艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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今回のお話は次話含め、2話構成になっています

今回はその前編となります

眠れない夜、ジェミニの部屋にマーカスが訪問します

夜のデートのお誘いをされ、二人は少しだけ空に向かいます



325話 心のカケラ

ある夏の夜…

 

「暑っついわね…」

 

暑くて寝れず、時刻も深夜になろうとしていた時、部屋のドアが開く

 

「ジェミニ、起きてるか??」

 

来たのはレイ

 

この寝室を開けられるのは、限られた人物しか無理だ

 

レイは普通に開けられる

 

「起きてるわよ…どうしたの??」

 

「水戦の発着場で待ってる」

 

「何よ…」

 

レイはそのまま部屋から出て行ってしまった

 

仕方無く準備をし、言われた通り水戦の発着場に足を運ぶ…

 

 

 

「外のが涼しいわね??」

 

「行くぞ」

 

「あっ…ちょっと…」

 

レイは強風に乗り、エンジンを入れる

 

私が後部座席に乗ると、しばらく海上を走った後に離水する…

 

「ね、どこ行くの??」

 

「内緒だ」

 

レイはずっと前だけを見ている

 

まるで逃避行だ…

 

逃避行…

 

「…大淀とした事、悪く思ってるの??」

 

「そうだな…」

 

「気にしてないわ。ね、そんなに私とデートしたかった??」

 

「…じゃなきゃ、お前を深夜に連れ出してない」

 

レイは右手で後頭部を掻く

 

なんとなくだけど、レイは照れている気もする

 

「着水するからな」

 

「分かったわ」

 

強風が着水し、レイが先に降りる

 

「よし、良いぞ」

 

「よいしょっ…」

 

レイの手を握り、強風から降りる

 

「手、繋いだままでいるから…しばらく目閉じててくれ」

 

「分かったわ…」

 

私は目を閉じて、手を引いてくれるレイに着いて行く

 

時間にして数分程した時、潮騒の音が近くに感じられた

 

「良いぞ」

 

レイに言われて目を開ける…

 

「わぁ…綺麗!!何これ!!」

 

 

 

海が青く光っている!!

 

波も、海の中も、そして砂浜も…

 

なんて綺麗な場所なんだろう…

 

 

 

「ひとみといよが見つけてくれてな。ずっと来たかったんだが、タイミングと休みが合わなかったんだ」

 

「見て!!貝も光ってるわ!!」

 

「聞いちゃいねぇ…」

 

私は既に波打ち際で足を海水に浸けている

 

「アンタも来なさいよ!!」

 

「分かったよ…」

 

レイも波打ち際に来た

 

「お魚も光ってんのかしら??」

 

「…知らなかったよ」

 

「何が??」

 

「世界には、まだこんな綺麗な場所があったなんて…」

 

「そうね…」

 

レイはずっと、革ジャンのポケットに手を入れて海の向こうを見ている

 

「あっちに"明かり"があるわね??」

 

「好きなんだ、あれ」

 

「どうして??」

 

「人が生きてる証拠だ。あそこには人生がある。今日も誰か知らない奴の人生が、家族が、あの灯の下にはある」

 

そこで思い出す

 

レイはずっと"普通の人生"を望んでいる

 

戦いのない空

 

静かで美しい海

 

誰も泣かない陸

 

今もずっと、それが叶うと思って戦っている

 

レイは今日も明日もこれからも、あの"灯の一つ"になりたがっている…

 

今、レイが見せている優しくて悲しそうな顔が全てを物語っている…

 

「戦争が終わったら、よ??」

 

「うん??」

 

「アタシ、お金出すから、アンタお医者さんする??」

 

「ここは本音を吐くべきか??」

 

「えぇ…アタシしか聞いてないわ…」

 

レイは本音を話した…

 

全てを言った後、私は何も言わずに…

 

いつも彼にそうさせてるのと同じ様に、彼の口を塞いだ…

 

「ありがと…話してくれて…」

 

「すまん…ここまで来て、また背負わせた」

 

「いいの…私達夫婦でしょ!!もっとコミュニケーション取らないとね!!」

 

レイは小さく何度も頷く

 

その目にまた、覇気が戻る…

 

 

 

 

「しっかし綺麗なとこね!!何か綺麗な石でもないかしら!!」

 

ジェミニが屈んで石を探し始める

 

誰もいない無人島の、青く光る砂浜

 

何もかも打ち明けてしまいたくなった…

 

今まで吐く事の無かった胸の秘事を、今吐いた…

 

「…なんだ、これ」

 

青く光る波が、足元の砂を連れて行く

 

砂の中から出て来たのは、見た事のない青く光る石

 

嫌な予感がして、すぐにその場から離れる

 

「大丈夫よ。放射能の類じゃないわ??」

 

「何で分かる!!」

 

「アタシの腕時計、改良したのよ。測定器入ってんの」

 

「そ、そっか…」

 

ジェミニにそう言われ、その石を手に取る

 

「アタシも見つけたのよ。何かしらね、コレ」

 

ジェミニの手にも、同じ楕円形の小さな石がある

 

ただ、俺の拾ったのは青色、ジェミニの拾ったのは赤色だ

 

「持って帰って検査して、大丈夫なら宝物にするわ!!」

 

「しっかし綺麗だな…」

 

俺の拾った石は、今の海の色と同じ色をしている

 

まるで、今この風景を切り取ったかの様だ…

 

「あら…もう朝ね??」

 

薄っすらと、朝日が水平線の向こうから上がって来る

 

「帰ろう。また連れて来てやるよ」

 

ジェミニはポケットに石を入れ、俺の手を握った…

 

 

 

 

横須賀に着くと、まばらに人が動き始めていた

 

また、いつもの日々へと戻って行く…

 

「今度はアタシがエスコートするわ??」

 

「楽しみにしてるよっ!!よいしょっ!!さてっ、俺は一休みしますかね!!」

 

「…ありがとっ」

 

レイはいつもの様に笑った後、工廠に入って行った…

 

さてっ!!アタシも少し休んで、書類とにらめっこでもしましょうか!!

 

 

 

 

「おはよーレイ君!!」

 

「おはよう。なぁ大淀、これ、何だと思う??」

 

工廠に来た大淀に、無人島で拾った石を見せる

 

今は光っていないが、変わらず透き通った青をしている

 

「レイ君…」

 

大淀は驚いた顔で俺の持っている石をまじまじと見る

 

「これが何かって聞いたね??」

 

「何かの宝石か??」

 

「これは深海の子…それも姫級の子が極々稀に持ってる石だよ。凄く強い子でも持ってる子は少ないよ…どこで手に入れたんだい??」

 

「無人島の砂浜に埋まってたんだ。最初はこの色だから放射能を疑ったんだが…そうじゃなかった」

 

「大淀さんも存在しか聞いた事がないんだ…あるかも分かんなかったからね…深海の子達でも、知ってる方が少ないんじゃないかな…」

 

「どこで知ったんだ??」

 

「直接聞いたんだ。深海の子達の中でもおとぎ話みたいなのないかい??って。そしたら、この石の話をしてたんだ」

 

「何か効果とかあるのか??」

 

「何か凄いパワーアップするらしいよ??現に大淀さん、胸だけ深海になってるもん」

 

見せ付けて来たので、大淀の胸に目をやる

 

確かにいつもと比べるとかなり大きくなっている

 

「何かに使えるといいんだが…」

 

「も少し研究した方がいいね…」

 

少しだけ分かったのは、深海の血に反応する事

 

大淀はバストアップ

 

俺は今気付いたが、胸の内をさらけ出した

 

これが何かに繋がるのだろうか…

 

「マーカスさん!!」

 

「おぉ、電か!!定期健診だったな??そこに座って待っててくれ!!」

 

電が来たので、ポケットに石を隠し、診察を始める

 

「あー…だ」

 

「あ〜…」

 

「お前にはまだチャリンコ買ってやれてねぇな…」

 

「いふらってひ〜のれす…」

 

舌鉗子を置き、触診に入る

 

「嵐の日、迎えに来てくれてありがとうな??」

 

「今日はやたら言うのです。何かあったのです??」

 

「ふ…色々とな??」

 

何故か今日は本音がスラスラ出て来る…

 

やはり、この石のせいか??

 

「よし、体も健康体だ!!行って来い!!」

 

「何かあったら言って欲しいのです」

 

「大丈夫さっ。ちょっと思い出してな、お礼言ってないって」

 

「今日はお休みなのです。遊んでくるのです!!」

 

「ん!!行っといで!!」

 

電が工廠から出て行き、またポケットから石を出す

 

「本音を言える奴なのか…これ…」

 

なら、大淀の胸が大きくなったのはなんなんだ…

 

良く分からん…

 

とりあえず、腹ごしらえでもしよう

 

またポケットに石を入れ、繁華街に向かう…

 

 

 

「あ!!坊っちゃん!!」

 

パースピザの前まで来ると、パースが表で食パンを切っていた

 

「パースお姉ちゃん。これは??」

 

「サンドウィッチを作るパース!!」

 

「幾らだ??」

 

「お金なんて要らないパース!!はいっ!!」

 

パースにタマゴサンドとハムサンドを貰う

 

「ありがとう。パースお姉ちゃん!!」

 

「んふふ!!美味しいパース!!」

 

「おはようございます、お医者さん!!」

 

ヴィクトリアスがバスケットにパンを入れて奥から出て来た

 

相変わらず美味そうな匂いがする…

 

「ヴィクトリアスは良い匂いするな…」

 

「そっ!?そうですかっ!?恥ずかしいですよもう!!」

 

「どわっ!!」

 

本音を語った俺を、照れたヴィクトリアスが軽く突き飛ばす!!

 

「マズい!!」

 

ドガァン!!と音を立て、向かいにあったずいずいずっころばしにそのまま入店した!!

 

「あいたたた…甘エビ2つ…」

 

「ダイナミック入店されると反応に困るんですけど!?」

 

「アマエビフタツ、カシコマリマシタ」

 

お寿司握りロボとお寿司を握っていた瑞鶴が、カウンターから乗り出し気味に話し掛けて来た

 

「ごめんなさいお医者さん!!まだその…力加減が余り分かっていなくて…」

 

すぐにヴィクトリアスが寄って来て、俺の体を起こしてくれた

 

「はは…良いんだっ!!パワータイプの美人はっ、慣れてるっ!!」

 

「そう言えば、さっきウェンディの事をお姉ちゃんと…」

 

「そんな事言ってたか!?」

 

ヴィクトリアスの言うウェンディとはパースの事

 

パースは母さんに拾われた時に"ウェンディ"との名前を貰ったらしい

 

ヴィクトリアスはその事を知っている

 

「こっちまで聞こえてたわよ??あっ!!そーかそーか!!マーカスさん、胸おっきい人好きだもんね??」

 

「貧乳に興味はねぇ!!」

 

これはいつも言ってる本音だ。石のせいじゃない

 

瑞鶴もその事を周知の上で煽って来る

 

「あれ??リチャードじゃない??」

 

「何話してんだ??」

 

親父が表で母さんと話している

 

何を言っているか分からないが、母さんは笑顔で親父を投げ飛ばした!!

 

「うぐぁぁぁあ!!」

 

本日二度目のダイナミック入店が、ずいずいずっころばしに放たれる

 

「あいたたた…へへっ、ネギトロ2つ…」

 

「「一緒…」」

 

「ソーリーズィーカク…ついカッとなって…」

 

「問題ないです!!はいっ!!」

 

「マーカス!!丁度いいわ、オスシ食べましょう!!」

 

「そ、そうだなっ!!」

 

親子で座る席は案外初めてかも知れない…

 

流れて来たマグロを食べながら、相変わらず口周りにシャリを付ける母さんを見る…

 

「今日も可愛いな、スパイト」

 

「えっ…そ、そんな…恥ずかしいわ…んふふ!!」

 

「マーカス…お前なんか辛い事あったか??」

 

「えっ!?無いさ!!」

 

しまった…あの石をポケットに入れたままだった…

 

「その…話、聞くぞ??自分の母親口説いてどうする…」

 

「じゃあ聞いてくれ。これなんだがな…」

 

机の上にあの石を置く

 

「クソデカサファイアがどうした??」

 

「コイツの影響で、俺は今本音しか言えない状態になってる」

 

「ほ〜ん!?なら今マーカスに色々聞くと本心が聞けるって訳だ!!お前の一番愛してる女は誰だ!!」

 

「おぉ…ジェミニさ。初恋の相手なんだ」

 

「この世界で一番愛してるのはだぁれ??」

 

「ジェミニだ」

 

「心底惚れてんだな…」

 

「…」

 

母さんは黙っている

 

自分の名前が出なかったから怒っているのだろうな…

 

本心が露わになっていたとしても、母さんの本当の名前は言えずにいた

 

「リチャード。買い物に付き合って下さらない??」

 

「勿論だとも!!マーカス、また飯食おうな!!」

 

「分かった!!勘定はしておくよ!!」

 

とは言ったものの、親父が済ませて出て行った

 

さて、困ったもんだ…

 

一旦工廠に置きに行くか…

 

「ありがとうございました〜!!大尉、また来てね!!」

 

「ごちそうさん!!」

 

ずいずいずっころばしを出て、工廠へと戻る…

 

今日は工廠で大人しくしていよう、そうしよう

 

 

 

 

「このケースにしまっておこう、そうしよう…」

 

こいつは危険だ。俺の心を全部露わにしてしまう…

 

頑丈なケースにしまい、倉庫に置く

 

「…」

 

しまおうとした時、ふと、ある少女を思い出す…

 

あぁ…こんな事も思い出すのか…

 

だが本心を吐けるとは言え、頭が押し殺してしまう…

 

「参ったな…」

 

忘れちゃいない、忘れる訳が無い…

 

せめて、ジェミニには話しても良いだろうか…

 

ジェミニはこの事を知っている

 

話してしまいたい…

 

そう思った時、内線に手が伸びていた

 

「俺だ…」

 

《なぁに??どうかした??》

 

「ちょっと話を聞いて欲しいんだ…」

 

《すぐそっち行くわ、待ってて》

 

数分もしない内にジェミニは来てくれた

 

「どうしたの??」

 

「…」

 

「…おいでっ」

 

椅子に座った直後、俺の様子がおかしい事に気付いたジェミニは、すぐに腕を広げた

 

何の躊躇いも無く、ジェミニに溺れる…

 

「やな事思い出したのね…」

 

「あの少女の事を思い出した…」

 

「そっかっ…ごめんなさい、私が箝口令なんか言っちゃったから…」

 

「…」

 

「大丈夫っ…大丈夫よ…」

 

まるで子供をあやすかの様に、頭を撫でられる…

 

そうされると、スッと心が軽くなる…

 

「アンタ言ってるでしょ??女で負った傷は、女でしか癒せないって…」

 

「…」

 

「ど??落ち着いた??」

 

「ありふぁとう…」

 

ジェミニに溺れたまま、返事をする

 

「ん…良い子…」

 

「よしっ、ありがとう。大分楽になった!!」

 

「なら良かったわ!!」

 

ジェミニから離れ、冷蔵庫からアイスコーヒーのボトルを取り出し、そのまま飲もうとした

 

「アタシも飲みたいわ、淹れて頂戴!!」

 

口を付けるのを止め、紙コップにアイスコーヒーを注ぐ

 

「ほらよっ」

 

「ありがとっ」

 

そしてしばらく、ジェミニと話す

 

なんて事はない、ちょっとした昔話だ

 

初めてデートをした日とか、初めて一緒に食事をした日とか…

 

楽しい時間を過ごせた

 

あぁ、この女に惚れて良かった…

 

心底そう思えた…

 

「アタシ、執務室に戻るわ??何かあったら、今日みたいに言うのよ??」

 

「今度からそうするよ、ありがとな??」

 

「分かってくれたらいいわ!!んふふっ!!」

 

「…ジェミニ」

 

「ん??なぁに??」

 

「か、可愛い、ぞ…」

 

「そ、そう??ありがとっ…」

 

ジェミニは何度か前髪を直して、工廠を出た

 

外は既に夕方…

 

俺もそろそろ基地に帰ろう…

 

「マーカス!!」

 

タイミングよく母さんが来た

 

「一緒に帰りましょう!!」

 

「帰ろう!!」

 

母さんと一緒にグリフォンで基地へと戻る

 

その機内で、母さんは口を開く…

 

「その…マーカス。オスシの時ね??」

 

「母さんの名前を言おうとしたんだが…流石に止まったよ…」

 

「違うのマーカス」

 

母さんが無言になっていたのは、自分の名前が上がらなかったからでは無かった

 

「あのね…あの時、マーカスはリチャードに返事をしたんじゃないと思ってるの…」

 

「…」

 

「違ったらごめんなさい…」

 

「いいや、合ってる」

 

「そう…これ以上は聞かないわ??」

 

「その女性で出来た傷を癒やしてくれたのがジェミニなんだ」

 

「そうなの??」

 

「そっ…ただ、その女性は何も悪くない。時代が悪過ぎただけさっ…」

 

「マーカス。ごめんなさい…もうやめましょう…私、ずっとしまっておくわ…」

 

「ありがとう…」

 

母さんと俺との秘密がまた一つ増え、1日が終わる…


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