艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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7話 恋する雄鶏(4)

「知ってる」

 

「そう…」

 

最初から、何となく気付いていた

 

「青春を取り戻してるの」

 

まだあの言葉が頭に残っている

 

「海に居る時は、あれはあれで良かった…何も考えないで済んだもの。だけど、この街に来て変わった。私達は、何のために戦って、何のために捨てられたのか…分かった気がするの」

 

「…」

 

「それで…」

 

「チクショウ︎!!」

 

「んっ︎」

 

彼女を引き寄せ、頭を抑えて、唇を合わせた

 

「…」

 

「…」

 

唇を離した後、二人に気不味い空気が流れた

 

「これで…ちょっとは青春を取り戻したか⁇」

 

「う、うん…いきなり過ぎてびっくりしたけど」

 

「も、もうしないからな」

 

「ダメ」

 

「えっ︎!?」

 

「ちゃんと私の目を見て。それから…」

 

「…分かった」

 

彼女の肩に手を当て、目を見詰めた

 

「ん…」

 

みほが目を閉じた

 

呼吸が乱れる…

 

こんな気分、久し振りだ…

 

最後の花火が上がる…

 

その瞬間、私達はもう一度唇を重ねた

 

花火の音が聞こえなくなるまでの数秒間だが、私は長く感じた

 

そして、再び感じた

 

これが…恋

 

「ありがと…嬉しい」

 

「いい思い出になったよ」

 

私達はしばらくその場所で、私達の街を眺めた後、高台を降りた

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、私は駅のホームにいた

 

昨日の感触が、まだ残っている

 

「いってらっしゃ〜い︎!!」

 

「大佐〜︎ありがとう︎!!」

 

皆に見送られてしばらくした後、駅から電車が見えて来た

 

「ほら、離れて」

 

子供達を離し、立ち位置に着いた時だった

 

「大佐︎!!」

 

聞き覚えのある、女性の声がした

 

「大佐︎!!」

 

「みほ⁇みほ︎」

 

荷物を置き、走って来たみほを抱き留めた

 

「ありがとう、大佐…」

 

「みほ…」

 

「好きよ…ずっと。忘れないわ…」

 

「うん…」

 

「絶対、帰って来てね⁇」

 

「うん…うん…」

 

「あ〜︎むっちゃん泣いてる〜︎!!」

 

子供の声で、お互いの目が覚めた

 

「じゃあな。この街を頼む」

 

「いってらっしゃい︎」

 

電車に足を入れ、扉が閉まった

 

窓の向こうでは、まだ皆が手を振っている

 

ありがとう、みほ

 

君のお陰で嫌いだった街が、大好きな街に変わったよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば、私は電車の座席の一角で眠りについていた

 

目を覚ますと、あれは夢だったのかと、頭を過ぎった

 

だが、それはそれでいい夢だったと思う…

 

電車に揺られ、船に揺られ、横須賀君の鎮守府に着いた

 

「ありがとう」

 

「おとなしい子でしたよ、二人共」

 

「パパ〜︎たいほういいこにしてた︎」

 

たいほうが抱き着いた時、現実に引き戻された

 

私は戦場にいるのだ、と

 

「ず〜っと、提督の話だったんだぞ⁇」

 

「武蔵…ちょっと凛々しくなったか⁇」

 

「私が凛々しいのはいつもだ」

 

「じゃあ、私達は帰るよ」

 

「またいつでも」

 

二人を引き取った後、またしばらく船に揺られ、ようやく基地に着いた

 

「まっくら〜︎」

 

「今日はもう寝なさい。武蔵、たいほうをお願いするよ。ほら、行きなさい」

 

たいほうを抱き上げた後、武蔵はこちらを見詰めた

 

「提督よ…」

 

「ん⁇」

 

「何かあったか⁇」

 

「どうしてだ⁇」

 

「言葉に覇気がない」

 

「大丈夫さ。ただの平和ボケだ。すぐに治る」

 

「はっはっは︎なら心配要らないな︎では、おやすみ」

 

「おやすみ」

 

二人を見送った後、私は埠頭に一人、感傷に浸っていた

 

ふと煙草を吸おうと胸ポケットを探ると、紙が出て来た

 

「あ…」

 

みほと撮った、プリクラの片割れだった

 

夢じゃなかったのか…

 

小さく笑った後、紫煙を吐き出しながら、私はそれを胸ポケットにしまった

 

 

 

 

工廠の妖精が以下の造り方を習得しました︎

 

・わたあめ製造機

・鉄板焼きセット

・金魚すくいセット

・射的セット

・くじ引きセット




みほ…珍しくパパが惚れた高校生っぽい女の子

パパのいた街で出逢った女の子

初対面のパパを連れ回したりする所を見ると、結構気が強い

パパがお祭りに行こうと誘った際、浴衣を着てくる等、女子力は高め

学生である事を「青春を取り戻す」と言ってる所を見ると、普通の高校生の年代では無い

みほの名前では分かりにくいが、漢字にすると、誰か分かりやすいかも

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