艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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47話 愛の巣(4)

「ここは良い街だ。ここだけは、何としても護りたい…そう思わせるまでの街だ」

 

「落ち着いたら帰って来るよな⁉︎」

 

「家は空いてるのか⁉︎」

 

「まだ沢山あるぜ。だけど、一軒だけ絶対入れない家がある。ほら、あそこ」

 

摩耶が指差す先には、周りの一軒家と同じ風貌の家があった

 

「あそこは大佐の家だ。お金の心配は一切ない。ここにいるみんなからのプレゼントさ‼︎」

 

「俺の家…」

 

少しボーッとする

 

武蔵がいて

 

たいほうがいて

 

平和な家庭が頭によぎった

 

だが…

 

「あ、今他の連中の心配したろ⁉︎それも心配無用だ‼︎」

 

摩耶には全て見抜かれていた

 

「この一帯、全部居住区なんだよ‼︎勿論一般市民も住んでるけど、みんな快く私達を迎えてくれた。だから、大佐の所の子達も、落ち着いたらここに住めばいい‼︎」

 

「それを聞いて安心した…休暇中、あそこで過ごしていいか⁉︎」

 

「いいぜ‼︎ある程度の家具は揃ってるから、すぐに暮らせる。鍵は…伊勢‼︎」

 

「はいは〜い‼︎」

 

バーベキューに付きっ切りだった為、汗だくになった伊勢が来た

 

「大佐の家の鍵持ってるか⁉︎」

 

摩耶がそう言うと、笑顔だった伊勢の顔が更に笑顔になった

 

「これです‼︎はいっ‼︎」

 

振り袖から鍵が出て来た

 

「ほらよ‼︎ベッドもフカフカだぜ‼︎」

 

「ありがとう‼︎」

 

明日、前の家を引き払おう

 

大した荷物も無いので、荷物出しはすぐ終わる

 

そしたら、武蔵を…

 

いや、今から呼ぼう‼︎

 

携帯を出し、スティングレイに電話を掛けた

 

《もしも〜し、隊長か⁉︎たいほうはいるか⁇》

 

「いるよ。たいほうも休暇だってな。そっちはどうだ⁉︎」

 

《今夕飯食べ終えた所さ‼︎グラーフのアホがアホ程シチュー作りやがって大変だったよ‼︎横須賀も呼んで、何とか消化したよ‼︎》

 

「ははは‼︎武蔵はいるか⁇」

 

《ほら。隊長だ》

 

《提督よ‼︎楽しんでいるか⁉︎》

 

「おかげさまでね。突然だけど、明日艦娘居住区に来れるか⁉︎」

 

《明日か‼︎横須賀よ‼︎構わぬか⁉︎》

 

電話の向こうから横須賀の声で「大佐と同じ休暇ね⁉︎分かった‼︎」と聞こえて来た

 

《了解した‼︎明日、横須賀経由で其方に向かう‼︎》

 

「頼んだよ」

 

電話を切り、ようやく肉を口にした

 

みんなで食べる肉は、本当に美味しかった

 

たいほうも満足気だ

 

辺りが暗くなって来た頃、バーベキューはお開きになり、私とたいほうは家に入った

 

家は二階建てで、家具等も本当にあった

 

テレビもある

 

早速風呂を溜め、テレビを付けた

 

単調なつまらない政治の話が数分続いた後、バラエティー番組に変わった

 

たいほうを膝に置き、大笑いする

 

基地でも笑いが絶えない毎日だったが、久々に見たバラエティー番組は面白かった

 

その後、たいほうとお風呂に入り、二階のベッドで横になった

 

 

 

 

次の日の朝、みほにたいほうを預け、元住んでいた家に向かった

 

本当に大した物は無かった

 

当時の資料

 

航空関係の書物

 

勲章の数々

 

それと…

 

「…」

 

二人写った、一枚の写真

 

私と、艦娘になる前の武蔵だ

 

少しだけ口角を上げた後、それを鞄に入れた

 

未練は無かった

 

あまり良い思い出も無かった

 

傭兵時代にほんの少ししか過ごさなかったからだ

 

「ありがとう…じゃあな」

 

家に別れを告げ、新しい家に向かう

 

居住区に戻ると、武蔵がオロオロしていた

 

「提督よ‼︎来たぞ‼︎」

 

「来たか‼︎さ、入ろう‼︎」

 

「お、おぅ‼︎」

 

武蔵の手を引いて、家の中に入った

 

「ここは…」

 

「俺の家さ。休暇中、ここで過ごそうと思ってな」

 

「綺麗な家だな…」

 

「少し慣らしておこうと思ってな。それで呼んだんだ」

 

「憧れの夫婦生活か‼︎」

 

「そうだ‼︎」

 

「たいほうもいるのだな⁉︎よし‼︎」

 

武蔵はエプロンを掛け、台所に立った

 

私は書斎で荷物を整理し始めた

 

書物や資料を棚に入れ、壁に勲章を飾る

 

最後に机の上にあの写真を置く

 

武蔵は、いつ思い出すかな…

 

私といた記憶を、いつか思い出すといいな…

 

 

 

 

休暇中は、本当に幸せだった

 

三人で公園に出かけたり、街に買い物にも行った

 

家に帰れば、武蔵の美味しいご飯があり、夜になれば三人で川の字で眠る…

 

当初の基地の日々こうだったなと思い出しながら、私は本当に家族を持った気分になった

 

あっと言う間に休暇が終わり、基地に帰る日が来た

 

当日、居住区の一同が見送りに来てくれた

 

「また帰って来なさい。貴方の家はここよ」

 

ビスマルクの言葉で、自分の帰る場所が出来たと実感出来た

 

「また戻る。絶対に‼︎」

 

みんなに見送られ、私達の休暇は終わりを迎えた

 

「ありがとう、パパ。私はとても楽しかったぞ‼︎」

 

この数日で、武蔵は私をパパと呼ぶようになった

 

「基地に戻れば、また提督だな」

 

「いいよ、パパでも」

 

「ふっ…なら、たまには呼ばせて貰おう」

 

「たのしかったね‼︎」

 

「ははは‼︎良かった良かった‼︎」

 

こうして、幸せな家族は街を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰も居なくなった、大佐の家…

 

書斎の机の上には二人で写った写真の他に、三人で写った、未来の家族写真が置かれていた


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