艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、99話が終わりました

記念すべき100話ですね‼︎

ここまで着いて来て頂いたファンの方々、そして読書の方々、改めて御礼申し上げます

今回のお話は、とある提督のチョットした過去のお話です


100話 人喰い艦娘とパティシエと

「提督〜‼︎小指でいいから食べさせて下さいよぉ〜‼︎」

 

「ダメッ‼︎コラッ‼︎」

 

「ぐぎぎぎ…」

 

「ふぬぬぬ…」

 

蒼龍の頬の内側に指を突っ込んでまで、必死に抵抗するトラックさん

 

二人は相変わらず食うか食われるかの攻防が繰り広げている

 

その為か、最近トラックさんは痩せて筋肉質になって、かなりのイケメンになったともっぱらの噂だ

 

しかも、元パティシエともあり、女性の心を掴むには最高の経歴だ

 

「蒼龍…私の指より…ミルフィーユか、オレンジシャーベット…何方がいい⁇」

 

「んん〜〜〜‼︎指ぃぃぃぃぃ‼︎食わせろ‼︎早く‼︎」

 

蒼龍は血眼でトラックさんの指に喰らいつこうとする

 

「蒼龍‼︎提督に何してるの‼︎」

 

事態に気が付いた飛龍が、蒼龍を羽交い締めにしてトラックさんから外す

 

「ウガーーー‼︎喰わせろーーー‼︎」

 

「蒼龍⁇これ、な〜んだ⁉︎」

 

トラックさんは内ポケットからチョコレートバーを取り出した

 

「私にくれるんですかぁ⁉︎」

 

蒼龍の表情がパッと変わる

 

「指、諦めたらあげる」

 

「ん〜…」

 

蒼龍は右手の人差し指を咥え、数秒考える

 

「じゃあ指で‼︎」

 

再びトラックさんに襲い掛かる蒼龍

 

「分かった分かった‼︎あげるから‼︎二つだぞ、二つ‼︎」

 

「やりぃ‼︎」

 

どうやら諦めたらしく、両手にチョコレートバーを握り締め、スキップしながら執務室を出て行った

 

「ふぅ…」

 

ようやく落ち着いたトラックさんは、椅子の背もたれに体を沈めた

 

「すみません…蒼龍がご迷惑をおかけして…」

 

「いいさ。これも提督の性だろう⁇」

 

「そう言われればそれっきりですが…」

 

毎日こんな攻防を繰り広げているが、トラックさんは絶対に蒼龍を無碍にしない

 

最初に秘書艦になった子でもあるし、とある事情でトラックさんは蒼龍を絶対解体しない

 

「提督。たまには貴方の事を話して頂けませんか⁇」

 

「む…そうだな…何が聞きたい⁇」

 

「首から下げてるロケットの中身、教えて頂けませんか⁇」

 

飛龍がそう言うと、トラックさんはロケットを握り、黙り込んでしまった

 

「これはダメだ…」

 

「頑なに言わないと逆に気になります‼︎」

 

「じゃあいいです。衣笠にセクハラされまくられる提督を見るのもいいですねぇ‼︎衣笠〜‼︎」

 

飛龍は衣笠を呼ぶ為、執務室を出ようとした

 

「ストップ‼︎分かった‼︎話す‼︎」

 

「にしし、やっぱ衣笠苦手ですか⁇」

 

「苦手じゃないさ。ただ、触り方がヤバい‼︎」

 

「提督、最近グッとイケてますから、衣笠も気に入ってるんですよ‼︎だからヤラシイ触り方するんです」

 

「…ありがとう」

 

「じゃ、見せて下さい‼︎」

 

「少しだけだぞ⁇」

 

トラックさんは観念したかの様に、ロケットを開けて、中身を見せた

 

「わ、可愛い子‼︎」

 

ロケットの中に入っていた写真は、口を半開きにした、可愛い女の子の写真だ

 

「この子は私の娘なんだ」

 

「へぇ〜…って、結婚してたんですか⁉︎」

 

「いや…妻は居ない…先の反抗作戦の時、深海棲艦が本土の海岸線付近まで進行して来た時に…」

 

「あ…」

 

飛龍はマズいと感じながらも、後には引けなかった

 

「て、提督はその頃から提督だったんですか⁇」

 

「まぁね。反抗作戦が始まる少し前から提督になる人が増えたんだ。艦隊計画が実行されたお陰でねっ…」

 

 

 

 

 

忘れもしないあの日…

 

打つ手が無かった我々は、深海の連中に蹂躙されるしか無かった

 

先発で向かった反抗作戦の部隊が壊滅した報を受けた時は、絶望しか無かった

 

水平線に見えた黒い影が、私達のいた基地に来るまで数分と無かった

 

その時の深海棲艦は、まだ陸に適応しておらず、海上からの砲撃と、市街地に艦載機が来た位で済んだ

 

が…

 

あれだけいた同期の提督は、基地に数発落ちた砲撃で死に、幸か不幸か、私はそんな彼等の中に埋もれて助かった

 

建物の屋根では高射砲や対空機銃が空に吠えている

 

が、当たれど当たれど、一機も落ちる気配は無かった

 

地獄絵図だ

 

瞬きをすれば、その内に死体が転がって行き、此方の装備は箒でゴミを払うかの如く、蹴散らされて行った

 

私を含め、生き残った連中は街の様子を見る為、心許ない武器を持ち、ジープを走らせた

 

「くそっ…何なんだ、一体…」

 

心配なのは、街に置いて来た妻と娘

 

娘はまだ5歳で、食べ盛りの女の子だ

 

「あ…」

 

家に着いた途端、再び絶望する

 

家が無い…

 

妻も娘も居ない…

 

「おと…」

 

「はっ‼︎」

 

瓦礫の下から娘が出てきた

 

だが、その顔を見て、私は後退りしてしまった

 

顔の左半分が無かったのだ

 

ど…どうすればいい…

 

父親として、私は…

 

「…おいで」

 

私は最悪の決断を頭に描いてしまった

 

娘を腕に抱くと、必死に私の顔に触れようとする

 

そして、物凄く痛がる

 

恐らく、この傷ではもう助からない

 

だから…

 

 

 

 

私は痛がる娘にピストルを向け

 

引き金を引いてしまった

 

延々と苦しむなら、せめて私の手で屠ってやりたかった…

 

辺りに響くは、私の泣き声だけ…

 

 

 

 

 

数ヶ月後…

 

トラック泊地に赴任した私は目を疑った

 

建造装置の前に座り、出て来る艦娘を食べている小さな女の子を見て、私は何故か微笑んだ

 

娘とよく似ていた

 

後ろ姿、髪型、そして座り方も…

 

「…君が、蒼龍かい⁇」

 

「うん。あたしがそーりゅー」

 

蒼龍は私が話しかけても、出て来る艦娘をパクパク食べていた

 

「美味しいかい⁇」

 

「あんまりおいしくないね…」

 

「甘い物、好きかい⁇」

 

「うん」

 

「おいで。作ってあげよう」

 

「うん」

 

初めて出逢った時の蒼龍は、今のたいほうちゃんみたいな感じだったし、もっと素っ気なかった

 

そしてその後、飛龍が来たり、衣笠が来たりと、段々賑やかになった

 

私が反対派に入ったのは、実は蒼龍の存在が大きい

 

勿論、大佐達の考えも素晴らしいが、私は蒼龍を眺めているこの風景が一番好きなのかもしれない

 

私の平和は、案外近くにあった

 

妻も娘も家も何もかも失ったが、蒼龍を見てると、この子とならもう一度やれる気がしてくる

 

この子となら、戦争のない世界を造れる…そう感じている

 

 

 

 

「…提、督。ずびまぜん、わだじ、じらなぐで…」

 

グチャグチャの顔で飛龍が泣いている

 

「あんまり泣いたら、また蒼龍に笑われるぞ⁉︎」

 

「はい…」

 

「さぁっ‼︎みんな食堂でアイスケーキ食べよう‼︎」

 

「アイスケーキ⁉︎1BOXですかぁ⁉︎」

 

何処からか蒼龍が来た

 

「蒼龍は私と半分こだ」

 

「じゃあじゃあ、ティラミスにして下さい‼︎」

 

「分かった。蒼龍はティラミス好きだもんな」

 

「提督が作ったスイーツは、ぜーんぶ美味しいです‼︎」

 

蒼龍がたまに見せる、底抜けに明るいこの表情

 

トラックさんは、彼女に随分と癒されていた

 

周りは人喰いだとか解体しろとか言うが、絶対しない

 

二度と自身の手で解体だけはしない…

 

娘の二の舞だけは、絶対に踏まない…そう誓うトラックさんだった


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