艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

161 / 1086
44話 ジェントルマンの集い(2)

「ノミモノハナニニスル⁇」

 

「じゃあ…グレープジュースを」

 

「ワカッタ‼︎マッテテクレ‼︎」

 

しばらくすると、いつも通りコップが二つ置かれ、グレープジュースが注がれる

 

「カンパイシマショ⁇」

 

「ん。乾杯」

 

「カンパイ」

 

さて、後は彼がどう思うかだ…

 

「スティングレイさん‼︎今日はパラオちゃんが御一緒しますって‼︎」

 

「お、おぅ…」

 

もう何度もここに訪れているが、未だにパラオちゃんのテンションに慣れないスティングレイ

 

パラオちゃんが誰かに付くのはかなりレアだ

 

スティングレイは大体離島棲姫の話し相手になっている事が多いが、時々パラオちゃんが相手になる事がある

 

パラオちゃんはスティングレイがお気に入りみたいだ

 

「やだよ〜‼︎俺だって戦争したくないよ〜‼︎上層部が命令するから致し方無くやってるけどさ〜‼︎正直大砲の音とか超☆怖いし、でも冷徹な提督で居ないと艦娘に顔向け出来ないし〜‼︎」

 

「ま…マジかよ…」

 

南方棲姫の膝枕の上で駄々をこねているのは、呉さんだ

 

ビックリする位、性格が180度変わっている

 

しかし、南方棲姫はとっても嬉しそうな顔をしていた

 

「この傷だって、演習中に艦娘が溺れた時に助けに行ったら、相手の流れ弾に当たったし〜、戦争なんて大反対だよ‼︎」

 

だが、話を聞く以上は漢である事は間違いない

 

「イツデモココニキテ⁇イッパイワタシニアマエテイイヨ。ナイショニシテオクカラ」

 

呉さんの頭を撫でながら、南方棲姫は優しい言葉を振り掛ける

 

「ホント⁉︎また来て良いの⁉︎」

 

「ワタシタチ、イツデモマッテル」

 

「じゃあ付く‼︎反対派に付く‼︎」

 

「アリガトウ‼︎」

 

「また落ちたな…」

 

ノンアルコールのビール片手に、肩を震わせているスティングレイの方を見た

 

「ここは母性に満ち溢れてるんだよ。相当な堅物以外は誰かって落ちるさ」

 

また笑ってる

 

まぁ…今回は笑わざるを得ない、か

 

「ごちそうさま」

 

「チョット、イキヌキデキタ⁇」

 

「あぁ」

 

凄いな…

 

一気に顔が変わった

 

甘える時はとことん甘え、仕事に戻る時は一気に戻る

 

「では、私は一足先に帰ります」

 

「温泉もあるぜ⁉︎」

 

「次の楽しみに取っておくよ、スティングレイ。では」

 

呉さんは既に暗くなった空の向こうに帰って行った

 

「隊長はどうされます⁇」

 

「俺達も帰ろうか」

 

「だな。じゃあな、ワンコ。今度、俺の実験データを見に来い」

 

「は、はい‼︎」

 

後のみんなは残しておいても大丈夫

 

じき、迎えの船が来る

 

私達の基地へ送ってくれる船に乗り、基地に帰ると、武蔵が無線の前で座っていた

 

「提督よ‼︎帰ってすぐ悪いが、横須賀から緊急の電文だ‼︎」

 

「なんだ⁉︎」

 

武蔵から渡された書類を見て、手が震えた

 

横から顔を覗かせたスティングレイの顔にも怒りが見える

 

「これは本当なのか」

 

「あぁ…少々まずい」

 

「スティングレイ…飛べるか⁇」

 

「あぁ…」

 

互いに話す事無く、格納庫に向かい、それぞれの機体に載る

 

《久方ぶりの夜戦が、こんな形になるとはなぁ》

 

「仕方無いさ。行こう」

 

フィリップが飛び、続いて私が飛ぶ

 

空に上がると、スティングレイの無線が入った

 

《グラーフは⁉︎》

 

「オヤスミ中だ。起こすなよ⁇」

 

《呑気な野郎だぜ…しかしよ…》

 

「…」

 

電文には”総理大臣搭乗機、奇襲サレシ、護衛モトム”と打たれていた

 

しかも、相手は深海棲艦ではないと来た

 

「見えた‼︎」

 

私達が飛んでいる上に大型の旅客機が見えた

 

《総理‼︎聞こえるか‼︎》

 

《君は…スティングレイか⁉︎》

 

《そうだ‼︎助けに来た‼︎》

 

《すまない…私のせいだ…》

 

《怪我してねぇか⁉︎》

 

《大丈夫だ。ただ、機体のエンジンがイカれた》

 

《護衛に着く。着陸までピッタリ着いてるから、心配しないでくれ》

 

《すまない、頼んだ‼︎》

 

「来た。あれは…‼︎」

 

3時の方向から、敵の編隊が来た

 

《国籍は日本だ》

 

「こちら、総理護衛機。接近中の部隊、回頭を求む」

 

《…》

 

反応は無い

 

《IFF作動せず。やるか⁉︎》

 

「やろう」

 

フィリップが真っ先に”敵”編隊に向かって行く

 

《F-15が五機…か。ちったぁ楽しめそうだな‼︎》

 

フィリップは編隊とすれ違い様に、当たり前の様に一機墜とす

 

《無理はするなよ、スティングレイ…》

 

旅客機から、心配そうな総理の声が聞こえる

 

「スティングレイ、ハエ叩きは任せて良いか⁇」

 

《ウィルコ。隊長は総理を頼む》

 

「分かった」

 

《こんな時に何だが…君の部隊は、部下が命令する事もあるのかい⁇》

 

「えぇ。彼の言った事が正しい事が多々あります。それに、彼になら安心して背中を任せられる」

 

《良い上司を持ったな…彼は》

 

「それだけ話が出来れば大丈夫です。横須賀に着陸しましょう」

 

《大佐、緊急着陸の準備は整っています‼︎いつでもどうぞ‼︎》

 

《うらぁ‼︎いっちょ上がり‼︎すぐそっちに行く》

 

後方では火の玉が幾つも墜ちていく

 

フィリップが全機叩き落とした跡だ

 

「早いな」

 

《夜目に慣れてねぇのに、無茶して飛ぶからこうなる》

 

「夜間迎撃繰り返して良かったな」

 

《まぁな》

 

「総理、次は貴方の番だ」

 

《ありがとう。横須賀に降りたら、何かお礼がしたい》

 

《ならっ、ビールでも奢って貰おうかなぁ‼︎》

 

緊迫した事態なのに、スティングレイの言葉で重い空気が少しだけ軽くなる

 

総理の乗った旅客機が着陸したのを見届け、私達も空いた滑走路に着陸した

 

「大佐‼︎スティングレイ‼︎」

 

降りた瞬間、横須賀に呼ばれた

 

「怪我はないですか⁇」

 

「大丈夫」

 

「ピンピンだぜ‼︎」

 

「明石‼︎」

 

明石は手に持った機械を私達にかざし、全身を調べ始めた

 

「大丈夫ですね」

 

「総理はどうした⁇」

 

「今治療を受けてるわ。若干疲れた様子はあるけど、命に別状はないわ。詳しい話は奥でしましょう」

 

会議室に連れて行かれ、コーヒーとシュークリームが置かれた

 

「…」

 

「…おい」

 

横須賀がシュークリームを出すのは”とりあえず落ち着いて欲しい”との意味だ

 

「食べながら話すわ。総理は、深海側に和平を求める為にあの後すぐ飛び立ったの。ま、結果はあんまりだったみたいだけど、向こうからの攻撃は無かった」

 

「て事はよ…エンジンがやられたのって…」

 

「えぇ…人間側の攻撃よ。それも、好戦派グループの」

 

「ったく…内輪揉めしてる場合じゃねぇだろ‼︎」

 

スティングレイがキレるのも分かる

 

今は内輪揉めをしている場合ではない

 

それなのに、それが分からない連中が和平を望む総理の乗った旅客機を攻撃した…

 

許し難い事だ

 

「しかしよ…このシュークリームはウメェな」

 

「間宮の新作よ」

 

そうだ。今はシュークリームを食べよう

 

せっかく出されたのに勿体無い

 

三人がシュークリームを食べていると、横須賀に無線が入った

 

「こちら横須賀。どうしたの⁇」

 

《呉鎮守府の提督が、お会いしたいと》

 

「いいわ。会議室に通して」

 

無線を切ると、スティングレイが反応した

 

「呉さんが来るのか⁇」

 

「えぇ。何故か急に反対派に入るって、さっき電文が来て…」

 

話している途中で、会議室がノックされた

 

「どうぞ」

 

「失礼します、総督」

 

現れたのは、呉さんと女の子

 

呉さんの腕には、二人の男性が掴まっている

 

「こいつ等だ。総理大臣の機体を攻撃したのは」

 

床に投げられた二人は、相当怯えていた

 

「ちゃんと話すまで、私はここにいるからな。総督、煙草は宜しくて⁇」

 

「構わないわよ。禁煙にしても、どうせこの二人が破るから」

 

「「ゔっ…」」

 

ようやく見せた微笑みが怖い

 

「では、お言葉に甘えて…」

 

呉さんは煙草に火を点けた

 

火を点ける動作も、何処か恐怖に思える

 

「何処で捕まえたんです⁇」

 

「スカイラグーンの帰り際、オスプレイを横切る機体が居た。報告にない機体だ。それで、うちの艦娘の艦載機に撃墜を命じた」

 

「隼鷹で〜す‼︎」

 

いつかスティングレイと呑んでいた艦娘の一人だ

 

「私の数少ない”理解者”だ」

 

そう言って、私達二人を見た

 

呉さんはすぐに目を逸らしたが、私達はすぐに理解した

 

「何の話よ⁉︎ねぇ⁉︎」

 

「男の秘密だ…いやマジで…」

 

「まぁいいわ。後でレイを尋問して聞くから。それで…」

 

「さらっと怖い事言うな‼︎」

 

「誰に命じられた」

 

場が凍り付く

 

数秒前まで軽口を叩いていたスティングレイの足が震えているのが見えた

 

横須賀の顔が変わり、鬼神にでも睨まれたかの様に二人は震えている

 

そして、ついでに呉さんもそのままの顔で震えている

 

「我々は内輪で争っている暇は無い。人間同士で殺し合う余力等、今の我々には無い。だから…」

 

横須賀は膝を曲げ、二人の頬を撫でた

 

「私は”なるべく”穏便に済ませたいと考えている…分かるな⁇」

 

「は、はいぃぃぃ‼︎」

 

二人は恐怖から逃れられないまま、別の場に移動させられた

 

「はぁ…」

 

「こわ〜…」

 

隼鷹でさえも、ビビってすくんでいる

 

「提督‼︎もう大丈夫さ‼︎」

 

隼鷹は呉さんの背中をバシッと叩いた

 

「う⁇あ、あぁ」

 

「私そんなに怖い⁇」

 

「怖いな」

 

「鬼神だ鬼神」

 

「真面目に言ったつもりなんだけど…」

 

「まぁよ、お前はそれでいいと思うぜ⁉︎」

 

そう言って、スティングレイは横須賀の頭を撫でた

 

横須賀はスティングレイの目を見て、ちょっと嬉しそうにしている

 

「デキてるのか〜ん〜⁇」

 

隼鷹がおちょくる

 

「”昔”はね、隼鷹⁇」

 

「ひっ‼︎」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。