艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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特別編 ウクライナ奪還作戦〜上陸と爆撃〜

数日後…

 

先に到着していたのはエドガー

 

ヴィスビュー空港の中で数日過ごし、タナトスからの連絡を待っていた

 

「さて…そろそろ出番ですかっ…」

 

「ここから武運を祈っています、エドガー!!」

 

「世話になりました…今度はバカンスでお邪魔しても構いませんか??」

 

「勿論ですよ!!ここには観光地が沢山ありますから是非!!」

 

エドガーは機体に乗る

 

「ジブラルタルを抜けましたか…タナトスの速度なら、ダーダネルスまで1日掛かりません…」

 

エドガーもタナトスのスピードは知っている

 

大型艦でありながら、高速化を実現したあのエンジン…

 

彼の言う通り、タナトスのスピードならジブラルタルからダーダネルスまで1日…仮に何らかの補給で掛かっても1日半だ

 

「楽をさせてあげますかっ」

 

ヴィスビュー空港から、爆装を引っ提げたSu-57が離陸する…

 

本来爆撃に向いていないSu-57が爆装をしているのには意味がある

 

「聞こえますか"ウクライナの勇士達"」

 

彼等が今向かっているのはウクライナ

 

エドガーにはウクライナを救う理由があった

 

《誰だ、アンタは!!》

 

ウクライナ側からの無線の返答が来る

 

まだ若そうな男性の声だ

 

「貴方方の味方です。赤黒いSu-57を見たら撃ち落とさないで頂きたい」

 

《了解した。もしかして…ヨコスカから来たのは貴機か??》

 

「いかにも。コールサインはサイクロップス…では…エンゲージ!!」

 

エドガーの前にMig-29が3機立ち塞がる

 

「遅い!!」

 

瞬く間に3機は堕ちて行く

 

ミサイルの一本さえ使わず、エドガーはまるで"恨みを晴らすかのように"機関砲でコックピットだけを撃ち抜いて行く

 

「久方振りです…こんなに武者震いしているのは!!」

 

《すまないサイクロップス!!対空砲を君の援護に回せない!!戦車部隊を補足した!!》

 

「お任せを」

 

Su-57のレーダーにも、エドガーの目にも戦車部隊が目に入る

 

「投下」

 

高高度から小型の投下爆弾が数発落とされる

 

眼下で無惨に大破炎上して行くロシアの戦車部隊

 

それを見て、エドガーはほくそ笑む

 

「ロシアの戦車部隊が見えたら、補給車を狙って下さい。奴等の戦車は燃費が悪いので、それ以上動けなくなります」

 

《了解した!!ありがとうサイクロップス!!助かったよ!!》

 

「私はこれからキーウに向かいます。どうかご無事で…」

 

《戦車部隊の彼等もキーウを目指す!!サイクロップス!!必ず会おう!!》

 

無線を切り、エドガーはキーウを目指す…

 

 

 

 

「派手にやってくれましたね…」

 

キーウに到着したエドガーの目に入ったのは、建物が瓦礫と化した街並

 

ロシアからの地対地ミサイルが何発も着弾したのか、燃えている箇所もある

 

《キーウに到着したようだな、サイクロップス》

 

「えぇ…見るも無惨ですが…」

 

《我々は今、逼迫した状況下にある…サイクロップス、君さえ良ければ手を貸してくれないか??》

 

「勿論ですよ。敵性反応を此方にも回して下さい」

 

《了解した!!データを転送する!!》

 

エドガーのSu-57に敵性反応のデータが転送される

 

戦車部隊が交戦中…

 

その後ろから航空機と爆撃機の編隊…

 

「なるほど…了解しました」

 

《サイクロップス。ボルィースピリ国際空港は死守されている。そこに連絡を入れておく、補給が必要なら着陸してくれ!!》

 

「了解しました。少しばかりですが、冥府に送り出して来ます」

 

《グッドラック、サイクロップス!!》

 

エドガーは自身の乗るSu-57のバーナーを吹かす…

 

「投下」

 

再びエドガーの高高度からの爆撃が来る

 

《何処からやられた!!》

 

《何だ…あの機体は…》

 

地上からの無線で、驚いた声が入る

 

ロシア戦車が何処からともなく落ちて来た爆弾で、いきなり目の前で使い物にならなくなったからだ

 

「聞こえますか、ウクライナの勇士達」

 

《あ…あぁ、聞こえる…》

 

「対空車両はいますか??」

 

《2両いるが、どうした??》

 

「爆撃機がそっちに向かっています。最悪撃ち漏らしたら、そちらで対処をお願いしたいのです」

 

《りょ、了解した!!》

 

「さて…護衛を相手にしますかっ!!」

 

 

 

 

 

同時刻、セバストポリ

 

「荷降ろし始めっぞ!!」

 

「はい!!」

 

「力仕事は任せて下さい!!」

 

タナトスは艦内で待機し、俺達で荷降ろしを進める

 

「いくれ!!」

 

「あいっ!!」

 

五人でのバケツリレーの様な荷降ろしで、セバストポリの港に物資が荷降ろしされて行く…

 

ん…五人…??

 

「ちょっと待て…五人だと??」

 

「そ…そう言えば…」

 

「出た時は三人だった様な…」

 

「点呼してみよう。1!!」

 

「2!!」

 

「3!!」

 

「よんつ!!」

 

「ごつ!!」

 

いつの間にかひとみといよがそこにいた!!

 

「「「いつからいた!?」」」

 

「よこしゅかでうときかあ、じゅ〜っといた!!」

 

「おとなちくちてあした!!」

 

「くぅ…」

 

流石に頭を抱える

 

ひとみといよにステルスを使われては、何処にいるか分からない

 

タナトスですら感知出来なかった所を見ると、何処かに隠れていた様だ

 

「ご飯はどうしてた??」

 

すると、ひとみといよはいつものリュックからチョコレートバーの包み紙を取り出す

 

「こえたべてた!!」

 

「いちにちさんつ!!」

 

「あ…隊長!!荷降ろし終わったら何か食べましょうよ!!」

 

「ウクライナの郷土料理でも食いましょう!!」

 

「そ、そうだな!!そうしよう!!ひとみもいよも、もうちょっとお仕事出来るか??」

 

「できう!!」

 

「れきう!!」

 

これでもかと言う位素晴らしい返事をされ、呆れ半分、頼もしさ半分で頷き、荷降ろしに取り掛かる…

 

 

 

 

二時間後…

 

「終わり!!飯にしよう!!」

 

「お腹空きましたね!!」

 

「いやぁ、いい汗かいた!!」

 

俺達がまぁまぁヘタってる前で、ひとみといよはまだまだ元気そうだ

 

「あにたべう??」

 

「あしょこにえすとあんあう!!」

 

ひとみの目線の先にはレストランがある

 

「あぁ、あそこにしよう、よっこらせ!!タナトス、飯食いに行くぞ!!」

 

タナトスに連絡を入れると、無線の先からは咀嚼音が聞こえて来た

 

《あそこの店は美味いれち…コトレータもパンプーシュカも…美味いれち!!》

 

「…デリバリーで食ったな??」

 

《玄関先の配達にして、支払いは創造主にしといたでち》

 

「くっ…おっ…」

 

《美人な人が持って来てくれたでち》

 

「よし、すぐ行こう!!」

 

無線を切り、五人でレストランに向かう…

 

 

 

「いらっしゃいま…ようこそお越しに!!」

 

「五人だ」

 

「伺っております!!遠路遥々ありがとうございます!!さ、こちらへ!!」

 

何故か歓迎され、席に案内して貰う

 

「あにたべてうの??」

 

「おいち??」

 

「これはボルシチ!!とっても美味しいよ!!」

 

ひとみといよは隣の席にいた女性のボルシチを見て、美味しいかどうか聞いている

 

ガングートに作って貰った事が何度かあるが、あれは味が濃くて美味い

 

しかし、ここはタナトスが言っていた奴を食ってみよう

 

「コトレータとパンプーシュカを」

 

「自分もそれを!!」

 

「くっ…わ、分からん…」

 

園崎はメニューとにらめっこしている

 

勿論の事、全部ウクライナ語で書かれたメニューだ、正直俺も分からん…

 

「これは穀物のお粥、こっちは餃子みたいなパンでしょ…後は…」

 

「待て、分かるのか??」

 

「あ、はい。タシュケントに少し教えて貰ったので!!」

 

「じゃあ、そのお粥と餃子みたいなパンで!!」

 

「カーシャとヴァレーニキを!!」

 

「畏まりました!!貴女達はどうする??」

 

「あえくだしゃい!!」

 

「ぽるちし!!」

 

二人が指差す先には、隣の女性のボルシチ

 

「はーい!!畏まりました!!」

 

注文を受け、女性は厨房に向かう

 

「園崎、タバコ吸いたい。ちょっとひとみといよを頼む」

 

「了解です!!」

 

「涼平、行くぞ」

 

「はいっ!!」

 

涼平と表でタバコに火を点け、ようやく一服する

 

「後は簡易病院の建設ですね、隊長」

 

「そうだな。強いて言うなら、俺達の移動手段がありゃ良いんだが…」

 

「いざ戦闘になった時、ですか??」

 

「そっ。滑走路まで行きゃ、俺達は何とか戦闘機に乗って戦える。ミグでも払い下げのスホーイでも乗ってやらぁ」

 

「そう言えば、隊長はスホーイに乗ってたんですよね??」

 

「今のこの状況で言うのもなんだが、良い機体だ…パワフルで、スマートで、力強い…」

 

「自分が乗れるのありますかね…」

 

「小型が良いか??大型が良いか??」

 

「自分は小型が良いです!!」

 

「ふふ…空軍の基地にファルクラムがあったら頂戴してやるよ!!」

 

「お客さーん!!出来ましたよー!!」

 

「行くか」

 

「はいっ」

 

互いにタバコの火を消し、席に戻る…

 

 

 

 

「「いたあきあす!!」」

 

「「「頂きます!!」」」

 

ひとみといよに促され、俺達は異国の地でもちゃんと頂きますをする

 

先にコトレータを頂いてみる…

 

「うんまい!!」

 

「美味しい!!」

 

コトレータは肉がジューシーで、薄い衣が付いていて、噛む瞬間に肉汁が出る

 

「…」

 

俺と涼平が美味い美味いと言う中、園崎はずっと静かに食べている

 

「美味い…」

 

静かに口を開いた園崎は、何処か感動している様に見える

 

「こいつを減量メニューに入れよう!!えーっと…これ何だった??」

 

「カーシャ!!」

 

「カーシャ、カーシャっと…」

 

園崎はメモを取り、またカーシャを口にする

 

その後も美味そうにヴァレーニキにかぶりつき、至福そうに昼食にありつく…

 

よほど美味いのか、ひとみといよも静かに食べている

 

「うみゃいうみゃい!!」

 

「ごちしぉ〜さあでちた!!」

 

「ホントに美味しかったですね!?」

 

「これが郷土料理か…美味かった!!」

 

「隊長…一つ確認したい事が…」

 

ひとみといよ宜しく、口元に何かしらを付けまくった園崎が言った

 

「こんな美味いものが、無くなるかも知れないのですよね…」

 

「そうだ。必ず護ろう」

 

涼平も園崎も、静かに頷く

 

ひとみといよも小刻みに頷いている

 

「ごちそうさま。勘定を頼む」

 

「もう頂いておりますよ??」

 

「誰から!?」

 

既に勘定が支払われており、戸惑う

 

ウクライナに今の所知り合いはいないはずだ…

 

「先程"女性"が、貴方方のお勘定を回してくれと仰られまして…」

 

「…もし会ったら、今度はこっちが出すと言っておいてくれ」

 

「畏まりました!!またのお越しを!!」

 

謎を残しつつ、レストランを後にする…

 

俺達は俺達で、ここから簡易病院を建設しなきゃならない

 

「隊長!!航海の途中で設計図描いてみたんです!!」

 

「どれっ!!」

 

園崎と一緒に、涼平の描いた設計図を見る

 

そしてそれを元手に簡易ながらも病院を建て始める…

 

 

 

 

数時間後…ボルィースピリ国際空港

 

《そっちに行った味方機にありがとうと伝えておいてくれ!!赤黒いSu-57だ!!》

 

《赤黒いSu-57に助かったと報告しておいてくれ!!》

 

《味方機のSu-57が補給に来たら、俺達の分も補給してやってくれ!!》

 

「なんだなんだ!!何があったんだ!!」

 

四方八方から入る無線

 

そのどれもが、特定の機体に搭乗しているパイロットに対する謝礼を伝えてくれと言う

 

《サイクロップスよりボルィースピリ国際空港。補給を受けたいのですが…》

 

管制塔に無線が入る

 

サイクロップス…一つ目の怪物の名だ

 

独特の高音が聞こえる…

 

無線の先の連中が言っていた一つ目の怪物が、この空港に着陸を要請している

 

「ボルィースピリ国際空港管制塔"オーレニ"了解した。2番滑走路が開いている、誘導を開始します」

 

《了解》

 

着陸後、エドガーの周りにすぐに人が集まる

 

「サイクロップスはアンタか!?」

 

キャノピーが開くや否や、声を掛けられる

 

「そうです!!補給を頼めますか!!」

 

「もう手配してある!!サイクロップス、アンタも補給してくれ!!」

 

タラップを降り、エドガーは椅子に座らせて貰う

 

「遠路遥々すまないな…もてなしてやりたい所だが…」

 

「構いませんよ。今は奴等を追い返すのが先です」

 

「そうか…すまないな…」

 

「こちらを!!」

 

「ありがとうございます」

 

トレーに載って来たビスケット数枚と、水を頂く

 

「ありがとう…生き返りました」

 

「もう補給が終わる。サイクロップス、いつでも降りてくれ!!」

 

エドガーは小さく頷くと、Su-57に乗り込む…

 

《サイクロップス!!聞こえるか!!緊急入電だ!!》

 

「どうしました??」

 

 

 

 

数時間前、セバストポリ…

 

「出来ましたね!!」

 

「疲れた!!限界!!休憩!!」

 

「な…何でそんなタフなんだよ涼平…」

 

ほぼ半日ぶっ通しで簡易病院の建設をしていた

 

幾ら現地の人間や妖精の支援があるとはいえ、半日ぶっ通しの建設は身に堪える…

 

何故かは分からないが、涼平はピンピンしている

 

「ヨコスカの兵隊さん、少しは休んでくれ…」

 

現地の人が温かいレモンティーを勧めてくれた

 

「そうだぜ…流石に少し休もうぜ涼平…」

 

「そうだな…タバコでも吸おう…」

 

「そうですね!!あ、そう言えば、さっきこんなの貰いましたよ!!」

 

焚き火の周りにある倒木をベンチ代わりにし、俺達はそこに腰を下ろす

 

涼平はポケットからタバコとお菓子を取り出した

 

ウクライナ産のタバコと、お魚の形をしたビスケットだ

 

「隊長…」

 

「ん??」

 

「涼平のポケットって…何でも出て来ると思いませんか…」

 

「言われてみれば…」

 

涼平のポケットは何でも出て来る気がする…

 

タバコ、お菓子に始まり、適材適所でいつも何かを出してくれる

 

「多分あれですよ…異次元に繋がってるとか…」

 

「聞いてみよう…涼平、ストローあるか!?」

 

「あ、はい。此方に!!」

 

「「あるぅ…」」

 

「何話してるんですか??」

 

「涼平のポケットってよ…何でも出て来るなぁって…」

 

「そ、そうかな??」

 

「すみません、栓抜きありますか??」

 

現地の人がビールの栓抜きを貸してくれと俺達の所に来た

 

「ちょっと待って下さいね…はいっ!!」

 

「「あるぅ…」」

 

やっぱり異次元に繋がってるとしか思えない…

 

「たまたまですって!!ビスケット美味しいですよ!!」

 

三人でレモンティーを飲みながら、お魚ビスケットを食べる

 

「さっきのお勘定を払ってくれた女性…誰なんでしょうね…」

 

「ここいらの人が奢ってくれたと思っておこう」

 

「うぉっ!?」

 

園崎が持っていたお魚ビスケットの袋が急にガサガサガサ!!と動く

 

「ひとみ、いよ、ジュース飲むか??」

 

「のむ!!」

 

「のどかあいた!!」

 

ステルスを切ったひとみといよが園崎の前に現れる

 

「び、びっくりした…」

 

ひとみといよにも温かいレモンティーを淹れると、園崎の膝の上に座って飲み始めた

 

「おしゃかなのやつくらしゃい!!」

 

「おしゃかなびすけっろ!!」

 

「はいっ!!」

 

ひとみといよは早速お魚ビスケットをサクサク食べ始める

 

「ヨコスカの兵隊さんは貴方方か!?」

 

焦った様子のウクライナの兵士が来た

 

「すまない、挨拶が遅れた」

 

「か、構わないさ…はぁ…こっちに女の子二人が来なかったか!?」

 

「い、いない…」

 

いつの間にか膝の上から消えていたひとみといよに園崎は恐怖する…

 

「何かあったのか??」

 

「礼が言いたいんだ!!我々の艦の援護に入ってくれたんだ!!」

 

「援護に入ったのか!?」

 

「ロシアのミサイル艦を二隻大破まで追い込んでくれたんだ!!」

 

「後で言っておくよ。もし何処かで会ったら、褒めてやってくれないか??」

 

「了解した!!それと…来てくれてありがとう!!」

 

「友達だろ??いつだって来るさ」

 

そう言った後ろで、ミサイル艦が爆発を起こす

 

「いいぞ!!」

 

「やったぞ!!」

 

ウクライナの兵士が歓喜する

 

俺達も立ち上がり、海の方を見る…

 

埠頭の先でひとみといよがウクライナの兵士と共に何かを海に向かって撃っている…


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