艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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番外編 喉元の刃(3)

「か、開発ドックでも見て来てくれ」

 

「はい、了解しました」

 

二人を離した後、単冠湾の提督と二人になった

 

「あいつらが居ないと、こんなに静かなんだな…基地ってのは」

 

「あはは…うちは騒がしいですよ。私が帰れば、真っ先に駆逐艦の娘達が出迎えに来ますし」

 

「騒がしいのは良い事だ。無数のエンジン音…修理工の鉄のぶつかる音…」

 

「相当帰りたいみたいですね…」

 

「あいつらには、戦争に飽きたと言い通しているが、理由はもう一つある」

 

「⁇」

 

「何故ずっと椅子に座っているか、君には分からないか⁇」

 

「提督だから…ですか⁇」

 

「答えはこうだ」

 

私は彼の目の前で右脚のズボンを捲り上げた

 

「あ…」

 

「これが理由だ」

 

私は右脚が無い

 

パイロットに戻れないのも、このせいだ

 

それを隠すかの様に海軍に入り、提督になった

 

当初は右も左も分からなかった

 

だが、空軍の知識故、船舶のメリットデメリットを熟知していたため、当時導入されていた艦娘計画をより良いものにする為、提督になった

 

「彼女達には、言わないでくれよ⁇」

 

「言いません︎!!絶対︎!!」

 

「黙ってくれる代わりに、良い事を教えてやろう。今日は急ぎかな⁇」

 

「いえ、特には…」

 

「なら、開発ドックに来い。良い物を見せてやろう」

 

私は杖を付きながら、開発ドックに向かった

 

「艦載機に興味は⁇」

 

「あります︎」

 

「そうか。なら、今から見るのも興味有り、だな」

 

ドックに入ると、妖精達が慌ただしく動いていた

 

「これは…︎」

 

「零戦と対なす機体…と、言っておこうか⁇」

 

「極秘開発ですか⁇」

 

「あぁ、極秘中の極秘だ」

 

「提督〜︎!」

 

頭上で大鳳が手を振っている

 

「どうだ、大鳳。艦載出来そうか⁇」

 

「まだ分かりません。こんなの初めてです」

 

「きっと大丈夫だ︎!!」

 

「凄い…」

 

目の前で造られて行く、蒼い鳥

 

その鳥は異形だった

 

主翼が上向きに、少し曲がっているのだ

 

「出よう」

 

本件である資材置き場に向かう途中、単冠湾の提督が口を開いた

 

「つかぬ事を伺いますが…」

 

「ん⁇」

 

「貴方が最後に乗っていたあの機体…」

 

「F-35か」

 

「えぇ。あの機体、この戦争を伝える為に、博物館で展示される事になりました」

 

「下手に乗り換えるものでは無いな…」

 

「空では最強だった貴方が何故⁇と言う疑問が絶えません」

 

「軽かったんだ」

 

「軽い⁇」

 

「俺が元々乗っていたのは、F-15/MTD…F-15の派生型の大型機だ。F-35は艦載機だ。だから、軽かった」

 

「…」

 

「はは。言い訳すると、あれが初めてだったんだ。深海棲艦は、突然攻めて来た。それに、近代兵器はまるで役に立たないと来た」

 

あんな光景を見たら、戦争が嫌になる

 

最新鋭の機体、最新鋭の武装、そして最新鋭の電子機器

 

こちらに不備は無かったはず

 

なのに…

 

「さ、好きなだけ持って行け」

 

「うわぁ…」

 

目の前には、膨大な量の資源、資材が備蓄してあった

 

「返済期限や取り立ては無い。自分が少し余裕が出来た時に、ゆっくり返してくれればいい」

 

「ありがとうございます︎!!」

 

「提督︎!!」

 

天井にぶら下がって再び顔を見せた大鳳

 

「びっくりした⁇」

 

「あ〜んしろ、あ〜ん」

 

「あ〜ん…」

 

大鳳の口に、ボーキサイトを放り込んだ

 

「美味しいか⁇」

 

「うん︎っ!!ありがとう、提督︎!!」

 

「まるでお父さんと娘みたいですね」

 

「ふふふ…俺の理想だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、私はこれで」

 

「あぁ、気を付けてな」

 

タンカーに乗り、単冠湾の提督は帰って行った

 

「ふぅ…」

 

ようやく落ち着き、吸い逃したタバコに火を点けた

 

レコードもつけよう

 

「〜♪」

 

「懐かしい…」

 

この時間だけ、昔に戻れそうな気がする

 

タバコを消した後、私は椅子にもたれ、少しだけ眼を閉じた

 

 

 

 

 

「ん…」

 

気が付けば、外は夕暮れ

 

少し歩くか…

 

「テイトク〜︎」

 

厨房から出て来たのは、髪を纏めた金剛だった

 

「今日は中華デス」

 

「分かった。大鳳でも探してくるよ」

 

 

基地はそんなに広くない

 

一時間もあれば、余裕で一周出来る

 

今の季節、昼間は大体虫を追いかけ

 

夜は大体海蛍を眺めている

 

「大鳳」

 

「提督」

 

コンクリートの上で腹ばいになり、海面近くの青い光を眺めていた

 

「キレイだね」

 

「大鳳は、蛍を見た事はあるか⁇」

 

「ん〜ん、ないよ」

 

「今度、見に行こうか」

 

「ホント︎??この海蛍みたいにキレイ⁇」

 

「あぁ」

 

「ふふふ、楽しみ」

 

こうして、私達の1日が終わっていく…

 

いつか、この娘達と、本当の平和な世に帰る事を願って…


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