艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、40話が終わりました

たいほう回が終わり、再び基地での生活が始まります

パパが見ていた新聞の一面記事に書かれていた事から、基地の空気が一変します


41話 母の気持ち(1)

「ほ〜」

 

横須賀が毎朝持って来る新聞に”敵母港空襲成功‼︎”との記事が書かれていた

 

「敵の母港空襲だと」

 

「複雑だよな…今の俺達は…」

 

スティングレイもあまり嬉しくなさそうだ

 

「敵とはいえ、一時的に向こう側に居たんだ。素直に喜べな…」

 

「ほっぽちゃん⁉︎ほっぽちゃん‼︎」

 

表でたいほうが騒いでいる

 

「たいほう⁉︎」

 

異変に気付いた私達は、たいほうの所に駆け寄る

 

「あっ‼︎」

 

「なんだよ…これ…」

 

空襲された母港からだろう

 

大量の深海棲艦が横たわったまま、この基地に流れ着いていた

 

中にはほっぽちゃんとコウワン=サンもいる

 

「ローマを呼べ‼︎医療班‼︎」

 

工廠の奥から、妖精達がゾロゾロと集まって来た

 

”なんやなんや‼︎”

 

”一大事か⁉︎”

 

「見ろ」

 

妖精達が一斉に海を見る

 

全員が息を飲む

 

「助けられる奴から応急処置。助けられない奴でも基地に上げろ‼︎」

 

”おっしゃ分かった‼︎”

 

”久々の仕事や‼︎”

 

妖精達は小さなボートに医療キットを詰め込み、救助に向かった

 

「ちょっと何よコレ‼︎」

 

遅れてローマも来た

 

「恐らく、一昨日の敵母港空襲から流れて来たんだろう」

 

海を眺めていた私を、ローマは鼻で笑う

 

「どうせ助けるんでしょう⁇」

 

「出来る範囲でいい。頼む」

 

「分かったわ。陸に上げたら、後は私が何とかする。入渠ドックに居るから、そこに運んで」

 

「ありがとう。頼んだよ」

 

ローマが入渠ドックに行った後、間髪入れずにスティングレイのジェットスキーが出る

 

背中にリュックを背負い、後ろのパックにも医療キットをギュウギュウ詰めにしている

 

「パパ…ほっぽちゃんが…」

 

泣きそうな顔で、たいほうが私の所に来た

 

「大丈夫。パパが助けるから。なっ⁉︎」

 

「うん…」

 

ほっぽちゃんを担ぎ、入渠ドックに向かう

 

「提督よ‼︎こうわん=さんも入渠か⁉︎」

 

武蔵はコウワン=サンを担いでいる

 

「そうだ‼︎入ったら高速修復のバケツを使え‼︎倉庫に腐る程ある‼︎」

 

急いで入渠ドックに向かい、意識の無い二人を入渠させる

 

「頼むぞ…目を覚ませ…」

 

ほっぽちゃんの頭を撫でた後、再び外に出る

 

基地一帯は地獄絵図だった

 

青い水平線には黒い点が続き、亡骸なのか生きているのか分からない

 

普段たいほう達が遊んでいる砂浜やコンクリートの港は応急処置の仮施設となっている

 

”戦艦ル級、高速で接近‼︎手負いや‼︎”

 

海上で処置を続ける妖精から無線が入る

 

「手を出すな‼︎無視しろ‼︎」

 

”そっち行ったで‼︎頼むで‼︎”

 

言ったしりから、此方に向かって来る深海棲艦が見えた

 

私が立っていた砂浜の前で止まり、鋭い眼光で此方を睨んでいる

 

ル級の手には産まれたてであろう、イ級が抱かれていた

 

「よく頑張った…」

 

ル級は私の言葉を聞き、少しだけ微笑んだ後、震えた手で私にイ級を託し、膝を落とした

 

「武蔵‼︎」

 

「なんだ‼︎」

 

私の声に気付いた武蔵が、此方に寄って来た

 

「手暑く頼む…」

 

「この子は…分かった、任せろ‼︎」

 

私と武蔵の目には、うっすら涙が流れていた

 

互いにイ級の姿に、たいほうを写したのだ

 

「生きろよ…絶対…」

 

イ級を入渠ドックに入れ、続いてル級が放り込まれる

 

「救ってやらねば…」

 

「あぁ…」

 

「もう少しだ。海上は妖精とすてぃんぐれい達が頑張ってくれている」

 

「あぁ…」

 

「提督よ…」

 

私はドックに横たわるル級を眺めていた

 

変わらない…

 

何も変わらないじゃないか…

 

子供を愛する気持ちは…何も…

 

「提督よ‼︎しっかりしろ‼︎」

 

「…」

 

「あらかた終わった…ぜ…」

 

スティングレイが報告に来たのにも気付かず、私はル級を眺め続けていた

 

「これが”戦争”さ…親子の愛でさえ、簡単に引き裂いてしまう…」

 

「提督よ…」

 

「生きた力と生きた力の衝突なんだ…戦争は…だが見ろ‼︎これが現実だ‼︎」

 

「分かっている…分かって…」

 

「だから嫌いなんだ…だから降りたんだ‼︎必要最低限しか、敵を倒さずにここまで来た。全て水の泡だ…」

 

「隊長」

 

ようやくスティングレイに気付き、彼の方を向いた

 

「そんな隊長だったから、俺達は着いて行ってるんだ。戦争なんかよ、老人共が机の上でやってりゃいいんだ」

 

「スティングレイ…」

 

「忘れてる様だから、もう一回言っとくぜ」

 

スティングレイは私の左肩に手を置いた

 

「隊長のした事に、間違いなんてない。俺達は、それを胸張って言える」

 

「ありがとう…二人共…」

 

「その証拠に、外を見てくれ」

 

入渠ドックを出て、外を眺める

 

「あ…」


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