艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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特別編 魔女の手先

「よーし、後は下の連中に任せるぞ」

 

《了解です》

 

《了解》

 

《リョーカイ。ツイジューシマス》

 

空港は叩きのめした

 

後は下の連中が奪取してくれる

 

俺達は一旦ヴィスビューに戻ろう

 

《ワイバーン!!ワイバーン!!聞こえますか!?》

 

無線の先はイントレピッドDau

 

「此方サンダース隊ワイバーン。イントレピッドDau、どうした」

 

《イントレピッドDauに着艦してくれ!!クロンシュタット軍港にトドメを刺す!!》

 

「了解した。3機先に着艦させる。全機聞こえたな、イントレピッドDauに着艦しろ!!」

 

《隊長、その…》

 

《大丈夫、ですか??》

 

《おーやおーやワイバーン!!着艦出来ないのかなぁ!?》

 

《ほぅ…ワイバーンともなる猛者が、ですか》

 

「あばばばばクソォ…」

 

四方八方から散々な言われよう

 

その事を知っている涼平と園崎からも心配される

 

《ワイバーン》

 

「どうしたイーディス」

 

《サンキトイウノハ、イーディスモデスカ》

 

「そうだ。2機が着艦したら、なるべく奥に停めるんだぞ??」

 

《リョーカイ》

 

涼平も園崎も綺麗に着艦する

 

そしてイーディスも着艦、言われた通りちゃんと奥に停めている

 

《あはは!!見てレイ!!》

 

「舐められたもんだぜ…」

 

チクショウ、バリケード張ってやがる!!

 

「…グリフォン」

 

《なぁに??》

 

「…オートで頼む」

 

《あはは!!オーケー!!》

 

 

 

 

「ワイバーンがバリケード着艦じゃないだと…医療班!!医療班を回せ!!早く!!」

 

「隊長!!大丈夫ですか!?」

 

「何かありましたか!?」

 

「おい!!しっかりしろ!!」

 

「上手じゃないか!!」

 

オートで着艦しただけでこの言われよう

 

挙句の果てには俺ではないと疑われる始末

 

「ぐぬぬぬぬ!!うるせーーー!!」

 

「マーカス!!マーカス、あぁ…良かった…」

 

「ふふ…二度と着艦しねぇ…」

 

肩を揺らしながら、心配して来てくれたヴィンセントに話しかける

 

「状況は??」

 

「はっ。現在、長距離支援砲撃及び近接航空支援により軍港に打撃を与えている最中です」

 

「ラバウルさんは…いる訳ねぇか」

 

エドガーだけは陸から飛び立った

 

なのでここにはいない

 

「エドガーは既にプルコヴォに降り立っているとの連絡が入りました」

 

《レイ。急ごう。軍港を攻撃して、僕達もプルコヴォ空港に降りよう》

 

「了解した」

 

とはいえ、俺も休憩が必要だ

 

「こちらを!!」

 

「ありがとう」

 

乗組員に持って来て貰ったオレンジジュースを飲みながら、現状をモニターで確かめる

 

《凄い火力だね…》

 

「見た事無い艦だ…」

 

軍港を攻撃している中には、見た事のない軍艦もいる

 

《この海から叩き出せ!!一人残らずだ!!》

 

その軍艦からは、勇猛な女性の声が無線から聞こえる…

 

《よし、トドメを刺す!!ヴィンセント!!近接航空支援を頼む!!》

 

《了解。近接航空支援を出す》

 

「よし、出番だ!!各機出るぞ!!」

 

「「了解!!」」

 

《リョーカイ》

 

涼平、園崎、イーディスの順に発艦して行く

 

《ワイバーン、幸運を祈る!!》

 

「ワイバーン、出る!!」

 

イントレピッドDauから発艦し、軍港を目指す…

 

 

 

 

《無線切り替えるね》

 

「サンダース隊、ワイバーンだ」

 

《久方振りだなワイバーン!!私を覚えているか??》

 

「誰だ…」

 

《まぁいい。後で嫌でも思い出させてやる!!軍港にトドメを刺す!!ドッグを破壊してくれ!!》

 

「了解した!!」

 

《スモーク投射!!ワイバーン達の目印にしてやれ!!》

 

眼下に見える艦娘達がスモークを放ち、退避して行く

 

《データを送る!!任せたぞワイバーン!!》

 

「了解した、攻撃開始!!」

 

 

 

 

流星の様に流れて行く…

 

流星達が落として行った彗星は、瞬く間にドッグを破壊して行く

 

「懐かしい…な…」

 

異国の装備を付けた長門は、懐かしい光景を再び目にしている

 

本当は心躍る事なんざ、あってはならない

 

だが、どうしても胸の躍動は止められなかった

 

やはり私は艦娘

 

終の棲家を見つけても、心の何処かでこの破壊の景色を望んでいる

 

だから、これで終わる

 

私の戦いは今、幕を下ろした

 

「全艦、帰投するぞ!!」

 

私も帰路に着く

 

《よぉ、長門》

 

「マーカスか。久しいな」

 

無線の先はマーカス

 

私の息子の友人だ

 

《スモーク、ありがとうな》

 

「うむ…」

 

《一仕事頼みたいんだが、いいか!?》

 

「何だ??」

 

《1隻大破まで追い込んだんだが、取りこぼした。あと一発、戦艦が砲撃でも当ててくれりゃ沈むんだが…頼めるか!?》

 

彼の意図が分かった

 

ありがとう…ありがたく受け取らせて貰う!!

 

マーカスに送られた座標に、標準を合わせる

 

ロシアのフリゲート艦が一隻、ギリギリの状態で保っているのが遠くに見える…

 

《これが最期の一発だ!!思いっきり撃て!!》

 

「すまない!!全主砲、撃てー!!」

 

長門、最期の砲撃がフリゲート艦に当たり、沈んで行く…

 

《体を厭えよ、長門》

 

「うむ…世話になった、マーカス」

 

マーカスとの無線が切れる

 

「すっご〜い!!」

 

「どっかーんってなった!!」

 

一緒に戦っていた、まだまだ駆け出しの艦娘達が砲撃を見て驚いている

 

私は、誰かに憧れられていた日々をほんの少し思い出す…

 

「ふふ…さぁ、帰ろう!!」

 

「横に着きます!!」

 

「帰りましょー!!」

 

最期は護る側から護られる側になって、長門は戻って行く…

 

 

 

 

 

プルコヴォ空港に降り立つ

 

既に味方の物資が運び込まれ始めている

 

「お疲れ様です、大尉!!」

 

「何か武器ないか!!迎えに行く人がいる!!」

 

「こちらへ!!」

 

案内されながら、横目でハンガーを見る

 

…間違いない、ラバウルさんのSu-57だ

 

「隊長ー!!」

 

「どこ行くんですか!?」

 

「ラバウルさんを迎えに行く。お前達はここで待っていても…」

 

「ここからお好きなのを」

 

機体から降りて来た涼平と園崎も着いて来た

 

武器庫に案内され、中の物をあさる

 

「自分も行きます!!」

 

「どれが良いですかね??」

 

本当は待っていても良いのだが、二人は既に武器を選び始めている

 

「…ん??」

 

一つの木箱に目が行く

 

随分古そうな木箱だ…

 

木箱を開け、中を見る

 

「何ですか、それ…」

 

中身を見て、鳥肌が立つ

 

「タンクゲヴェール…対戦車ライフルさ!!はは!!こんなとこで見られるとは!!」

 

第一次世界大戦の対戦車ライフルが出て来た

 

「一発装填式でな、凄い威力を誇るんだ…まぁ、立って撃てない位の反動が出るんだがな…」

 

ライフルと涼平とを交互に見る

 

何故かは分からない

 

何故かは分からないが、このライフルが涼平の所に行きたがっている気がする

 

「涼平、持ってみろ」

 

「はいっ…」

 

涼平はライフルを慎重に持つ…

 

それとは裏腹に、やはりこのライフルは涼平に似合う

 

「立って撃ったら涼平も吹っ飛ぶからな??いいか??必ずしゃがむか何かして撃つんだぞ!!」

 

「りょ、了解ですっ!!」

 

涼平に装填の仕方や撃ち方を教える後ろで、園崎はリュックに何か詰めている

 

「園崎は決まったか??」

 

「はいっ!!自分はもう単純な奴です!!」

 

園崎がリュックに詰めていたのは爆薬の類い

 

バズーカやら、手榴弾やら、とにかく沢山

 

「これは涼平、これは隊長の分です!!」

 

俺と涼平の分をウェストポーチに入れてくれていた

 

「すまん、ありがとう」

 

「ありがとうございます!!」

 

中を見ると、ちゃんと手榴弾が3つ入っている

 

しかし、爆薬だけでは些か不安だ…

 

何か撃ちやすい物があれば良いんだが…

 

手近にあった木箱を開けてみる

 

「園崎!!良いのがある!!」

 

中から出て来たのはステンMk2

 

これなら園崎でも撃ちやすい

 

「よし、リュックにマガジン入れといてやろうな」

 

「撃ち方、教えて欲しいです…」

 

「よしよし」

 

園崎は飲み込みが早い

 

そういう奴にこのステンMk2は相性が良い

 

「いいか??リロードしたら、一回マガジンの底を叩いてしっかり入れるんだ」

 

「こうですか??」

 

「そうだ。このレバーをここにすると一発ずつ、ここにすると引いたままいっぱい出る。ちょっとやってみろ」

 

「行きますっ…」

 

適当に置いたドラム缶を撃つ

 

元々肩が強い園崎

 

反動を抑えて射線も安定している

 

やはりステンMk2は相性が良さそうだ

 

「へへっ!!気に入りました!!」

 

「帰ったら良く似たのを作ってやる。だから、生き残るんだぞ??」

 

「了解ですっ!!」

 

「隊長はどうするんですか??」

 

「俺か??俺はこれだ」

 

壁に掛けられていた、使い慣れたウインチェスターを手に取る

 

「よし、行くぞ」

 

「大尉!!此方をお使い下さい!!」

 

手隙の兵がジープを持って来てくれた

 

「エドガーが何処に行ったか分かるか??」

 

「伝言があります。此方を」

 

兵から紙を受け取る

 

涼平も園崎もその紙を脇から見る

 

 

 

 

"死体を目印に来て下さい。その先に私がいます"

 

 

 

「了解した」

 

「行きましょう!!」

 

既に涼平が運転席に乗っている…

 

「園崎、助手席に乗れ。俺は銃座に行く」

 

「了解ですっ!!」

 

いざ出ようとした時、タブレットに通信が入る

 

《レイ??今大丈夫??》

 

「もう出る所だ。手短に頼む」

 

通信相手は横須賀

 

《ロシアに味方してる国の多数が落ちたわ。トドメを刺すなら今よ!!》

 

ジープに向かいながら話を続ける

 

「どうやった??」

 

《経済封鎖したの。これ以上続けると、ロシアと共倒れになって貰うわって》

 

「そ、そうか…経済はそんなに詳しくない。そっちは任せる」

 

《あ、そうだレイ。6時間でそこから離れて》

 

「何かあるのか??」

 

《深海の大規模な爆撃が始まるわ。それでおしまいよ》

 

「了解した。それまでには帰路に着くよ」

 

《気を付けてね》

 

横須賀との通信を終え、ジープに乗る

 

「よし!!出発!!」

 

ジープが街に向けて出る…

 

 

 

 

数十分前…

 

「落ち着け…ふふふ…」

 

エドガーは機体から降り、二振の刀の最終チェックに入る

 

「あぁ。申し訳ありません。ピストルを一丁頂けないでしょうか」

 

「あぁ…でしたら此方を!!」

 

近くにいた味方兵にピストルを貰う

 

今まで一発さえ発砲しなかったエドガーが内ポケットにピストルを入れる

 

「ついでにこれを…マーカスが来たら渡して下さい」

 

「了解しました。大佐はどちらに??」

 

「時間を取り返しに…では」

 

「そっちにはまだ戦車部隊が!!」

 

「先程ついでに潰しましたよ」

 

エドガーは一人、基地を出て行く…

 

十数分歩いた所で、ロシア兵と出くわす

 

「おやおや…やはり集まっていますね…」

 

「撃て!!」

 

出くわすと同時に自動小銃を放たれる

 

「相変わらず下手糞な撃ち方ですね…」

 

「いつの間に…」

 

「もっと肩の力を抜かないと…あぁ…既にありませんでしたか」

 

ドサドサと音を立ててロシア兵が倒れて行く

 

「これで目印になるでしょう」

 

「し、死神め…」

 

「その名は譲ったのですよ。それより、貴方方のお頭の居場所を教えて頂けませんか??」

 

「死んでも吐くか…」

 

「そうですか、さようなら」

 

倒れたロシア兵にトドメを刺す

 

「戦車ですか…」

 

異変に気付いた部隊が救援に来たのか、戦車のキャタピラ音が聞こえた

 

「さてさて…もう少し楽しみますかっ!!」

 

エドガーは笑う

 

まるで楽しむかのように、一振り一振りに笑う

 

譲ったとは言え、ロシア兵からすれば本物の死神

 

「う、撃て!!」

 

「しかし味方が!!」

 

「構わん!!ここで死神を止めろ!!」

 

戦車の砲身がエドガーに向けられる

 

「おやおや。貴方方ごと行くつもりですよ??」

 

「構わん!!ここで貴様を止める!!」

 

「いけませんねぇ…無駄に命を捨てるのは私、嫌いなのですよ…」

 

エドガーは腰にさしていたもう一振の刀を戦車に投げた

 

砲撃寸前で砲身に刺さり、戦車は誘爆を起こす

 

「なんとも脆い戦車です」

 

投げた刀はまるでエドガーの所に戻って来るかのように、足元の地面に刺さる

 

「死神の刀…」

 

エドガーは刀を地面から抜きながら、余っているロシア歩兵を睨む

 

「ふふふ…この刀は数多の戦場で血を吸ってます。私と共にね…さてさて、貴方方もその血になって頂きましょうか」

 

「わ、分かった…降伏する…」

 

「そうですか…」

 

降伏した者を斬るのはエドガーの理に反する

 

刀を鞘に戻し、柄に手を置く

 

「もう少し楽しみたかったのですが…ま、それも良いでしょう。それで、貴方方のお頭の居場所はどこです??」

 

「目立った所に奴はいない…隠れるなら…一般民家の中…それか、教会の中だ」

 

「なるほど…根は小心者の奴の考えそうな事です。分かりました」

 

「せめて名前を聞かせてくれないか」

 

「エドガー。貴方方ロシア兵に人生を奪われた者です」

 

「エドガー…ロシア兵を辿れ。その先に奴はいる」

 

「分かりました」

 

エドガーは再び歩く

 

「隊長、良いのですか」

 

「賭けてみよう…死神なら、どうにかしてくれるかもしれない…」

 

彼等も分かっていた

 

もう引くに引けない所まで来てしまった事

 

自国のトップを止める者が誰もいない事

 

もう死に体だと、自国の兵士が一番良く分かっていた…

 

 

 

 

「おや…」

 

深海の偵察機が、エドガーが見上げた上空を駆けて行く

 

直後に無線に信号が送られてくる

 

「ロシア兵、集結、広場、教会、周り…」

 

エドガーに信号を送った後、深海の偵察機はターンをし、戻って行く

 

「なるほど…ありがとうございます」

 

エドガーは教会に向かう…

 

 

 

 

「死体だらけだ…」

 

ジープの助手席に座っている園崎がそう呟く

 

「どれも一発で斬り裂いてる。こんな事出来るのは、ラバウルさんしかいない」

 

「そこの兵士!!止まれ!!」

 

「涼平、止まれ。様子が妙だ」

 

涼平はジープを止める

 

ロシア兵だが、武装は解除しているのが見えた

 

「貴様はあの死神の味方か??」

 

「刀振り回してたか??」

 

「そうだ。奴はこの先の広場に向かった。教会があるからすぐに分かる」

 

「いいのか??ロシア兵だろ、アンタ」

 

「君達に賭ける。もう引くに引けない所まで来てしまったんだ。どうか、俺達の母国を救ってくれ」

 

そういう彼の背後を見た

 

「…涼平、3分だけ時間をくれ」

 

「了解です」

 

銃座から降りる

 

礼には礼で応えてやらねば…

 

「おい、何をする!!」

 

「もう大丈夫だからな」

 

彼の背後に少し見えた、瀕死の兵士

 

腹を刺されているが、何とか耐えている

 

「Спасибо... вы настоящий синигами, не так ли?」

 

「そうだっ。皆からそう呼ばれてる…よし、これでもう大丈夫だ」

 

「Я обязательно верну эту услугу. не умирай, бог смерти…」

 

彼の肩を叩き、銃座に戻る

 

「よし、行こう」

 

残されたロシア兵は三人を見送りながら、考えていた…

 

「隊長…」

 

「ジッとしていろ、すぐに良くなる!!」

 

治療を受けた彼は、隊長である彼に何かの写真を渡す

 

彼は指でその写真を叩く

 

「貰おう…貰おうな…」

 

彼はそれを聞いて、鎮静剤が効いて来たのか目を閉じた…

 

隊長の彼は内ポケットに写真を入れ、教会の方を向く…

 

 

 

 

「こんなに集めたらバカでも気付きますね…」

 

深海の偵察機から送られて来た情報通り、教会の周りの広場に戦車や武器が固まって配置されている

 

「ラバウルさん…」

 

ようやくラバウルさんに追い付き、俺達も建物の陰に隠れる

 

「来ましたか。今から忙しくなりますよ」

 

「奴の居場所は??」

 

「どれ…一人掻っ払いましょう…」

 

エドガーは手近に居たロシア兵を後ろから物陰に引き摺り込んだ

 

「死にたくなければ奴の居場所を答えろ」

 

「答えるかよ、バカかテメェは」

 

「マーカス。二人を奥に」

 

「涼平、園崎、来い…」

 

二人を物陰に置いた途端、刺しまくる音が聞こえた

 

「教会っ…教会の、地下だっ…」

 

「そうですか。楽にさせてあげましょう」

 

「ゔっ…」

 

右胸を刺し、トドメを刺す

 

「もう大丈夫ですよ」

 

「場所は??」

 

「教会の地下です。ま…少々待っていて下さい」

 

エドガーは隠れながら時計を見る

 

「3…2…1…」

 

「砲撃だ避けろ!!」

 

エドガーが言った途端、長距離射撃が広場に落ちる

 

「園崎さん。私が合図したら、教会に強烈なノックをお願いします」

 

「了解ですっ」

 

「涼平さん。そのライフルで増援に来る戦車を叩きのめして下さい」

 

「了解ですっ」

 

「マーカス。このフレアで長距離支援砲撃を呼べます。貴方のタイミングで…私の援護をお願いします」

 

「了解した」

 

フレアを受け取り、内ポケットにしまう

 

「誘爆が終わります…行きますよ!!」

 

誘爆が終わり、四人は一気に広場に出る…

 

 

 

 

 

「クソっ!!魔女め!!」

 

「大統領…」

 

教会の地下では、一人の男が焦っていた

 

目の前まで迫っている敵兵士

 

それも魔女の手先ばかり…

 

「魔女がキエフに"亡霊"を放った時点で気付くべきだったんだ!!」

 

「大統領…どうか落ち着いて…」

 

「他の国はどうした!!トルコは!!我々の味方は何故応じない!!」

 

「経済封鎖をされて…魔女の手に…」

 

「たかが小娘一人に…」

 

その時、電話が鳴る

 

「私だ」

 

焦りは見せず、整然と電話に応える

 

《そろそろ私の名前を呼んでる頃かと思いまして》

 

「魔女が!!」

 

電話の先は、大統領の言う魔女その人

 

《いいんですよ私は。ロシアの名が世界から消えようがどうなろうが》

 

「…貴様だな、物資も何もかも切ったのは」

 

「えぇ、そうよ。世界は貴方を必要としていないのがよくお分かり??」

 

「…」

 

「あら、返事も出来ないですか??何処かにお返事を置いてきたのかしら??それでも大国の大統領??」

 

「…引くにひけんのだよ、魔女」

 

「年寄って意地張りがちよねぇ…まぁそこで座って、貴方の愛した国が崩れて行くのを見ていればいいわ」

 

「待て」

 

「…それとも、国じゃなくて国民を愛するかしら??」

 

「折り合いは付けられないか…」

 

「…いいわ。その代わり、この戦争は貴方が折れなさい。代わりに戦後救済はしたげる。折れないのなら、老人の意地に踊らされた国民が貴方の目の前で日がな死んで行く事になるわ」

 

「ぐっ…」

 

「もう一度言うわ。世界は貴方を必要としていない。私はロシアなんてどうなろうが構わない。だけど、一度だけ人としてチャンスを上げるって言ってんの、分かった??」

 

「分かった…折れよう。代わりに国民は救ってやってくれ」

 

「そっ、良い子。忘れちゃダメよ、アンタはいつだって、喉元にナイフが来てる事…じゃ、アンタが世界に向けてごめんなさいしたらもう一度お話しましょ、じゃあね〜」

 

魔女は電話を切る

 

 

 

 

「良いのですか??ロシアに手を差し伸べて」

 

「私は救いを与えたわ。私はね」

 

魔女の下僕は、改めて自分の主の力の偉大さを知る…

 

 

 

 

「増援が来る!!それまでに教会に入るぞ!!」

 

「スゥ、ハァー…」

 

涼平は手近にあった土嚢に身を潜め、対戦車ライフルを構える

 

独特な射撃音を響かせた後、すぐに場所を移動する

 

「隊長!!3時方向!!マンションの中!!スナイパー!!」

 

《オーケー、助かった!!》

 

スナイパーが処理され、次の射撃ポイントに着く

 

「ああっ、クソッ!!11時方向!!戦車!!援護します!!」

 

すぐに射撃体勢に入り、息を殺す…

 

マシンガン、アサルトライフルの音の中に、一発別の音が混じり、戦車が火を吹く

 

「9時方向に戦車!!魔女の手先を援護しろ!!」

 

「はっ…」

 

別のロシア語の無線が交じる…

 

自分達の応援に来たのは横須賀やウクライナの戦車ではなく、国旗のマークを塗り潰したロシアの戦車

 

「"白鳥"…??誰か白鳥のスポッターに着いてやれ!!」

 

無線を聞いていると、こっちに向かって来たロシア兵が見えた

 

「さっきの借りを返しに来たぞ、白鳥」

 

「ありがとうございますっ」

 

「よし、行くぞ!!」

 

 

 

 

みるみる内に戦車が破壊されて行く

 

涼平の射撃もあり、園崎の火薬もあり、そして、あの反旗を翻した戦車…

 

「よし…園崎さん、ノックをお願いします」

 

「離れて下さい!!」

 

園崎がバズーカを放ち、教会の扉が破壊される

 

「ここから先は私が先行します。マーカス、園崎さん。涼平さんを呼んで後から着いて来て下さい」

 

「了解した。涼平、こっちに来い。援護してやる」

 

《了解です、隊長》

 

 

 

 

「白鳥。気を付けろよ」

 

「ありがとうございました。その…復興が終われば、また会いましょう??」

 

「白鳥、お前に託したぞ」

 

白鳥が教会に走って行く…

 

「これで良いんですね、隊長??」

 

「これでいい…サイン、貰えないかもしれん。すまなかった…」

 

「一緒に戦えて光栄でした…あっちではお願いですから無茶しないで下さいよ??」

 

「分かったよ」

 

増援の戦車が近付く…

 

「さぁ…最後の戦いだ。行くぞ!!」

 

「了解です、隊長」

 

反旗を翻した小さな反ロシア兵達の集まりが、最後の戦いに赴く…

 

 

 

 

「さて…」

 

教会は何故か、もぬけの殻

 

逃げ出してしまったのだろうか…

 

いや、違う

 

兵達が逃げ出しただけだ

 

地下…その奥に本体がいる

 

「死神…悪いが、お前暴れ過ぎたな」

 

これが最後の兵。これが終われば、この向こうに…

 

「あの程度で暴れたと言われても困るのですよ」

 

いきなり口の中に刀を入れる

 

「そこを退け。もう腕もない癖に…」

 

「い…いでぇ…」

 

「今痛みが来ましたか??じっくり味わって下さい、激痛を。あぁ、もう声は出ませんよ。今しがた声帯を斬ったので」

 

口から刀を抜き、ドアを開ける…

 

「し…死神…」

 

「やっと見つけた…この腐れ外道がぁ!!」

 

 

 

 

「死体だらけです…」

 

「ダメです。こっちも…」

 

「ちったぁ加減してくれよ…」

 

エドガーの行く先行く先、死体が転がっている

 

お陰で居場所が分かり易い…

 

「ここが最後のドアです」

 

「園崎、ドアを…」

 

「あっははははは!!どうだ!!テメェのお得意のシステマで耐えろ!!」

 

その場にいた三人全員、狂気の歓声にたじろぐ

 

「爪剥がれたレベルでよぉ!!くたばって貰ったら困るんだわぁ!!…うおらぁ!!」

 

「Проклятые шинигами...」

 

男性のロシア語が聞こえ、何かが折れる音が聞こえる

 

「こんなもんで済むと思うなよ??次は生皮行ってみようか!!おらどうだ!!イテェか!!助け呼んでみろ!!大きな声で!!」

 

「что я тебе сказал...」

 

「知らねぇとかほざくなよクソ野郎…俺は助けを呼べと言ったんだぞジジイ!!呼べよ!!ほら!!」

 

「Помоги мне…」

 

「聞こえねぇなぁ!!ほらもっと大きな声で!!」

 

「Помоги мне!!」

 

「俺も!!母も!!姉も!!その言葉!!何度!!言ったか!!分かるか!!この!!老害!!ジジイが!!」

 

言葉を放つ度に、ピーラーで何かを剥く様な音が聞こえる

 

ドアの向こうから聞いていて既に悲惨な状況だ…

 

涼平も園崎も、さっきあれだけ勇猛果敢に戦っていたのに固まってしまっている

 

「隊長…開けましょう。エドガーさんが人である内に」

 

「園崎、行けるか??」

 

「了解です、フンッ!!」

 

園崎はパンチ一発でドアを開ける

 

「二人共下がってろ…」

 

「おい見ろ。まだまだ目玉は残してあるだろ??」

 

エドガーは男性の頭頂部の皮を掴み、俺の方に向ける

 

「助けて…くれ…」

 

「…」

 

言葉が出ない…

 

SS隊に捕まったら酷い拷問を受けるとは聞いていたが…

 

ここまで悲惨なのは初めて見た

 

「こ…コイツが…死神か…タナトス級の、生みの親か…」

 

「…」

 

返す言葉が無い訳では無い

 

恐怖で声が出ない…

 

「死神にご挨拶でもしたらどうだ??えぇ??今から世話になんだろ??」

 

「許して…くれ…」

 

「…執行人の許しは乞うたのか」

 

何とか声をひり出す…

 

「許してくれ…頼む…もう良いだろ…」

 

「えぇ構いませんよ。私の分は済みましたからねぇ。さぁ、次は私の母の分です」

 

「やめろ…もうやめてくれ!!」

 

瀕死の男性の口から、死に際の様な声が出る

 

「もう一度言いますよ。老人だから耳が遠くなって物忘れも激しくなりましたか??その言葉、私と母と姉が何度も言ったのですが??」

 

「隊長」

 

「うっ…」

 

二人が中に入って来た

 

「あぁ!!良かった良かった!!」

 

二人の目に映ったのは

 

返り血で真っ赤に染まった顔から、満面の笑みを魅せるエドガーがそこにいた…

 

「人の言う事聞かなかったり、悪さばかりするバカは!!」

 

「見るなっ…」

 

ギリギリで涼平と園崎の目を塞ぐ

 

「人の生き死には見る物じゃない…目を開けるな、一生後悔する…」

 

「は、はいっ…」

 

「了解ですっ…」

 

エドガーが言ったと同時に、男性の背中にナイフが刺さる

 

「こうやって!!」

 

「あがが…」

 

背中のナイフがゆっくり、ゆっくり下半身に向かって降りて行く

 

「罪を贖う事になるのですよ??」

 

男性の息はもう絶え絶えになってはいるが、そこはエドガー

 

死なない程度に刺したり剥いだりする

 

「母は貴方がたの前で裸に剥かれて、皆の前で散々犯されました…たった一つの理由でね」

 

「…」

 

「聞けよ、理由を」

 

頭を掴んで顔に寄せる

 

「なぜ…だ…」

 

「胸が大きかった…ただそれだけだ。だから私は…」

 

エドガーの言葉が止まる

 

「エドガー、帰ろう」

 

今しかないと思った

 

何かを考えて怯んだエドガーに話を続ける…

 

「人である内に…帰ろう」

 

「…出来ません」

 

「エドガー…」

 

「それより、二人の手を離してあげて下さい」

 

「もうしないなら外す」

 

「もう斬ったり刺したりしません」

 

二人の目から手を外す

 

「申し訳ありませんが、このバカが呼称していた名で呼ばさせて頂きます"処刑人さん"そこのタンクを取って下さい」

 

園崎の方を向く

 

「これですか??」

 

園崎は言われた通りに何かのタンクを取る

 

「"白鳥さん"ライターはありますか??」

 

「あっ、はい。これを」

 

「"死神さん"タバコを一本頂けませんか??」

 

「やるよ。帰り道にでも吸ってくれ」

 

もう数本しか入っていなかったタバコの箱をエドガーに投げる

 

「どうもっ。さて…」

 

エドガーは髪を上げた後、タバコを箱から取り出して咥える

 

ライターでタバコに火を点けた後、机の上に座る

 

「私はね…人を殺した後に吸うタバコがたまらなく好きなのですよ…でも、今回は特別です。これが何か分かりますか??」

 

男性の前にタンクを置く

 

「なんだ…それは…」

 

「貴方が良く知っているでしょう!!貴方が要らぬ事をしたおかげで値上がりした物ですよ!!さてっ…出ますかっ」

 

エドガーはタバコを床に捨て、足で踏んで火を消す

 

「先導して頂けませんか。私は後を行きます」

 

「了解した。行くぞ!!」

 

「了解ですっ!!」

 

「…これ、何ですかね??」

 

ふと涼平は隅にあったケースを見付ける

 

「持って帰った方がいいですよ。さ、お願いします」

 

涼平はそれを手に取り、俺達と一緒にエドガーの先導をする

 

「何を…するつもりだ…」

 

「…」

 

エドガーは黙ったまま男性を引き摺る

 

「表はどうなってますか??」

 

「待ってろっ…」

 

教会のドアを開ける…

 

「はは!!友軍だ!!」

 

「街の人も出てきてますよ!!」

 

「やったぜ!!」

 

「うぉぉぉお!!マーーーカァーーース!!」

 

「やったぜマーカス!!」

 

表は友軍の戦車部隊が教会を包囲してくれていた

 

何とかなったみたいだな…

 

「…街の人、ですかっ!!」

 

「マキシモさん!!」

 

「うぉぉぉお!!園崎ぃ!!」

 

外で待っていてくれたマキシモが、園崎を抱き締める

 

「よぉ」

 

「あ!!レイ君!!」

 

俺は俺で迎えに来てくれた大淀に抱き着かれる

 

「良かった…皆さんこれで安し…」

 

涼平の時間が緩やかになる…

 

返り血に塗れた満面の笑みで涼平を見ながら、エドガーが横切る

 

「ひっ!!」

 

あまりの恐怖で涼平が固まる

 

泣きそうになる…

 

全身がこわばる…

 

体が震える…

 

その恐怖は今までどんな航空戦でも味わった事が無く、ただ人間の本能的な恐怖を煽り立てる物…

 

これが人間の本来の"恐怖"の形というのを、今涼平は目の前で実感した…

 

そして、人間は本能的にその場で一番頼りになる人の名前を口にする…

 

「隊長ーーーーっ!!」

 

「はっ!!」

 

涼平の叫び声が聞こえ、教会に振り返る

 

そこには男性を引き摺り、余った片手にタンクを持ったエドガーがいた

 

「ははは…はははははは!!」

 

エドガーは男性を広場の中心に降ろし、タンクの蓋を開ける

 

「くそ…」

 

ザバザバと男性に液体がかけられる

 

市民が異変に気付き集まってくる

 

「どうせ放っておいても数時間で死にます。燃やすなり殴るなり、お好きにどうぞ。さぁっ!!寄ってらっしゃい!!貴方がたの国を崩壊させた元凶ですよ!!」

 

エドガーはそうとだけ言い、タンクを投げ捨ててこっちに来た

 

既に市民は棒で殴ったり蹴ったりし始めている…

 

「仕事は終わりました。帰りましょう」

 

「恐ろしい奴だ…」

 

「ふふっ…お互い様でしょう??」

 

俺とエドガーは微笑む

 

「コイツは何だぁ??」

 

マキシモの前に出されていたのは、最後に援護に入ってくれた反ロシア兵

 

体も震え、怯えに怯えきっている

 

「待って!!待って下さい!!」

 

そこに入ったのは涼平

 

「その人達は味方です!!」

 

「ほぅ。貴様命拾いしたなぁ!!はっはっは!!だ〜がぁ!!」

 

マキシモはもう一度銃を彼等に向ける

 

「俺はいけ好かねぇ!!」

 

反ロシア兵は目を瞑る

 

「ぐッ…お願い、ですカラっ…」

 

マキシモの銃を握ったのは、少し深海化した涼平

 

どうしても彼等を救いたいらしい

 

「貴様を殺すかもしれんのだぞ!!」

 

「それデモっ…それでも構いませンッ!!」

 

「う〜む…此奴が俺に楯突くのはヒジョーに珍しい…」

 

「終わったンデス…どうかッ…」

 

「はっはっは!!いいだろう!!命拾いしたなぁ!!はーっはっはっは!!」

 

「はぁ…」

 

「ありがとう、白鳥…」

 

「2度も救われたなっ…」

 

「後々殺すなら…今殺して貰えませんか…今ならその…カッコいいまま死ねますから…」

 

体力と神経を擦り減らし、最後に軽く深海化までした涼平は、ここに来てようやく力が尽きる

 

「よっ、と…」

 

「誰が殺すか…お前は何度も命を救ったんだぞ…」

 

反ロシア兵二人はすぐに涼平を抱え、地面にゆっくりと寝かせる

 

「ありがとう。後は俺が診よう」

 

「あと1両残ってるぞ!!」

 

誰かがそう叫ぶ

 

急いで振り返ると、砲がゆっくりと此方に向いているのが見えた

 

間に合わない!!

 

せめて涼平だけは!!

 

涼平に覆い被さった時、エドガーが走って行くのが見えた

 

「死に損ないが!!」

 

砲身に刀を振り下ろす

 

砲身が折れ、戦車が誘爆を起こす

 

「やったぜ!!流石執行人だ!!」

 

「お、お、おれおれ…」

 

戦車を撃破したエドガーの様子がおかしい

 

「涼平、ちょっと待ってろ」

 

「は、はひ…」

 

疲労が溜まっている涼平を休ませ、現状ヤバそうなエドガーに寄る

 

「お、おい、大丈…」

 

「折れたぁぁぁぁあ!!」

 

いつものエドガーらしくない取り乱し方だ

 

「ヤバいヤバいヤバいヤバい…ここここれは本気でマズいんです!!」

 

「刀ならまた俺が…」

 

「違うんですよぉ!!この刀が折れるのは本当にヤバいんです!!はぁぁぁあ!!どどどどうしましょう!!あ、そうだ!!帰らなければ良いのです!!私はここに国籍を置きますので!!どうかお元気で!!」

 

「ちょちょちょちょ待てって!!取り乱し過ぎだろ!!何がヤバいんだ!?」

 

「この刀を造った人ですよぉ!!はぁ、殺される…はっ!!いっそ殺されるなら少女に殺されるべきでは…その辺に少女はいませんか!!」

 

エドガーの目が泳いでいる

 

何をそんなに焦っているのか…

 

「そいつとこの国の頭とどっちが怖い」

 

「その人に決まってるでしょう!!何を言うんですか!!いいですか!?私はあんなハゲやカスを何十人と斬って来たんです!!この世に生きる価値もない奴の血を啜って生きて来たんです!!今更殺しにかけては怖くなんてありませんよ!!」

 

「わ、分かった…分かったよ…」

 

「…あのメス臭の中に突っ込むとどんだけ吐き気を催すか」

 

エドガーは刀の破片を集めた後、爪を噛みながらブツブツ言って帰路に向かう

 

…多分大丈夫そうだ

 

「さてっ、帰るかっ!!」

 

「後はお前だぁ!!お家に帰るぞぉ!!」

 

マキシモに呼ばれ、戦車に足を掛ける…


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