わない。永遠の秘密にしておく。多分、レイは自分で分かってるから…」

 

「賭けはどうなる⁉︎」

 

「イーブンだね。どっちも不正解だったよ」

 

「…まぁいいさ。使えそうか⁇」

 

「使えるね。充分効力を発揮してる」

 

俺は下を向いて、深呼吸をした

 

これを造ったのは、”ある人”の為だ

 

だが、不安もある

 

本当に思い出させて良いのか…

 

その不安は、壁にかけてある革ジャンで振り切れた

 

「…呼んで来てくれ」

 

「隊長にも言う⁇」

 

「いや。俺から話そう」

 

「じゃあ、行ってくるね…」

 

終始重い空気の中、きそはその人を連れて来た

 

「こっちこっち‼︎」

 

「どうしたんだ⁇新しい艤装か⁇」

 

来たのは武蔵だ

 

「そんな所っ‼︎さっ、これ被って‼︎」

 

きそは躊躇いなく武蔵に装置を付けた

 

「武蔵さん。何にも心配しないで⁇」

 

「うぬ」

 

武蔵は何の心配もなさそうに椅子に座り、リラックスしていた

 

「えい‼︎」

 

きそは装置を起動した

 

数秒経った後、きそは装置を外した

 

「どう⁇」

 

「何も変わってないが…」

 

「武蔵。これは誰だ⁇」

 

俺は隊長の写真を武蔵に見せた

 

「私の旦那だ。名はウィリアム・ヴィッ…」

 

隊長の本名を途中まで言い、武蔵はハッとした

 

「思い出した…私は提督と恋仲だった‼︎」

 

武蔵は過去を思い出した

 

「武蔵。俺の名前は⁇」

 

「マーカス・スティングレイだ‼︎おぉ、まだ持っていてくれたのか‼︎」

 

武蔵はかけてある革ジャンに気付いた

 

あの革ジャンは、俺が隊長と共に海外に行く時に彼女からプレゼントされた物だ

 

「武蔵。これは俺から武蔵への最後の質問だ」

 

「うぬ」

 

「君の名前は⁇」

 

武蔵は俺ときそを見て、目を輝かせて自分の名を言った

 

「貴子だ‼︎」

 

俺ときそは互いに顔を見合わせ、頷いた

 

「おっ、武蔵がいるとは珍しいな⁇」

 

「提督…いや、ウィリアムさん‼︎」

 

「お⁇おぉ⁉︎」

 

武蔵は隊長に抱き着いた

 

武蔵は今まで甘えられなかった分、隊長に甘えている様に見えた

 

「武蔵…お前…」

 

「貴子っ‼︎」

 

「貴子…」

 

隊長も武蔵を抱き返した

 

初めて隊長の涙を見た

 

「レイ…ありがとう…ありがとう‼︎」

 

「思い出したわ。動物園の事も、一緒に居た事も、全部‼︎」

 

むさ…貴子さんの口調が変わっていた

 

元の彼女に戻っていた

 

「隊長」

 

「んっ⁇」

 

彼女の記憶が戻れば、どうしても言わなければいけない事があった

 

「来てくれ」

 

隊長と貴子さんを”アレ”の前に立たせた

 

「本当は死ぬまで隠そうと思ってた。だけど、ここまで来たら言わない訳にはいかない。だから…」

 

俺は、たいほうが入っていたカプセルをコツコツと叩いた

 

「知ってるぞっ」

 

「うんっ。ありがとう、マーカス君っ‼︎」

 

全てを見透かされていた様な、二人の瞳

 

その瞳は当時の二人のままだった

 

「へっ…俺は嘘付くの下手だなぁ…」

 

ようやく言えた…

 

心のつっかえが取れ、一気に力が抜け、涙腺が緩む

 

俺はその顔を隠す為、隊長達に背を向けた

 

「俺が出来るのはここまでだ…次は幸せになってくれよ⁇」

 

「分かったよ。お前もだぞ⁉︎」

 

「俺は心配しなくていい。道は見つけたんだ」

 

「ん…」

 

隊長の顔は、何処と無く寂しそうだ

 

「パパ〜‼︎」

 

「たいほう‼︎よいしょ…」

 

たいほうが加わり、一つの家族が完成した

 

「…あれ⁇」

 

幸せな家族を前にしたきそは何かに気付いた…


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