艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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38話 気付かない求愛(6)

「後は話をして、何かヒントを得るわ」

 

 

 

 

 

霞は一人、部屋の隅っこでうずくまっていた

 

年端の行かない少女には、余りにも壮絶な体験

 

地獄絵図の中を冒険したかのようだった

 

「入ってもいいかしら」

 

「…どうぞ」

 

白い箱とジュースを持ったローマが、霞の部屋に入る

 

「差し入れよ」

 

「…いらないわ」

 

「あっそ」

 

いつも通りの素っ気なさのローマ

 

箱とジュースを適当に机の上に置いた

 

「ま、いいわ。とにかく、よく耐えたわね」

 

「そんな事言うために来たなら、帰ってくんない⁇」

 

「今日は話をしに来たの」

 

「…一人にしてよ」

 

「ダメ。私と話しなさい」

 

「嫌って言ってんでしょ⁉︎」

 

ローマは見抜いていた

 

霞はしつこくするとキレる

 

そして折れる

 

自分がそうだから分かっていた

 

「ふふ…ちょっとは威勢が戻ったようね」

 

「…分かったわよ。話せばいいんでしょ‼︎話せば‼︎」

 

それからローマは案外普通の事を聞き始めた

 

好きな食べ物は何か

 

趣味は何か

 

好きな色…使いやすい艤装…

 

後、好きな人も聞いた

 

「好きって訳じゃ無いけど…あのバカパイロットは気に入ったわ」

 

「スティングレイ⁇」

 

バカ=スティングレイが、段々定着してきている

 

今、スティングレイは横須賀の基地にいるが、恐らくくしゃみをしているだろ

 

「…うん」

 

霞の顔が赤い

 

好きな証拠だ

 

「そのバカパイロットからの差し入れでも食べないのかしら⁇」

 

霞は急いで箱を開けた

 

「あっ‼︎」

 

中には間宮のチョコレートケーキが二つ入っていた

 

「食べていいの⁉︎」

 

「えぇ」

 

霞はチョコレートケーキを食べ始めた

 

口の周りにいっぱいチョコクリームを付けながら、あっという間に一つ平らげた

 

「もう一個も食べて良いわよ」

 

「ありがと‼︎」

 

嬉しそうに食べる霞を見て、ローマの顔が綻ぶ

 

口は悪いが、まだまだ子供だ

 

「貴方の心配ばかりよ、スティングレイは」

 

「…」

 

「愛されてるのね…霞は」

 

「…ホント⁇」

 

「彼も分かりにくいのよ。愛情表現がメチャクチャヘタクソ。でも…」

 

「でも⁇」

 

「陰でいつも、みんなを助けてくれるの。それを貴方は分かってあげられるかしら⁇」

 

「…」

 

「明石〜‼︎風邪薬くれ‼︎」

 

表でスティングレイの声がする

 

「言ってたら来たわ。ちょっと待ってて」

 

表に出ると、明石とスティングレイがいた

 

「バカは風邪引かないんじゃないんですか〜⁇」

 

おちょくる様な目でスティングレイを見る明石

 

「これで俺が天才だと証明されたっ‼︎」

 

自慢気に仁王立ちするスティングレイ

 

「はいはい。じゃあ、これ飲んで下さい」

 

袋を開け、一気に喉に薬を流し込む

 

「オエ〜…マジィ〜…」

 

「良薬は口に苦し、ですよ‼︎」

 

「マジィ〜…二ゲェ〜…あ‼︎鼻詰まり治った‼︎サンキュー‼︎」

 

明石と話し終わった所で、スティングレイを捕まえた

 

「捕まえたわ」

 

「え⁉︎嘘⁉︎これってラッキースケベって奴⁉︎」

 

褒美代わりと思い、ローマはスティングレイに胸を押し付けた

 

「よ…要求は何だ…」

 

急に真面目になるスティングレイ

 

「霞と話して頂戴」

 

「わ…分かった…」

 

スティングレイを霞の部屋に入れ、しばらく二人にした

 

小窓からちょっとだけ出歯亀してみると、照れ臭そうにした霞と、楽しそうに話すスティングレイが見えた

 

「これで安心ね…」

 

霞をフルで扱えるのは、スティングレイの様な、底抜けのバカに見えて、実は物凄く気配り上手な人だ

 

「ローマ。霞はどう⁇」

 

現れた横須賀に、首で小窓を指す

 

「ホンット、バカなのに人一倍心配症なのよね…レイは…」

 

「あれがモテる要因なのね…ちょっと分かった」

 

「隊長には一応言ったけど、霞をスティングレイに任せようと思うの」

 

「名案ね。彼なら、喧嘩しながらでも彼女を見捨てないわ」

 

扉の向こうで、ローマと横須賀が微笑む

 

 

 

数日後、再び霞の部屋の扉が開いた

 

「俺と来い。俺がお前を護ってやる」

 

霞は迷わず、差し出された手を取った

 

腰には、ウサギとクマのキーホルダーが揺れていた

 

 

スティングレイの艦隊に、駆逐艦”霞改”が配属されました‼︎


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