艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

186 / 1086
さて、50話が終わりました

バッカスが終わり、次はギュゲスの番です

ギュゲスこと柏木健吾は、昔に負った心の傷を、未だ癒せずにいました

ですが、この基地に来てから、少しずつ笑うようになり、徐々に明るさを取り戻しています

そんな彼が思いを寄せるのは、戦艦”大和”

彼女は付きっ切りで、柏木の傍にいます

今回は献身的な大和と、少しクールな柏木が見せる恋物語です


51話 凶鳥の愛し方(1)

「それであんなに淡白なんですね…」

 

「私達には、あいつの心まで分からない。だけど、戻してやろうと努力する事は出来る。現に、ここに来て笑う事が多くなった」

 

「あ。さっきもボードゲームの本読んでました‼︎」

 

「余程悔しかったんだな…ははは」

 

アレンは苦笑いをするが、何処と無く嬉しそうだ

 

「その裏切った隊長機は、大佐が墜としたんだけど…今もまだ生きてるんだろうな…」

 

「私、もう少し彼と話してみます」

 

「頼んだよ。大和は珍しく、あいつが惚れ込んだ女性なんだ」

 

「は…はい…」

 

この基地の男性三人は、大和達を女性扱いしてくれる

 

当初、私達は”兵器の端くれだ”と言っていたが、隊長達に”鏡を見ろ。これが兵器の顔か⁉︎”と言われ、少しずつ女性らしい生活を取り戻している

 

大和が食堂を出た後、柏木がアレンの横に座った

 

「いらない事吹き込むな」

 

どうやら少し見られていたみたいだ

 

「なら、もうちょい構ってやるんだな」

 

アレンが半笑いで席を立とうとした時、柏木がアレンの腕を掴んだ

 

「大和と似てるな、その癖」

 

「アレンは…どうやって愛宕を落とした」

 

「どうって…」

 

冗談だと思い、柏木の顔を見ると、本気の目をしていた

 

「大和とどうやって接したらいい⁇」

 

「女性とどう接したらいいか分からないのか⁉︎」

 

柏木は数秒置いた後、無言で頷いた

 

「それでか…じゃあさ」

 

食堂で男二人が話している時、大和は彼の部屋の掃除をしていた

 

軽く掃除機をかけるだけ

 

そのつもりだった

 

いつもは鍵のかかった引き出しが、半分開いているのに気が付いた

 

悪いとは思いつつ、中を見てみた

 

中には数枚の書類と、写真が入っていた

 

大和はそれらを手に取った

 

”ヘルハウンド隊消息について”

 

どうやら柏木が昔いた部隊の様だ

 

柏木健吾…行方不明

 

と、書いてある

 

彼は行方不明扱いになっている様だ

 

このヘルハウンド隊、柏木を入れて四人いた様だ

 

名前はかすれて見えないが、隊長と書かれている横に”離脱”と書かれているので、どうも生きている様だ

 

他の二人は戦死している

 

写真には、パイロットスーツを来た女性と、柏木が写っている

 

先程聞いた思い人だろうか⁇

 

「盗み見とは良い趣味だな」

 

「か、柏木様‼︎」

 

いつの間にか背後に柏木がいた

 

この基地にはアサシンが多いみたいだ

 

「ごめんなさい、私…」

 

「いいよ。アレンから聞いたんだろ⁇どうせいつか知られるんだ。それがちょっと早かったと思えばいい」

 

「あ…」

 

口ではそう言うが、呆れた目をしている

 

「お風呂行って来る。程々でいいからね。あ、ちゃんと元に戻しといてね」

 

「柏木様‼︎」

 

大和が吠え、柏木は足を止めた

 

「怒ってます…よね⁇」

 

「怒ってない」

 

「嘘です‼︎」

 

再び大和が吠え、柏木の肩が上がる

 

「いけない事をしたのです‼︎叱責なり、罰を与えるなりして下さい‼︎」

 

「えっと…」

 

確かに鍵は閉めていたが、おいおい大和には話すつもりでいたので、どう怒っていいか分からない

 

「じゃ、じゃあ、背中流してくれないかな…」

 

「そんな事でいいんですか⁉︎」

 

「本当に怒ってないし、罰が欲しいならそれしか思い付かなくて…」

 

「畏まりました。では、お受けします」

 

露天風呂に向かう最中、二人は無言だった

 

大和は懲罰中だと思い、無駄口を叩かず

 

柏木は恥ずかしくて話せないでいた

 

幾ら罰とは言えど、流石に言い過ぎた…そう思っていた

 

「あ…あの、大和」

 

「はい」

 

「脱衣所は…その…」

 

「恥ずかしい、ですか⁇」

 

「うん」

 

「ご立派な単装砲なのに…勿体無い」

 

いつの間にか大和に見られていた‼︎

 

「…泣いていい⁇」

 

「ダメです。さ、入りましょう」

 

背中を流して貰っていると、柏木の方から口を開いた

 

「立派な単装砲とか言ってたけど、他に見た事あるのか⁇」

 

「昔、介護の仕事をしてましたから」

 

「思い出したのか⁉︎」

 

「えぇ。少しだけ、ですが」

 

「凄いじゃないか‼︎それで洗い方も上手なのか‼︎」

 

「え…」

 

柏木はあまり感情を露にしないので、大和は驚いていた

 

「やはり、恨んでますか⁇」

 

「…前の隊長の事⁇」

 

一瞬で柏木の顔色が変わる

 

「恨んじゃいないさ」

 

「そうですか…」

 

大和はホッとした

 

自分の好きな人が、誰かを色濃く恨む姿など見たくなかったからだ

 

「でも、次会ったら叩き落す」

 

「…いけません」

 

腕を洗っていた大和の手に力がこもる

 

「誰かを恨む貴方を、大和は見たくありません」

 

「大和」

 

「はい」

 

「海にもルールがあるだろ⁇暗黙の了解みたいな」

 

「はい」

 

「俺達にもあるんだ、空のルールってのが。その範疇でやるのさ。誰も文句は言えまい」

 

「それでもいけません」

 

「どうしたんだ⁇」

 

「流します」

 

泡を流され、湯船に浸かる

 

大和も浸かり、また無言の時間が続く

 

「柏木様」

 

「ん⁇」

 

大和は後ろから柏木に抱き着いた

 

「大和では…いけませんか⁇」

 

「…」

 

「人を恨むより、大和を愛して下さい」

 

「大和…」

 

「大和が…埋めて差し上げます。だから…」

 

「…本当だね⁇」

 

柏木の反応は意外だった

 

いつもの感じならそのまま出るか、少しだけ反発位すると思っていた

 

「俺は女の人の愛し方を知らない。大和が教えてくれるなら、努力してみる」

 

「あはっ‼︎ありがとうございます‼︎」

 

「ここに来てから、少し変わった気がする。アレンや隊長にも言われたよ。笑うようになったって」

 

「大和は、笑ってる貴方が好きです」

 

そう言うと、柏木はぎこちなく笑顔を見せた

 

「大和がお傍に居ます…ずっと…」

 

柏木の背にもたれ、幸せそうな大和

 

全てが嬉しかった

 

彼に救って貰い

 

彼に愛して貰い

 

彼を愛せる自分が居て…

 

大和は幸せだった

 

「あ、そうだ」

 

柏木はふと何かを思い出した

 

「今日、部屋でご飯食べたいな。二人で」

 

「あ、はい。何がいいですか⁇」

 

「カレーがいいな。大和のカレー」

 

柏木がこうしてワガママを言うのは初めてだった

 

「構いませんけど…もう少し豪華なものでもいいですよ⁇」

 

「カレーがいい。好きなんだ、大和のカレー。昔、隊長に連れて行って貰った場所のカレーの味と本当によく似てる」

 

「何処ですか⁇」

 

「帝國”ホテル”聞いた事無い⁇」

 

「ホテルのカレーですって⁉︎」

 

「そう。凄く美味しかったのを覚えてる。本当にそれがカレーなのかと思った位だった」

 

「大和のカレーは、ホテルのカレーではありません‼︎」

 

「や、大和⁇」

 

唐突にキレた大和に、柏木は動揺している

 

「はっ、私はなにを…」




あ、そうそう

アレンと愛宕の恋物語も、とある曲をモデルにしました

大瀧詠一の君は天然色

です

え⁉︎気付いてた⁉︎

アレンの目が時々白黒にしか見えないから⁇



今回も何かの曲をモデルにしてます

是非、当ててみて下さい

ヒント

作者は一世代前の曲が好きです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。