艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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64話 ラスト・ヒロイン番外編 家族団欒(2)

「では、私達はこれで」

 

「表まで送ります」

 

「ダメだ‼︎これから文月とデートだ‼︎ここから先は何人たりとも踏み込んではならん‼︎」

 

「うっ…分かりました」

 

「さ〜文月‼︎お父さんと甘い物食べような〜‼︎」

 

「おだんごおいしそ〜だよ‼︎」

 

「おだんごにしよっか‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

総理が店から出て、ようやく二人が肩を降ろした

 

「ダメだ…早く何とかしないと…」

 

「提督…私、お父様が総理なんて聞いてないぞ⁉︎」

 

「言ったら負けな気がしたんだ。海軍だって、自分の力で入った」

 

「提督といるとさ…少しずつ、色んな事を知れるから楽しいよ」

 

「…今日は飲もうか‼︎」

 

「おっ‼︎良いね‼︎」

 

二人は瑞雲でこれでもかと飲み始めた

 

隼鷹は酒に強いが、呉さんはそれ程でもない

 

だが、今日は飲みに飲んでいた

 

先程の隼鷹の言葉が、余程嬉しかったらしい

 

 

 

一方その頃…

 

「たか〜い‼︎」

 

「お家は見えるかな〜⁇」

 

総理と文月は観覧車の中にいた‼︎

 

「おとーさんは、たかいところすき⁇」

 

「好きだよ〜‼︎普段見れない所も見えるからなぁ〜‼︎」

 

「ふみつきもすき‼︎」

 

「そっかぁ〜‼︎」

 

文月と居ると、日頃の疲れが癒される

 

私の家庭には、娘が居ない

 

清政と言う息子が一人だけだ

 

親が言うのも何だが、清政は良い男として育ってくれた

 

政治家や他人の力を借りず、ただひたすら自分の力だけで、あそこまで登り詰めたのだ

 

そして今、他人の力を借りる事の大切さを学び直している

 

 

 

妻は随分初期の頃に艦隊化計画の実験体となって、行方不明になった

 

いつも私に尽くしてくれた、最高の妻だった

 

家事をする時、いつも橙色の着物を着て、髪を後ろで結っていたのを、今でも覚えている

 

「おとーさん。おかーさんはどんなひとだったの⁇」

 

「ん〜⁇そうだなぁ…文月に少し似てるかなぁ⁇顔も、ちょっとした癖も…髪型も…似てるな…」

 

窓の外を眺める文月を見ると、妻を思い出した

 

自分で言ったはずなのに、確かに似ている

 

髪型は、完全に私の所為だ

 

文月と出逢った頃、毎朝髪を結ってあげていた

 

それが今では、自分で結える様になっている

 

「文月は…お母さん、欲しいか⁇」

 

「ううん‼︎おとーさんがいるからいい‼︎」

 

「文月ぃ〜‼︎」

 

総理は文月を抱き締め、彼女のお腹に顔を埋めた

 

「お父さん、頑張るからなぁ〜‼︎」

 

「ふみつきもがんばる‼︎」

 

「あの〜…」

 

いつの間にか、観覧車が下まで降りており、係員が白い眼で見ている

 

側から見れば、変態である

 

「あ…ゴホン。失礼する」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「バイバ〜イ‼︎」

 

文月は総理と繋いだ手と反対側の手を係員に振った

 

「次は何乗ろっか⁉︎」

 

「おうまさんのりたい‼︎」

 

「よ〜し‼︎」

 

その日、遊園地では年甲斐も無く騒ぐ一人の男性が居ると噂になった

 

 

 

 

 

 

翌日の週刊誌…

 

”激撮‼︎

 

総理大臣が遊園地で幼女と戯れる‼︎”

 

「撮られてんじゃねーか‼︎」

 

そう言って、週刊誌を床に叩き付けた

 

滅多に見せない、呉さん激昂瞬間である

 

「青葉ぁ‼︎」

 

天井のどこからか、カメラを持った女の子が、呉さんの足元に降りて来た

 

「ここに‼︎」

 

「お前か‼︎」

 

週刊誌を指差し、テンションが高まったまま、呉さんは会話を続ける

 

「そうです‼︎」

 

「んんんんん〜‼︎」

 

呉さんはそのまま卒倒した

 

「もう…普段怒らないから、急に怒るとこうなるんですよ…よいしょ」

 

青葉と呼ばれた女の子は、呉さんを起こし、水筒の水を飲ませた

 

「ぷは…青葉のバカ」

 

「悪い事は書いてませんって〜‼︎ホラ‼︎」

 

青葉は週刊誌を拾い、先程のページを開けた

 

「ほら。こんな子供思いの総理大臣になら、国を任せても大丈夫‼︎ってね‼︎」

 

「何だ…良かった…」

 

「でもビックリしました‼︎提督が総理の御子息なんて‼︎」

 

「隠してた訳じゃ無い…」

 

「じゃ、青葉は取材があるので‼︎」

 

青葉はそのまま執務室を出て行った

 

「はぁ…」

 

呉さんはため息を吐いた後、椅子に座って煙草に火を点けた

 

 

 

これはこれで、幸せな鎮守府である


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