艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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マーカス達がウクライナから帰って来て、そろそろ日常に戻ろうとしていたある日のお話です

マーカスの嫌いな物3大、そのトップを飾るオバケ

海流に乗ってずっと終わる事の無い航海をしている客船
"サント・アンナマリア号"

そんな所に調査をして来いと言われます

嫌々向かうマーカスに着いて行ったのは、ここぞとばかりにおちょくり倒すタイミングが来た艦娘でした

ちょっぴり悲しくて、ちょっぴりおちょくり倒すお話です


328話 夢を運んだ客船

ウクライナから帰って来て数日後…

 

俺達はそろそろ普通の生活に戻ろうとしていた

 

一連の事柄を、粗方の人物に話し終えたからだ

 

ただ、その最中気になる事案を耳にした

 

それを言ったのはジェミニ、そして大淀

 

「アンタが行った後、幽霊船を確認したのよ」

 

「最初はどっかの国が攻めて来たー!!と思ったんだけどね…無いんだ、生体反応が」

 

その幽霊船は遠征帰りの艦娘が確認したらしい

 

航空偵察を送ったが、人がいる気配はない

 

ましてや生物の気配もない

 

しかし、潮の流れで未だに動いている

 

霧の中をずっと右往左往しているらしい

 

「そうか!!頑張れよ!!」

 

オバケは嫌なので、それを聞いて執務室を去ろうとした

 

「ちょっと調査に行って欲しいのよ」

 

「あイタタタ!!急に両足全部捻挫した!!」

 

「中にある物を確認して欲しいんだ。どうも数年前からずっと幽霊船みたいなんだ」

 

「至る所脱臼したから無理だなぁ…いやぁーすまんな!!じゃ!!」

 

両足全部捻挫、全身全部脱臼、これで行かなくて良いだろう!!

 

「必殺技使うわよ??」

 

「ダメです。嫌です。行きたくないです」

 

「レイ君しか現地で対応出来ないんだ…」

 

「嫌なものは嫌であります!!本官は職務中なのでこれで失礼しまーす!!ばいばーい!!」

 

「上官命令よ??」

 

「うぐぐぎぎ…」

 

ジェミニと大淀のニヤケ顔がムカつく…

 

 

 

 

「隊長…何なら自分が代わりに…」

 

「な~んで俺が幽霊船の調査に行かにゃダメなんだよ!!く~っ!!」

 

調査の結果、水上機なら横付けして乗船出来る部位がある事が分かった

 

可哀想に。涼平は命令に忠実に動き、既に水上機の整備を済ませてくれていたので、荷物を積み込み乗り込む

 

涼平君の素直な所を、本官も見習わなければならないな、うん

 

《私が着いてってあげるから、それで堪忍なさいよ??》

 

タブレットに入ったヘラが話し掛けて来た

 

「オバケは怖いの!!いいか!?弾は当たらん!!ナイフも当たらん!!ついでに言ったら会話も出来るかどうかだ!!」

 

《大丈夫よ、な~んにもいないって言ってたでしょ??ちょっと見て帰るだけよっ!!》

 

「隊長、幽霊船の右側に乗船入口が開きっぱなしになっている箇所があります。タラップにワイヤーを掛けて停めて下さい」

 

「分かった。すまないな、手伝ってくれて」

 

「いえ…本来なら自分が行けるのですが…現地で対応出来るのが隊長だとお聞きしたので…自分が出来る事は整備位です」

 

「充分さ。んじゃ、ちょっくら行って来る!!」

 

「お気を付けて!!」

 

涼平がタラップから降り、手を振る

 

「あ!!隊長!!ライフルは後部座席に置いてありますからー!!」

 

右手を上げて分かったと言い、強風で横須賀を発つ…

 

 

 

 

「オバケの住んでるお船〜…ははは…」

 

《ノイローゼじゃない!!もぅ…》

 

「どうすんだ??ワイヤートラップとかあったら…幽霊船だぜ!?そんなもんトラップだらけだ!!」

 

《映画の見過ぎよ。あんなのないから大丈夫よ。それに、トラップがあったら私が知らせたげるから》

 

「マーカス君は意識がありません、死ですか??」

 

《白露モードになったら、迎えに行ったげるから》

 

ヘラに全部返され、気が狂いそうな状態から少し楽になれた

 

この前メチャクチャ怖い映画を見たから余計に嫌だ…

 

「霧だ…」

 

《霧ん中をずっと回遊してるって聞いたわ??》

 

「見えた…」

 

霧の中に現れた、巨大な船体…

 

見た限り、豪華客船のようだ

 

「見た、何にもない、調査終了、閉廷、帰ろう」

 

見たし、何にもない。さ、帰ろう

 

怖い怖い、くわばらくわばら

 

幽霊船はいたね、終わり

 

調査終了!!

 

《着水しなさいな》

 

「どうしてもか!!」

 

《どうしてもよ!!》

 

「くぅ…」

 

それでも嫌なので、一度船体を見てみる

 

「デカいな…」

 

《サント・アンナマリア号…1998年に進水した豪華客船ね》

 

「あれか、涼平の言っていたタラップは」

 

《そうね。決心は付いた??》

 

「終わらないなら早めに終わらせるだけだ!!」

 

《良い子ね》

 

着水し、タラップにワイヤーを掛けて強風を固定する

 

《リュックは持った??》

 

「持った」

 

《ライフルは背負った??》

 

「背負った」

 

《気を付けて行きなさいよ??》

 

「行って来る。何かあったら知らせるよ」

 

《ずっとアンタの手元にいるから心配しないでいいわ??》

 

タブレットを内ポケットに入れ、幽霊船に入る…

 

 

 

 

「船内に入った」

 

左手にタブレット、右手にピストルを構える

 

《良い子ね。まずは上から調査しましょうか》

 

階段を上がり、甲板を目指す

 

「トラップはあるか??」

 

《無いわ。アンタの危惧してるワイヤーも、随分前に落ちちゃってるわよ》

 

床を見ると、潮風に当たって錆びたワイヤーが甲板に落ちているのが見えた

 

「甲板に誰かいる気配ないな…死体の類も無い」

 

《死体があったら分かるわよ。心配せずに行きなさい》

 

次は地下の貨物室だ

 

どうもここに何かある可能性があるらしい

 

「ここか…」

 

《生体反応はないけど、何かあるのは違いないわ》

 

「い、行くぞ…」

 

意を決して貨物室のドアを開ける…

 

貨物室の中は木箱が沢山あった

 

《缶詰か金塊入ってんのよ》

 

「さ、帰ろう」

 

ヘラに脅され、ドアを閉じる

 

《嘘よ嘘っ!!一個開けてご覧なさいよ》

 

「当たってたらメチャクチャキレるからな!!」

 

近くの木箱を一つ、ナイフで開ける…

 

「何だ…」

 

《何入ってたの??》

 

「お菓子だ…賞味期限もまだまだある…」

 

出て来たのは、まだまだ賞味期限があるお菓子の袋

 

振ってみるとカシャカシャ音が鳴り、中身も入っているのが確認出来た

 

《あら…じゃあその船に誰かいんのかしら…》

 

「こっちは…」

 

もう一つ木箱を開けてみる

 

「青リンゴだ…」

 

《アンタ幻でも見てんじゃないの??ちょっとカメラで撮んなさいよ》

 

タブレットでお菓子の袋と青リンゴの写真を撮る…

 

《あら、ホント。ホラーよりミステリーになってんじゃないの??》

 

「一気に大丈夫になった。よし、調査を続けよう!!」

 

今度は問題の客室

 

数が多いが、ここは必殺技を使おう

 

「ヘラ、客室内をレーダーで捜索してくれ」

 

《分かったわ。アンタ、客室のドアの前に行って頂戴。そしたらその部屋を調べたげる。何かあったら開けるのアンタね》

 

「分かった、頼む」

 

客室の探索が始まる…

 

 

 

一時間程し、探索は終わる

 

客室に異常は無い

 

何室か入ってみたが、誰かがいたとか、死んでいた等は無かった

 

ただ、一つ気になるとすれば…

 

《何でベッドシーツはキッチリしてあんのよ…》

 

「当時のままとは思ったんだがな…」

 

そう、ベッドメイキングだけはどの部屋もかなりしっかりしてある

 

まるで…ここに普段から"泊まりに来ている"様な…

 

《ブリッジに行ってみましょう》

 

「分かった…」

 

客室の探索を終え、ブリッジに向かう…

 

 

 

 

ブリッジに入り、レーダーを見る…

 

やはり動いていない

 

《アンタ付けれないの??》

 

「幾ら何でも電力がないとな…」

 

スイッチを弄るが、やはり反応は無い

 

強いていうならば、舵が不気味な音を出しているだけだ

 

どう見ても機能していないが、一応触れてみる…

 

「ダメだ、完全に潮の流れに乗ってるだけだ」

 

《上手い具合に乗ったわけ??》

 

「どうだろう…この船のみぞ知る…だ」

 

《お宝も無い、生体反応も無い、どっかの誰かさんが捨てて、ここに迷い込んだみたいね??》

 

「そうだな…」

 

《あと一つだから、そろそろ言うわよ??》

 

「何だ??」

 

動かないレーダーの前の椅子に座り、タバコに火を点けて、ヘラが送ってくれたタブレットの情報を見る…

 

《サント・アンナマリア号は、反抗作戦に巻き込まれてるわ》

 

「乗客は皆避難したのか??」

 

《そうみたいね。死傷者の記録はないわ》

 

「すまなかった…」

 

レーダーに手を置き、サント・アンナマリア号に一言お詫びを入れる

 

軍艦でもないのに、巻き込んでしまってすまない…

 

《乗客がいないのを分かってか、当時の深海も軍側もこの船を襲ってないわ??》

 

「だからこんなに綺麗なまま残ったのか…」

 

《そゆこと。さ、ラスト行きましょ!!とっとと帰るわよ!!》

 

「そうしよう!!」

 

残るはレストランだ…

 

 

 

《今レーダーで見てるけど、ここのレストラン広いわね…》

 

「内装も凝ってるのか??」

 

《えぇ、テーブルクロスまでぜーんぶ凝ってるわ??》

 

「それは楽し…み…」

 

急に船内が明るくなる…

 

《レイ??》

 

歩みが止まる…

 

タブレットを見ていた焦点をズラす…

 

「ヘラ…」

 

《どうしたの??》

 

「こんなに床…綺麗だったか…」

 

《レイ!?しっかりなさい!!》

 

「お腹すいた〜!!ご飯ご飯!!」

 

視線を上に戻す…

 

「はっ…」

 

子供とその親が、レストランに入っていくのがハッキリと見える…

 

《レイ!!しっかりなさい!!幻見てんのよ!!コラ!!》

 

「おっと失礼…」

 

誰かとぶつかる…

 

「あ…す、すまない…」

 

振り返ると、壮年の男性がいた

 

腕には同じ年齢位の女性がいる

 

「このレストランは初めてかい??」

 

「は、初めてなんだ…その…入るのに躊躇ってて…」

 

「一緒に行こう、さぁ!!」

 

《レイ!!戻りなさい!!レイ!!コラ!!行っちゃダメ!!様子が変よ!!》

 

壮年の男性と共に、レストランの入口まで来た

 

「彼も一緒に」

 

「どうぞどうぞ、お楽しみ下さい」

 

入口にいた男性二人に軽くお辞儀をされ、ドアを開けながら手で「中へどうぞ」とにこやかに誘導される

 

《幻見てんのよアンタ!!コラ!!戻りなさいっての!!もぅ…ジェミニに言うわよ!!》

 

ヘラの声が頭に入らない

 

声は聞こえはするのだが…体は何故か中に入ろうとする…

 

席に案内され、腰を降ろす…

 

壮年の男性は別の席に座っており、俺は二人がけの席に案内された

 

メニューの類はなく、まるで最初から注文していたかの様にすぐに目の前に料理が置かれる

 

「アンガス牛ステーキ、デミグラスソースです」

 

「頂きます…」

 

《コラレイ!!食べちゃダメよ!!何年前の船だと思ってんの!!コラーーーッ!!》

 

ジェミニの声がするが…出された料理を口にしたい…

 

ナイフで肉を切り、フォークで口に運ぶ…

 

《何食べてんのアンタ!!お皿は食べらんないわよ!!何かあったのね!?涼平!!すぐに幽霊船に向かって!!レイがおかしいわ!!了解です!!急行します!!》

 

「美味い…!!」

 

「それはようございました…スープをお持ちしますね」

 

お皿とナイフがカチャカチャと音を立てる

 

俺は今まで食った事がない位、あまりにも美味いステーキに顔が綻ぶ

 

「コンソメスープです」

 

「ありがとう」

 

スープに行く前に、机に灰皿がある事に気付き、タバコを取り出す

 

「どうぞ…」

 

「ありがとう…」

 

ウエイターに火を点けて貰い、ため息の様な紫煙を吐き出す…

 

「お客様。当レストラン自慢の演奏があります」

 

「演奏か…」

 

「あちらに…」

 

ウエイターが手を差し伸べた先を見る…

 

「はっ!!」

 

舞台の上を見て、息が詰まる…

 

「お客様のお知り合いでは??」

 

「ど、どうして…」

 

「…」

 

ウエイターはにこやかに、もう一度手を舞台の上に向ける

 

俺は何もかもを忘れ、荷物もタブレットも、ライフルも全部忘れ、席を立ち、舞台の上に上がる

 

「マリオ…!!」

 

そこにいたのは、あの日自分が殺めてしまった軍楽隊の面々

 

「さぁマーカス!!久々に一緒にやろう!!」

 

マリオが2度、指を差した方に向く

 

軍楽隊の中心に椅子があり、その前にバイオリンが置かれている

 

マリオに視線を戻し、呼吸が荒くなる…

 

「マーカス、君に合わせる。さぁ、思い出のある一曲にしよう!!」

 

「…うんっ!!」

 

目に涙が溜まる

 

マリオの顔も、バイオリンも、見えない位に

 

それを拭い、演奏が始まる…

 

 

 

 

その頃、横須賀…

 

「何??バイオリンの音??」

 

ジェミニの耳にもタブレット越しに入る、あの日舞踏会でマーカスが演奏していた曲だ

 

「はっちゃん、マーカス様の所に行かなきゃいけません」

 

心配になって横須賀に来て執務室にいたはっちゃんが反応を起こす

 

「ダメ、待ってはっちゃん!!」

 

「マーカス様が呼んでます」

 

「はっちゃん、大丈夫だよ。タナちゃん!!タナちゃんも大丈夫だからね!!」

 

《創造主が呼んでるでち…》

 

「タナトス!!ストップ!!」

 

分遣隊の基地の方でも、今頃ひとみといよ、しおいが反応を起こしているだろう

 

「お、親潮!!大佐に連絡して!!ひとみといよとしおいを止めて!!」

 

「私も行かなければなりません」

 

しまった、親潮もこの機能が入ってる!!

 

「あ、朝霜ー!!」

 

「あかった!!任せな!!」

 

「終わったら単冠にも連絡して!!ダメーッ!!はっちゃんっ!!親潮も行かないのーっ!!」

 

「ダメーっ!!行っちゃダメーっ!!」

 

ジェミニと大淀は、彼の娘達を必死に止める…

 

《ヨナ〜、お父様の所に行かないと〜》

 

「あぁ…行っちゃう…」

 

《よいしょー!!》

 

ヨナの方の無線から誰かの声が聞こえた

 

《大丈夫だよヨナ。僕が付いてるからね??》

 

《そうですか〜??ヨナ、行かなくても〜大丈夫ですか〜??》

 

《大丈夫!!タナトスも大丈夫だよ!!》

 

《きそには逆らえんでち…》

 

「きそ!!助かったわ!!」

 

現れたのはきそ

 

横須賀にいた所、異変に気付き、スカーサハに乗り込んでくれていた

 

《レイに何かあったの??》

 

「分かんないのよ!!それよりっ、みんなレイの所に行こうとすんのよ!!」

 

「きそちゃん!!何とかなるかい!?」

 

《レイの演奏か…僕が止められるのはタナトスとスカーサハだけだし…考えろ…》

 

「大丈夫よ」

 

「ヒュプノス!!」

 

騒ぎを聞きつけ、ヒュプノスが執務室に来た

 

「はっちゃん、大丈夫。お父様を信じなさい」

 

「マーカス様が呼んでるんです!!」

 

「私達のお父様は、貴女達を危険な目に晒した事があるかしら??」

 

はっちゃんと親潮の動きが止まる

 

「どうして…ヒュプノスには効かないのですか??」

 

「私??私も効いてるわよ??お父様の命令だもの、絶対優先よ??貴女が一番良く分かってるでしょ??」

 

「親潮も、はっちゃんも、創造主様の命令で体が動きました…」

 

「そう…それでいいの。とても立派な証拠よ??だけど、今は違う…お父様は夢を見てるの」

 

「どういう事??」

 

落ち着いたはっちゃんと親潮を離し、ジェミニがヒュプノスの話を聞く

 

「ヘラから映像を貰ったわ。お父様は今、一人にした方がいいわ??久々に懐かしい夢を見てるのよ…」

 

「涼平送ったんだけど…」

 

「そうね…涼平君が来た時が、夢から醒める合図ね。あの船は夢を運んでいたのよ」

 

ヒュプノスは語る…

 

何もないと思っていた船内にあった真新しい食材

 

美しく整えられたベッド

 

そして、今マーカスがいるレストラン

 

あの船、サント・アンナマリア号は、霧の中にいる事

 

そして今、マーカスは霧の中で迷っている事…

 

「迷ってる??」

 

「そう…夢から醒めないか、それとも、また私達のいるここに帰って来るか…大淀もジェミニも、お父様の想い人なら覚えてるでしょう??お父様が極度の方向音痴なのを」

 

「そうね…レイは時々帰り道を見失うわ…」

 

「だったら尚更誰かが迎えに行かないと!!」

 

大淀の体が動くが、ヒュプノスが止める

 

「言ったでしょ??夢を見てるって…誰にも邪魔されたくないの、きっとね…涼平君がきっかけになるわ」

 

「帰って来るかしら…」

 

「大淀さんが送っちゃったから…」

 

「大丈夫、心配するな。よ??」

 

ヒュプノスの一言で、その場に居た全員が我に返る

 

「さぁ!!お父様が帰って来たらお腹を空かせてるわ!!お母様、皆でお料理しましょう!!」

 

ヒュプノスがそう言い、皆厨房へと移動する…

 

 

 

 

サント・アンナマリア号の中では、今まさに演奏が終わった…

 

喝采の中で、俺はマリオの所に行く

 

「ありがとう、マーカス」

 

「マリオ俺は…艦娘に同じ事をしようとした…」

 

「マーカス…顔を上げてくれ」

 

俺は顔を上げた

 

「救おうとしたんだろう??」

 

目を閉じて溢れる涙を堪える…

 

「その涙が答えだよマーカス。いつでも君は誰かを救おうとしてくれる…何もっ!!」

 

マリオに引き寄せられ、抱き締められ、背中を優しく叩かれる…

 

「間違ってないっ!!私達はいつも見てるぞ!!」

 

「すまない…ありがとうっ…」

 

「何も抱えなくていいんだマーカス。ありがとう、楽しかったよ!!」

 

「マリオ頼む行かないでくれ!!」

 

マリオの体が消えかかっている…

 

また、お別れの時間だ…

 

「夢から醒める時間だ、マーカス…」

 

 

 

 

「…長!!隊……」

 

「は…」

 

「隊長!!はぁっ…良かった…」

 

目の前には涼平がいた

 

舞台の上で倒れていたみたいだ

 

「眠ってたのか…ここで??」

 

「心配しましたよ…立てますか??」

 

「あぁ…すまん…」

 

涼平の手を借り、立ち上がる

 

「ダイジョーブ??」

 

「大丈夫みたいですね…良かった…」

 

いつの間にか深海の女の子もいる

 

「オニーサン、ドーシテシンカイノレストランニイタノ??」

 

「ここはやっぱりレストランか…」

 

「ウンッ、タマニココデパーティースルンダ!!ダカラカモツシツニ、ゴハンガイッパイアルノ!!」

 

「…」

 

俺が座っていた席には、皿とナイフとフォークがある

 

ただ…皿には何も入っていない…

 

何ならホコリを被っている…

 

ナイフとフォークも、ホコリに俺の手形が付いている…

 

俺は夢の中であれだけ美味いものを食ってたのか…

 

「口ゆすぎますか??」

 

「大丈夫だ…食ってない…」

 

「帰りましょうか!!」

 

「オソトマデミオクルネ!!」

 

「待ってくれ…」

 

入口でレストランの方を振り返り、舞台を見る…

 

「ありがとう…またな…」

 

礼を言い、レストランのドアを締めた…

 

 

 

 

「ココハネ??ズーットマエニヒトガイナクナッテ、ステラレチャッタノ」

 

「今は深海の子達のパーティー会場か??」

 

「ウンッ!!キリモデテルシ、ワカリニクイカラピッタシナンダ!!」

 

「世話になったな…そうだ、涼平を案内してくれたお礼だ」

 

リュックからチョコレートバーを2本取り出し、彼女に渡す

 

「ワー!!チョコレートダ!!イイノ!?」

 

「今手持ちがそれしかなくてな…」

 

「アリガト!!ダイジニタベル!!」

 

「隊長〜!!エンジン入れましたよ〜!!」

 

「じゃあな!!ありがとう!!」

 

深海の女の子は、チョコレートバーを持った逆の手で俺に手を振る

 

「よく場所が分かったな??」

 

《この船に乗ってから、隊長はここにいる〜って声がしたんです》

 

「あの子が案内したんじゃないのか??」

 

《あの子って誰ですか??》

 

涼平はキョトンとしている

 

《そう言えば隊長、何かさっきから自分以外と話してませんか??》

 

「怖い事言うなよ…そこに深海の女の子が…」

 

俺が入口の方を指差す

 

涼平がそっちに顔を向ける

 

《誰もいませんよ…》

 

「アカン!!帰るぞ!!離脱!!りだーーーつ!!」

 

《は、はいっ!!で、出ます!!》

 

涼平のOS2Uが出て、俺の強風も離れる…

 

「トドメに爆裂オバケは駄目だって!!」

 

《じじじ自分が聞こえた声もおおおオバケですか!?》

 

「いいい言っただろ!?オバケはヤバイって!!これで分かったろ!!」

 

《オバケはもう嫌です!!》

 

《やーっと繋がったわ??大丈夫??》

 

無線からヘラの声がした

 

《「オバケ見た!!」》

 

《はいはい、分かったから。ご飯作って待ってるわよ??》

 

「信じてねーだろ!!マジモンだからな!?」

 

《ホント怖かったんですから!!》

 

《二人が言うならよっぽどなのね…で??幽霊船はどうなったの??》

 

「…ない」

 

《ないってどういう事よ!!》

 

《ホントにないんです…》

 

今しがた飛んだばかりなので、眼下にあるはずなのだが…

 

本当にいなくなっている

 

それどころか、霧も晴れている

 

《…》

 

「…」

 

《…》

 

最初に口を開いたのはヘラ

 

《…あったわよね、船》

 

「あったよ…今ねーんだよ…」

 

《わ、忘れましょう隊長!!ヘラさん!!》

 

「あ、哨戒飛行中だったな!!」

 

《そ、そうそう!!哨戒中よ!!ほ、ほらアンタ!!しっかり操縦桿握って!!涼平!!アンタもよ!!》

 

《「は、はいっ!!」》

 

俺達は基地に戻った…

 

 

 

 

 

サント・アンナマリア号について、横須賀基地では口外禁止とする

 

当事者に聞いてもビビり散らかして話にならないので聞かない事とする




サント・アンナマリア号…豪華客船

1998年からずっとアメリカと日本を行き来していた豪華客船

直前の夜にマーカスはメチャメチャ怖い映画を見ていたのでビビり散らかして調査に入るが、そんな事は一切ない

深海棲艦と人間が開戦したとほぼ同時に攻撃を受けるが、乗組員や乗客の被害は無かった

レストランではとても美味しい料理が提供され、素晴らしい演奏と共に食事を楽しむ事が出来る

今では至る所がホコリを被っているが、時たまここで深海の小さなパーティーが開かれるとの噂



レストランエリアに近付くと、一種の幻覚が見える事がある

この現象については明らかになっていないが、レポート上ではマーカスが"船に対して御礼をした"事で船自体がそれに対して応じた事になっている

ただ、何故か本物のオバケが出る。こわいね

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