艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

116 / 1086
33話 霧の街(2)

「なんだ…不思議な感じだ…」

 

ハンバーガーを頬張っていた武蔵の手が止まる

 

「むさし⁇」

 

「ん…大丈夫だ」

 

「なんでないてるの⁇」

 

「泣いてる⁇私がか⁇」

 

手の平で目を擦ると、濡れて返って来た

 

「分からない…何故こんなに悲しい…」

 

「どっかいたい⁇」

 

「胸の奥が痛い…何故だ⁉︎」

 

「待たせたな。武蔵⁇」

 

「提督…」

 

私を見るなり、武蔵は抱き付いて来た

 

「どうしたんだ⁉︎」

 

「分からない‼︎分からないが、しばらくこうさせてくれ‼︎」

 

「むさし、あまえんぼしてるね」

 

おかしい…

 

普段の武蔵とは、全く違う

 

少し調べる必要がありそうだ…

 

「大佐、今日は横須賀に泊まって下さい」

 

「そうさせて貰うよ…俺も含めて、様子が変だ」

 

横須賀の鎮守府に向かい、全員が入渠になった

 

「もう大丈夫か⁇」

 

「大丈夫だ。一時的なものとはいえ、恥ずかしいな…」

 

「いいんだ。夫婦だろ⁇」

 

「ん…そうだったな‼︎」

 

武蔵が入渠したのを見届け、私は外に出た

 

向かった先は、私が生まれたあの街

 

もしかしたら、何か手掛かりがあるかも知れない

 

横須賀のバイクを借り、着いた先は自分の家

 

何十年かぶりに鍵を開け、早速当時の事が分かる物を探し始めた

 

 

 

当時の雑誌

 

当時の新聞

 

当時の資料

 

探せば少しは出て来たが、あまり確信が無い

 

「チクショウ…ん⁇」

 

机の上に置かれていた写真立てに目が行った

 

「これは…」

 

写真立ての中身を見た瞬間、私は中の写真を抜き取り、内ポケットに仕舞って家を出た

 

「嘘だろ…」

 

すぐさま鎮守府に戻り、横須賀に問い質した

 

「大佐。何か食べますか⁇」

 

「これはどういう訳だ」

 

机の上に写真を叩きつけた

 

「…」

 

横須賀は写真を見るなり黙ったままだが、冷や汗が出ている

 

「横須賀…この子は一体誰だ⁇」

 

「…知りません」

 

「ちょっとは知ってるだろ⁉︎それを教えてくれ‼︎」

 

「本当に知りません。ですが、この写真の人は、昔の大佐の恋人です」

 

「…そうか」

 

「あの日、実験されていた艦娘は三人。一人は大佐の恋人、一人は射殺、もう一人は行方不明です」

 

「その、俺の恋人ってのはどうなった⁇」

 

「行方不明です」

 

私はため息をついた

 

過去のしがらみが、私に取り付いて離れない

 

何も終わってなかった…

 

「パパ〜‼︎」

 

「たいほう。きちゃ駄目だろ⁇」

 

「あのね‼︎かいがんでへんなところみつけたの‼︎」

 

「変な所⁇」

 

 

 

それは、数十分前に遡る

 

早めに入渠を終えたたいほうは、みんなを待っている間、外を眺めていた

 

自分達の基地では、想像も出来ないネオンが見れるからだ

 

「ん⁇」

 

ふと、砂浜の端っこで誰かがいるのに気が付いた

 

たいほうは基地に備え付けられた双眼鏡でそこを見た

 

すると、岩場に扉があり、そこに人が消えていった

 

不安に感じたたいほうは、いち早くパパに報告をしに来た

 

 

 

「海岸線の端は、過去に艦娘の製造施設があった場所です」

 

「たいほう、場所分かるか⁇」

 

「うん。きて」

 

たいほうに連れられ、双眼鏡の前に立ち、たいほうは双眼鏡を覗いた

 

「あった‼︎」

 

たいほうの手で固定された双眼鏡を覗くと、特に変わりの無い岩場が見えた

 

「あっ‼︎」

 

岩場の隅から、白衣を着た人間が出て来た

 

「何かありそうだな…」

 

「行きますか⁇」

 

「そうだな。何か分かるかも知れない」

 

「では、一応装備を…明石‼︎」

 

「こちらをどうぞ」

 

明石が持って来たのは

 

軍刀一本

 

拳銃1丁

 

替えの弾倉が三つ

 

後は防弾チョッキだ

 

「じゃあ、行ってくる。みんなを頼むぞ」

 

「えぇ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。