艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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37話 ラバウルの淑女(2)

ラバウルの執務室では、ラバウルさん、私、そして武蔵の三人がレコードを聴いていた

 

”私を許さないで 憎んでも 覚えてて”

 

「…」

 

「これも懐かしい、ですか⁇」

 

「前よりかは新作だろ⁇」

 

「ははは、まぁ」

 

「…」

 

「武蔵…⁇」

 

ラバウルさんがかけたレコードを聴いてから、武蔵はだんまりしている

 

「今では痛みだけが、青春の…」

 

「…武蔵⁇」

 

流れてくる歌の歌詞を口ずさむ武蔵

 

 

 

知っていても可笑しくは無かった

 

「ラバウルさん…この人の他の曲はないか⁇」

 

「ありますよ」

 

レコードを変え、同じ人の別の曲がかかる

 

”何も言わなくていい 力を下さい”

 

「距離に負けぬよう…」

 

知っていても、何ら可笑しく無かった

 

この歌手は私が好きな歌手だ

 

昔は良く聞いていた

 

彼女と恋仲だった時は、よくドライブ中に聞いていた

 

だが、基地ではせいぜいテレビがある位で、音楽を再生する機材など他には無い

 

「テレビで流れてたのか⁇」

 

「いや…違う…誰かが聞いていたんだ。その人は車に乗ったら、いつもこの歌手の”かせっとてーぷ”を聞いていた」

 

「これはまた古いアイテムが…」

 

レコードの方がよっぽど古く、価値のある品だとはこの際言わないでおこう

 

「懐かしいか⁇」

 

「あぁ…不思議な気分だ。何か大切な物を失った気分になる」

 

「無理に思い出さなくていいさ」

 

「ん…」

 

武蔵は時折、こうして急にだんまりする事がある

 

その時は必ずと言っていい程、昔の事を思い出している

 

「た、たいほうはどうした⁉︎たいほうよ‼︎」

 

「たいほうは暁とお風呂だ」

 

「あ…そ、そうか」

 

「提督、お茶が入りました」

 

「ありがとう」

 

大和がお茶を持って来た

 

武蔵は変わらず心ここに在らずと言う様子だが、お茶は手にした

 

「あ、そうだ。あの機体は⁇」

 

岩だらけの島に不自然とも思われる様な建て方をした格納庫群

 

格納庫は3つあり、中には赤に黒いを混ぜた様なカラーの機体が駐屯してある

 

「T-50です。ようやく改良が終わり、試験的にですが、三機ここに配備されました」

 

「前の機体は⁇」

 

前の機体と言うのは、Su-47

 

前進翼が特徴的な機体だ

 

「横須賀で無人機化する様です。ブラックボックスにフライトデータでも入れてあったのでしょう、それを元にするみたいです」

 

「無人機…か」

 

窓の外の機体を見ながら、ため息を吐く

 

「無人機はお嫌いですか⁇」

 

「好きさ。なんせ死人が出ない。だけど…」

 

「⁇」

 

「いつか、人工知能に墜とされる日が来ると思うと…な」

 

「なるほど…戦争は人間の業、ですか」

 

「戦争ってのは、生きた力と生きた力のぶつかり合いだ。無人化出来る様になったら、もう人間は必要じゃなくなる」

 

「起こさない事が一番ですがね…」

 

「それが出来ないのも人さ…」

 

「ただいま‼︎」

 

暁とたいほうが帰って来た

 

いの一番に武蔵がたいほうに寄る

 

「あったかかったか⁇」

 

「うん‼︎たまごもぷるぷるだったよ‼︎」

 

「そうか‼︎」

 

今日、ラバウルに来たのは作戦会議の為だ

 

だがこの二人、互いに意見が合う為か、会議は一時間もしない内に終わってしまった

 

そして、今に至る

 

「さっ、暗くならない内に帰ろうか」

 

「うん」

 

「じゃあ、我々はこれで」

 

「いつでもお越し下さい」

 

三人は高速艇に乗り、ラバウルを後にした

 

基地に着くと、たいほうは何故か入渠ドックに行った

 

「武蔵」

 

「ん⁇」

 

「もう大丈夫か⁇」

 

「大丈夫だ。夕食まで、少し横にならせてくれ」

 

「分かった」

 

武蔵が部屋に入ると、私は手持ち無沙汰になった

 

とはいえ、まだ夕暮れ

 

何かしようと思った時、海から何かが上がった

 

「な、何だ…」

 

「水中発射可能な短距離ミサイルさ」

 

いつの間にかスティングレイが横にいた

 

「どんどん改良されていくな」

 

「艦載機も晴嵐だけじゃなくて、その内戦闘機も出せればと思ってるけど…まだまだ先は長そうだ…」

 

「レイ〜‼︎上手くいったよ〜‼︎」

 

少し離れた海面からしおいが顔を出し、手を振っている

 

「よ〜し‼︎今日はおしまいだ‼︎ご飯にしよう‼︎」

 

「は〜い‼︎」

 

スティングレイがしおいを迎えに行ったのを見届け、中に戻った

 

「パパおかえり‼︎」

 

「おかえり」

 

れーべとまっくす、ほっぽちゃんが抱きついて来た

 

たいほうもそうだが、この二人を抱くとホッとする

 

「パパ、横須賀さんがお願いがあるって‼︎」

 

「お願い⁉︎」

 

「おそらく任務」

 

「ゔっ…」

 

「はい‼︎」

 

れーべから指令書を受け取った

 

「どれ…」

 

”性格矯正をお願いしたい艦娘がいます”

 

「何書いてあるの⁇」

 

「ん〜⁇明日来て欲しいんだって」

 

「お弁当いる⁉︎」

 

「向こうで横須賀に奢って貰うよ。お土産買ってくるからな」

 

「やったぁ‼︎」

 

「じゃあ、ちょっと武蔵の所に行ってくるからな」

 

食堂を後にし、武蔵の部屋のドアを叩いた

 

「俺だ」

 

「開いてるぞ」

 

部屋の中に入ると、お茶を飲んでる武蔵がいた

 

「眠たくないか⁇」

 

「大丈夫だ。考え事をしただけだ」

 

落ち着いた武蔵の顔を見た後、彼女の後ろに座って抱き寄せた

 

「はっはっは‼︎提督は甘えん坊だな‼︎まるでたいほうだ‼︎」

 

「…何も思い出さないか⁇」

 

「…分かってるんだ」

 

首に回した手を、武蔵が掴んだ

 

「私の記憶にいる人…あれは提督だろう⁇」

 

「…」

 

「不思議なものだ。そう思ったら、体が楽になった」

 

「…私を許さないで」

 

低い声で歌う

 

私の歌に続いて、武蔵が歌う

 

「憎んでも、覚えてて…」

 

しばらく歌った後、なんのためらいもなく、口付けを交わす

 

「もう夕飯だ」

 

「んっ…」

 

二人で食堂に戻ると、いつもの武蔵に戻った

 

「隊長、明日俺も行っていいか⁇」

 

「武蔵、ローマ。留守を頼めるか⁇」

 

「フッ、任せておけ‼︎」

 

「任されたわ」

 

「グラーフは子供達を頼む」

 

「分かった」

 

「へっへっへ、決まりだな‼︎ごちそうさん‼︎」

 

正直スティングレイが一緒に来てくれて助かる

 

どんな奴だろうな…


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