「か、開発ドックでも見て来てくれ」
「はい、了解しました」
二人を離した後、単冠湾の提督と二人になった
「あいつらが居ないと、こんなに静かなんだな…基地ってのは」
「あはは…うちは騒がしいですよ。私が帰れば、真っ先に駆逐艦の娘達が出迎えに来ますし」
「騒がしいのは良い事だ。無数のエンジン音…修理工の鉄のぶつかる音…」
「相当帰りたいみたいですね…」
「あいつらには、戦争に飽きたと言い通しているが、理由はもう一つある」
「⁇」
「何故ずっと椅子に座っているか、君には分からないか⁇」
「提督だから…ですか⁇」
「答えはこうだ」
私は彼の目の前で右脚のズボンを捲り上げた
「あ…」
「これが理由だ」
私は右脚が無い
パイロットに戻れないのも、このせいだ
それを隠すかの様に海軍に入り、提督になった
当初は右も左も分からなかった
だが、空軍の知識故、船舶のメリットデメリットを熟知していたため、当時導入されていた艦娘計画をより良いものにする為、提督になった
「彼女達には、言わないでくれよ⁇」
「言いません︎!!絶対︎!!」
「黙ってくれる代わりに、良い事を教えてやろう。今日は急ぎかな⁇」
「いえ、特には…」
「なら、開発ドックに来い。良い物を見せてやろう」
私は杖を付きながら、開発ドックに向かった
「艦載機に興味は⁇」
「あります︎」
「そうか。なら、今から見るのも興味有り、だな」
ドックに入ると、妖精達が慌ただしく動いていた
「これは…︎」
「零戦と対なす機体…と、言っておこうか⁇」
「極秘開発ですか⁇」
「あぁ、極秘中の極秘だ」
「提督〜︎!」
頭上で大鳳が手を振っている
「どうだ、大鳳。艦載出来そうか⁇」
「まだ分かりません。こんなの初めてです」
「きっと大丈夫だ︎!!」
「凄い…」
目の前で造られて行く、蒼い鳥
その鳥は異形だった
主翼が上向きに、少し曲がっているのだ
「出よう」
本件である資材置き場に向かう途中、単冠湾の提督が口を開いた
「つかぬ事を伺いますが…」
「ん⁇」
「貴方が最後に乗っていたあの機体…」
「F-35か」
「えぇ。あの機体、この戦争を伝える為に、博物館で展示される事になりました」
「下手に乗り換えるものでは無いな…」
「空では最強だった貴方が何故⁇と言う疑問が絶えません」
「軽かったんだ」
「軽い⁇」
「俺が元々乗っていたのは、F-15/MTD…F-15の派生型の大型機だ。F-35は艦載機だ。だから、軽かった」
「…」
「はは。言い訳すると、あれが初めてだったんだ。深海棲艦は、突然攻めて来た。それに、近代兵器はまるで役に立たないと来た」
あんな光景を見たら、戦争が嫌になる
最新鋭の機体、最新鋭の武装、そして最新鋭の電子機器
こちらに不備は無かったはず
なのに…
「さ、好きなだけ持って行け」
「うわぁ…」
目の前には、膨大な量の資源、資材が備蓄してあった
「返済期限や取り立ては無い。自分が少し余裕が出来た時に、ゆっくり返してくれればいい」
「ありがとうございます︎!!」
「提督︎!!」
天井にぶら下がって再び顔を見せた大鳳
「びっくりした⁇」
「あ〜んしろ、あ〜ん」
「あ〜ん…」
大鳳の口に、ボーキサイトを放り込んだ
「美味しいか⁇」
「うん︎っ!!ありがとう、提督︎!!」
「まるでお父さんと娘みたいですね」
「ふふふ…俺の理想だ」
「では、私はこれで」
「あぁ、気を付けてな」
タンカーに乗り、単冠湾の提督は帰って行った
「ふぅ…」
ようやく落ち着き、吸い逃したタバコに火を点けた
レコードもつけよう
「〜♪」
「懐かしい…」
この時間だけ、昔に戻れそうな気がする
タバコを消した後、私は椅子にもたれ、少しだけ眼を閉じた
「ん…」
気が付けば、外は夕暮れ
少し歩くか…
「テイトク〜︎」
厨房から出て来たのは、髪を纏めた金剛だった
「今日は中華デス」
「分かった。大鳳でも探してくるよ」
基地はそんなに広くない
一時間もあれば、余裕で一周出来る
今の季節、昼間は大体虫を追いかけ
夜は大体海蛍を眺めている
「大鳳」
「提督」
コンクリートの上で腹ばいになり、海面近くの青い光を眺めていた
「キレイだね」
「大鳳は、蛍を見た事はあるか⁇」
「ん〜ん、ないよ」
「今度、見に行こうか」
「ホント︎??この海蛍みたいにキレイ⁇」
「あぁ」
「ふふふ、楽しみ」
こうして、私達の1日が終わっていく…
いつか、この娘達と、本当の平和な世に帰る事を願って…