艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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題名は変わりますが、前回のお話から続き、後編になります

ある日、マーカスは第三居住区に向かいます

呼んだのは空母棲姫であり、涼平の想い人であるシュリさん

彼女の手には何かが握られていました



かなり重たいお話になります


326話 人魚姫

「ア、オイシャサン!!」

 

「よっ」

 

その日、珍しくシュリさんに呼ばれて第三居住区に来ていた

 

「オイシャサン。コレ」

 

シュリさんから渡されたのは1枚のレコード、それに黄色い宝石の様な物

 

「レコード??」

 

「アト、メッセージ」

 

手渡された手紙を開ける…

 

そこにはたった一文、それと座標だけ…

 

 

 

"おさんぽ"

 

 

 

と記されたそれと、座標を見て気付く

 

「これは横須賀の座標だ…」

 

「レコードキイテミヨウヨ」

 

「そうだな…」

 

とは言え、レコードの再生機をこのご時世探すのは難しい…

 

「珍しい物持ってるな??」

 

たまたま来たのは横井

 

「横井、レコードの再生機なんて無いよな??」

 

「あぁ、あるぞ。来てくれ」

 

横井に案内された先はみんなが集まっている繁華街の中心にある広場

 

「ア、ヨコイサン!!」

 

「ポップコーンをくれるか??」

 

「ハイ!!」

 

ロ級の子がポップコーンを売っている…

 

口でレバーを回すと、どんどんポップコーンが生成されて行く…

 

「先に売り上げに貢献しておこうと思ってな…」

 

「良い考えだな」

 

「ハイ!!ドウゾ!!」

 

「ありがとう。すまんが、その再生機貸してくれないか??」

 

「ウン!!イイヨ!!」

 

ポップコーン生成機の横には、客寄せの為の音楽が流れるレコード再生機がある

 

ロ級は口で器用に今乗っているレコードを取る

 

「どうぞっ」

 

「すまん、ありがとう」

 

そこにシュリさんから預かったレコードを乗せ、針を置く…

 

「昔のアイドルの歌だな…ファースト・ラブか…」

 

「懐かしいな…」

 

「リョーチャンガキイテタ!!」

 

二人してすぐに誰の歌か分かる

 

一世を風靡した時のアイドルの歌だ

 

今でさえその名は語り継がれている伝説のアイドルのその歌は、何処か悲しい歌詞が書かれている

 

曲が終わり、シュリさんに問う

 

「このレコードは誰から??」

 

「オンナノヒト。コレヲアノヒトニッテ。キットオイシャサンナラワカルッテオモッテ」

 

「分かった…少し調べ物をしたい。たいほうと早霜を頼む、後で迎えに来る」

 

「ワカッタ!!」

 

「横井、ありがとう。残りは二人にやってやってくれ」

 

「了解した」

 

俺が第三居住区から離れると同時に、遊びに来ていたたいほうと早霜がシュリさん達の所に来た

 

「なにきいてるの??」

 

「早霜も…聞きたい…」

 

「オッケー!!オイデ!!」

 

たいほうと早霜はシュリさんの太ももの上に座る

 

「マーカスからだ」

 

「ありがとう!!」

 

「ありがとう…ございます…」

 

横井は二人にポップコーンを渡し、何となくそのレコードを二人に聞かせる

 

再び流れる同じ歌…

 

ポップコーンを食べながら、二人共レコードの再生機を見ている…

 

「コノウタシッテル??」

 

何気なくシュリさんが聞く…

 

「うん!!すてぃんぐれいがね、ねんねするときにうたってくれるの!!」

 

「早霜の…子守唄…」

 

それを聞き、シュリと横井が視線を合わせる

 

「コモリウタナノ??」

 

「うん!!」

 

「みんなに歌ってくれるのか??」

 

「みんなに歌う…みんな寝ちゃうの…」

 

子供の正直な感情は、大人にとって大きなヒントを与えた

 

今、再生機に入っているレコードの歌は彼の子守唄

 

それを持って来たという事は、この歌を歌って貰った記憶がある子だ

 

つまりは、子供という事になる…

 

 

 

 

俺は横須賀に戻って来た

 

「親潮。ちょっと通信機借りるぞ」

 

「此方をどうぞ」

 

親潮から通信機を借り、ある場所に繋げる…

 

「俺だ、マーカスだ」

 

《おや…マーカス。レコードは受け取りましたか??》

 

繋げた先は宗谷

 

一つ、考えられる事があったからだ

 

どうやら勘は当たったみたいだ

 

「受け取った。誰からあのレコードを??」

 

《名は分かりません…語らなかったので。ただ、どこもかしこもツギハギで、レコードを渡してすぐに何処かに向かってしまいました》

 

「ありがとう…それが聞ければ充分だ」

 

《マーカス。やはり貴方は深海に好かれる…その娘も貴方に思い入れがある様子でした。敵対する意識が微塵も感じられませんでした》

 

「ん…分かった。ありがとう」

 

《ではまた》

 

宗谷との通信を切る

 

「少し出掛けて来る」

 

「畏まりました」

 

俺が執務室を出て、すれ違い入れ違いの様にジェミニが執務室に入る

 

「親潮。レイ来た??」

 

「はいっ。入れ違いでつい先程出て行かれました」

 

「参ったわね…レイ、レコードがどうとか言ってなかった??」

 

「言っておられました。宗谷様に繋げて、それが聞ければ充分だと仰っていました」

 

「そっかっ…分かった、ありがと」

 

ジェミニは顔を抑える

 

「何かあったのですか??」

 

「ん…私も事情は良く知らないんだけどね…」

 

ジェミニはいつもの椅子に座る

 

お話が始まると思ったのと、少しの異変に気付いた親潮は自身の椅子をジェミニの方に向ける…

 

そして、ジェミニは語り始める

 

「昔ね??レイはある研究所に行ったの…」

 

 

 

 

 

話は数年前にさかのぼる

 

俺は自衛隊の研究所に視察に来ていた

 

そこでは艦娘の技術は勿論、深海の技術も開発研究されていた

 

「…」

 

言葉に出来ない程、惨いものもあった

 

後々気付く事になるのだが、深海や艦娘は大まかに2つに分けられる

 

人の手によって産まれた者

 

人によって後付けされた者

 

この研究所では、前者の人の手によって産まれた方を開発研究していた

 

苦しそうに自衛隊が造ったカプセルの中でもがく命…

 

肥大化したり、未熟な状態の四肢がある命…

 

体が崩れていた命もあった…

 

…見ていられなかった

 

そして行き着いた先は…

 

「そこはなんだ」

 

最後に辿り着いたのは、重圧そうな鉄の扉

 

「ここですか??見て楽しい物ではありませんよ…」

 

そう言われ、中を見せて貰う…

 

「…そういう事か」

 

「この扉からは人工的に造られた物を。天井からは適性がある者が失敗した際にここに"廃棄"されます」

 

その場に屈み、一人の手を取る

 

…もう冷たくなっている

 

体の一部が深海化しているのを見ると、彼の言った通り失敗のだろう

 

「おい!!」

 

急に扉が締められた

 

「残念だマーカス。どうやら分かって貰えなかったみたいだ」

 

「出せ!!」

 

「いいや無理だね。そこで死んで貰う」

 

「クソッ…」

 

命の残骸と共に、ここに閉じ込められた…

 

地下のせいか、通信機器も繋がらない

 

考えろ…どうすればいい…

 

「お前はよく頑張った…」

 

最初は辺り一面にある深海の一部分を探った

 

一部の深海の艤装は、生体エネルギーを用いているのを知っていたからだ

 

それがあれば…

 

 

 

 

何時間やったか分からない…

 

途中、何度か扉を開けようとしたが、何をしても開かない

 

使えそうな深海の部位は幾つか見つかった

 

だが、何もかも足りない…

 

生体エネルギーを用いた砲はあったが、こんなチンケな砲じゃ、あの扉を撃ち抜けない…

 

それに…この砲は深海の子が装備しなければ効果が出ない

 

最初考えたのは、俺が深海化してここから脱出するのが一番の得策だと考えた

 

だが、あまりにも失敗のリスクが大きい

 

ましてや体力を失って、ここで倒れるのだけは避けたい

 

なので艤装を探していた

 

鋭い槍のような部位

俺でも扱えそうなナイフの様な部位

生体エネルギーを用いた砲、小型の銃

そしてその砲弾、銃弾

 

これだけしか集まらなかった

 

せめて大淀と通信出来れば、弾の精製方法が聞けるのだが、それも無理そうだ

 

考えろ…どうすればいい…

 

あの扉、もしくは天井…

 

考えられるのは、入って来た扉だ

 

せめてあそこを"二人がかりで"開けられれば…

 

深海の力なら、二人がかりなら行けるハズだ…

 

だが、ここにあるのは命の残骸…

 

「…ダメだダメだ」

 

ふと、最悪の事が頭を過った

 

それだけはしてはダメだ…

 

何があっても…

 

 

 

 

一晩経った

 

時計は動いているので、時間は分かっている

 

ジェミニか大淀が気付いているといいのだが…

 

「…はっ」

 

急に天井が開く

 

近くにあった影に隠れ、様子を伺う…

 

「ここにマーカスを閉じ込めたんだろ??」

 

「その内死体に埋もれて死ぬさ。それか…もう死んでるかだ!!」

 

上から何かを落とす…

 

ドサッ…ドチャ…と、また失敗した命がここに来る

 

天井が締まるのを確認し、落ちて来た命の残骸を見る…

 

落ちて来たのは3体…

 

そのどれもが、まだ何処か温かい…

 

「あっ…」

 

3体の内の1体に触れた時、異変に気付く

 

まだ息があった

 

だが、もう治療をしても命を繋ぎ止めるのは難しいだろう…

 

体の至る所が欠損している

 

生体艤装を剥ぎ取られたのか、出血も酷い

 

それでも…

 

それでも、医者としてどうしてもこの子を救いたいとの思いが勝った

 

ここから出るのは後でも良い…

 

「スゥ…ハァッ…」

 

深く深呼吸をする…

 

何とか手に入れたナイフに近い部位を手に取り、命の残骸の山の前に立つ…

 

「すまん…許せっ…!!」

 

医者として、今から禁忌を犯す…

 

頭の中に過った、最悪の行為をする事になる…

 

 

 

 

俺は…

 

俺はその日…

 

 

 

 

死体から命を産み出そうとした…

 

 

 

 

 

「よし…」

 

ツギハギの少女の命が足元にある…

 

見繕った服も長いワンピースの様な布でしかなく、胸元までしか無い

 

肌の色も部位によって違う

 

だが、最低限これで動く事は出来るハズだ…

 

残りの問題は心拍が弱まっている事…

 

何か一撃で電気ショックを当てられる物があれば良いが…

 

動き出したとしても、持って30分か…

 

「やるしかない…」

 

腕時計のタイマーを30分にセットし、タブレットのバッテリーを取り出す

 

一撃しか電力は残っていないが、どのみちここにいる時点で通信は出来ない

 

解体したバッテリーに簡易ではあるが、電極を付け胸部分に付ける…

 

「ア、ガッ…!!」

 

体が跳ね上がり、呼吸が戻る

 

「すまない…お前に復讐の機会を与えてやる代わりに、少し手伝ってくれ…」

 

そう言って、手を差し伸べる…

 

言う事を聞いてくれるかどうかすら分からない…

 

だが、すぐに手を取り返して立ち上がってくれた

 

言葉もない、表情もない

 

ましてや自分の為だけに産み出した様なものだ…

 

地獄に引き戻したんだ…

 

許してくれなんて…言えなかった…

 

「よし…一気に開けるからな…」

 

言ってる事が分かるのか、少女は反対側に付いてくれる

 

「行くゾ!!」

 

深海化し、扉をこじ開ける

 

「なんだ!!」

 

「クソ!!緊急配置急げ!!」

 

「アケェェェエ!!」

 

鉄が潰れる音を出し、重圧な扉に人が通れる穴が出来る

 

「ヨしっ…出るぞ!!」

 

俺の声に気付き、少女は一度此方を向いたが、何かに気付いて一度元の場所に戻る

 

「そっかっ…そうだなっ…」

 

持って来たのは俺が何とか手に入れた艤装の類い

 

それを手にいっぱい抱えて戻って来た

 

「俺にくれるのか??」

 

俺の前に"取れ"とそれを突き出す

 

「俺はこれでいい。使い方は分かるか??」

 

ナイフの様な艤装を取り、残りは少女に預ける

 

すると、ぎこちなさそうにではあるがちゃんと手に持ってくれる

 

深海としての本能なのか、自分を殺した相手に対しての恨みがそうさせるのか…

 

「よし…行くぞ!!」

 

俺が先に出て、少女の手を取り、地獄から引き摺り出す

 

「マーカスめ…撃て!!」

 

「行けるか??」

 

少女は表情無く俺の顔を一度見て、砲を構える

 

「撃て!!」

 

俺の合図と共に、高火力の砲弾が撃ち出され、瞬く間もなく粉微塵になる

 

奴等が求めていた物に命を刈り取られる

 

因果応報とはこういう事を言うのだろうな…

 

たった30分の旅路だ…

 

この子に今与えられる事は、存分に復讐させてやる事だろう…

 

「行こう!!外にお迎えが来てる!!」

 

頷く事も言葉を発する事もなく、俺の方に着いて来てくれる…

 

 

 

 

 

「そっか〜、この基地で反応が消えたんだけどね〜」

 

「存じ上げませんね」

 

少し前、この基地に二人の女性と一人の男性が執務室に面談に来た

 

「分かりました。ただ、監査はさせて頂きます」

 

「お断りします。国家機密がこの基地には多数あるので」

 

男性の言葉に、国家機密を盾に断りを返す

 

「いいよそれでも。でも、レイ君がこの基地にいたって事が分かったら…その時は分かってるよね??」

 

「いないと何度言ったら分かる」

 

「エドガー、そっちはどう??」

 

《今地下に向かっています》

 

「何を勝手にしている!!」

 

一人の女性の無線器越しに聞こえた男性の声に、この基地のトップが反応する

 

「ここ出身の子が一人いましてね…帰省したいと申し出があったので連れて来たまでです」

 

「勝手な真似をするな!!」

 

「そう怒らないで下さい。だってここにはマーカスはいないのでしょう??なら監査であれ帰省であれ、焦る必要はないはずです」

 

「すぐ引き戻せ!!早くしろ!!」

 

「あ~も〜うるさいなぁ!!殺すよ??」

 

一人の女性の名は大淀

 

大淀はゴタゴタ言うトップに対して、途轍も無い速さで拳銃を引き抜く

 

「大淀、待って」

 

「いた瞬間殺すからね」

 

そう言って、大淀は右腰のホルスターに拳銃を仕舞う…

 

《エドガーさん、こちらです》

 

《ありがとうございます》

 

《行け!!撃て!!》

 

《おっと!!》

 

「エドガー??」

 

しばらくエドガーの声が聞こえなくなり、同時に発砲音、金属音、砲音が無線器から聞こえて来た

 

《あぁ…お気になさらず!!クリア!!》

 

《そちらで監視カメラを見れる方はいますか??》

 

ここで産まれたと言っていた少女が、もう一人の女性に問う

 

「大淀さんのタブレットがあるよ!!」

 

「動くな」

 

今度は男性が拳銃を取り出す

 

「こちとら部下の命が掛かってる」

 

「くっ…」

 

《待って下さいね…今接続します》

 

「ありがとうね鳥海ちゃん!!」

 

エドガーの道案内兼護衛をしている少女の名前は鳥海

 

ここで産まれて、今はトラックさんの所にいる重巡の艦娘だ

 

《普段お世話になっているので、これ位させて下さい。転送しました!!》

 

「どれどれ…」

 

大淀の手元のタブレットに監視カメラの映像が映し出される

 

「お〜お〜、誰か随分やってるねぇ!!」

 

「これを見ても身内の謀反と仰られますか??」

 

「うっ…」

 

女性がタブレットを彼に見せる

 

血だらけの研究室内

 

飛び散った血肉、四肢の類い

 

普通の人間が見たら吐き気を催す様な光景だが、今ここにいる三人、そして監査に向かった二人は見慣れた光景

 

《大淀さん!!3番カメラを!!》

 

「オッケー、了解!!」

 

鳥海に言われた通り、大淀はタブレットの画面を切り替える

 

《あの二人だ!!撃て!!表に出すな!!》

 

自衛隊の焦った声が聞こえた直後、聞き覚えのある声が聞こえた…

 

《構え!!砲撃開始!!》

 

その直後、カメラが砂嵐になる

 

「あ!!レイ君!!」

 

「答えは出ましたね」

 

「ま、待て!!頼む…謝罪はする!!」

 

「表でレイを待とう。治療が必要になる!!」

 

「了解です。私は緊急搬送の準備を!!」

 

「これは返して貰うよ」

 

「あっ…」

 

大淀はタブレットを彼から取り返し、腰のポーチに仕舞う

 

「あ、そうそう!!」

 

「まだ何かあ…」

 

直後、大淀の拳銃が彼の額に放たれる

 

「殺すって言ったでしょ??」

 

「大淀、行くわよ!!」

 

「オッケー、ジェミニちゃん!!」

 

今まさに目の前で起こった光景を、もう一人の女性であるジェミニは眉一つ動かす事無く見ていた

 

…誰かと全く同じ撃ち方

 

…誰かと同じ仕舞い方

 

そして、誰かと同じく目にも止まらぬ速さで拳銃を構えるあの仕草…

 

容赦の無さは大淀の方が上だが、自分の愛した人と同じやり方をする大淀を見て、ジェミニはほんの少しだけ嫉妬していた…

 

 

 

 

もう少しだ…もう少しで外に出られる…

 

「待て。ここは通さん」

 

一人の研究者、それと後ろに多数の自衛隊の連中が小銃を構えて立ち塞がる

 

「退け。時間がない」

 

「禁忌を犯した貴様を通す訳には行かんな」

 

コートのポケットの中で左手を強く握る…

 

言われなくても分かっているのに…

 

救いを与えなかったのは貴様等の方のハズなのに…

 

「殺せ」

 

少女が砲撃する

 

たった一撃で多数いた人間が木っ端微塵になる

 

「ははは…我々が欲していたのはその力だよ…」

 

下半身を失っても、未だ研究者だけは生き延びていた

 

地べたを後退る彼に向かって、少女は砲を向ける…

 

「…もういい」

 

砲に手を置くと、スッと下げてくれた

 

「貴様っ…本当に医者かっ??ゴフッ…死神じゃないのか…人の生死まで操って…」

 

血を吐きながらも最期の最期まで悪態を吐く彼の前に立つ

 

「眠れ…せめて安らかに…」

 

乾いた銃声が一発響く…

 

「さぁ!!出るぞ!!」

 

ようやく外に繋がる扉を開ける…

 

 

 

 

太陽が眩しい…

 

少女が先に出て、辺りをキョロキョロ見回している

 

「あ!!レイ君!!」

 

「レイ!!良かった…」

 

フラフラの状態で何とか外に出て来た…

 

大淀とジェミニに抱えられ、膝が落ちそうになる…

 

「あの子は何処にいる…」

 

「あの子って、一緒に出て来た子??」

 

「もう時間がないんだ。退け、退いてくれっ…」

 

「あっ…」

 

「ちょっとレイ!!」

 

二人を押し退け、少女に寄る…

 

「すまん…許してくれなんて…言えないよな…」

 

少女は海の方を見ている…

 

俺は背中から話し掛けるが、相変わらず反応は無い

 

「ゔっ…」

 

ここに来て体の限界が来る

 

「レイ君!!」

 

「しっかりなさい!!」

 

再び二人に両脇を抱えられ、何とか立ち上がる

 

「何も、させて…やれなかったなっ…」

 

それでも反応は無い…

 

「…はっ」

 

その時、持っていた砲が地面に落ちた…

 

「頼む…この子の前に回してくれ…」

 

「分かったわ…」

 

二人に抱えられ、少女の前に回る…

 

「許してくれ!!許してくれ許してくれ…」

 

少女の顔を両手で持つ…

 

少女は目を閉じ、既に事切れていた…

 

「まだ何もしてやれてないんだ!!」

 

「もういい…もういいのレイ…」

 

「何かしてやれないか…何でも良い…誰か教えてくれ!!」

 

「レイ君。抱き締めてあげるのはどうだい…人が一番最初に産み出して、一番愛情を伝えられる行為だ」

 

大淀にそう言われ、少女の亡骸を抱き締める…

 

「こんな事しかしてやれないのか…」

 

ツギハギの部分が落ちて行く…

 

命が一つ…また腕の中で落ちて行く…

 

腕も…足も…何もかも、腕の中で崩れて行く…

 

「…」

 

「…タナトスに行きましょう??」

 

「さ…行こう、レイ君…」

 

「…もう何もしてやれないのか」

 

「アンタが無理ならもう…」

 

「レイ君…一つ教えたげる…想いを遂げた艦娘や深海はね…死んじゃう事があるんだ…」

 

「この子は恨みを果たしたから…」

 

「違うわレイ」

 

「レイ君違うよ」

 

「頼む言わないでくれ!!頼む…」

 

「ダメ、言うわ。その子は恨みを晴らしたから死んだんじゃない」

 

その後の言葉はほとんど耳に入らなかった

 

そんなハズがない

 

あってはならないんだ、それだけは

 

俺は泣いた

 

それだけは聞きたくなかった

 

だから、泣いた

 

愛されてると分かったから

 

深海は愛してくれる人の所に行こうとする

 

最期の最期に、この子は愛された…

 

確か二人はそう語っていた…

 

俺は無理矢理タナトスへと放り込まれた

 

「タナちゃん。準備はいい??」

 

「創造主が心配でち…」

 

「ん…良い子だ。今はこの場を離れよう。レイ君が嫌な思いをずっとする事になっちゃう」

 

「…了解。目標無し、緊急出航」

 

タナトスが抜錨する…

 

俺は医務室でずっとあの少女を何とかしてやれないか悩んでいる…

 

…もう、打つ手はない

 

一度死んだ者を無理矢理動かしたんだ

 

とっくの昔に体も、脳も死んでいる…

 

俺にもきそにも、もう打つ手はない…

 

《隊長??》

 

艦内の無線が聞こえる…

 

声の主は涼平だ

 

あの基地に涼平の姿は見えなかったが…

 

《あぁ…涼平君かい??今どこにいるんだい??》

 

《タナトスの上空です。先程の基地の偵察に向かっていましたが、元帥から撤退を命じられたので帰投の最中です》

 

《そっか…なら、レイ君の事は聞いたね??》

 

《はい…隊長に伝えて頂けますか??もう一つ、してあげられる事があると》

 

涼平の無線を聞き、顔を上げる

 

《なんだい??》

 

《近くに自分の故郷があります。そこなら…一人じゃありません》

 

《あの島だね…オッケー、タナちゃん、目標設定》

 

《了解》

 

「涼平か」

 

ここでようやく無線を取る

 

《隊長!!やっと声が聞けました…》

 

「すまん…ありがとう…」

 

《自分にはそれ位しか思い付きません。せめてもの手向けになるのなら…》

 

「充分だ。ありがとう…」

 

《一度シュリさんの所に戻って、そっちに行きます》

 

「了解した」

 

涼平との無線を切り、また少女の所に戻る…

 

涼平は言ってくれた…せめてもの"手向け"と…

 

俺に今出来る、この子に出来る手向けは何だろうか…

 

少しだけ考えた後、白衣に着替えた…

 

 

 

「…」

 

手術台には、綺麗に接合された少女がいる

 

マスクとサージカルキャップを捨て、もう一度少女を見る

 

五体満足で送り出してやるのが、せめてもの手向けと考えたからだ

 

後は…

 

「…ジェミニ」

 

メインルームに内線を繋げる

 

《なぁに??》

 

「ちょっと来てくれ」

 

《分かったわ、すぐ行く》

 

一分もしない内にジェミニが手術室に来た

 

「どうしたの??」

 

「…」

 

声も出さずに、目で合図する…

 

「そっか…ちゃんと繋げて貰ったのね…」

 

何の抵抗も無く、ジェミニは少女の前髪をかき上げ、そして頭を撫でる

 

「"お父さん"に綺麗にして貰ったのね…」

 

ジェミニの一言で胸が抉られる…

 

「それで…私を呼んだのはなぁに??」

 

「お前、化粧得意か」

 

少女の横の台には、お粗末な化粧道具が置いてある

 

「分かったわ…さっ、綺麗にしてあげるわね…」

 

椅子に座り、ジェミニが化粧をする姿を眺める…

 

傍から見れば親が子に教える一番最初の化粧…

 

だがそれは、最初で最後の母と娘のおめかし

 

「レイ、そろそろ朝霜達にも化粧…レイ??」

 

 

 

 

「追って来たね…タナちゃん、警戒して」

 

「敵味方識別装置…アンノウン反応。合計2隻。フリゲート艦、掃海艇」

 

「ホワイトベル。そっちはどう??」

 

《無線と発光信号に応答はありません》

 

「そっか…了解。アンノウン反応2隻を…」

 

「アンノウン艦艇を敵艦反応に変えろ」

 

「レイ君!!」

 

艦長席に座り、足を組んでモニターを見る

 

「創造主…」

 

「追従する敵艦を撃沈する。攻撃態勢に移行」

 

「了解。攻撃態勢に移行」

 

「レイ君…君はまだ…」

 

「奴等にも手向けて貰う。砲撃開始」

 

「了解。砲撃開始」

 

背部ハッチから対艦ミサイルが放たれる

 

そのままの体勢でモニターを見る…

 

「敵性フリゲート艦、大破」

 

「掃海艇に速射砲を撃て」

 

「了解」

 

「ま、いっか!!」

 

「掃海艇、撃沈」

 

「鳥海。まだ敵艦は動けそうか」

 

《いえ。タービンを破壊されたので航行不能です》

 

「お前の分だ。それで許せ」

 

《は、はいっ!!》

 

「フリゲート艦の艦橋に無線を繋げろ」

 

「了解」

 

モニターの隅に音波グラフが表示される

 

「接続完了」

 

「不様だな」

 

《何故ここまでする…》

 

「お前達は何人命を無駄にした」

 

《国家プロジェクトなのだ…新しい物を産み出すには、犠牲がいるのだ…》

 

「命を部品にしたその時点で破綻していたんだ」

 

一呼吸、二呼吸置いて、無線の反応が戻る

 

《そうだな…国家プロジェクトを盾にしていたのかもしれない…》

 

「言い残す事はあるか。それ位聞いてやる」

 

《間際にそう言って貰えて良かったよ…死神。君に殺されるなら本望だ》

 

「俺はお前を恨んじゃいない…ただ…」

 

《…なんだ??》

 

「お前達はあまりにも恨みを買い過ぎた」

 

《死ね》

 

別の無線が入り、フリゲート艦の艦橋からの無線が途絶える

 

《…鳥海の想いはここで終わりました》

 

艦橋にトドメを刺したのは鳥海の砲撃だった

 

「戻れ鳥海。お前はまだやる事がある」

 

《何でしょう》

 

「お前の帰りを待ち侘びてる、俺の友達がいる」

 

《そうでした!!司令官さんの所に戻るのが鳥海の任務です!!》

 

「その前に…もう一つだけ手伝ってくれるか??」

 

《勿論ですマーカスさん。すぐに向かいます》

 

鳥海との無線も切れる…

 

「目的地まで操縦を頼む」

 

「レイ君はどうするの??」

 

「もう一つ、してやれる事が見つかった」

 

手術室に戻ると、ジェミニの化粧が終わっていた

 

「こんな感じかしら??」

 

「ありがとう…そういやお前、さっきお父さんって言ったな」

 

「そうね…傷付いたなら謝るわ…」

 

「…一つ、まだやれる事が残ってたよ」

 

少女の横に座り、お腹に手を乗せる…

 

そして、子守唄を歌う…

 

俺がもし…

 

俺がもし、父親としていられるのなら…

 

最後にしてやれるのは、この子を目一杯子供として見送ってやる事だ…

 

反対側ではジェミニが同じ歌を歌ってくれている…

 

…到着まで、あと少し

 

 

 

 

 

「創造主のメンタルが落ち着きを見せています」

 

「良かった…あんなパニック起こすレイ君滅多に無いからね??」

 

「にしても大淀。相変わらず淡白でちな」

 

「大淀さんはレイ君以外興味無いからね。敵が死のうがどうしようが知ったこっちゃない。だけど…もしレイ君が救いたいって言うなら、大淀さんはいつだって手を貸すよ??」

 

「…ホントにタナトスを造ったか疑うでち」

 

「そういやタナちゃんも母性が産まれてるね??大淀さん、そんなプログラムした覚え無いんだけど」

 

「創造主は放っておくと何するか分からんでち。最初は心配からこうなったでち」

 

「そっか。良い事を聞けたよ!!」

 

「論文でも書くでちか??」

 

「どうだろ。ただ、凄く興味深いよね??破壊行動しかプログラムしてないのに、どうして母性が発現するか…他の子もそうなんだ」

 

「守りたいって思うのは母性の特権でち。大淀、オメーもそうでち」

 

「大淀さんは…」

 

「死物狂いでも創造主を護る…これが母性と言わずに何と言うでち。ジェミニを見るでち。創造主を顎で扱ってても、護る時はちゃんと護るでち」

 

「ジェミニちゃんは凄いよね…大淀さんは真似できないや…」

 

「大淀…大淀がジェミニに勝てる事が1個あるでち。そこは決定的に違うでち」

 

「何かな!!」

 

「大淀は創造主をどこにいても連れ戻せるでち」

 

「好きな人にはいつでも会いたいじゃん??それだけだよ…」

 

「そういう事でち。そうでち!!よく考えれば!!あの巨乳好きの創造主を落としただけでも胸張って良いでち!!」

 

「そう…かな!!そうだよね!!」

 

「ま、この話は帰ってか目的地付近です」

 

「ふふふ!!タナちゃんは面白いなぁ〜!!」

 

「これどうにかならんでち??」

 

「なったとしても可愛いから変えたげな〜い!!」

 

 

 

 

 

とうとう着いてしまった…

 

「さ…レイ…」

 

「ん…」

 

簡易な布しかなかったが、ジェミニは手作りの布で作った花の髪飾りを少女に付けてくれている

 

服もまるでウェディングドレスの様にしてくれてある

 

「さ…行こうか…」

 

ジェミニと一緒に少女を担ぎ上げ、手術室から出る…

 

「よしよし…みんなでっ、送ってやろうなっ…」

 

「行きましょう…」

 

手術室から出ると、隊長とエドガーも担いでくれた

 

既に大淀は外にいる…

 

タナトスから出ると、皆が待ってくれている

 

「オイシャサン…タイヘンダッタネ…」

 

涼平と一緒にシュリさんがいる

 

大淀と鳥海が隣にいるのが見える…

 

「オイシャサン…コノコ、シンカイノコネ??」

 

「そうだ…俺が地獄から引き摺り出した…それなのに、救ってくれたんだ…」

 

「ソッカ…ガンバッタンダネ…」

 

シュリさんは少女に額を合わせる…

 

「オイシャサン。コノコ、スイソースル」

 

「水葬か…」

 

「ン…ハハナルウミニカエルノ。ソウシタラ、マタモドッテコレルノ」

 

「見送ってくれるか??」

 

「モチロン…」

 

タナトスの甲板に移動し、少女を降ろす

 

「最期よ…何か言う事があれば今の内よ…」

 

ジェミニの言葉に、少女の前で屈む

 

手を握って、言葉を掛ける…

 

「産まれて来てくれて、ありがとう…

 俺に父親をさせてくれて、ありがとう…」

 

その場にいた全員が、それぞれ「ありがとう」と言葉を掛ける…

 

最後はネガティブな言葉で送るのは辞めた

 

シュリさんの言った通り、またいつか戻って来るならば…

 

今度はもっと、父親でいてやりたいと願うよ…

 

そうして、少女の命は碧い海へと還って行った…

 

 

 

 

「その様な事が…」

 

「その後、その場にいた全員で決めたの。今日あった事は口外禁止。その場にいる全員に箝口令を命じたの」

 

「それで創造主様の口からも聞けなかったのですね…」

 

「そうね…余計苦しめたのかもしれないわ…」

 

 

 

 

 

 

………

 

……

 

 

少女は綺麗な装束を身に纏い、眠りに付いている…

 

「シンカイノコダ…」

 

一人の深海棲艦が、少女を見つける…

 

その深海棲艦はすぐに少女が死んでいる事に気が付いた

 

「ボクガツレテッテアゲルネ…」

 

口の中に少女を入れ、ある場所へと泳ぐ…

 

ずっとずっと泳ぎ、その場所に辿り着く…

 

重たい扉を開け、中に入り、広間の真ん中に立ち尽くす…

 

「おや…お客人ですか??」

 

階段から降りて来たのは一人の女性

 

「コノコツレテキタ」

 

その深海棲艦は口から少女を出し、床に落とす

 

「そうでしたか…ここは数多の命が眠る場所…よく連れて来てくれました…」

 

「ツギハギダネ…」

 

「どれ…」

 

女性は少女に額を合わせる…

 

「そうですか…彼に"救われた"のですね…最後の最期に、温かい記憶があります…」

 

「ココナラサミシクナイ??」

 

「淋しくありませんよ…さぁ…」

 

女性は少女を持ち上げ、泉に浸す…

 

「もし願うのならば、報復の無い海へ…

 もし叶うのならば、愛する人の地へ…」

 

「モシネガウノナラバ、ホーフクノナイウミヘ…モシカナウノナラバ、アイスルヒトノチへ…」

 

女性も深海棲艦も、同じ言葉を繰り返す

 

そうして少女は、皆のいる泉へと泡になって消えて行く…

 

「おや…これは珍しい…」

 

女性の足元に、黄色い宝石の様な物が転がっている

 

「ソレナァニ??」

 

「これは深海棲艦の心臓部…普通ならここに入った時に砕けてしまいますが…そうですか、残りましたか…」

 

「スゴイキレーダネ」

 

「これは深海の力を飛躍的に高める効果もあります…悪い者はこれを使って悪巧みをしますが…これを貴方が思う一番強い人に届けて下さい」

 

「ワカッタ」

 

「一番強い人と、これを全うに使う人は別です。ですが…最後は必ず全うに使ってくれる人に行き渡るでしょう。貴方も分かっているはずです」

 

「ウン。キットトドケルヨ!!」

 

「よろしくお願いしますよ。あぁ…一つ伺っても??」

 

「ナァニ??」

 

「どうして彼女を救おうと??」

 

「ボクモソウサレタンダ…ケガシタトキ、タスケテモラッタ」

 

「ふふ…きっと同じ人でしょう…では、頼みます」

 

深海棲艦は少女の代わりに宝石を口に入れる…

 

深海棲艦はそのまま女性のいた場所から離れる…

 

向かった先は…

 

「オカエリ。ズイブンオソカッタノネ??」

 

「タダイマ。コレ、アゲル」

 

第三居住区で待っていてくれた、深海のギャルの所へ宝石を届ける

 

「アラ、トッテモキレイ…ドウシタノコレ」

 

「イチバンツヨイヒトニアゲテネッテ」

 

「ソッカ〜イチバンツヨイヒトカ〜アリガトッ!!サ、オイデ、ゴハンデキテルヨ!!」

 

そうして、少女は父親の所へと戻って行った…

 

 

 

 

 

第三居住区に戻って来た

 

たいほうと早霜を迎えに来たついでに、一つ頼み事をせねばならない

 

「頼みがある」

 

「アラ、マーカスサン。ワタシタチニデキルコトナラ」

 

俺が来たのは戦艦棲鬼姉妹の所

 

理由があって、二人にお願いしに来た

 

「突然で悪いんだが…横須賀で歌を歌ってくれないか…」

 

「モチロン」

 

「ドンナオウタ??」

 

「これなんだが…」

 

横須賀から持って来たレコードプレーヤーにあのレコードを入れ、二人に聞かせる…

 

「ナツカシイワ…」

 

「オーネンノアイドルネ…」

 

「…一人、深海から帰って来る。その子はもしかすると道に迷ってしまうかもしれない。覚えているのはこの歌だけなんだ」

 

「ワカッタワ!!」

 

「マーカスサン、アリガトウネ」

 

「俺に出来るのは今はこれ位だ…ま、後は出来る事は山程ある!!」

 

「ソウトキマレバイキマショ!!」

 

「レッツゴー!!」

 

二人は早速準備の為に横須賀に向かってくれた

 

「いっぱいかいもらった!!」

 

「お家に帰って…焼いてもらうの…」

 

タイミング良く二人も戻って来た

 

「今日はな、横須賀で楽しい事があるからな??」

 

「ありがとうございました!!」

 

「ありがとう…ございました…」

 

「マタアソビニキテネ!!」

 

二人はちゃんと深海の子にお礼を言い、高速艇に乗る

 

「すてぃんぐれいはぐりふぉんでかえるの??」

 

「そっ。今日はてんてこ舞いなんだ!!」

 

「ヨイショッ…」

 

シュリさんも高速艇に乗る

 

「ワタシモイク!!」

 

「オーケー、二人を頼んだぞ!!」

 

「オッケー!!」

 

高速艇を送り、グリフォンに戻る…

 

「忙しいな、マーカス」

 

帰り際、横井が話し掛けて来た

 

「ふふ、暇しないのはっ…いい事さっ!!」

 

行く前に一服だけ済ませるため、タバコに火を点ける

 

「私はあのレコードの真相は分からない…だがな、マーカス」

 

横井の言葉に一度彼の顔を見る

 

「本気の貴様に、間違いは無いと思ってる」

 

「…横井」

 

「なんだ??」

 

「俺はある子に、初対面で酷い事をしてしまった…」

 

「…」

 

横井は黙って俺の言葉を聞く…

 

「今日、その子が横須賀に帰って来る…もう一度、やり直せるだろうか…」

 

「もう一度言っておく。本気の貴様に、間違いは無い。白露とフーミーを救ってくれた時から私はそう思ってる」

 

「そっか…そうだな!!」

 

「何度だってやり直せる。今お前は生まれ変わったんだ。そう教えてくれたのは貴様と涼平のはずだったんだが??」

 

「ありがとう…もう一回、頑張ってみる!!」

 

横井は少し笑った後、頷いてくれた…

 

 

 

 

 

横須賀に戻ると、海岸では慌ただしく準備が進められていた

 

「隊長!!」

 

海岸に来るとすぐに涼平が気付いてくれた

 

「元帥から聞きました。戻って来るんですね…」

 

涼平の言葉に頷く

 

「お腹、空かせて来ますかね??」

 

「何か作ってるのか??」

 

「たいほうさんと早霜さんが貝焼いてます」

 

「おいしそう!!」

 

「いい匂い…」

 

「モウチョットマッテネ!!」

 

涼平の視線の先では、涼平の焚き火が既に占領されており、そこで貝が焼かれている

 

「ここにマシュマロがある」

 

帰って来た時に匂いで気付いた

 

多分焚き火で貝か何か焼いてるのだと

 

なのでジェミニの引き出しから高級マシュマロを頂戴して来た

 

「…これ高い奴では??」

 

「ジェミニの引き出しから頂戴して来た。焼いて食べてみてくれ」

 

「何勝手にパクってんのよ!!高いのよそれ!!」

 

タイミング悪くジェミニが来た

 

「後で買ってやるから!!」

 

「仕方無いわね…今回だけよ!!てな訳で涼平、焼いて頂戴」

 

「了解です!!」

 

ジェミニと涼平は焚き火の所に向かった

 

「マーカスサン」

 

「ココデウタウノネ??」

 

戦艦棲鬼姉妹も到着

 

ステージを建てる時間もなく、簡易なマイクスタンドと小さな台が用意されている

 

「頼んだ。合図はこっちで送るよ」

 

「ワカッタワ!!」

 

「ココデタイキ!!」

 

簡単な料理も段々と集まって来ている

 

俺達はここで小さいながらもパーティーを開こうとしている

 

後は…

 

「あ!!レイ君!!おかえり!!」

 

艦娘に探照灯を配っている大淀の所に来た

 

「ただいま。すまん、かなり動かしたな」

 

「いいよ!!大淀さん、平和の為に動くレイ君大好きだからね!!それでだ、探照灯は3箇所と、ここに配備して…後はレイ君がどう動くかだ」

 

「ギリギリ足が付く範囲で迎えに行ってやりたい」

 

「オッケー、了解」

 

「あの子の位置は分かるか??」

 

「今クラーケンと同期してるから待ってね…来た来た!!これがあの子の位置だ!!」

 

大淀のタブレットを見ると、横須賀に向かっている人型の存在が映っている

 

「到着予想時刻は…1900だね!!」

 

「了解した。それまでここにいるよ」

 

「カプセルの配備もオッケーだ。アレ、持ったかい??」

 

「ここにある」

 

大淀に言われ、あの黄色い宝石のような物を見せる

 

「それとボディがあれば、非常に強力な深海か艦娘になる…覚悟は良いかい??」

 

「二度目のチャンスだ。無碍にはしない」

 

「良い心意気だ。大淀さん達は全力でレイ君を応援するから、心配しないで!!」

 

「最後の準備をしてくる」

 

最後の準備は工廠で行う

 

大淀がセットしておいてくれたカプセルの前に立ち、最後の仕上げをする

 

「俺の合図があったら、再構築プログラムを起動してくれ」

 

《了解しました。再構築プログラムの準備を開始します》

 

「これをベースに出来るか」

 

カメラの前にあの黄色い宝石をチラつかせる

 

《データを解析します。溶液の中に浸して下さい》

 

「オーケー、了解…」

 

宝石を溶液に落とす…

 

《解析開始します…マーカス様。誰かのお迎えですか??》

 

「そんな所だ。仲良くなれると良いが…」

 

《大丈夫、心配するな、です》

 

「ふ…」

 

アイリス…もといはっちゃんにいつも俺が言っているセリフを言われ、緊張が解ける

 

《緊張状態が21%に下がりました。やはりマーカス様の言葉は安心を生み出すとよく分かります》

 

「医者は患者を安心させる事からスタートだからな??」

 

《なるほど…ヒュプノスもマーカス様の言葉をよく使います。医者になりたいのでしょうか??》

 

「どうだろうな…俺の意思を継いでくれる奴がいつか見つかると良いんだがな…無理強いはさせたくない」

 

《…いつか、出逢えます》

 

「そう願ってるよ。じゃ、ちょっと行って来る」

 

《いってらっしゃいませ。お帰りまでに解析及び再構築プログラムを起動しておきます》

 

アイリスに任せ、工廠を出る…

 

 

 

 

海岸に戻り、大淀の所に行く

 

既に薄暗くなっている…

 

もうすぐ1900…予定の時刻だ…

 

「あ、レイ君!!」

 

「あの子は来てるか??」

 

「ちょっと道に迷ってるみたいなんだ…」

 

タブレットを見ると、人の影は横須賀に近付いてはいるが、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしている

 

「戦艦棲鬼のお二人さん、頼んでいいか!!」

 

「マカセテ!!」

 

「イクネ!!」

 

二人の歌が始まる…

 

「「コイモサイショナラ〜、スコシハ、キレイニ〜」」

 

「探照灯!!二人を照らして!!」

 

海に向かって歌う戦艦棲鬼姉妹の背中を2本の探照灯が照らす…

 

「こっちに向いた!!レイ君!!後5分で着くよ!!」

 

「ここは任せたぞ!!」

 

波際に向かって走る…

 

もうそこまで、あの子は来ている

 

《レイ君。その子が見えたら探照灯でレイ君と一緒に照らすよ!!》

 

「了解した」

 

「「ダキシメテ〜、ツレテキテ、ミライゴト〜」」

 

歌がサビに入る…

 

《見えた!!探照灯!!目標を照らして!!》

 

大淀の合図で探照灯に明かりが灯る

 

一つは俺の背に

 

もう一つは海を照らす…

 

「あぁっ…」

 

安堵したため息が漏れる…

 

あの時のままの髪飾り…

 

あの時のままのドレス…

 

ほんの一瞬、少女が眩しそうにする姿が見えた

 

間違いない…あの時の子だ!!

 

「おいで!!」

 

足を海に浸け、両手を広げる

 

少女は俺の声と姿に気付き、こっちに向かって来た

 

そして…

 

「おかえり…おかえりっ…」

 

飛び込んで来た少女を思い切り抱き寄せる…

 

あの時と違い、今度はギュッと抱き締めても壊れたりしない…

 

「おっ…」

 

少女は俺の顔を両手で触れる…

 

少女の左手を取り、もっと顔を触らせる

 

「ありがとうな…」

 

あの日のまま、無表情のまま、声も出さないまま、少女は頭を横に振る

 

「おうちに帰ろう…なっ??」

 

そう言うと、頭を縦に振る

 

少女をお姫様抱っこし、海から上がる…

 

「オカエリナサイ!!」

 

「アラカワイイコ!!」

 

歌が終わった戦艦棲鬼姉妹が来てくれた

 

すると、少女は二人に手を伸ばす…

 

「ン??ナァニ??」

 

少女は戦艦棲鬼姉妹の頬を片方ずつ撫でる

 

「イイノ…キョーカラココガオウチヨ??」

 

「モウダイジョーブ!!」

 

手を離すと、少女は何度か頷く

 

その足で工廠へと向かう…

 

《解析及び再構築プログラム起動完了しています。溶液に浸して下さい》

 

「ありがとう、アイリス」

 

工廠に着くと、あの宝石の解析とプログラムの起動が終わっており、少女を溶液に浸そうとすると、俺を手招きした

 

「大丈夫…大丈夫…」

 

少女は最後に俺をぎゅっと抱き返し、溶液に体を預ける…

 

「今度は離さんからな…」

 

"この体でいる最後"も、無表情のまま頷く少女

 

少女が眠ったのを見届け、カプセルのフタを閉める…

 

《再構築プログラム開始》

 

「はぁ…」

 

緊張の糸が解れ、診察台の近くにある椅子に腰掛けてタバコに火を点ける

 

《マーカス様。冷蔵庫に大淀さんが作ったコーヒーがあります》

 

「どれっ…」

 

アイリスに言われた通り、冷蔵庫を開けるとマグカップに淹れたコーヒーが置いてある

 

すぐに手に取って口にする

 

「美味いな…」

 

《解析の結果、マーカス様が一番好きなコーヒーは大淀さんのコーヒーか別のコーヒーとの結果が出ました》

 

「そうだな…ジェミニには内緒にしてくれよ??」

 

《ジェミニさんの淹れるコーヒーは粉っぽいですからね》

 

「なんですって!?」

 

様子を見に来てくれたジェミニがタイミング悪く来た

 

《ジェミニさんの淹れるコーヒーはまた別で美味しいと話していました》

 

アイリスは何とか誤魔化そうとする

 

「アタシはコーヒー淹れないの。このボンクラが粉しかねーじゃねーか!!とか言うから淹れさせてんの!!分かった!?」

 

「《あっはい…すみません…》」

 

「親子でおんなじ答え方すんのね…」

 

《マーカス様の好きなコーヒーを御存知ですか??》

 

「知ってるわよ??鹿島のコーヒーでしょ??」

 

「し、知ってんのか??」

 

「知ってるわよ!!見りゃ分かるわよ見りゃ!!」

 

「その…何かすまん…」

 

「アタシのシチュー食べてくれたからイーブンにしたげるわ。それより…帰って来たのね??」

 

「今、体を再構築してる。その待ち時間さ」

 

「そっ。服脱いで」

 

「今ここでか!?」

 

「今よ??」

 

「いやぁ…はは、そのだなジェミニ…アイリスも見てるし…」

 

《カメラ機能をカプセル以外遮断します。ささ、お気遣い無く》

 

親子共々勘違いした結果、ジェミニの手元を見る事も無く要らん答えを出してしまう

 

「誰がここでヤるって言ったのよ!!アンタそのまま海入ったでしょ!!濡れてるから脱ぎなさいって言ってんの!!ほら!!着替え!!」

 

「あばば!!ありがとう!!」

 

投げ付ける様に着替えを渡され、全身着替える…

 

「ん、良い子」

 

「アイリス、カメラ付けていいぞ」

 

《畏まりました》

 

PCのモニターにカメラ映像が戻る

 

「アンタお腹減ってない??」

 

「そうだな…結構気張ってたから気にしてなかった」

 

「なら良かったわ。ここでちょっと食べましょうか!!」

 

《アイリスも食べたいです》

 

「勿論よ!!来なさい!!」

 

はっちゃんが来るのを待っている間に、ジェミニはマットを広げ、そこにタッパーを2つ置く

 

「作業は続行しています」

 

「さ、食べよう!!」

 

はっちゃんがマットに座り、タッパーが開けられる

 

「こっちはさっき焼いてた貝とお肉。こっちはおにぎりよ」

 

おにぎりの方のタッパーには、迅鯨が作ったであろう山菜おにぎりがある

 

「はっちゃん、この山菜おにぎり食べた事ありません!!」

 

俺達が美味い美味いと食べていたので、はっちゃんも気になっていたみたいだ

 

「食べて良いわよ!!」

 

「頂きます!!」

 

はっちゃんは早速手に取り、口に運ぶ

 

「美味しいです!!はむっ…」

 

俺もジェミニも、美味しそうに食べるはっちゃんを見て微笑む

 

「さ、問題よ。この中でアタシが作ったおにぎりがあんの。どれか分かる??」

 

「これだな」

 

一番形がいびつなおにぎりを取り、俺も口に運ぶ…

 

ちょっと塩っぽいが、十分美味しい

 

「なんで分かんのよ!!」

 

「一番俺に食って欲しそうな感じがしたからな??」

 

「そ、そう…」

 

いつもならはっちゃんが「照れています」とか言いそうなんだが…

 

「はむっ…はむっ…」

 

山菜おにぎりに夢中になっている…

 

「こっちも食べて良いわよ」

 

焼いた貝やお肉も食べる

 

「深海の子達の食事を再現したの」

 

「そういやそうだったな」

 

「横井が元農家なの」

 

「米作りたいとか言ってたしな…」

 

「もう二人農家いんのよ」

 

「うちにか!?」

 

あまり聞いた事がない

 

元々の職業の話は、本人が語らない限り聞かない事にしている

 

「隊長っ、如何ですか??」

 

「おぉ、櫻井!!ありがとな、手伝ってくれて!!」

 

櫻井が新しいタッパーを持って来た

 

「櫻井。アンタお米詳しいのよね??」

 

「あぁ、あっはは!!大鯨と農家していましたので、ある程度の知識しかありませんが…」

 

そう言えば涼平が横井と話していた時にポロッと言っていたな…

 

「もう一人は大鯨か…」

 

「そうです。大鯨はかなり詳しいですよ??」

 

「なら話は早いわ!!後日お願いするかも知れないから、そん時は頼むわ??」

 

「了解です、元帥。はっちゃん、こっちも良かったら!!」

 

「ありがと…ございますっ…」

 

モグモグしたままのはっちゃんはタッパーを受け取り、櫻井は工廠から出て行った…

 

「さてとっ…後はアンタに任せるわ??後の事は気にしないで??ちゃんと面倒見るわ??」

 

「ありがとう…」

 

「あ、そうだわ!!ちゃんと名前決めときなさいよ??じゃなきゃアタシが付けるわよ??」

 

「もう考えてあるんだ」

 

そう言うと、ジェミニもはっちゃんもこっちを向く

 

「どんな名前なの!?」

 

「どんな名前ですか!?」

 

「それはな…」

 

 

 

 

 

数時間後…

 

朝になった

 

タバコを消して、その時を待つ…

 

「んん〜っ…はぁっ!!おはよう!!」

 

「おはよう」

 

思ったより快活そうな少女が、伸びをしながらカプセルから出て来た

 

「あー…えっと…まずは"ありがとう"!!」

 

もっと違う言葉か、行動が返って来ると思っていた…

 

そうか…ありがとう、か…

 

「覚えてるのか??」

 

「ちょっとだけね??」

 

「ふ…」

 

カプセルの縁に背中を起き、そのまま少し話す

 

「どこから覚えてる??」

 

「貴方が泣いていた所から覚えてるわ??後、歌を歌ってくれたり…」

 

「そっか…そっかっ…」

 

再構築された彼女の体を抱き締める…

 

「あ…これこれ…覚えてる…ちょっとごめんね…」

 

彼女は急に俺と額を合わせる…

 

「そっか…ずっと後悔してくれてたんだ…」

 

「分かるのか??」

 

今の行動は深海特有の行動

 

額を合わせる事で何らかの意思を示したり、相手の記憶を垣間見る事が出来るらしい

 

「バカ達はアタシを深海として産んだからね。その能力はピッとだけあるの」

 

「そっかっ…」

 

「アイツ等、名前も付けてくれなかったし」

 

「それなんだがな…」

 

俺は3つのドッグタグを彼女の前に出す

 

「この中から選んでくれるか、それとも自分で好きな名前を付けるか、選んで欲しい」

 

「そうね…」

 

1つ目…"おしんこせっと"

2つ目…"ふらいどぽてと"

3つ目…"ぶるっくりん"

 

「これにするわ!!」

 

そう言って、彼女は2つ目のドッグタグに手をやろうとする

 

「フライドポテトにするのか??」

 

「やめといた方がいいかな…おしんこせっとよりは何となくマシかなって思ったけど…」

 

「おしんこせっとイヤ??おしんこせっと良いわよ??」

 

突然来たジェミニ

 

何故か強くおしんこせっとを推している

 

「私が考えたの!!」

 

「この人はジェミニ。ここのトップだ」

 

「お服作ってくれた人!!」

 

「そうよ…覚えてるのね…」

 

「どうしよっかな…どうしよっかな…」

 

ジェミニが来た事で、おしんこせっとが候補に戻る…

 

何だか分からないが、非常にヤバい気がする…

 

「これにするっ!!」

 

そう言って手に取ったのは3つ目のタグ

 

内心ホッとした…

 

これから先、おしんこせっと!!とか、フライドポテト!!とはヒジョーに言い辛い

 

「ぶるっくりん、ね。気に入った!!」

 

「よしっ。行こうか!!」

 

「今日からここで暮らすのよ!!」

 

「よろしく!!お父さん、お母さん!!」

 

そう言われて、俺とジェミニは一瞬驚いた後、小さく頷く…

 

ぶるっくりんは色々知能はあるが、まだまだ知識が足りない

 

いつも産まれて来る子と同じ様に「あれは何??これは何??」と、どんどん聞いて来る

 

その度に俺かジェミニが教えて行く

 

「この子は…」

 

「こんにちわ」

 

一人で駄菓子屋に来ていたワシントンがいた

 

「わしんとん」

 

「私はぶるっくりん!!」

 

「ぶるっくり」

 

真顔で頷きながらも、ワシントンはぶるっくりんを覚えてくれたみたいだ

 

その時、ワシントンのお腹が鳴る

 

「はんぐりーちゃ」

 

「あらっ、じゃあ一緒に行きましょ??」

 

「朝霜達はどうした??」

 

「んが〜、んごご〜、ぎりぎり〜」

 

ワシントンの再現によると、イビキがうるさく、歯ぎしりもあって目が覚めたみたいだ…

 

「目、覚めちゃったのね…」

 

「おなかへった」

 

「よしよしっ!!じゃあ4人で行こうな!!」

 

「ぶるっくり」

 

「ん??なぁに??」

 

ワシントンに呼ばれたぶるっくりんは、視線を合わせる為にワシントンの前に屈む

 

すると、ワシントンはぶるっくりんに手を伸ばす

 

「おててつなぐ」

 

ぶるっくりんは俺の顔を見る

 

一度頷くと、ぶるっくりんはワシントンの手を握ってくれた

 

「あっち」

 

「あっちね??」

 

ワシントンと手を繋いだぶるっくりん

 

その後ろを俺達二人は着いて行く…

 

ワシントンはちゃんと覚えている

 

ご飯を食べると言ったら、やはり間宮に入ろうとする…

 

「ここ」

 

「ここは何があるの??」

 

「どりあ」

 

それもちゃんと覚えているみたいだ

 

ワシントンが産まれて最初に食べた物だ

 

間宮に入り、四人でいつもの席に座る…

 

ワシントンもぶるっくりんも同じドリアを注文し、俺達は二人を見ながらホットコーヒーを飲む

 

「おいすぃ」

 

「おいすぃ!!」

 

ワシントンもぶるっくりんも、スプーンの持ち方がぎこちない

 

二人共、口元を汚しながらドリアを食べる

 

「ごちそさまでした」

 

「ごちそさまでした!!」

 

「こっちむく」

 

「ん??」

 

すると、ワシントンは不思議な行動をし始める

 

姉に当たる人物…特に朝霜だろうか

 

いつもそうして貰っているのか、紙ナプキンでぶるっくりんの口元を拭いてくれている

 

「できた」

 

「ありがとう!!」

 

相変わらずパッと見はワシントンは真顔だが、少し笑って小さく数度頷く

 

「お家に行きましょうか!!」

 

「どんなとこかな??どんなとこかな!!」

 

帰り際も、俺達は二人の背中に着いて行く

 

まるで小さい姉とデカい妹だ…

 

小さい姉と、デカい妹か…

 

「おいしいね!!あとらんたしぇいくすき??」

 

「うん。おねーちゃんと飲むの好きだよ。うわ、凄い付いてる。こっち向いて??」

 

遊びに来ていたたいほうとアトランタが瑞穂のフライドチキン屋の前でシェイクを飲んでいる

 

そっか、あの二人もそうだな…

 

身長もアトランタの方が遥かにデカい

 

胸もアトランタの方が遥かにデカい

 

「コロチャン!!お家帰ろ!!」

 

「あっ!!コラちょっと!!降ろしなさいってばー!!」

 

ホーネットとコロラドがスーぴゃーマーケットから出て来た

 

あの二人も小さい姉とデカい妹だな

 

コロラドはちょっとずつ大きくなっているが、ひとみといよよりちょっと大きい位

 

ホーネットは俺達大人組に混じっていても違和感が無い位身長が高い

 

パワーもコロラドと桁違い

 

コロラドをワキに抱え、逆の手でスーぴゃーマーケットの荷物を持っている

 

普段からそうしてるのか、こうなったらどう足掻いても無駄だと分かっているのか、それとも姉として諦めているのか

 

コロラドはジッとしてホーネットに運ばれる…

 

「これはなに??」

 

「かに。ちょっきんちょっき」

 

二人で蟹瑞雲のいけすを覗いている

 

「これは??」

 

「ねこ。あんこちゃ。かにねらってる」

 

当時のワシントンとぶるっくりんが逆になっている

 

「にゃ〜」

 

「にゃ〜」

 

黒猫のあんこちゃんがワシントンに鳴くと、ワシントンも真似し返す

 

「にゃ〜」

 

ぶるっくりんも真似して真似し返すと、あんこちゃんはカニのおこぼれを貰えないと察知したのか、何処かへ行ってしまった

 

「おや、ワシントンさん。おはようございます」

 

「おはよございます」

 

朝ご飯に蟹雑炊でも食べたのか、エドガーが出て来た

 

「この方が…」

 

エドガーはぶるっくりんを見る

 

「私はぶるっくりん!!」

 

「エドガーさ。さつまは」

 

「う〜む。ワシントンさんから見ると私は薩摩藩士ですか…」

 

「ちがう??」

 

「あそこまで猛々しくありませんよ…私の剣技は…靭やかに、そして軽やかにがモットーです」

 

「みたい」

 

ワシントンはおもむろにいけすのカニを鷲掴みし、エドガーに見せる

 

「いいですよ。マーカス、手を前に」

 

「あぁ…な、何するんだ??」

 

「ほりぇ」

 

ワシントンがエドガーに向かってカニを投げる

 

「…」

 

黙ったまま、エドガーは刀を抜く…

 

だが、その顔はほんの一瞬真剣な表情を見せる

 

そして…

 

「おおお…」

 

「凄いわエドガー…」

 

カニの足が俺の手に落ち、最後に頭部が落ちる

 

「そのまま茹でて食べても構いませんよ」

 

刀を拭いた後、鞘に仕舞う…

 

「かに、いちげき」

 

「あれはどうするの??」

 

「ゆでる」

 

「それはくれてやる。さ、エドガー、仕置だ」

 

いきなり現れた日向に、エドガーは捕まる

 

「チクショウ!!寄るな!!カニ代なら払…吐く!!」

 

「吐け。貴様は毎度毎度面白半分でカニを叩き割りやがって。私の商売の邪魔をするな。アレンと同じ目に合わせてやる」

 

「いやー!!」

 

エドガーは蟹瑞雲に連れ去られてしまった

 

「もう…ちょっと行ってくるわ??」

 

ジェミニが蟹瑞雲に入って行く横で、ふとワシントンを見る

 

面白かったのか、少し笑っている

 

「ぱぴー」

 

「いつもして貰うのか??」

 

「たまにみる。ばんごは」

 

「そ、そうだな…晩御飯にしような…」

 

その後、帰って来たジェミニと一緒に執務室に戻る…

 

 

 

 

これからぶるっくりんはここで暮らす事になる

 

ぶるっくりんとも一波乱あるのだが、次の機会に話すとしよう…




ぶるっくりん…ツギハギの人魚姫

ある施設から脱出する為に産まれた元深海棲艦

マーカスの所に戻り、艦娘として生まれ変わった

ワシントンと仲が良く、小さいお姉ちゃんとデカい妹枠が増えた

危うく名前がふらいどぽてとになりかけたが、案外気に入ってるらしい

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