艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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お久し振りです、苺乙女です

久し振りの更新になります、大変お待たせしました

今回のお話は、2度目の水没地域調査のお話です

地の利が唯一ある涼平を連れ、とある場所へと向かいます



少し前に、マーカスはナイフを過去に置いて来ました

その代わりの武器が今回手に入ります


322話 君の故郷(1)

「あ、レイ‼アンタ暇??」

 

「暇だったらここにいねぇっての!!何だ‼」

 

工廠でPCをいじっていたレイに資料を渡す

 

レイは手を止めて資料をめくる

 

「水没地域調査か…」

 

資料をめくる度に、レイの目が真剣な物に変わっていく…

 

「まだ調査が進んでないのよ…お願い出来る??」

 

レイは資料を見ながら口を開く

 

「分かった。ここの地理に強い奴がいればいいんだがな…」

 

「涼平!!ちょっと!!」

 

「あ、はい!!」

 

たまたま通りがかった涼平を捕まえた

 

ちょっとは知ってるとは思うのだけど…

 

「涼平、ちょっとこれ見て頂戴」

 

「はい」

 

涼平も資料をめくっていき、途中で目が真剣な物に変わる

 

「なるほど…この辺りは数度だけですが、行った事があります」

 

「数度でも知らないより遥かにマシよ!!レイのナビお願い出来る??」

 

「了解です!!」

 

「あ!!そうだわ!!終わったら1日休暇をあげるわ!!終わったら好きなとこ行ってらっしゃいな!!」

 

「ホントですか!?」

 

レイより早く反応したのは涼平の方

 

いつも目が輝いている子だけど、いつも以上に輝いてる気がする…

 

「隊長!!行きましょう!!」

 

「よ、よっしゃ!!なら準備だ!!」

 

涼平は意気揚々と準備に取り掛かる

 

「レイ、お願いがあるの」

 

「なんだ??」

 

「休暇は、あの子に付き合ってあげてくれないかしら??」

 

「涼平が嫌じゃなきゃな??」

 

「多分涼平から誘うわよ‼さ‼頼んだわよ‼」

 

「分かった」

 

「あ、レイ」

 

レイが足を止めて振り返る

 

「アンタの傷は癒えたのかしら??」

 

「もう大丈夫だ…心配掛けたな??」

 

「いい、レイ??辛いと思ったり、抱え込む前に、頼れる人には頼んなさい!!それが女でもいいわ??」

 

私はレイに体を寄せて、軽く押し付ける

 

「私じゃ、アンタが現地であぁなった時に居られない時がある…その時は、誰でも良いから頼って」

 

「すまん…」

 

「謝んないで!!いい!?最後に私の横にいればそれでいいの!!分かった!?」

 

「はいはい分かりましたよ!!」

 

「はいは一回!!」

 

「はい!!必ず帰ります!!」

 

「んっ、いいわ!!行ってらっしゃい!!」

 

レイは涼平と一緒に水上機の準備を始める

 

「その…ジェミニちゃん…」

 

「大淀さん…見ました??」

 

いつの間にか大淀が背後の壁の後ろにいた

 

「ごめんなさい…3日も連絡しないで…」

 

「ありがとう…レイを連れ帰って来てくれて」

 

「その、大淀さん…」

 

私は大淀にも寄る

 

「謝んないで。レイがあぁなった時に傍に居てくれたじゃない…私じゃ出来なかった。お願い、またレイがあぁなった時、大淀さんに頼った時…」

 

「大淀さんで良いならいつだって!!ジェミニちゃんも、大淀さんも、レイ君の味方だよ⁉」

 

「うんっ…」

 

「えっと、その…あっ!!パフェ食べよっか!!大淀さん、ちょっと甘い物食べたくて!!」

 

「行きましょう!!」

 

私と大淀は間宮に向かい、パフェを食べる事にした

 

 

 

 

 

「隊長、行きましょう!!」

 

「涼平、そこに立て」

 

「へっ!?は、はい!!」

 

涼平の腰にベルトを回す

 

「水没地域調査とはいえ、敵がいない訳じゃない。こいつをやる」

 

「良いんですか??隊長の銃じゃ…」

 

「俺はこっち」

 

俺の腰に下げてあるマウザーを見せる

 

涼平の腰にも同じマウザーが下げられる

 

「お前なら、この銃の使い方が分かるはずだ。そうだろ??」

 

「探してみます…隊長の"剣"の意味を…」

 

「良い答えだ。さぁ!!いざ現地へ!!」

 

涼平の操縦で、朝霜から"頂戴"した強風が飛び立つ…

 

「んぎ〜!!まーた勝手に乗って行きやがったな!!」

 

飛び立つ瞬間に気付いた朝霜は、その場で地団駄を踏み、歯軋りをする

 

「それだけ良い機体って事さ!!はっはっは!!アサシモ、おじいちゃんとボーリングに行くか!!」

 

「やった!!」

 

朝霜はリチャードと共に遊戯場へと向かった…

 

 

 

 

 

 

強風の中で涼平が問う

 

「隊長は三重の方はあまり行った事はありませんか??」

 

「良く知らないだけだ。上からは見た事があるんだがな…」

 

「そうでしたか…」

 

「…ここは??」

 

目的地に着くまでに、多数のボートが眼下に見えた

 

軍艦ではなく、漁船だ

 

「ここ一体はハマグリがよく採れるんですよ。結構綺麗な街ですよ??」

 

「漁船に強風…何世代も前の光景だな??」

 

「ははっ!!違いないです!!」

 

ハマグリが名産品の場所を通り抜け、目的地を目指す…

 

 

 

 

「この辺りか??」

 

「えぇ。着水出来る場所を探します」

 

目的地が見えて来た

 

前回の様にボートで行けばもっと楽なんだが、今回は少し様子が違う

 

「あそこにしましょう!!」

 

涼平は強風を着水させる

 

着水させたのは比較的高めのビルの横

 

地盤が沈んだのか、それとも崩れたのか、ビルの大半は海に浸っており、強風を停めておくには丁度良い場所になっている

 

「よい、しょっ…」

 

「…」

 

足を降ろした場所で気が付いた

 

ここはビルじゃない…

 

…駐車場だ

 

「隊長、自分、ボートか何か探してきますね??」

 

「涼平…」

 

「はい??」

 

「目的地は…ここだ…」

 

「はっ…」

 

涼平もその事に気付く

 

「"スターバレー"が…こんな事になってたなんて…」

 

足を降ろした場所はビルではなく、立体駐車場の屋上

 

横須賀から渡された資料にも書かれていた

 

目標はここ、ショッピングモール"スターバレー"

 

深海の棲み家になっているらしく、調査を頼まれた

 

「行こうか」

 

「は、はいっ…」

 

涼平は生唾を飲む…

 

俺はジュラルミンケースを持ち、立体駐車場からショッピングモールへと足を踏み入れる…

 

「ボロボロだな…」

 

スターバレーの内部は海水の影響もあり、ドアやエスカレーターは錆び付いて動かない

 

電気も通っておらず、エレベーターも動かない

 

ただ、商品を陳列している棚だけは、放置されたまま残っている

 

所々に値札があり、まるっと商品が残っている場所もある

 

…時代を感じるものだがな

 

「隊長、すみません。自分、建て替えられる前のここには来た事があるのですが…」

 

「そうか、俺も初めてだ。心配するな」

 

「あ、待って下さい!!これ!!」

 

涼平の目線の先には、館内の地図があった

 

所々掠れてはいるが、状況を見る限り、行けない場所の方が多そうだ

 

これで充分だろう

 

涼平は2、3枚写真を撮り、俺の所に来た

 

「この先は雑貨エリアみたいです」

 

「オーケー…何も出ない事を祈ろう…」

 

俺達の前には防火扉がある

 

ここが浸水した時、防火扉で防ごうとしたのだろうか…

 

これを何とかしない限り、先には進めないだろう

 

もしくは迂回するか…

 

「隊長!!行きましょう!!」

 

「あっ、はい…」

 

真剣に考えていた最中、涼平は防火扉の横に備えられた小さな扉を見つけ、既に向こう側に行こうとしていた

 

涼平の後に続き、扉をくぐる…

 

「わぁ…」

 

「はは…」

 

扉をくぐった先にあったのは…

 

「イラッシャイ、ニンゲンサン!!」

 

「イラッシャイマセェー!!」

 

思っていた以上に明るい深海の子達がそこに大勢いた

 

俺達に気付いて迎えてくれたのは、涼平と歳が近そうな深海の女の子二人

 

「ここはなんですか??」

 

「ココハ、ブツブツコーカンヲシタリ、ゴハンヲタベタリ、オサカナヲソダテタリスルトコロ!!」

 

「ホトンドブツブツコーカンスルトコロダケドネ!!」

 

「少し覗いて行っても良いか??絶対悪さしない!!」

 

「モチロン!!タノシンデイッテネ!!」

 

「マッタネー!!」

 

若い深海の女の子は、奥へと行ってしまった…

 

「何か持ってこれば良かったな…」

 

「ふっふっふ…隊長、これ、差し上げますよ!!」

 

涼平は背負っていたリュックサックの中からチョコレートバーを2本取り出した

 

「隊長、わらしべ長者ですよ‼」

 

「チョコレートバーが最終何に変わるか、か…」

 

「元帥に査定して貰いましょう!!」

 

「言うじゃねぇか…良いだろう!!」

 

調査とはいえ、俺達は今この場を楽しむ事にした

 

 

 

 

物々交換の場所に代わったショッピングモール"スターバレー"

 

まずは俺達が来た入り口に一番近い場所の店から探索を始める

 

「イラッシャイマセー、カンブツダヨー!!」

 

「乾物か…どれっ…」

 

俺はイ級が店番をしている乾物屋の前で足を止め、イ級と目線を合わせるために屈む

 

「アラ、ボウヤ…オカイモノ??」

 

「はい、ここは物々交換出来る場所と聞いて…」

 

涼平はル級っぽい美人な深海の前で足を止めた

 

「チョコレートバーと何か交換出来ないか??」

 

「ン〜ト…ア!!コレハドーカナ!!オダシガトレルヨ!!」

 

イ級が渡してくれたのは、チョコレートバーと同じ位のサイズの鰹節

 

「オーケー、ありがとな??」

 

「ナニカトカエルノ??」

 

「どうだかな??この鰹節は美味しそうだ。俺がそのまま持って帰るかもな??」

 

「コノサキデモイッパイブツブツコーカンデキルトコロアルヨ!!」

 

「ありがとな。ちょっとっ、行ってみるよ!!」

 

立ち上がって、次のめぼしい店を探す…

 

「オニーサン、オニーサン!!」

 

駆逐タイプの姫級であろう子に呼び止められる

 

「ここは??」

 

「ココハ、トケーヤサン!!」

 

「鰹節があるんだが」

 

「スキナノトコーカンデイイヨ!!」

 

「どれっ…」

 

先程のイ級の乾物屋と同じく店内に商品があるというより、店の軒下にシートを敷き、その上に商品を並べ、中に入ってはならない雰囲気がある

 

後ろにある商品は言えば取ってくれるのだろうか…

 

「あの時計を見たい」

 

「チョットマッテネ…ハイッ!!」

 

彼女の手から耐水性に特化した腕時計を受け取る

 

「付けてみても良いか??」

 

「イーヨ!!」

 

腕時計を右腕に付ける

 

本来なら左腕だが、大淀に造って貰った義手が放電する可能性もあるからだ

 

「似合うか??」

 

「ニアウ!!ソレニスル??ソレ、ウゴカナインダケド…」

 

「なに、帰って修理するさ!!」

 

彼女は笑った後、少し鼻で息を吸う

 

「オニーサン、タバコスウノ??」

 

「あぁ。タバコも交換出来るのか??」

 

「サンボンデドウ??」

 

「オーケー、良い取引だ!!」

 

内ポケットからタバコの箱を出し、3本出して彼女に渡す

 

「ンフフ、アリガト!!ココデハ、タバコハキチョーヒンナンダ!!」

 

「良い事を聞いた!!」

 

「アー、デモ、ソノカツオブシモキチョーヒンダヨ??オイシーカツオブシハ、アノコシカツクレナイノ。モットオクニイクト、カツオブシトコーカンデキルキチョーヒンモアルカモ!!」

 

「ありがとな??」

 

「マタキテネ!!」

 

時計屋を離れ、また少し奥に進む…

 

今手元にある交換品は

・鰹節1個

・タバコ12本

 

全部何かしらに換えてから帰りたいんだがな…

 

 

 

 

少し進むと、フードコートと思わしき、だだっ広い場所に出て来た

 

机も椅子もボロボロになっているが、所々座れそうな場所がある

 

肝心の店もまばらにしか開いていないが、

"ドンブリ""ジュース"等の看板が店に掲げられている場所もある

 

「アイスクリームドーデスカー!!」

 

チ級だろうか…クーラーボックスを持ってアイスクリームを売りに来た

 

「タバコ何本だ??」

 

「タバコモッテルノ!?イッポンクダサイ!!」

 

「ほらっ!!」

 

「アリガトーゴザイマス!!ハイ!!」

 

カップのアイスクリーム(バニラ)とスプーンを貰い、階段の一番上に腰を降ろし、それを食べる

 

「うまいな…」

 

アイスクリームを食べながら、階段の向こうにある景色を眺める…

 

階段には踊り場があり、2階へと続いている

 

が、海水はもうそこまで来ている

 

窓も割れた部分があり、ここが何かに巻き込まれたと物語る…

 

窓の向こうには、港湾付近にある大型のクレーンが何基も見える

 

その下には、浸水した街…

 

人が生きていた形跡がある街だ…

 

「ここにいましたか」

 

涼平が横に座る

 

「どうだった??」

 

「見て下さいコレ!!」

 

涼平が取り出したのはシガーケース

 

「深海の方達が作った物らしくて、中に浸水しないようになってるんです!!隊長は??」

 

「俺はこれとこれだ」

 

涼平に鰹節と腕時計を見せる

 

「どうやって2つも!?」

 

「タバコも物々交換出来る。貴重品らしいぞ??」

 

「自分、後3本しか…」

 

「そのシガーケース寄越せ」

 

涼平は素直にシガーケースを俺に渡す

 

そこにだいたい半分の数の6本タバコを入れる

 

「ほらっ」

 

「わぁ‼ありがとうございます!!」

 

「その貴重品を俺はここで吸ってやる」

 

アイスクリームを食べ終え、そのままの状態でタバコに火を点ける

 

「随分と変わりました…この街は…」

 

タバコを吸いながら、海を見つめる涼平の横顔を一瞬見た後、海に視線を戻す

 

「…随分昔にここに来た事がある。あそこにコンテナ上げるクレーンあるだろ」

 

俺の指差す方向には、大型のクレーンがある

 

「はい。何基か破壊されてますが…」

 

「あれとコンテナを破壊する任務で、ここの空を飛んだ」

 

「あれ隊長がやったんですか??」

 

「どうだかな。随分昔の話だ。立て直してるかもな??」

 

「コンテナの中身は何だったんです??」

 

「さぁな。当時は言われた事をやるだけさ。中身なんざ、知る必要も無かった…ま、産廃だったって事は知ってる」

 

「隊長がした訳ではないですよ。ここは地盤沈下のせいで海に沈んだんです」

 

「その後に治療に降りたんだ」

 

俺の言葉で、涼平の顔付きが変わる…

 

「言われたよ。死神だってな…破壊した奴に治療されたくないとも言われた。ごもっともな話だっ!!俺だってそんな奴に診られたかないっ!!」

 

足は階段に降ろしたまま、その場で寝そべり、天井を見る

 

所々崩れていたり、雨漏りしている所があるが、それがまたこの場所を際立たせている…

 

「隊長…」

 

「まっ、俺だって診たくもなかった。産廃運んで、海に沈めようとした連中の体なんてなっ」

 

「その産廃って…」

 

「核廃棄物だよ。それに気付いて、クレーンだけ破壊した。今思えば、あの時コンテナごとやっとけば良かったよ」

 

「隊長は死神なんかじゃないです。自分も大淀博士と思いは一緒ですが…隊長はいつだって命を最優先にします!!」

 

「ふふふ…大淀はなんて言ってた??」

 

涼平は咳払いした後、大淀のマネをする

 

「大淀さんはね!!優しいレイ君も深海になったレイ君も大好きなんだ!!どっちもカッコいいよね!!」

 

「ははは!!言いそうだっ!!」

 

「やっと笑ってくれました…」

 

「すまん、心配をかけたな…」

 

「じゃ、隊長!!自分はあのお姉さんに相手して貰いまーす!!」

 

「オイデ〜ニンゲンサン!!」

 

「待て涼平!!詳しく聞かせろ!!おい!!」

 

涼平は最初に案内してくれた女の子の所に行ってしまった…

 

しみったれた話は終いだ

 

俺ももう少し、交換に勤しむとしよう

 

 

 

 

「ここは…」

 

フードコートを抜けると、ふと通りの真ん中に吹き抜けがある事に気付いた

 

下を覗いてみると、もうそこまで海水が来ていた

 

「おぉ…」

 

今俺達がいるのは地図上3階

 

1階、2階部分は海に沈んでいる

 

太陽が差し込み、1階部分まで様子が伺えた

 

このショッピングモールは今、自然へと還ろうとしている…

 

海に沈んだ1階2階には、潜水タイプの深海が泳ぎ、ここに迷い込んで来た魚をとっている

 

「!!」

 

一人海から上がって来たが、俺に気付いてまた潜ってしまった

 

「おいで。敵じゃない…」

 

海水に手を入れると、今しかだ潜ってしまった潜水タイプの子が指でつついて来た

 

海水に手を入れたまま、手招きする

 

すると、潜水タイプの子は顔を見せた

 

「お魚とってたのか??」

 

「…」

 

ザバッと音を立て、右手に握った網を見せる

 

中には魚や昆布、貝が入っていた

 

「ここで交換するのか??」

 

すると、潜水の子は頭を横に振り、指を差す

 

「丼にするのか…そっか、邪魔したな??」

 

潜水の子は再び頭を横に振り、海水から上がる

 

メリハリのある、スタイルの良い体が見えた

 

水中からはあまり分からなかったが、胸も結構大きい…

 

「オニー、サンッ!!」

 

「おっと!!」

 

潜水の子をガン見していると、涼平を相手している子とは逆の子が腕について来た

 

「オニーサン、パイロットサン??」

 

「そっ。横須賀から来たんだ」

 

「ヨコスカッテイエバ、シュリサンガイルトコロ??」

 

「知ってるのか!?」

 

ここに来て知り合いの名前が出てくるとホッとするな…

 

「ウンッ!!シッテル!!シュリサン、トーッテモツヨインダヨ!!ヤサシイシ、カッコイイシ!!デモ、オコルトトーッテモコワインダヨ!!」

 

「い、いいか!?今すぐあの子を止めるんだ!!行くぞ!!」

 

「ドドドドウシタノ!?」

 

「涼平はシュリさんの恋人なんだよ!!」

 

「ヤバーイ!!」

 

俺と深海の少女は、涼平を相手している子の所に向かう

 

「涼平!!涼へーーーい!!」

 

「ダメーーーッ!!」

 

「ニンゲンサンッ…キモチイッ??」

 

「気持ち、良いですっ…」

 

「涼平…あぁ…良かった…」

 

「ソノニンゲンサン、シュリサンノコイビト!!」

 

「エ!?エェーッ!?シュリサンノ!?」

 

深海の少女はマッサージの手を止めた

 

「シュリさんのっ、知り合いですか!?」

 

「シュリサン、イマヨコスカニイルッテキイタ…」

 

「ワタシタチ、シュリサンニタスケテモラッタ…」

 

「どこでだ??」

 

「ワタシタチ、ジエータイニトラエラレテ…ソノトキニシュリサンニ…」

 

「シュリサン、ワタシハイーノ!!ワタシハタスケヲマッテルカラ!!ッテ…」

 

「帰って話しておきますよっ!!あの時の人達は、ちゃんとここにいるって!!」

 

「ウンッ!!」

 

「ア!!モシカシテ、リョーチャンッテコノヒト!?」

 

「涼平。お前も一生言われる奴だ!!」

 

「くうっ…」

 

言葉ではそう出るが、顔は少し嬉しそうにしている

 

「テイチョーニオモテナシシナイト!!」

 

涼平は人を否定しないその性格もあってか、深海の子にモテる

 

ここまで数多の深海に話を聞いて来たがシュリさんはかなりの猛者

 

普段は優しいが怒ると激恐なのは伝わっている

 

「…涼平」

 

「えぇ…聞こえました…」

 

俺も涼平も、険しい顔になる

 

今日ここに来たのは水没地域調査

 

既に人がいないのに、生体反応が確認されている地域の調査になる

 

俺はこのショッピングモールの中にいる彼女達の反応と思っていた

 

だが、どうやら違うみたいだ…

 

「キタ…」

 

「小型のモーターエンジンです…」

 

深海の子達が店を閉め始める…

 

恐れているのか…??

 

いや、違う

 

嫌がってるんだ…

 

「人か??」

 

「ウン…トキドキダレカツレテッチャウノ…」

 

「一言でいい。君達にとって敵か??」

 

「スキジャナイ…オウヘーダモン」

 

「充分だっ…涼平、行けるか??」

 

「いつでもっ!!」

 

「君達は隠れてろ。ここは俺達が相手する」

 

二人の深海の少女は頷き、店の奥に隠れる

 

小型のモーターボートがショッピングモールに停泊した…

 

「なんやなんや!?まーた店じまいか!?」

 

「しょーもないのぉ!!オラ開けぇ!!」

 

入って来るや否や、言った通り横柄な態度で店じまいしたシャッターを蹴り飛ばす男衆

 

手には銛やら猟銃を携えており、明らかに武装集団に見える

 

「涼平、何人いる…俺には6人に見える…」

 

「自分も同じです…」

 

男衆はまだ此方に気付いておらず、群れたままシャッターを蹴り飛ばす

 

「開けろ言うとるやろがい!!」

 

「イ…イラッシャイマセ…」

 

「遅いんじゃボケ!!」

 

シャッターを開けたのはイ級の乾物屋

 

「開けんの遅かったなぁ!!」

 

「イマハボクノオミセハミセジマイシテテ…」

 

「うっさいんじゃボケ!!」

 

「イタイ!!」

 

「黙って物換えりゃぁ良いんだよテメェは!!」

 

男衆の一人がイ級の顔面を蹴り飛ばした

 

「おい」

 

「あ??何だテメ…ぐぶぇ!!」

 

イ級にした事と同じ様に、男の口元に蹴りを当てる

 

「すまんすまん。お前達の挨拶と思ってな」

 

「舐めてんのかテメェ!!」

 

銛を持っていた男が俺に向ける

 

「やってみろよ」

 

「んだとゴラ!!」

 

「どうした」

 

「くたばれや!!」

 

銛を突き込まれた

 

「なんっ…」

 

銛は刺さる事無く、男がどれだけ力を入れようとも、それ以上行く事は無い

 

「次はこっちの番だ」

 

銛を取り上げ、男に向ける

 

「ひ…人殺し!!」

 

その言葉で、何かが切れた

 

「そうさ!!人殺しさ!!そんなもの分かりきってんだよ!!」

 

「うぎぁ!!」

 

男の足に銛を突き刺す

 

みるみる内に床に血が溜まって行く…

 

「痛いか??痛いだろうな!!」

 

「抜け!!早う!!」

 

「お前達は俺が嫌だと言って辞めてくれたか!?どうなんだ!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁあ!!」

 

銛で傷口を抉ると、男は更に悲鳴を上げる

 

「おい兄ちゃん。その辺にしといた方がえぇんとちゃうか??」

 

「嫌だと言ったらどうする」

 

「死んで貰おかなぁ!!」

 

「ヨケテ!!」

 

銛から手を離し、横に避ける

 

その瞬間、猟銃の発砲音が響く

 

「うっ、が…」

 

当たったのは、足に銛を突き刺した男

 

その場に倒れるも、猟銃を撃った男は何の罪悪感も無さそうだ

 

「オニーサン!!コッチ!!」

 

戦艦ル級っぽい深海の女性がシャッターを開け、顔を出して手招きしている

 

彼女の店はアクセサリーを物々交換していたハズだ

 

誘われるがまま、彼女の元へ走る

 

「オニーサン、コレヲ」

 

戦艦ル級っぽい女性から手渡されたのは、チェーンの先に小さな錨の様な鋭利物が付いた物

 

一番近い物で言うならば"鎖鎌"だろうか

 

「ナイヨリカハマシ??」

 

「ありがとう、十二分だ!!」

 

「オラ出て来いガキ!!」

 

店から出て、チェーンを構える…

 

奴との距離は少しある…

 

「こっちへ来い…この能無しが…」

 

「あーあー!!聞こえん分からんなぁ!!」

 

その言葉を聞き、口角が上がる

 

「Get Over Here‼」

 

チェーンの先にある錨を持ち、男に向かって投げる

 

「イッデェ!!」

 

錨は男の肩に刺さり、チェーンを思い切り引き寄せると、男の体ごと俺の足元に来た

 

「日本語分からないんだろ…えぇ??世界共通語の英語はどうだ??」

 

肩に刺さった錨を踏み、傷を深くする…

 

「イデェー!!」

 

「答えろよ」

 

グッ、と踏み込み、錨を食い込ませる

 

「な…なんて言ったんだ!!」

 

「こっちに来い、だ。冥府でちゃんと学んどけよ??」

 

「ま、待て!!悪かっ」

 

内ポケットから取り出したマウザーで男の頭を撃つ

 

「ひ…ひぃ…」

 

弾は間一髪男の頭を逸れた

 

「人に銃弾撃ったらどうなるか…分かったか??」

 

「わ、分かった…」

 

「ごめんなさいはどうした」

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

「最初からそうしろ…」

 

錨を抜き、足を降ろす

 

「隊長、どうします??こっちは3人足撃ちましたけど…」

 

「どうせこの辺りに病院はない。あっても機能していない」

 

「待て…何でっ…知っとるんや…」

 

「どうしてだと思う」

 

「お前…まさかあん時の!!」

 

「死神なんだろ??なら、俺は面倒見る必要も無い。涼平、帰るぞ」

 

「はいっ」

 

「ま、待て!!待て待て!!悪かった!!頼む!!」

 

男は足にしがみつき、仲間内や自分の傷を治してくれと懇願する

 

「俺があの時…お前達に死神と言われてどう思ったか…知ってるか??」

 

「謝る!!すまんかった!!」

 

「死神で結構だ」

 

「うぉっと‼」

 

男を外し、革ジャンを着直す

 

涼平はこの瞬間の俺を基地に帰って「カッコいい!!」と言ってくれた

 

「一つ、良い事を教えといてやる」

 

「な、なんや…」

 

「お前達患者が医者を選べる様に、医者も患者を選べる…忘れるなよ??」

 

「こ、こいつっ…」

 

「オニーサン、アリガト…」

 

蹴り飛ばされたイ級がお礼に来た

 

「食っていいぞ。腹壊すなよ??」

 

「オイシクナサソウ…」

 

「ここで食っておかなければ、あいつらはまたここに来る」

 

「ギャァァァァア!!やめろ!!やめてくれ!!許してくれ!!」

 

奥で涼平が足を撃ち抜いた男が深海の子達に襲われている

 

余程普段から酷い扱いを受けていたのだろう

 

でなければ、悲鳴も血飛沫も飛ばない

 

「…お前は優しい子だ」

 

イ級の頭を撫でる

 

懐かしい、ツルツルの撫で心地だ…

 

「イヒヒ…」

 

良かった…次は救えた…

 

「オニーサン、タスカッタワ??」

 

ル級っぽい深海の女性も来た

 

「助かったよ。これ、ありがとな??」

 

「アゲル。タスケテクレタオレー」

 

「有り難く頂戴するよ」

 

「リョーチャン!!マタキテクレル??」

 

「コンドハアソビニイッテイーイ!?」

 

「是非来て下さい!!美味しいご飯もありますよ!!」

 

涼平は涼平で、あの深海の女の子に捕まっている

 

実に羨ましい…

 

「オニーサン、キズヲオッテルノネ??」

 

「大した事は無いさっ!!」

 

「ココロ」

 

ル級っぽい深海の女性に見抜かれる

 

まだ、心の何処かで死神と呼ばれる度に傷付いて行くのを…

 

「大丈夫さっ…誰かの為になるなら…俺はいつだって死神になる」

 

「ヤサシインダネ…」

 

「オニーサン、マタキテネ??ソノトキ、オレーシタイ!!」

 

「また来るよ。空軍は嘘を吐かないんだ!!」

 

「シュリサンニヨロシクネ!!」

 

「マタキテネー!!」

 

俺達はまた、強風に乗り込む

 

「涼平」

 

「はい??」

 

「自然と操縦席に座ったな??」

 

「あぁ…あっはっは!!何となく自分かと!!」

 

「よーし、涼平君にドライブして貰おうか!!」

 

「了解ですっ!!」

 

涼平が操縦する強風は、スターバレーを後にする…

 

 

 

 

「涼平」

 

「はい」

 

「久々に一般市民を手に掛けた…」

 

先程のチェーンを腰の左側に着け、それを手に取って眺めながら、強風を操縦する涼平に話し掛ける

 

「それでいいんです。隊長、貴方がいなくなったら、誰が艦娘のケアをするんですか」

 

「そうだな…俺で終わらさなきゃならん…」

 

「隊長。一つ言わせて下さい」

 

「何だ??」

 

「艦娘の人達や、深海の人達が居なければ、今の自分はありません。自分は横須賀に居て、産まれて初めて友達が出来ました」

 

「また別の人生もあったかも知れないぞ??」

 

「自分がもし、あのままの人生を歩んでいれば、シュリさんやタシュケントの様な美人な方と出会ってませんよ」

 

「…すまん、ありがとう」

 

「気に入ってるんです。今が」

 

「前も言ってたな??そんなに好きか??」

 

「えぇ!!第二の人生は、普通じゃ経験出来ない事ばかりですから!!」

 

その言葉に、また救われる

 

涼平が何故サンダースの副隊長に任命されたか、こういう時によく分かる

 

確かに涼平は他のメンバーより経験が少なく、そして一番若い

 

航空自衛隊でF-2パイロットだった高垣でさえ、涼平を副隊長に指名した

 

涼平と同期で香取アカデミーを卒業した園崎でさえも、涼平を指名した

 

櫻井と森嶋もそうだ

 

皆、口を揃えて

 

「涼平を副隊長に指名したい」

 

そう言った

 

涼平の本当の強さはパイロットの技術じゃない

 

懐の大きさなんだ

 

涼平のパイロットの腕を信用していない訳じゃない

 

そうじゃなきゃ、今強風を運転させていない

 

「今どこに向かってるんだ??」

 

「寄りたい所があるんです。付き合って頂けますか??」

 

「楽しい所を頼むぞ??」

 

「了解ですっ!!着水しますよ!!」

 

話していると、涼平は強風を港に停めた…




ほぼ一年お待たせしてしまい、大変申し訳ございませんでした

昨今の事情、世界情勢を踏まえて、書き進めていたお話や、この先の設定を全て書き直していました

これからもまた少しずつ投稿して参りますので、またゆっくりと読んで頂ければ幸いです!

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