艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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31話 旅行鳩は雷鳥に恋をする(3)

「何見てるんだ⁇」

 

「これは何だ⁇」

 

目の前にはベルトコンベアがあり、パイナップルの缶詰が流れている

 

「ぱいなっぷるとは一体…」

 

「食べてみるか⁇」

 

「食べられるのか⁉︎」

 

中にいた妖精に話すと、これはどうやら洋上で食べる簡易の食料の一部らしい

 

缶詰を二つ貰い、その場で開けて、まずは私が食べてみた

 

武蔵は不思議そうに私の食べるパイナップルを見ている

 

「甘酸っぱくて美味しいぞ⁇」

 

「いただきます」

 

輪切りにされたパイナップルが一つ、武蔵の口に運ばれた

 

「うん‼︎美味い‼︎」

 

気に入ったらしく、すぐに平らげてしまった

 

「ごちそうさま」

 

「美味しかったぞ」

 

”明日も頑張りや〜”

 

工廠を出ると、これに良く似た製造場がまだ幾つかあるみたいだ

 

「提督といると、知らない事が沢山だ‼︎」

 

「世界は広いぞ⁇美味しいものだって、山ほどある」

 

「いつか、提督に安息の日が来たなら、その時はもっと広い世界を見てみたいな…」

 

「希望が出来たな」

 

「そうか、これが希望か‼︎やはり知らない事ばかりだ‼︎」

 

私も、武蔵といると希望が出来る

 

こいつと一緒にいれたら

 

こいつが傍にいたら

 

武蔵と繋がれて、良かった…

 

「さ、提督よ。そろそろ宿舎に戻ろう」

 

「そうだな。みんな待たせてる」

 

宿舎に戻ると、みんなちゃんと自分達の席で待っていた

 

もうすぐ晩御飯だ

 

「…うっ」

 

「…」

 

「うふふっ‼︎」

 

スティングレイは気まずそうに座っている

 

左にはグラーフ

 

右には鹿島

 

完全に板挟みだ

 

たいほうは前掛けをして、スプーンを持って嬉しそうにしている

 

しばらくすると、食事が運ばれて来た

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

たいほうの様子を見ながら、ちょくちょくスティングレイの方も見る

 

…案外普通だな

 

「スティングレイ⁇私のプリンをあげます」

 

「あ、ありがとう…」

 

「私はこの唐揚げ…」

 

「お、おぅ…」

 

やっぱり気まずそうだ…

 

「あ‼︎おった黒いの‼︎」

 

「龍驤‼︎そっちに行く‼︎」

 

「来い来い‼︎」

 

タイミング良く、軽空母達の宴会に誘われ、そっちに流れて行った

 

「むぅぅう…」

 

「…」

 

鹿島はむくれているが、グラーフはそうでもなさそうだ

 

「すてぃんぐれい、もてもてだね」

 

「そうだな…ははは」

 

グラーフはスティングレイの性格を熟知しているので、放っておいても戻って来るのを知っている

 

一方鹿島は、教官と生徒だった時の記憶しか無いため、自分の元を去ると不安になる

 

「中々面白い展開になって来たな」

 

武蔵も楽しそうに眺めている

 

結局スティングレイが二人の所に帰る訳もなく、全員が泊まる部屋に戻って行った

 

 

 

しばらくした後、スティングレイの宿舎…

 

「あ〜…食った食った‼︎」

 

スティングレイが部屋に戻って来た

 

「お帰りなさい‼︎」

 

ドアを開けると、鹿島が一人

 

「…」

 

スティングレイは無言でドアを閉めた

 

数秒した後、再びドアが開けられた

 

「やっぱ俺の部屋じゃねぇか‼︎」

 

「相部屋…嫌ですか⁇」

 

「嫌だ‼︎幾ら教官でも嫌だ‼︎ほら、出た出た‼︎」

 

「じゃあ命令にします」

 

「汚ねぇ‼︎」

 

渋々部屋の真ん中に座り、スティングレイは煙草に火を点け、貧乏ゆすりをし始めた

 

「な、何か用かよ…」

 

「貴方を見てたいのっ」

 

鹿島は机の上に両手で頬杖をつき、スティングレイを見つめる

 

「うっ…」

 

実はスティングレイ、こういうのに弱い

 

空では果敢でも、恋愛には奥手なのだ

 

「相当な腕になったんですね…あの頃とは全然違う」

 

「俺もそれだけ成長したってこった。後ろ盾が出来た」

 

「うふふっ」

 

「何が可笑しい‼︎」

 

「あの頃とは大違いね…」

 

「なぁ、本当の目的は何だ⁇」

 

「貴方が好きなの。貴方が生徒の時から…」

 

「はっはっは‼︎ないない…」

 

「本当ですっ‼︎」

 

「何か隠してる」

 

「うっ…」

 

「とりあえず、隠してる事を言ってくれ」

 

「分かりました。話します。実は…」


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