艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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50話 ブロンド少女と凶鳥と(5)

「ちょっと待ってて」

 

部屋の隅に置かれた棚の一つを開け、中を探る

 

その中から一つ取り出し、愛宕の元へ戻って来た

 

「ちょっとだけ、目を閉じて」

 

愛宕は言われた通りに目を閉じた

 

愛宕の背後に回り、先程取り出した物を愛宕の首に掛けた

 

「はい、開けて良いよ」

 

目を開けた愛宕は驚いた

 

「綺麗なネックレス‼︎」

 

「あげるよ」

 

「アクセサリー作るの趣味なの⁇」

 

「そう。もしスパイにならなかったら、自分の店を持ちたかった」

 

「今からでも遅くないわ」

 

「そう…かな⁇この戦争が終わったら、小さいけど、出してみようかな…⁇」

 

「じゃあじゃあ‼︎私がモデルさんになって、みんなに広めてあげる‼︎二人で一緒にやるの‼︎」

 

愛宕は笑顔で手を広げ、とにかく沢山‼︎とアピールする

 

「そうだな…でも、その前に」

 

ようやくポケットに手を入れた

 

「二人で一緒に店開くなら、必要だろ⁇」

 

意を決して、ケッコン指輪を出した

 

「アレン、私…」

 

「嫌か⁇」

 

「ううん‼︎嬉しい‼︎私で良いのね⁉︎」

 

「じゃなきゃ渡してないよ」

 

「うふふっ‼︎」

 

愛宕が抱きついて来た

 

私も遂にケッコンか…

 

後は早めに戦いが終わる事を祈るだけだ

 

 

 

数日後…

 

パパ達の基地にて

 

「おいおいおい、バッカスがケッコンだと⁉︎」

 

「バッカスって、レイのお友達の⁉︎」

 

レイはしおいと共に、提督だけに配布される情報誌を見ていた

 

因みに、バッカスが最初に読んでいたのもコレである

 

「そそ。俺の唯一の友達さ」

 

「パパはお友達じゃないの⁉︎」

 

しおいの質問に、レイは少したじろいだ

 

「隊長は特別さ。俺の父親の代わりでもあるし、最高の友人でもある」

 

「パパは凄い人だね‼︎」

 

「そうだぞ〜‼︎世界を股にかけた人だからな‼︎」

 

 

 

再びラバウル基地

 

ここにはもう一人、パイロットがいる

 

いつも寡黙で、みんなより一歩後ろを行く、控えめな男性

 

ギュゲスこと、柏木健吾だ

 

いつからか知らないが、彼は人と接するのを最小限に留める様になった

 

「柏木様、お茶が入りましたよ」

 

「あぁ」

 

いつも彼に付いているのは”戦艦大和”

 

暁、愛宕と共に、あの研究所から助け出した内の一人だ

 

彼女は最近、食後のデザートの作り方や、お抹茶の淹れ方を覚えた

 

「美味しいですか⁇」

 

「あぁ」

 

柏木が素っ気なく返すその態度でも、大和は幸せだった

 

「何を見ているのです⁇」

 

大和が顔を覗かせると、柏木は読んでいた本を閉じた

 

「大したものじゃない」

 

柏木はお茶を飲み干し、本を置いて部屋を出てしまった

 

「あ…」

 

幸せだけど、やはり時々は構って欲しくなる

 

「あら」

 

机の上には”ボードゲームの勝ち方”との題名の本がある

 

…余程悔しかったみたいだ

 

また読むだろうと思い、そのままにしておいた

 

「献身的だな」

 

「アレン様…」

 

後ろの壁にもたれ掛かっていたのはアレンだ

 

いつの間に居たのか分からなかった

 

流石は元スパイと言った所か…

 

「大和にご用ですか⁇」

 

「お茶の淹れ方を覚えたんだって⁇」

 

「はい。少しですが、柏木様に教えて頂きました」

 

「もし手すきなら、淹れて貰えるか⁇」

 

「畏まりました」

 

アレンは椅子に座り、大和は厨房でお茶を淹れ始めた

 

しばらくすると、大和はお茶を持って来た

 

「ありがとう」

 

「いえ」

 

柏木の前以外では、少しだけ素っ気なくなるのは、大和の悪い癖だ

 

「あいつと上手く行ってないのか⁇」

 

「え…いや、その…時々構って欲しくなる時が…」

 

何もかも見透かした様なアレンの目に、少し腹が立った

 

「あいつを責めてやるな。あぁなってもおかしく無いんだ」

 

「昔、何かあったのですか⁇」

 

「あいつには内緒だよ⁇」

 

柏木は恐らく言わないだろうと思ったのか、アレンは彼の過去を少しだけ話してくれた

 

彼は元々国属のエリートパイロット

 

ある日、エスケープキラーに追われ、見捨てられた

 

此処まではこの基地の人間なら知っている

 

問題はこの先だ

 

柏木に囮を命じたのは、当時の隊長

 

この隊長、柏木の思い人でもあったのだ

 

その隊長から”必要ない”と言われ、誰も信じなくなり、アレンや今の隊長にも深く入らない

 


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