艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

1071 / 1086
網走監獄跡地に到着したマーカス

内部はとても見れるものではなくなっており、行きたくなかった理由もそこにありました…


320話 血塗られたリボルバー

《あら、何処か行くの??》

 

グリフォンには何故かヘラが乗っていた

 

「ちょっと網走までな??一緒に行くか??」

 

《なぁに??アンタ捕まった訳??》

 

「行ってスキャンすりゃ分かるさっ」

 

《冗談よ。もう分かってるわ、アンタにゾッコンな博士が、アンタを助けてやって欲しいってね‼》

 

「そりゃどーもっ‼出るぞ‼」

 

《ワイバーン、出るわ‼退きなさい‼》

 

横須賀から網走に向けて飛び立つ…

 

 

 

 

《網走ねぇ…奴等も上手く隠したモンねぇ??アンタ、何で爆撃しなかった訳??》

 

「あそこには一般市民が大勢いるんだ。それも、何処からか連れて来た奴をな…」

 

《アンタのカプセルもそこにあるって訳ね??》

 

「どっかの病院が売り飛ばしたんだろう…あれは"貸出"なんだがな」

 

《貰ったと勘違いしてんのかしら??》

 

「恐らくな。どうもっ、あのカプセルは高く売れるらしい…自衛隊はあのカプセルに目を付けて、病院から買収して、各基地に配置したんだろう」

 

《その病院はどうなったの??》

 

「さぁな。そこに住む市民を裏切ったんだ。潰れたんだろ。それか、誰かが圧をかけたか…」

 

《なるほどねぇ…北海道に入ったわよ》

 

「オーケー…そのまま網走まで特急だ!!」

 

俺の言葉に応じ、ヘラはバーナーを吹かす…

 

 

 

 

「大尉のグリフォンだ。着陸誘導を頼めるか??」

 

「了解です‼」

 

網走刑務所跡地は滑走路が作られている

 

おおよそ、航空機でここに市民を連れて来るためだろう

 

「ワイバーン、聞こえますか??」

 

《聞こえるわ。アンタ、総理お抱えの子ね??矢崎だったかしら??》

 

応答したのはヘラだ

 

「そうです。今、高垣少尉が誘導に向かいました。網走刑務所跡地付近に滑走路があります」

 

《そっ。分かったわ。女満別辺りに着陸しようと思ってたけど、そっちに行くわ》

 

「…ヘラさん。少しだけ、大尉にお願い出来ますか??」

 

《私じゃ不満なのね??》

 

「そう言う訳では‼」

 

《ヘラじゃ不満か??》

 

俺に切り替わり、矢崎に応答をする

 

「大尉…今しか聞けないので、少しお聞きしておこうかと」

 

《なんだ??》

 

「三重県のある島で空爆があったのはご存知ですか??」

 

三重県のある島、そして空爆…

 

今日に至るまで、報告が上がっているのは一箇所しかない

 

《知ってるよ。今、正にやり直す第一歩が始まった所だ》

 

「その島で、戦艦棲鬼の姉妹がいた記録がありませんでしたか??」

 

《…何故知ってる》

 

その次の言葉で、心臓の鼓動が高鳴った

 

また、物語のピリオドの先が描かれる、と

 

「私の妻なんです…"セイレーン、シレーヌ"と名付けて、セイレーンと妻になりました」

 

《なるほど…はは‼これで全部、合点が行ったよ‼》

 

「もし、生きているのなら…やり直せるのなら…」

 

《手を貸して欲しい、と??》

 

「謝礼は必ずします」

 

《事が済んだら、視察目的で第三居住区に来い。あそこは深海の子が多い。話が聞けるかもしれない》

 

「ありがとうございます、大尉‼」

 

《女の前で女の話ねぇ??》

 

不機嫌MAXのヘラがようやく答えた

 

「申し訳ありません‼」

 

《違うんだヘラ‼そんなつもりは‼》

 

《ま、いいわ??大事な話しそうだったし、矢崎、感謝なさいよ??アンタが聞いた男は、きっと良い方向に持ってってくれるわ??》

 

「ありがとうございます、大尉、ヘラさん‼」

 

《感謝は第三居住区に着いてからにしてくれ》

 

《着陸するわよ‼》

 

《隊長、誘導します‼》

 

高垣の誘導で、網走に降り立つ…

 

 

 

 

網走に降り立ち、高垣のジープに乗り込む

 

「ヘラさんは??」

 

「先に行って待ってるらしい。しっかし寒いな…」

 

ここは北海道

 

数度しか来た事がないが、雪に覆われた大地だとは知ってる

 

こんな場所に、奴等は一般市民を連れて来たのか…

 

「大尉は寒いのは苦手ですか??」

 

「そうだな‼真夏にサーフィンする方がよっぽど好きだ‼あー、タンクトップもう一枚着てくるんだった‼」

 

「一緒ですよ…」

 

ジープの助手席で体をさすっていると、高垣は涼しい顔をして運転しているのに気付いた

 

「お前は平気そうだな‼」

 

「ここの産まれですからね。寒いのはある程度は慣れてますよ」

 

「今度高垣君を南国に研修に行かせよう…」

 

「ふふっ、喜んでお受けします‼さ、着きました」

 

「ありがとな」

 

ジープから降りると、網走刑務所跡地の入口が目に入った

 

「何度見ても恐怖が勝ちます…」

 

「行こう」

 

「了解です」

 

ジュラルミンケースを持ち、高垣が前に着いた状態で網走刑務所跡地に入る…

 

「静かだな…」

 

「えぇ…こんな所で奴等は実験を重ねていたんです」

 

コツン…コツン…と、二人の足音が廊下に響く位、施設の中は静かだ

 

「高垣」

 

「どうされま…うおっ!?」

 

「止まれ」

 

高垣を後ろに回し、ピストルを構える

 

「助…け…」

 

女性が一人、助けを求めた直後、その場で膝を落とした

 

すぐに駆け寄り、彼女を起こす

 

「ここで何があった‼」

 

「連れ去られて…実験されて…」

 

「これだな…」

 

彼女の左手は深海化が進んでいる

 

重巡タイプの主砲だ…

 

「待ってろ。高垣‼カプセルまで誘導してくれ‼」

 

「了解です‼」

 

「嫌です‼あそこにはもう入りたくない!!」

 

「アンタを救う。必ずだ」

 

深海化が進んでいない彼女の右手を握り、目を見る

 

「信じて下さい。彼なら貴方を必ず救えます」

 

「うぅ…」

 

「よし、行くぞ」

 

高垣が頷き、カプセルまで誘導してもらう

 

「隊長‼此方に‼」

 

「よし…」

 

彼女を診察台に寝かせた後、辺りにあった薬品で鎮静剤を作る

 

「すぐに良くなりますから…落ち着いて下さい…」

 

「嫌です‼カプセル入りたくない‼」

 

「出来た‼抑えててくれ‼」

 

「少しだけ我慢して下さい‼」

 

「いやぁぁぁあ‼」

 

彼女を抑えて貰い、鎮静剤を打つ

 

「フーッ‼フーッ‼」

 

「大丈夫。必ず救う」

 

「フゥッ…フゥッ…」

 

「麻酔を打ったら切除手術をする。手伝ってくれるか??」

 

「自分は医療の知識が‼」

 

「深海化すると、鎮静剤の効力が薄い。暴れ始めたら抑えてくれ」

 

「りょ…了解です‼」

 

「手伝うわ‼」

 

到着が遅いと気付いたヘラが手伝いに来てくれた

 

「頼む。高垣と一緒に、暴れたら抑えてくれ」

 

「分かったわ」

 

彼女の服を脱がせ、他に侵食域が無いか確認する

 

「左腕及び左腋リンパ腺に深海化…よし、切除手術を開始する」

 

二人が頷き、手術が始まる…

 

 

 

 

「左腕深海部切除完了。続いて深海化リンパ腺切除及び再生に入る」

 

「こいつだな…」

 

ステンレストレーに深海化したリンパ腺を落とす

 

「簡易縫合の後、後ろのカプセルに入れるからな。手伝ってくれ」

 

「了解です」

 

「分かったわ」

 

「よし!!終わり!!カプセルに入れてくれ‼」

 

高垣とヘラがカプセルに彼女を入れ、俺はマスクを取り、カプセルをいじる

 

「ふーっ…終わった…」

 

「凄い…」

 

「アンタ…ホントに医者だったのね??」

 

「ありがとな、助けてくれて」

 

「良いもの見せて貰ったわ??」

 

「大尉が凄い人と再認識しました…」

 

「3時間程すれば、また人として生活を送れる。さ、行こう」

 

「待って下さい‼ちょっと休憩して下さい‼」

 

高垣が引き止める

 

緊急とはいえ、時間にして一時間程の手術だ

 

「矢崎の顔拝んだら、矢崎に俺を休憩させる様に説得してくれるか??」

 

「なら良いですが…」

 

長い一日になりそうだな…

 

 

 

 

「大尉‼ありがとうございます‼」

 

「現状は??」

 

「はっ。カプセルが20基、民間人が30人、そして…」

 

「深海化した奴だな」

 

「…はい。4人が体の一部分に深海化の兆候が見られます」

 

「やれやれだな…ヘラ、高垣を頼む」

 

「アンタどこ行くのよ」

 

「監獄のお散歩さ。ちょっとだけな」

 

「「ダメって言ってるでしょ‼」」

 

「いでっ‼」

 

ヘラと高垣の意見が一致し、両肩を抑えられ、元いた椅子に座らされた

 

「いいですか隊長‼今手術終えたばっかです‼休憩して下さい‼」

 

「ちょっと‼そこに突っ立ってんならコーヒー位入れなさいよ!!」

 

ヘラはその辺にいた自衛隊に向かって吠える

 

「はっ!!た、直ちに!!」

 

「いい!?アンタ頑張り過ぎなの‼自分を大事にしなさい!!アンタが居なくなったら、治せるものも治せないの‼分かった!?」

 

「タバコでも吸って下さい‼」

 

「うぐ!!」

 

「はい!!火‼」

 

高垣に口にタバコを捩じ込まれ、ヘラに火を点けて貰った

 

「待って下さい大尉、今手術を終えたとは!?」

 

「一人脱走してたから、そのまま手術したんだ…ふぅ…おかげでここに来るのが遅くなった。すまなかった」

 

「謝るのはこっちですよ…そうとは知らずに開口一番無礼を…」

 

「てな訳で、ちょっと休ませてやんなさい。アタシも多少の処置位なら手伝うから」

 

「いいですか隊長。コーヒー飲むまで休憩ですよ!?」

 

「は、はい…」

 

二人にメチャクチャ注意され、俺と矢崎だけが部屋に残った

 

「残り3人か??」

 

「えぇ。今、医療班が鎮静剤を打って寝かせています」

 

「侵食部位は」

 

「こちらを」

 

医療班が書いたカルテを矢崎から受け取り、タバコの灰を落とす

 

「右腕…胸部…」

 

最後の一枚が厄介な手術になると、一目で分かった

 

「頭部か…」

 

「自分達の腕と技術では、進行を抑えるのが精一杯です…」

 

カルテを机に置き、タバコを咥え直す

 

「他の民間人は??」

 

「大尉…それが…」

 

矢崎の顔色が青く変わる…

 

「保護した民間人以外は…」

 

「言いたくないなら、後でそこまで案内してくれ」

 

「了解しました…」

 

どうしても口にしたくないらしい

 

「さて…一服もした事だ。一人目に入ろう」

 

「も、もうですか!?」

 

「手術用具はあるか??」

 

「ご案内します‼」

 

手術室に案内され、準備に取り掛かる…

 

「本当に連れて来ても大丈夫ですか??」

 

「10分したら連れて来てくれ」

 

「了解です‼」

 

鏡の前に立ち、自分の姿を見る

 

大丈夫、いつも通りの俺だ

 

たった3人だ。3人救えば、それで終わる

 

その後はカプセルを爆破して…

 

その後は…

 

「しっかりしろ…怒りに身を任せるな、マーカス…」

 

そう自分に言い聞かせた後、一人目の鎮静剤を作る…

 

 

 

3時間後…

 

「こいつで全部だな??」

 

「はい‼ありがとうございました‼」

 

頭部の手術は多少厄介だったが、全員の切除手術はどうにかなった

 

ゴム手袋をゴミ箱に投げ入れ、椅子に座ってタバコに火を点ける

 

「ふーっ…矢崎」

 

「はい、大尉」

 

「三人の回復が終わり次第、カプセルを爆破する。それまで二時間ある」

 

「今の疲労している状態では…」

 

「一服が終わったら案内してくれ。とっとと済ませたい」

 

「了解です」

 

どうせもう使われない施設だ…

 

タバコを床に捨て、踏んで火を消し、立ち上がる

 

「大尉…その…」

 

「分かってる…分かってるさ…」

 

「…行きましょう」

 

矢崎の後に続き、廊下に出る

 

通路を行く途中、当時のまま使われている牢屋エリアに来た

 

「へっ‼ようやくお父ちゃまがおでましだ‼」

 

「今更来たって遅いんだよ‼」

 

「元はと言えばお前が元凶だよ‼」

 

牢屋からは、この施設で実験に関わっていた連中が一時的に収監されている自衛隊の奴等の罵声が聞こえて来た

 

酷い言われ様だ…

 

だが、事実である事に変わりはない

 

俺があのカプセルを作らなければ、こんな被害は出なかったはずだ…

 

「大尉…」

 

「本当の事だ。気にするな」

 

「くっ…」

 

矢崎は俺の為に奴等を睨んだ

 

「同じ職と思いたくない…こんな奴等…」

 

「もういい。行こう」

 

「は‼逃げるのか‼いつまでも逃げ続けろよ"死神"が!!」

 

左にある牢屋から、そんな罵声が聞こえて来た

 

足を止め、声がした左の牢屋の方を向く…

 

「今何と言った」

 

「ひっ…」

 

牢屋に近付き、中にいる男の目を見る

 

「今何と言ったか聞いてる」

 

「は…はわ…」

 

「た、大尉…はっ…あ…」

 

矢崎が止めに入るも、矢崎の動きも止まる

 

「どうした。言ってみろ」

 

「はっ‼ばっ‼はぁー‼はぁー‼」

 

牢屋に居る男は呼吸困難に陥る

 

「鍵」

 

「はっ、はい‼」

 

震える矢崎から鍵を受け取り、牢屋の鍵を開け、鉄格子をスライドさせて中に入る

 

「はっ‼はっ‼はっ‼はぁっ‼」

 

「もう一度言ってみろ」

 

「しっ‼ししっ‼しにっ‼」

 

男は小便を垂れ流しながら、必死に呼吸を整えるも、言葉になっていない

 

鉄格子の一本を持ち、それを引き抜くと、丁度いい感じの鉄の棒になった

 

「やめて‼やめて下さい‼」

 

それを男の頭に振りかざす

 

コンクリートが砕ける音がし、砂煙が立つ…

 

「はっ…はっ…はっ…」

 

「どっちが死神かよく考えろ」

 

男の目の前で、鉄の棒と化した鉄格子を左手で曲げる

 

「…」

 

男が気絶したのを見て、鉄格子を閉め、鍵を閉め直す

 

「直しておいてくれないか」

 

「はっ‼」

 

「すまない」

 

監守代わりに居た矢崎の部下に、元に戻した鉄の棒を渡した

 

「鍵、ありがとうな??」

 

矢崎から借りた鍵も返す

 

「い、いえ…大尉が怒るのも当然です」

 

「そろそろ短気の子を直さんとなぁ…う〜む…」

 

矢崎は階段を降りて行く

 

余計に静けさが増して行く中、いつもそうしている様に腰に手が回る

 

この先に何かがある…

 

それも、今までより凶悪な何かが…

 

「ここです、大尉…」

 

「ありがとう」

 

「お待ちを…」

 

いざドアを開けようとした時、矢崎は俺の手を止める

 

「私は中を見ました…あまりにも酷い惨状です…」

 

「どのみち見るんだ。なら、早めに見た方が良い」

 

「了解です…行きますよ」

 

重いドアが開く…

 

 

 

 

「何だ…ここは…」

 

腰に掛けてあるピストルを握る

 

一発で分かった

 

ここで人の生き死にがあった事が…

 

「廃棄場…いえ…焼却炉…でしょうか…」

 

「人のか」

 

俺の足元には、人の死体がある

 

それも、また子供だ

 

体の一部が深海化している

 

恐らく、体がその変化に耐えられなかったのだろう

 

「えぇ…適性が無かった人間や、失敗した者はここで…」

 

「すまない…」

 

その場で屈み、子供の目を閉じさせる…

 

「こうならない為に、戦ってたんだがな…」

 

「大尉…大尉に何の責任もありませんよ…悪用したのは奴等です」

 

「ありがとう…そう言ってくれるだけで、少し楽になったよ…」

 

「ギャァァァァ‼ギャァァァァ‼」

 

「はっ‼」

 

奥の方から声がした

 

矢崎の方を振り向き、頷き合った後、声の方に向かう

 

「よーしよし‼もう大丈夫だ‼」

 

「もう大丈夫ですよ‼この人はお医者さんです‼」

 

「イダイィィィィイ‼グルジイィィィィイ!!」

 

台の上にいたのは、まだ小さい子供

 

ここにいるという事は…

 

矢崎が俺の顔を見た

 

俺は、小さく首を横に振った…

 

「大丈夫だ…大丈夫だぞ…」

 

「私達が助けますから…」

 

俺が抱き締め、矢崎が声を掛け続ける…

 

「イダイィィ…グルジイ…」

 

「よしよし…もう頑張らなくていいぞ…」

 

俺が抱き寄せると、子供は俺を抱き返す

 

「オド…ザン…」

 

「良い子だ…ゆっくりおやすみ…」

 

子供の腕が落ちる

 

「ごめんな‼助けられなかった‼俺のせいで‼こんな痛い事‼うわぁぁぁぁあ‼」

 

「たっ…大尉…」

 

子供の亡骸を抱き寄せた時、涙が止まらなくなった

 

体が耐えられなかったのか、子供の下半身は溶けていた…

 

恐らく、目も見えなかっただろう…

 

それでも最期に、俺を父親と勘違いした…

 

あまりにも残酷過ぎる最期だ…

 

「ようやく父親のお出ましか」

 

階段を降りて来た、見知らぬ中年の男性

 

「あんたは…‼」

 

矢崎が拳銃を構える

 

「君は矢崎一佐だね??どうも、私はここの責任者の田淵だ」

 

「海の幕僚長が何の用だ‼」

 

「ここを知られたからには、君達を消さねばならんのだよ」

 

田淵は拳銃を持ち、俺に向ける

 

「大尉‼クソッ!!」

 

「すまない…俺がせめて…」

 

「君を殺せば、あのカプセルの権限が我々に移る。国の発展の為‼資本主義の為に!!どうか死んでく」

 

「田淵ぃぃぃぃい!!」

 

ズドン‼と、鈍い音が矢崎の耳に入る…

 

「大尉!?」

 

「ぐっ…痛いじゃないかっ…」

 

田淵が構えていた拳銃が弾かれた

 

「聞き飽きたよ…その文言…」

 

左腕で子供の亡骸を抱き寄せ、右手でピストルを撃った

 

「国の発展の為…資本主義の為…いつも犠牲になるのは弱者だ…」

 

子供を寝かせて立ち上がり、田淵と呼ばれた男に近付く…

 

「はっ…君の口から弱者と出るとはな‼何が弱者だ‼今まで人を殺してのし上がって来た君の‼どこが弱者だ‼君なら分かるだろう‼我々の研究が‼」

 

「あれは人を救う為の装置だ…実験の装置じゃない…」

 

「君が元凶だという事は変わらん‼」

 

「そうだな…それだけで良いか」

 

「はい??」

 

「言い残す事はそれだけで良いのか」

 

田淵の眉間にピストルを向ける

 

「はっ‼撃ってみろ‼そんなだから死神と呼ばれるんだよ‼君は‼」

 

何の躊躇いも無く、引き金を引いた

 

カチン…と、弾切れの音が出た…

 

「はははは‼死神にも見放されたなぁ‼」

 

田淵は内ポケットから別の拳銃を取り出そうとする

 

「子供は良い被検体になったよ‼マーカス・スティングレ…」

 

田淵の眉間にピストルが当たる

 

「な…何だ…まだ持ってたのか…」

 

無言で田淵を見つめ、片手で箱からタバコを咥え、火を点ける

 

俺の手には"血が付いたリボルバー"が握られている

 

「死ね‼こ…」

 

パンッ…と、乾いた音が響く

 

田淵の眉間に穴が開き、その場に倒れた

 

「お前は2つ過ちを犯した。俺の"息子"を悪用した事…」

 

「…」

 

革ジャンの内ポケットにリボルバーを仕舞い、もう一度子供の亡骸に寄り、頭を撫で、部屋を出ようとした

 

「た、大尉‼…もう一つは何です!?」

 

「事情は分かった。ここから出るぞ」

 

普段使っている方のピストルの弾を装填しながら、今度は階段を登る

 

「大尉…」

 

「ありがとう、救ってくれて」

 

「もう一つとは…」

 

「チッ…拳銃持ってたな??」

 

「えっ??えぇ、一応…」

 

「弾こめろ。このドア開けたら敵がいる。結構ワンサカだ」

 

矢崎は拳銃の弾を装填し、俺はドアの向こうの様子を伺う…

 

「後ろから援護してくれ。ちょっと頭に来てる」

 

「了解」

 

「左を任せる…行くぞ、3、2、1!!」

 

思い切りドアを開け、向こうが気付かぬ内に発砲開始

 

「マーカスだ‼撃て‼」

 

無言のまま、敵対する自衛隊を撃ち抜いて行く

 

「どっから湧いて来た貴様ら!!」

 

「裏切り者が‼貴様も死ね‼」

 

矢崎の拳銃の腕は高く、小銃やら自動小銃相手に拳銃一丁で優勢に出る

 

連射能力で負ける前に撃てば良いだけだ

 

「よし…何とかなったな…」

 

「B小隊!!此方"アクィラナイト"!!援護してくれ!!」

 

《了解、アクィラナイト‼》

 

「今、部下を此方に向かわせました」

 

「矢崎‼」

 

「はっ‼」

 

矢崎を抱き寄せ、背後に回す

 

その瞬間、榴弾が飛んで来た

 

「ぐっ…‼」

 

異様に威力が高いっ…なんだこの砲弾は!!

 

「ほぅ…私の砲弾を耐えるか。貴様、ただ者ではないな」

 

砂煙の中から出て来たのは、涼月と良く似た顔付きをした少女

 

「ここに来て艦娘か…矢崎、B小隊を引かせろ」

 

「了解です!!B小隊‼持ち場に戻れ‼現在、自衛隊開発艦娘と会敵中!!接近を禁ず!!繰り返す、接近を禁ず!!」

 

《了解アクィラナイト‼持ち場に戻る!!》

 

「懸命な判断だ。私に少々の武装は無意味だからな」

 

「ここに連れて来られたのか、それとも、ここで生まれたのか、どっちだ」

 

「私を倒して聞いてみるんだな!!」

 

正体不明の艦娘からの砲撃が再開

 

装備された機関銃で俺と矢崎を狙う

 

「クソッ!!」

 

俺と矢崎は互いに正体不明の艦娘に発砲し返す

 

「ははは。ぬるいな!!」

 

「矢崎!!行け!!」

 

「大尉は!?」

 

「奴と話がある!!」

 

「2発目は耐えれるかな!!」

 

彼女は先程放った榴弾砲を構える

 

向いている先は勿論俺

 

あんなもの、至近距離で喰らったら流石にマズイな…

 

「こっちだ!!」

 

彼女の艤装に銃弾が当たる

 

「豆鉄砲が…私にその攻撃は効かん!!」

 

「隊長!!逃げて!!」

 

そこには何故か、ピストルを構えた涼平が居た

 

「邪魔をするな!!」

 

彼女は銃弾を弾きながら、榴弾砲を涼平に向ける…

 

「まずは貴様からだ!!」

 

「涼平!!」

 

制止虚しく、彼女は涼平に向けて榴弾を放った…

 

「うっ…」

 

榴弾は涼平に直撃したかに見えた

 

「大丈夫か??」

 

「矢崎さん…何やって!!」

 

間に立っていたのは矢崎

 

腹に直撃したはずなのに、矢崎は何故か立っていた

 

「"次は"護って見せるさ。大尉の援護をする。奴の砲を狙えるか??」

 

「りょ…了解です!!そうだ。これを使って下さい!!」

 

涼平は背中に挿していたライフルを矢崎に渡す…

 

 

 

「次は貴様だ!!」

 

彼女の砲が、俺の方に向く

 

やらねばならんのか…

 

普段使いのピストルでは、奴の装甲を貫けない…

 

だが"もう一つの方なら"、貫通力がある…

 

すまない"マリオ"…今日はそっちに送る奴が多くなりそうだ…

 

分かってくれ…俺はまだ、ここでは死ねない!!

 

俺は彼女に向けて、リボルバーを構える…

 

「隊長!!伏せて!!」

 

「まだ生きてたか!!」

 

涼平の声の後に、ライフルの銃声が2発

 

それと同時に、彼女の榴弾砲が破壊される

 

 

 

救えと言うのか…

 

殺すなと言うのか…

 

助けられると言うのか…

 

………

 

良いだろう…!!

 

 

 

「クソッ‼死に損ないが!!」

 

「おい」

 

「はっ!!ぐぁぁぁぁあ…!!」

 

渾身の左アッパーが彼女に当たり、軽く宙に浮く

 

「憎いか」

 

アッパーを当てた状態のまま、彼女を睨む

 

「あぁ憎い!!全てが憎い!!誰が産んでくれと頼んだんだ!!誰が…こんな体で産んでくれと…」

 

「思いの丈をぶつけてみろ。殺すつもりで来い。ここからは…手加減シナイ…」

 

左手の手袋を取り、深海化が始まる…

 

「隊長!!くっ…!!」

 

深海化が始まった俺を止めようと、涼平が止めに入ろうとする

 

「待て…大尉に賭けよう。あの人なら出来る気がする」

 

矢崎はライフルを構えたまま、涼平を止める

 

「分かりましたっ」

 

涼平も再びライフルを構え直す

 

「はは…貴様も同じか!!」

 

破壊された砲を捨て、彼女も身軽になる

 

「コイ」

 

「ふんっ!!」

 

彼女は俺に殴り掛かる

 

振りかぶっての右ストレートが俺の胸に当たる

 

「なっ!!」

 

彼女の手を取り、左頬にビンタを当てる

 

「いっ…た…」

 

殴られた頬を抑え、こちらを見ている

 

「ソレハ、サッキノホウゲキノブンダ」

 

「はは…おらぁ!!」

 

今度は俺の左頬に右フックが当たる

 

「な…何で…ごふっ!!」

 

今度は鳩尾に左手で掌底を当てる

 

「ソレハ、リョウヘイトヤザキヲウッタブンダ」

 

「何だよ…何なんだよ!!」

 

敵わないと感じたのか、両手で無闇矢鱈なパンチを繰り出す彼女

 

「はぁ…はぁ…」

 

「オワリカ」

 

「まだまだぁ!!」

 

何十発もの拳の応酬が俺の体に当たる

 

「はぁ…はぁ…」

 

最後の一発が、胸にトン…と力無く当たる…

 

「な…」

 

彼女の頭に手を置き、掴む様に撫でる

 

「やめろ…やめろ!!離せ!!」

 

「モウイイダロ」

 

「はぁ…はぁ…離せぇ…」

 

力尽きたのか、彼女は膝から落ちた

 

「よく、頑張った…」

 

深海化を戻し、彼女を抱き寄せて胸元に頭を置かせる

 

「生きたい…」

 

「大丈夫、俺が救ってやる…心配するな…」

 

「は…そうか…貴様だな、艦娘の医者ってのは…」

 

それが分かると、彼女は意識を失った

 

「帰ろう…帰ろうな…」

 

「帰りましょう、大尉」

 

「行きましょう!!」

 

彼女をお姫様抱っこし、最初に矢崎がいた部屋に戻って来た

 

「隊長、大丈夫ですか??」

 

「すまないな…お前にもっ‼色々背負わせてしまったなっ‼よいしょっ‼」

 

「そんな…」

 

涼平と話しながら、彼女をカプセルの溶液に浸す…

 

「隊長は…いつもこんな場面を見て来たのですね…」

 

「悪い事ばかりじゃなかったさ。涼平、そのコンセント挿してくれるか??」

 

「あ、はい」

 

「これでよしっ…」

 

《名前は何だ…教えてくれ…》

 

カプセルの中で彼女が目を覚ます

 

「マーカス・スティングレイ。君は??」

 

《ここでは"FG.A型"呼ばれていた…その辺に資料があるはずだ》

 

「どれ…」

 

《待て…私が眠るまで、行かないでくれ…》

 

「自分が探します‼少々お待ち下さい‼」

 

涼平が資料を探してくれている間、俺は彼女を見る

 

「一つだけ聞かせてくれ。どこから来たんだ??」

 

《私はここで産まれて、一度ここから逃げた深海…戦いが嫌になって、とある島に行ったんだ。そこで、一人の老人と出逢って、面倒を見てもらっていた》

 

それを聞き、涼平は持って来ようとした資料を落とした

 

「コキちゃん…??」

 

《そう呼ばれていた時もあったな…だけど昔の話だ…老人が爆撃で死ぬ前に、私は仮死状態にされた。気付けば、またここだ…》

 

「そんな…あの時連れて行けば…」

 

《気にするな涼平。さっき恨みは返した》

 

「ごめん…では済まないよね…」

 

《おいマーカス》

 

「何だ??」

 

《眠るまで、彼と話していいか。私の恩人と…》

 

「分かった。一つ約束しておく。目が覚めたら、君は横須賀で面倒を見る。いいな??」

 

《分かった》

 

「搬送を頼んでおく。涼平、後は任せた」

 

「了解です‼」

 

涼平とコキちゃんを残し、俺は部屋を出た…

 

 

 

 

「大尉、何から何まで…」

 

「そこにジュラルミンケースがある。中には時限式の爆弾が入ってる。事が済んだら、涼平と話してる子が入っている以外のカプセルを破壊してくれ」

 

「了解です。大尉は何処に??」

 

「少し疲れた…手術の後に戦闘はっ…神経を削る。外で一服させてくれ。叢雲!!」

 

「どうしたの??」

 

「矢崎を手伝ってやってくれ」

 

「えぇ…いいけど…アンタ、大丈夫??」

 

「心配するな」

 

億劫な空間を後にし、外へと出る…

 

 

 

 

一面雪景色が広がる

 

網走監獄からほんの少し離れた場所にベンチがあり、そこに腰を下ろし、タバコに火を点ける

 

「君も色々背負うね…」

 

「涼平に連れて来て貰ったのか??」

 

「君が心配でね…」

 

横に座ったのは大淀博士

 

涼平が使っていたライフルで何となく察しは付いていた

 

「随分精神も身体も摩耗したみたいだ…」

 

「そうだな…少し疲れた…」

 

連続した手術、度重なる戦闘、そして深海化…

 

今回ばかりは少し疲れた…

 

「広いな…ここは…」

 

「北海道は広いよ??雪景色が多いけどね??」

 

大淀博士は俺が話しながら渡した物を受け取る

 

カチン…と音がした後、シリンダーの中を見る

 

そして、内ポケットの中からシガーケースの様な小さな入れ物を取り出し、その中から銃弾を取り出し、装填する

 

渡したのはあのリボルバー

 

あの日、ガリバルディの兄を殺めた物だ

 

改造を施してはあるが、パーツはほとんどそのまま

 

威力の高い弾を撃ち出せる様にしてあるが、銃弾は大淀博士にしか精製出来ない

 

深海の外装甲を用いたアーマーピエッシング弾だ

 

「君はいつも誰かの為に戦う…見てられないよ…」

 

話しながら、大淀はリボルバーを俺に返す

 

「いつもの事さっ…」

 

リボルバーを革ジャンの左ポケットに仕舞う

 

「そのマテバを使う日が来るとはね…二度と使わないと思ってたよ」

 

改造を施してあるとはいえ、このリボルバーの名前は"マテバ"

 

"ここでこいつを仕留めねばならない"時しか、使わないと決めている

 

「…艦娘に向けてしまった」

 

「いいんだよレイ君…君が助かれば、それでいい」

 

「俺がカプセルを造ったから…俺が造らなければ…」

 

「もういいよレイ君…それ以上言わないでよ…」

 

「助けられたハズだったんだ!!子供も!!ここに連れてこられた人も!!」

 

「もういい!!」

 

大淀に顔を掴まれ、唇で言葉を塞がれる…

 

肩の力が抜け、大淀に身を任せてしまいたくなる…

 

「随分精神を摩耗したんだね…」

 

大淀は唇を離し、俺の顔を掴んだまま、目を見る

 

「こんなレイ君…見たくないよ…」

 

「いつもの大淀でいてくれ。頼む…」

 

「ん…そうだね…ごめんね、レイ君…」

 

大淀は俺の左腕に、自身の体を寄せ、しがみ付く…

 

二人で一緒に、代わり映えしない雪景色を眺める…

 

「レイ君…」

 

「ん…」

 

「逃げちゃおっか…」

 

「どこにだ??」

 

「ちょっとだけだよ…??ちょっとだけ、逃げちゃおっか…」

 

「どこに行きたい??」

 

「沢山だよ…レイ君の行きたい所に…」

 

 

 

 

それは、彼女の精一杯の引き止め方だった

 

彼はいつか必ず戦場に、誰かを救う為にまた戻ってしまう…

 

ただ…今だけは、自分が引き止められる…

 

自分にしか、引き止められない…

 

精神も身体もボロボロになった、世界で一番愛した男がそうなっているのを、見ていられなかった…

 

「行こっ、レイ君!!」

 

その男は少し笑い、女の手を取った

 

女はずっと、男の手を握り、雪の中を走った

 

男はそれに、身を委ねる事にした

 

二人のその姿は、まるで脱獄の様

 

現実と戦いからの脱獄だった…

 

 

 

 

「よし、爆破!!」

 

網走監獄ではカプセルが爆破され、退去準備が始まっていた

 

「隊長は??」

 

「大淀博士もいないな…少し通信を…」

 

矢崎が通信を入れようとすると、涼平はそれを止めた

 

「なんとなく…なんとなく、です。二人でいる気がするんです…」

 

涼平の言葉に、矢崎は通信の手を止めた

 

「…そうだな!!よし、帰ろう!!」

 

「はいっ!!」

 

多数の市民の死傷者は出たが、ようやく主要の実験施設が破壊された

 

一行は、横須賀へと戻る…

 

 

 

 

「そう…レイと博士がいなくなったのね??」

 

横須賀に戻り、涼平はジェミニに事の説明をする

 

「通信を繋げましょうか??」

 

「どうせ繋がらないわ。やめときなさい」

 

通信を繋げようとした親潮を止め、ジェミニは涼平の手から網走監獄で手に入れた資料を貰う

 

「レイは精神的にやられたのよ…レイは他の誰かを治す事が出来ても、自分を治す事が出来ないの」

 

「今回は特に残酷な光景でした…」

 

「きっと私じゃ治せない。一時なら体でも何でも使って治った様には見せられる…だけど、完璧には無理よ…」

 

「元帥…申し訳ありません…自分は…」

 

「いいの涼平。気にしないで!!いい??レイが帰って来たら、いつも通りにするの。それだけでいいわ??」

 

「了解です。では」

 

「後でお礼するわね」

 

涼平は一礼した後、執務室を出た

 

「嫉妬心が見えます」

 

「そうね…だけど、心の補填を出来るのは大淀博士しかいないわ…今は大淀博士に賭けましょう??」

 

「畏まりました」




FG.A型…フリートガール.エアブレイク型

自衛隊が建造した"対空艦娘"

空を砕くをコンセプトに建造が進められたが、一隻しか完成しなかった

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。