艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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40話 鷹のおさんぽ(2)

数発の花火が上がり、観艦式が始まる

 

「始まった‼︎」

 

「ようこそ‼︎横須賀鎮守府観艦式へ‼︎今日は一人の艦娘の歓迎会も兼ねて行います‼︎」

 

会場では、野郎共の歓声が上がる

 

待ちに待った海外艦の邂逅だ

 

一体、どんな子なのか…

 

会場の幕には”ようこそ zara‼︎”と書かれている

 

「ざらと読むのか⁇」

 

「ざらざらのざら」

 

武蔵の頭の上で、たいほうが駄洒落を言っている

 

「では早速来て頂きましょう‼︎重巡洋艦ザラです‼︎」

 

「こんにちは‼︎ザラ級重巡洋艦、ザラです‼︎」

 

また歓声が上がる

 

ザラは金髪にベビーフェイスの割に、そこそこ巨乳だ

 

プリンツとドッコイドッコイの可愛さだ

 

「ざら…か。人の良さそうな子だな」

 

「おりる」

 

「よいしょ…」

 

たいほうは武蔵の肩車から降りた

 

「おさんぽしてくるね」

 

「あまり遠くへ行くなよ‼︎」

 

「わかった‼︎」

 

たいほうにとって、ザラはあまり興味無かった

 

基地に帰れば、同じイタリア産まれのローマが居る

 

どうせすぐ会えなくなる彼女より、いつでも自分を大切にしてくれるローマの方がよっぽど好きだった

 

蟹のぬいぐるみを抱き締め、繁華街に戻ると、瑞鳳がいた

 

「ずいほ〜」

 

瑞鳳の出店から、たいほうの目だけが瑞鳳に見えていた

 

「あら⁉︎たいほうちゃん⁇観艦式は行かないの⁇」

 

「もうみたよ。ざらざらのざら」

 

「たいほうちゃん、プリンたべりゅ⁇」

 

「たべりゅ‼︎」

 

出店の裏に座り、瑞鳳からプリンを貰う

 

「プリンも卵なのよ⁇はいっ」

 

「いただきます」

 

ぬいぐるみを抱いたまま、瑞鳳のプリンを口に運ぶ

 

「おいしい‼︎」

 

「しばらくお散歩するの⁇」

 

「うん。ざらのかんかんしきがおわるまでする」

 

「そっか…なら、横須賀の色んな所を回るといいよ⁇」

 

「こーしょーにいくの‼︎あたらしいひこーきみる‼︎」

 

「いいかもね‼︎」

 

「ごちそうさま‼︎」

 

「気を付けてね〜」

 

瑞鳳の出店を後にし、工廠を目指す

 

「と〜れと〜れぴっちぴち、かにずいう〜ん」

 

先程、日向の店で流れていたテーマソングを口ずさみながら、工廠の扉の前に着いた

 

「わぁ」

 

工廠の中では、新しい戦闘機が造られていた

 

空母のたいほうにとって、綺麗な機体は夢の様な存在

 

「おや…君は何処の子かな⁇」

 

たいほうの前に、中年の男性が現れた

 

「君は大鳳だね⁇提督の名前は⁇」

 

中年の男性は膝を折って、目線をたいほうに合わせる

 

彼は優しく接しているつもりだが、たいほうは少し後退りした

 

「瑞雲に行って来たのかい⁇」

 

たいほうが大事そうに抱いているぬいぐるみを見て、彼はにこやかに言った

 

「蟹は美味しかったかい⁇」

 

「…おいしかった。ぬいぐるみもくれたよ」

 

たいほうは彼にぬいぐるみを突き出した

 

「ははは‼︎それで、提督は何処に行ったんだい⁇」

 

「たいほうおさんぽしてるの。パパはかんかんしきで、ざらみてるよ⁇」

 

「ザラか…いい事を聞いたよ‼︎パパの所には行かないのかい⁇」

 

「いかない」

 

「じゃあ、ちょっとだけ中を見るかい⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

男性に連れられ、間近で機体を見る

 

珍客が現れ、たいほうの周りにはゾロゾロと人が集まって来た

 

「わぁ〜…おっきなきたい…」

 

「これはT-50って言うんだ。この基地の主力戦闘機さ」

 

「パパもね、せんとうきにのるの‼︎」

 

「ほぅ…これは珍しい提督だね」

 

「パパはね”さんだーばーどたい”にいたんだっていってた‼︎たいちょうさんだったんだって‼︎」

 

にこやかに話すたいほうの言葉を聞き、工廠の中が急に静まり返った

 

そして、中に居た全員がたいほうに敬礼をした

 

「失礼しました‼︎」

 

「だ、だめだよ‼︎パパがけーれいはしちゃだめだって‼︎」

 

見慣れない光景に、たいほうは焦った

 

「やはり大佐の娘だ…敬礼を嫌う」

 

「パパしってる⁇」

 

「ここの工廠で知らない人は居ないよ。とても立派なお方だ」

 

「パパのことすき⁇」

 

「勿論さ‼︎言葉で言い表せない程、私達はとても世話になった‼︎」

 

「たいほうもパパすき‼︎いっしょだね‼︎」

 

工廠が一気に和やかになった

 

普段、時々艦娘が訪れる位で、尚且つ頼み事ばかり

 

そんな場所に、自分達の造った物に興味を持つ小さな女の子が現れたのだ

 

癒しになる事は間違いない

 

「たいほうもういくね」

 

「またいつでもおいで」

 

「ばいば〜い‼︎」

 

男衆に見送られ、次は海岸に向かった

 

波打ち際で綺麗な貝を探したり、小さなガラクタを探していた

 

「なにこれ‼︎」

 

たいほうが見つけたのは、とてもいい匂いがする流木

 

ポシェットに入る位の小さい物で、たいほうは海水で少し洗った後、水を切ってハンカチで包んでポシェットに入れた

 

「はぁ」

 

歩き回って疲れたのか、砂浜の近くにある階段で腰を下ろした

 

「かにずいう〜ん」

 

蟹のぬいぐるみを弄りながら、またテーマソングを歌う

 

「たいほうよ。ここにいたか‼︎」

 

「むさし‼︎」

 

武蔵と隊長が来た

 

観艦式が終わったみたいだ

 

「お散歩は終わったか⁇」

 

「うん‼︎ずいほ〜のぷりんたべて、こーしょーにいったよ‼︎」

 

武蔵に抱き上げられ、胸の中で楽しそうに小さな冒険の話をする

 

「…何の匂いだ⁇」

 

たいほうに顔を近付けた武蔵は、たいほうからいい匂いがするのに気が付いた

 

「これのにおいかな⁇」

 

ポシェットから先程の流木を出し、武蔵の鼻に近付けた

 

「これはなんだ⁇」

 

「なんだろ…でもいいにおいするね‼︎」

 

「横須賀に見せに行くか⁇」

 

「いく‼︎」

 

三人で会場に戻ると、横須賀は先程のテントに居た

 

「隊長、ゆっくり楽しんで行って下さいよ⁇」

 

「楽しんでるさ。たいほうが何か拾ったんだ。見てくれるか⁇」

 

「これ‼︎」

 

たいほうは横須賀に流木を渡した

 

匂いを嗅いだ途端、横須賀の顔付きが変わった

 

「こ、これは…明石‼︎」

 

「は〜い‼︎」

 

流木は明石の手に渡り、再び匂いを嗅ぐ

 

「これは珍しい‼︎竜涎香です‼︎」

 

「いいにおいするね」


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