艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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108話 70年の寝坊(2)

「提督‼︎レーダーに反応が‼︎」

 

「どれどれ…」

 

横須賀と明石がレーダーを見る

 

レーダーには”Yata Garasu”と表示されている

 

フィリップの事だ

 

「これは…」

 

「unknown表示…」

 

二機はフィリップを先頭に、此方に向かっている

 

「フィリップに連絡を入れて‼︎」

 

「了解です‼︎」

 

明石はヘッドホンを付け、無線でフィリップに連絡を入れた

 

「こちら横須賀基地。フィリップ、応答せよ‼︎」

 

《はいはい》

 

「背後にunknown表示の機体がいる。注意して下さい‼︎」

 

《横須賀‼︎》

 

間髪入れずにレイの声が聞こえた

 

聞こえて来たのは、unknown表示の機体からだ

 

《撃ち落としたら承知しねぇぞ‼︎》

 

「レイ⁉︎」

 

《unknownは俺だ‼︎ちゃんと立体レーダー見たのか⁉︎》

 

「クラーケンを起動して‼︎」

 

明石が立体レーダーを起動すると、フィリップが映り、続いて謎の機体が映った

 

「何よこの機体…」

 

《着陸すっから滑走路開けろ〜》

 

「し、震電だ‼︎」

 

「スゲェ…」

 

外の工兵が軽いパニックを起こしていた

 

幻の名機が、時代を越えて横須賀に降りたのである

 

「え〜ぇ…お転婆な子だ事…」

 

震電は旧世代機の割には安定性が無く、機動性がかなり高い

 

熟練者でも無けりゃ、彼女を手懐けられない

 

「ちょっと‼︎」

 

横須賀が来た

 

「資料を持って帰って来てとは言ったけど、実物とは言ってないわよ⁉︎」

 

「実物あった方が量産も早いだろうが‼︎」

 

大衆が居る前で、二人は相変わらずの喧嘩をする

 

工兵やきそにとっては”なんだ、いつもの事か”ぐらいに認識されており、中には笑っている奴もいる

 

「レイ‼︎ダイナマイツ、もう一本あるよ‼︎」

 

「よ〜し…」

 

きその手からダイナマイトを取り、逆の手にライターを持った

 

「要らないなら震電はダイナマイツだな‼︎」

 

「勿体無いけど、この際仕方ないね‼︎」

 

「これで横須賀は大悪人だな。一機しかない震電爆破だぜ⁉︎」

 

「後世に語り継がれるね‼︎」

 

俺ときそは横須賀の方を振り返ってニヤついた

 

「わ…わ〜かったわよ‼︎ありがとう‼︎」

 

「素直な女は好きだ」

 

「最初から素直になればいいのに」

 

「でっ⁇量産するつもり⁇」

 

「あぁ。かなり改良点はあるが、妖精の手を借りりゃ出来そうだ。しばらく工廠借りっからな⁇」

 

そう言いつつ、足は工廠に向かっている

 

「えぇ。散らかさないでよ⁉︎」

 

「床にコーラ撒いといてやるよ」

 

「なっ‼︎ちょっ‼︎だ、誰か止めなさい‼︎」

 

「放っておいた方がいいよ〜⁇」

 

横須賀が視線を落とすと、きそがサイダーを飲んでいた

 

「レイは一回こう‼︎って言ったら、余程の事がない限り止めないでしょ⁇」

 

「…昔からそうよ。私がダメッ‼︎って言っても、絶対に来てくれたりするんだから…」

 

「よっぽど好きなんだね」

 

「…そうね」

 

「これあげる‼︎美味しいよ‼︎」

 

きそは横須賀に半分残ったサイダーの瓶を渡し、工廠に走って行った

 

「まったく…二人共よく似てるんだから…」

 

 

 

 

 

レイときそは毎日横須賀に足を運んだ

 

既に改良型の震電が一機出来上がりかけていた

 

「ふわぁ…」

 

きそがあくびをする

 

表は夜になっていた

 

「寝るか⁇」

 

「うん…」

 

俺はきそを抱き上げ、宿舎に向かった

 

「すまん、頼む」

 

「オッケー…よいしょ…」

 

軽空母”千代田”と”千歳”にきそを任せ、工廠に戻って来た

 

眼鏡を掛け、パソコンを弄る

 

デモ的には良い出来だ

 

エンジンはアレンの”改良型複合サイクルエンジン”を使用した

 

これにより、初期動作であるエンジンの点火だけガソリンに頼り、後はプロペラや風力で蓄えた電力で飛行が可能になる

 

流石はアレンだ。いい仕事をする

 

機首部の機銃の弾は照月や秋月の主武装に入っている銃弾を使用

 

敵の近くで炸裂するアレだ

 

これで多少パイロット経験が少なくても強さは保証出来る

 

後は両翼にパイロンを付けた

 

軽い爆弾やロケット砲みたいな物は積んで飛べる

 

そして、おもいきり変えたのは主翼だ

 

前進翼にした

 

これで安定性が増すはず…

 

それと、量産体制が整えば着艦フックも付けられる

 

…原型は保ったはず

 

「ふぅ…」

 

眼鏡を外して目を擦り、机に頬杖をつきながらミニチュアの震電を弄る

 

「最強の戦闘機ねぇ…」

 

独り言を言っていると、首元に手が回った

 

「…なんだ⁇一人で寝れないのか⁇」

 

「そうね…貴方の夢、見そうだから…」

 

鎖骨部分に当たる手の感触で横須賀と分かった

 

「空母の子に積載可能にしてやる。立派な主力戦闘機になるぞ⁇」

 

「モニターには爆弾付いてるけど⁇」

 

「爆弾も詰める。今で言うマルチロール機になるな」

 

「ありがと…」

 

横須賀の吐息が耳に当たる…

 

「明日、飛行実験をしたい。いいか⁇」

 

「えぇ」

 

「よし。今日は寝る…くぁ…」

 

ようやくあくびが来た

 

「私の部屋に来て。命令よ⁇」

 

「もう断る気力がない…」

 

そこまで眠たかった

 

その日、俺は横須賀の部屋で眠った

 

フカフカの布団が気持ち良かった記憶が最後だけど…

 

 

 

 

次の日、震電の飛行実験が行われた

 

現状、震電を操縦出来るのは俺一人

 

なので、パイロットも必然的に俺になる

 

「よ〜し、発進‼︎」

 

エンジンを入れ、滑走路を一気に駆け抜け、空へ飛ぶ

 

離陸良好、初期加速問題無し

 

少し機動力の試験をした後、機銃とパイロンのミサイルの射撃試験をしていた時、地上では工兵達が興奮する中、きそが横須賀の異変に気付いた

 

「良い機体ね〜‼︎レシプロとは思えないわ‼︎」

 

空を見上げて笑う横須賀の横で、サイダー片手にきそがニヤリと笑う

 

「レイの吸ってるタバコの匂いがする」

 

「ゔっ…」

 

「…さては一緒に寝たね⁇」

 

「…寝たわ」

 

「まぁ、でもケッコンしてるから普通か…」

 

「そうよ⁇仲の良い夫婦は一緒に寝るのよ。普段のレイと鹿島もそうでしょ⁇」

 

「まぁね〜」

 

幾らアホの横須賀でも、段々きその扱いを分かって来たようだ

 

「帰って来たわ‼︎」

 

俺が帰るや否や、横須賀ときそが駆け寄って来た

 

「オーケー‼︎俺にしちゃ上出来だ‼︎量産しても大丈夫そうだ‼︎」

 

「妖精と工兵に伝えるわ‼︎」

 

「やったね‼︎」

 

「よしっ‼︎飯食うぞ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

俺達はそのまま繁華街に向かい、前回あまり食べられなかったずいずいずっころばしに向かった

 

「いらっしゃ…マーカスさん⁉︎」

 

「来たずい」

 

瑞鶴は毎回同じ反応をしてくれるので面白い

 

きそもきそで瑞鶴をおちょくるので、自然と笑みが出た

 

今日は二人なので、ゆっくり食える

 

「マーカスさんって、魚卵系好きですよね⁇」

 

「美味いし、プチプチ感が好きなんだ」

 

「じゃあこれは⁇」

 

出されたのは、白子の軍艦巻き

 

「どれっ…」

 

ポン酢を数滴垂らし、口に入れる

 

「おぉ、中々クリーミーで良いじゃないか‼︎」

 

「僕も欲しいずい‼︎」

 

「オッケー‼︎」

 

きその前にも白子の軍艦巻きが置かれる

 

「イクラ二つ。キュウリ抜きな」

 

「オッケー‼︎」

 

キュウリ抜きのイクラの軍艦巻きが置かれた時点で、きそがある事に気付いた

 

「シャリ残したガール、今日はいないね」

 

「たまに来るわよ⁇最近はちゃ〜んとシャリも食べてるよ‼︎」

 

「シャリ美味しくなったもんね」

 

「ふっふっふ…シャリの酢を変えたのよ‼︎自然由来で…」

 

ずいずいずっころばしでは、話が尽きる事が無い

 

ここの繁華街は客同士の会話も弾み、仲良くなる事もある

 

「お腹いっぱいずい…ふぅ…」

 

「そろそろ出るか。ごちそうさま‼︎釣りは要らん」

 

「えっ、嘘っ、万札⁉︎」

 

「ごちそうさまずい〜‼︎」

 

「また来るよ」

 

俺達が店を出た後、瑞鶴はレジに万札を入れて呟いた

 

「…2300円足りない。まっ、いっか‼︎」

 

 

 

 

改良型震電二型が量産体制に入ります‼︎




改良型震電二型…震電の改良型機体

震電をベースに、マルチロール機に仕上げた機体

問題であった燃費の悪さを複合サイクルエンジンの電力で補い、主翼を前進翼にし、安定性が飛躍的に上昇

主武装である機首機関砲は近接信管の銃弾を装填する事で威力と命中率が上昇

パイロンも装備し、簡易な副武装も装備可能

量産後は着艦フックも備え、空母に積載も可能

対空…+18

爆装…+5

火力…+2

索敵…+3

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