艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、97話が終わりました

今回のお話は、また基地での日常回に戻ります

組み合わせでどんな話になるか気付く方、いるかな…


98話 鷹

「すてぃんぐれいおしごと??」

 

珍しくたいほうが工廠に顔を見せた

 

普段は誰かと一緒に居るか、食堂で絵本を読んでいるので、本当に珍しい

 

「大丈夫だぞ。どうした??」

 

「たいほうとおさんぽしよ??」

 

「よし、いいぞ。どこ行きたい??」

 

「うみ!!」

 

 

 

 

 

たいほうに連れて来られたのは、森に沿って続く長い砂浜

 

きそと再び出逢った場所だし、俺が初めてここに来た時、フィリップを不時着させたのもここらしい

 

思い入れのある場所だ

 

「ひとで!!」

 

「こっちはカニさんがいるぞ!!」

 

こうしてたいほうと二人きりで遊ぶのは久し振りだ

 

皆といたら、どうしても誰かを蔑ろにしてしまう

 

もっとたいほうと遊ばなきゃな

 

「すてぃんぐれい」

 

「ん~??」

 

砂の城を作り始めたたいほうから少し距離を置き、タバコを咥えて火を点けようとした時だった

 

「たいほうにかくしごとない??」

 

一瞬耳を疑い、咥えたタバコを落とした

 

たいほうはいつも通りに俺に聞いている様で、砂で遊ぶ手は止めていない

 

「ないよ。空軍は嘘をつか…」

 

「かぷせるにね、たいほうのおなまえかいてあったの」

 

たいほうの頭を撫でようとした手が止まる

 

「た…たいほうは賢いな。漢字読める様になったか!!」

 

「パパのおなまえもあっあよ??」

 

「…」

 

どうしても言えなかった

 

言ってしまえば楽だろうな…

 

だけど、ほんの一瞬、貴子さんの顔が浮かんだ

 

…馬鹿な男だな、俺は

 

子供に嘘を突き通すのか…

 

「きそいってた。けんぞーそーちは、すてぃんぐれいがつくったって」

 

「そう。あれは俺が造った。平和の為にな」

 

「たいほう、あそこからでたよ」

 

「そうらしいな。隊長から聞いたよ」

 

「たいほう、にんげんじゃないの??」

 

たいほうの無邪気な質問に、喉が詰まりそうになる

 

返答に困る…

 

「たいほう、どこからきたの??」

 

「たいほうはお星様が連れて来たんだ」

 

「おほしさま??」

 

「そっ。空からお星様が降って来てな、たいほうのお母さんの所に来て、たいほうをお腹に入れたんだ」

 

「たいほう、うちゅうじん??」

 

「みんなそうさ。俺だって、隊長だって、みんなお星様が連れて来たんだ」

 

「すてぃんぐれいも、うちゅうじん??」

 

「…そうなるな」

 

「たかこってだれ??」

 

とうとう核心を突かれた

 

心臓が跳ね上がり、呼吸がしにくくなる

 

「パパのおなまえのよこにね、たかこってかいてあったよ」

 

「貴子“さん”はな、たいほうのお母さんだな」

 

「たかこさん??」

 

しまった、口が滑った!!

 

「たかこさん、いまどこにいるの??」

 

「さぁな…調べといてやるよ」

 

そう言って、たいほうの後頭部を撫でた

 

「あ、パパ、たまにしゃしんみて“たかこ…”っていってるの。そのひと??」

 

「どうだろうな…俺もチョット見ただけだか…ら…」

 

唐突に突き出された、一枚の写真

 

どうやら写真の写真を撮った様だ

 

「たかこって、むさ…」

 

「言うな!!」

 

急に大声を出してしまった為、砂の城が崩れた

 

「あ…」

 

「むさしなの??」

 

「…知らなくていい。今はな」

 

「すてぃんぐれいのうそつき!!くーぐんはうそつかないんじゃないの!?」

 

これだけ怒るたいほうは初めて見た

 

でも、たいほうは強いな

 

俺に怒鳴られても、涙一つ流さない

 

ここに来て、少し折れた

 

「そうだな…すまん…」

 

「たいほう、うそつききらいだよ」

 

やっぱり、たいほうの“嫌い”は刺さるな…

 

「…貴子さんは、隊長の好きだった人だ」

 

「すてぃんぐれい、みたことある??」

 

「あるよ。綺麗な人だ」

 

「たいほうのおかあさん??」

 

「…そうだ」

 

「たいほうににてる??」

 

たいほうは写真と顔を並べた

 

「そうだな。目元とか似てるな」

 

「おかあさん、あってみたいな…」

 

「いつか逢えるさ。たいほうがいい子にしてたらな??」

 

「たいほう、おかあさんにあったら、ぱんちときっくするの」

 

「ほほぅ、そりゃまた何でだ??」

 

「だってたいほうのこと、ぽいしたんだよ!?」

 

「事情があったかもしれないぞ??理由も聞かずに人を叩くのは良い事か??」

 

「だめ!!」

 

「たいほうがお母さんに逢って、いきなりパンチとかキックしたら、隊長も俺も泣いちゃうかもな??」

 

「おかあさんにあったら、まずおはなしする!!」

 

「いい子だ」

 

「すてぃんぐれい、たいほうのこときらい??」

 

「好きさ。当たり前だろ??そろそろ帰るぞっ!!」

 

タイミング良く、基地から良い匂いが漂って来た

 

先に立ち上がって歩き始めると、たいほうは写真を見ながら後ろをチョコチョコ着いて来た

 

「すてぃんぐれい、たいほうのことわすれない??」

 

「どうした??なんか変な物でも食ったか??」

 

今日のたいほうはやたらと変な事ばかり聞いて来る

 

「あのね」

 

たいほうは右手に写真を握り、左手で俺の手を握って来た

 

「たいほう、ときどきゆめみるの」

 

「どんな夢だ??」

 

「あのね、おとこのひとがいて、たいほうにね“おれだけは、おまえのことわすれない”っていってるの」

 

基地に向かっていた足が止まる

 

体の震えが止まらなくなり、次から次へと涙が落ちる

 

「わ…わす…忘れる訳、ないだろ…」

 

「そのひと、すてぃんぐれいにそっくりなんだよ!!」

 

「たいほう…」

 

「わぁ」

 

その場に屈み、たいほうを抱き締めた

 

「ないてるの??」

 

「忘れる訳無いだろ…死んだって忘れるもんか!!」

 

「よしよし」

 

泣かせるよな…

 

まだまだ子供のたいほうに慰められるなんて…

 

でも、心の奥底で、俺は望んでいたのかも知れない

 

「おうちかえろ??かしまのかれーたべたい!!」

 

「…うんっ。そうだなっ!!」

 

たいほうを抱き上げ、基地へと帰る

 

 

 

 

 

その日、もう数時間しかなかったが、俺はどうやらたいほうに付きっ切りだったらしい

 

ご飯も隣

 

お風呂も一緒

 

たいほうが寝るまで絵本も読んだ

 

たいほうが寝息を立てたのを見計らい、本を閉じて額にキスをし、子供部屋を後にした

 

「すまんな、レイ。今日一日任せっきりで」

 

「気にしないでくれ。少し、一人にしてくれ…」

 

「おぉ…」

 

いつも夜に飲むコーヒーを飲まずに、工廠に入った

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

俺はあのカプセルの前で腰を下していた

 

何度もため息を吐き、ラムネの瓶には吸殻が詰まって行く

 

「ここに居たか」

 

武蔵が来た

 

本当は鹿島が来ると思っていたが、既に大イビキをかいているらしい

 

「何かあったのか??」

 

「俺だって感傷に浸りたい時もある」

 

「そうか…では、私は邪魔か??」

 

「いてくれ。頼む…」

 

武蔵は上げかけた腰を再び戻した

 

「すてぃんぐれいは凄いな。どんな物だって造り出せる」

 

「代償は大きいけどな…」

 

落ち込んだ俺を見てマズイと感じたのか、武蔵は話題を変えた

 

「すてぃんぐれいの革じゃんはいつも何処で買っているのだ??」

 

武蔵が指差した先には、二着の革ジャンがある

 

工廠の隅にハンガーで掛けてある二着を含め、今着てるのを入れて三着ある

 

「右は隊長から、左は鹿島から貰った」

 

「今着てるのは??」

 

「これは…」

 

革ジャンには、それぞれ思い出がある

 

鹿島から

 

隊長から

 

そして、今着てる革ジャンは一番最初に貰った物だ

 

「これは…」

 

「当ててやろう!!横須賀だな!?」

 

「違う」

 

「ぐらーふか??」

 

「違う」

 

「わからん!!」

 

「早いな!!」

 

「ふふっ。ようやく笑ったな」

 

「…」

 

俺は膝を抱え、武蔵から目線を離した

 

「訳ありなら聞かないでおこう」

 

「これは、大切な人の大切な人から貰った物だ」

 

「ほう…」

 

「凄く大切なんだ・この革ジャンだけは…」

 

「すてぃんぐれいも隅に置けないな!!今まで星の数の女を落として来たのだろう!!」

 

「ふっ…そんな所さ」

 

「では、私はそろそろ寝る。すてぃんぐれいも早く寝るのだぞ!?」

 

「あぁ」

 

武蔵の後ろ姿を見送り、しばらくして立ち上がった

 

「…よしっ!!考えてても仕方無い!!寝るっ!!」

 

俺は革ジャンをハンガーに掛け、ハンモックで横になって目を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

ハンガーに掛けられた、三着の革ジャン

 

そのタグの部分には、何か名前が書かれていた

 

“鹿島”

 

“隊長”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“貴子さん”


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