艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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52話 大切な人(3)

「…フィリップ。俺を適当な場所で降ろしたら、すぐに上空へ逃げろ。いいな⁇」

 

《分かった。ちゃんと鹿島を連れて帰って来てね⁇》

 

「分かってらぁ‼︎」

 

《それでこそレイだ‼︎お出ましだ‼︎行くよ‼︎》

 

前方にポツポツと敵表示が現れた

 

「”ワイバーン”交戦‼︎」

 

レイは珍しく自分のTACネームを名乗った

 

これも本気の証だ

 

「陸戦機だ‼︎気を付けろ、艦載機と違って重武装だ‼︎」

 

陸上から飛ぶ航空機は、艦載機と違い重武装な事が多い

 

艦載機は空母と言う限られた敷地から飛ぶ為、軽装な事が多い

 

だが、陸上は空母に比べ、制限があまりない

 

制限が少ない分、武装も沢山付けられる

 

今ここにいる陸戦機はフィリップだけだ

 

「フィリップ、出来る限りで良い。後はパラシュートで降りる。空は任せた」

 

《何か作戦あっての事だね⁇分かった‼︎カウントゼロでレイを弾き出す、いいね⁇》

 

「オーケー。聞き分けのいい子は大好きだ」

 

フィリップは奇跡とも言える機動で敵戦闘機を掻い潜り、佐世保鎮守府を低空飛行し始めた

 

《行くよ…3、2、1…行って‼︎》

 

「サンキュー‼︎」

 

ほんの一瞬キャノピーを開け、ほんの一瞬だけパラシュートを開ける

 

降りるまでに、先程試射していたライフルの弾を装填

 

地に足を着けた瞬間、手近にいた艦娘に一発放つ

 

だが、数秒後には立ち上がってしまう

 

「チッ、足留めが精一杯か…フィリップ‼︎」

 

《はいはい》

 

「鹿島の場所まで最短のルートは⁉︎」

 

《工廠の地下に鹿島がいる。150m先にある建物がそうだよ》

 

「オーケー。恐らく、俺とは通信不能になる」

 

《レイ…》

 

「俺に何かあっても、鹿島だけは連れて帰れ。いいな⁇」

 

《…分かった。レイ、最後になるかも知れないから、言っておくよ⁇》

 

「手短にな‼︎」

 

《レイがパイロットで…本当に良かったよ‼︎ありがとう‼︎》

 

「こちらこそ。最高の相棒でいてくれて、ありがとう‼︎」

 

《じゃあね‼︎》

 

フィリップとの通信が切れた

 

これじゃあどっかのアホと同じじゃあないか

 

ま、こんだけ死亡フラグ立てりゃ、逆に生き残れる…か

 

「仕方ない…本気を出スカナ」

 

ライフルを背中に背負い、ナイフを構える

 

レイの目の色が、みるみる内に赤く染まって行く…

 

「サァ、ホンキデイクゾ‼︎コイ‼︎」

 

 

 

 

 

佐世保鎮守府上空では、隼鷹を筆頭に、フィリップ達が制空権を確保する為、右往左往していた

 

《多いなぁ…この基地の機体が全部飛んだのかな⁇》

 

普通の人工知能より遥かに物分りが良く、融通の利き何処かまだ幼さが抜けないフィリップ

 

そんな彼が産まれて初めて悩んでいた

 

本当は、レイの傍に居たかった

 

本当は、レイを乗せたままで居たかった

 

もしかしたら、降ろしたのは間違いではなかったのか…

 

そんな事を考える暇なく、戦闘機は襲い掛かる

 

《レイ…僕、疲れちゃった…考えるって、こんなに辛いんだね…》


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