艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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31話 旅行鳩は雷鳥に恋をする(4)

「はぁぁぁぁぁあ⁉︎行く所が無いだと⁉︎」

 

「えぇ…それで貴方なら傍に置いてくれるかと…」

 

話をまとめると、鹿島は練習巡洋艦となった

 

だが、ほとんどが単冠湾の香取の講習で賄ってしまい、空戦教習は横須賀がする為、出番が無い

 

そして運良く俺を見つけ、引っ付いた

 

ま、そんな感じだ

 

「何で早く言わ無かった‼︎って、隊長なら言ってただろうな」

 

「…」

 

「悪いな。俺ぁたいほうの専属なんだ」

 

「…ちょっと調べさせて貰いました」

 

「ん⁇」

 

机の上に書類を広げると、内容を読み始めた

 

「元スパイ。新型戦闘機のデータを本国に持ち帰る任務に就く」

 

「…」

 

「任務失敗後、大佐の部隊に所属。以降の記録は不明」

 

「…何が言いたい」

 

「私を傍に置いて下さい」

 

「ヤダ‼︎俺の過去を知ってるなら尚更ヤダ‼︎命令とか言われても、俺ぁ聞かねえからな‼︎何なら、お前がスパイなんじゃねぇのか⁇」

 

「酷い…」

 

鹿島は泣き出してしまった

 

「あ…悪い。言い過ぎた…」

 

スティングレイが一瞬油断を見せたのが、運の尽きだった

 

「えいっ‼︎」

 

慰めようと鹿島に寄った時、押し倒された

 

「嘘泣きかよ…」

 

「本当に泣いてます‼︎鹿島がスパイですって⁉︎」

 

「違うのかよ…」

 

「違います‼︎私の目的は本当にそれだけです‼︎」

 

「あ〜ぁ…分かった分かった‼︎その代わり、俺に襲われても文句言うなよ⁉︎」

 

「今襲えばいいじゃないですか」

 

「アホ‼︎グラーフだっているし、この状態じゃ無理だ‼︎」

 

「あっ」

 

ようやくスティングレイの体から降り、横に座った

 

「いてもいいけど、グラーフと喧嘩するなよ⁉︎」

 

「しないしない‼︎うふふっ‼︎」

 

「風呂入るけど、何も弄るなよ‼︎」

 

スティングレイはそのまま浴室に向かった

 

「ふふっ…」

 

部屋の中で、鹿島が不敵に笑う

 

 

 

 

「あ〜ぁ…メチャクチャだよ…」

 

ブツブツ言いながら、体を洗って行く

 

「何であんなギャルなんか…」

 

ふと、首に腕が回る

 

「あ⁉︎」

 

気付いた時には、ちょっと締まっている

 

「誰がギャルですって⁉︎」

 

「どこまで入って来て…」

 

スティングレイも負けじと鹿島の顔を掴む

 

「うふふっ。お背中洗いますねっ」

 

「おっ…おぉ…」

 

負けると分かったのか、鹿島は腕を離し、スティングレイの背中を流し始めた

 

「あ…あの…鹿島教官」

 

「鹿島でいいですよっ‼︎」

 

「鹿島、本当に俺でいいのか⁇」

 

「貴方がいいんです」

 

「…俺さ、あの…」

 

「知ってますよっ。私が初恋の相手でしょう⁇」

 

「それも調べた⁇」

 

「諜報は戦争の基本ですっ。いいですか⁉︎」

 

「あんたの口癖だったな」

 

スティングレイが鼻で笑うと、鹿島もつられて微笑む

 

「凄い背中ね…」

 

「良い言い方をすりゃ、歴戦の跡。悪い言い方をすりゃ、弱い証だ…」

 

「沢山戦って来た証拠ですよ」

 

「ありがと、もう大丈夫」

 

シャワーで体を流した後、湯船に入った

 

「よいしょ…」

 

「何で入るかねぇ…」

 

何のためらいもなく、鹿島も入って来た

 

スティングレイはその行為を見て、一人の女性を思い出していた

 

グラーフではなく、たいほう

 

まだ幼い故、彼女にもあまり恥じらいは無い

 

俺自身も普通にたいほうを風呂に入れる事だって多々あるし、これからもあるだろう

 

「まぁ…何だ。俺みたいな奴が好きな物好きも居るんだな」

 

「私は好きですよ。グラーフよりうんと」

 

「グラーフ、か…」

 

こいつと居ると、ちょっとだけグラーフを忘れる

 

やっぱり、まだ好いている証拠なんだな…

 

グラーフとは、確かに長い間共にいた

 

だが、果たして俺を好きなのか不安になる

 

俺にキスしたのも、手元にあったものを取り戻す為だけなのではないか⁇

 

それに、あいつの口から”好き”という言葉を聞いた事がない

 

出るのは”私の(もの)”

 

鹿島が欲しいと言った時も”あげない”

 

あいつは俺を”物”としてしか見ていない

 

だったら…俺は…

 

「どうしまし…‼︎」

 

鹿島の頭を無理矢理掴み、物凄く長い口付けをした

 

鹿島が何度か咳き込んだ所で、ようやく口を離した

 

「謝らないぞ‼︎その気にさせたのはお前だ‼︎」

 

「うふふっ…私のファーストキスは高いですよ⁇」

 

「マジかよ」

 

「えぇ。ぜ〜んぶ新品ですよっ‼︎

 

「で、出る‼︎」

 

着替えてすぐベッドに頭を埋め、やってしまった事を反省した

 

何で無理矢理したんだ…

 

言えばしてくれたかも知れないのに…

 

あ、そうだ

 

こんな時はコーヒーでも飲もう

 

「はいっ」

 

パジャマに着替えた鹿島が、コーヒーを机に置いた

 

「ありがと。よく分かったな」

 

「何となく、ですよ」

 

煙草を吸いながら、鹿島のコーヒーを飲む

 

コーヒー独特の香りでは無く、香ばしい香りがするコーヒーは、とても美味しかった

 

「どうでしたか⁇鹿島特製のナッツ入りコーヒーは」

 

「美味しかった。また淹れてくれ」

 

「えぇ‼︎」

 

「明日、ちゃんと見ていてくれ」

 

「勿論ですよ。あっ…」

 

再び過ちを犯す

 

布団を掛けに来た鹿島を引きずり込み、思い切り抱き締める

 

「何するか分からんから、こうしてる」

 

「うふふっ…貴方のお好きにっ…」

 

その後、何か話すという事も無く、鹿島を抱いたまま、一晩が過ぎた


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