艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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長い時間が開いてしまい、申し訳ございません

昨今の事情を鑑みて、本来書くべきお話をかなり書き直していました

根幹から書き直していたので、かなり時間を要しています

小説なんだから気にせず書けば良いんじゃないか??と言われてしまえばそれっきりですが、自分の理に反するので書き直していました

その代わり、今回のお話は榛名が出ます 笑

それと、1話丸々貼って欲しいなぁとのご意見がありましたので、しばらくお試しで1話丸々貼るの試してみようと思っています


317話 取り残された遺産

加賀の一件から数日後…

 

今日は涼平と共に第三居住区に来ている

 

「お米、ですか⁇」

 

「そうだ。嫌ならいい」

 

少し前にここを奪還しに来ていた、あの融通の効かない艦長が、俺と涼平がイカを焼いている時に来た

 

「あ‼︎櫻井さんと峯雲さんに聞いて見ましょうか‼︎自分は農業はからっきしな物で…あはは…」

 

「貴様にも弱点はあるのだな…」

 

そうは言う艦長だが、涼平が笑うと共に口角を上げている

 

「隊長、少しだけ離れますね‼︎」

 

「頼んだぞ‼︎」

 

涼平が連絡を取りに向かうと、艦長が此方を向いた

 

「あの基地を潰したそうだな」

 

「人質を取られたんだ。取り返しただけさ」

 

「…一度しか言わないぞ」

 

彼はため息を吐いた

 

俺はそれを受け、イカを焼きながら聞く

 

「あそこは、セイレーン・システムの開発研究所だ」

 

「…なんだと」

 

「私の話を信じるか信じないかはあんた次第だ。だが、もし信じてくれるのならば、もう一度念入りに調べた方がいい」

 

「ありがとう」

 

艦長は一瞬驚いた顔をした後、少し微笑む

 

「…あの子は部下か⁇」

 

「そっ。優秀な部下さ。本当はずっとここに居させて、平和な事をさせてやりたい」

 

艦長は涼平を見ている

 

「…あんたを信じよう」

 

「おっ…」

 

胸ポケットから折り畳んだ紙を出し、俺の前に出した

 

「私が言った事にはしないでくれ。私が落とした紙を“拾った”それだけだ」

 

「助かる…どれ…」

 

艦長が渡したのは、旧海上自衛隊基地内部の地図

 

「セイレーン・システムが開発されていたのは二人。恐らくカプセルの中だ。あんたなら、開けられるだろ⁇」

 

「いいのか⁇こんな重要書類を…」

 

「いいか…」

 

艦長は俺の肩を掴む

 

「私は今からコシヒカリ農家の“横井”だ」

 

「よし、分かった…」

 

俺はその書類を胸ポケットに仕舞い、戻って来た涼平と共に三人でイカを食べる

 

その時は気付かなかったが、横井の背後で戦艦棲鬼姉妹、そしてシュリさんが睨みを利かせていた…

 

「分かったわ」

 

横須賀に戻り“拾った”横井の書類を横須賀に見せる

 

内部は現状調査が続いているが、どうも秘匿された区画があるらしい

 

「一旦スカイラグーンで補給をしてから向かって頂戴。一人で大丈夫⁇」

 

「何かあればすぐに無線を入れるさ」

 

調査に必要な最低限の道具だけアタッシュケースに入れ、とりあえずはスカイラグーンを目指す…

 

《ホント、アンタって暇の無い男ねぇ⁇》

 

スカイラグーンへ向かう道中、急に無線が入る

 

「ヘラか。どうした⁇手伝ってくれるのか⁇」

 

《やぁよ。アタシはアタシで忙しいもの。どっかの誰かさんが拾った地図を把握しないとね。データ、受け取っていいかしら》

 

「すまない、助かる」

 

《まっ、精々頑張んなさい。電子ドアくらいならまた遠隔で開けたげるわ。じゃあね》

 

今来た無線は叢雲なのかヘラなのか

 

今日はグリフォンに俺以外は乗っていない

 

きそはアトランタの相手を、ゴーヤとはっちゃんはヨナとちょっとしたお勉強

 

そしてヘラは多分基地にいる

 

そうこうしている間にスカイラグーンに着き、燃料の補給が終わる少しの間、タバコと飲み物を頂く…

 

「あ‼︎マーカスさんニム‼︎」

 

「オメェまた任務ダズルか⁇」

 

喫茶ルームには、遠征終わりの榛名とニムが補給を受けていた

 

「そっ。今からこの間の基地の調査だ」

 

「何か大変そうニム。一人ニム⁇」

 

「手隙が俺しかいないんだ。ま、すぐに終わるといいんだがなぁ…」

 

「しゃーねーダズルなぁ。どれ、一丁護衛に着いてやるダズル‼︎」

 

「ニムも行くニム‼︎」

 

「いいのか⁇」

 

「晩御飯の担当はリシュリューダズル。さ、どこダズル⁇」

 

榛名とニムに地図を見せ、海図には無い場所に丸を付ける

 

「大体分かったダズル。んじゃ、先に行って待ってるダズル‼︎」

 

「お先に行くニム〜‼︎」

 

強力な護衛を手に入れ、俺も秘匿基地に急ぐ…

 

「よし、着いた…」

 

秘匿基地に着き、一度呼吸を整えた後、キャノピーを開け、グリフォンから降りる

 

「大尉、お疲れ様です‼︎」

 

秘匿基地は横須賀が言った通り、既に横須賀や大湊の人員による調査が進められ始めている

 

「榛名とニムは⁇」

 

「あちらに」

 

「二人共、ありがとうな⁇」

 

「今聞いたダズル。人の命が掛かってんなら、尚更ダズル」

 

「さ‼︎探検開始ニム‼︎」

 

「あぁそうだ。高速艇の手配を頼む」

 

「了解しました‼︎」

 

俺達は入り口から基地に入る…

 

中は調査中とはいえ薄暗く、疎らに作業している人員がいるだけ

 

アタッシュケースを左手に持ち、右手で一応ピストルを構える

 

俺の背後で榛名はいつものハンマー

 

ニムは何故かゴルフクラブを持っている

 

「造って貰ったのか⁇」

 

「四番アイアンニム。ニムも打撃武器欲しかったニム」

 

そこでふと気付く

 

ひとみといよもそうだが、ニムも何処からとも無く武器を取り出す

 

ひとみといよに至っては、右向いて左向いたらもう魚雷を握っている時がある

 

たまに気になるが、あの原理は何なのだろうか…

 

《レイ君、秘匿基地にいるのかい⁇》

 

今度はタブレットに大淀博士からの連絡が入る

 

「フィアンセダズルな」

 

「美人さんニム」

 

「そうだ。セイレーン・システムの回収だ」

 

《奴等、まだそんな非人道的実験をしてたのかね…》

 

「ひとみといよが強過ぎたダズルか⁇」

 

《あの二人で終わるはずだったんだ…子供を放り込むのは、大淀さんも見るに耐えない…》

 

大淀博士はセイレーン・システム自体は昔から知ってはいるが、ずっと反対している

 

それでも尚、ひとみといよが懐くと言う事は大淀博士は二人が嫌いな訳では無い

 

「博士、ここがセイレーン・システムの開発研究所ってのは本当か⁇」

 

《さっき地図を受け取って今スキャニングをしてるんだけど、間違いはなさそうだね。いいかいレイ君、榛名ちゃんニムちゃん。セイレーン・システムは二心一対、二つで一つなんだ》

 

「つまり簡単な話、ヤベェと思ったら引き剥がせばいいんダズルな⁇」

 

《そゆこと‼︎ひとみちゃんといよちゃんみたいに、力を正義に使ってくれるといいんだけどねぇ…いかんせん、自衛隊の産み出したものだ、良くも悪くも、君達次第なのかもね⁇その辺はレイ君の方が知ってるんじゃないかな‼︎》

 

榛名とニムの視線を感じる…

 

視線を受け、少し微笑む

 

「難しい問題じゃない。抱き締めてやればいい。それだけさっ」

 

《榛名ちゃん、ニムちゃん。大淀さんがレイ君好きなの、今ので分かったかい⁇》

 

「ずっと知ってるダズルよ」

 

「最初からずっと優しい人ニム‼︎」

 

《今ヘラちゃんがここにいるんだ‼︎進行ルートの電子ドアは先んじて開けて行ってくれるよ‼︎》

 

「すまない、助かる」

 

《何かあったらすぐに言ってね‼︎》

 

無線が切れ、俺達は目的の区画を目指す…

 

「大淀の言う通り、ひとみといよは良い子ちゃんダズル」

 

「この前お料理してたニム‼︎」

 

二人のお褒めの言葉を受け、その場が少し和む

 

「ここだ…」

 

明らかに様子が違う電子ドアの前に来た

 

《レイ君、その先にセイレーン・システムの反応がある。そのドアはコッチからじゃ開けられないんだ…物理的なカードキーか何かないかい⁇》

 

「物理的に開けりゃいいんダズルな⁇」

 

一旦ハンマーを置き、舌を出して腕を回し“待ってましたダズル‼︎”と言わんばかりにハンマーを握り直す榛名

 

「ニム、おいで」

 

「ニム」

 

「うおりゃ‼︎」

 

ニムを軽く抱き寄せた後、榛名は一撃でドアを粉砕した

 

「やはり暴力ダズルな、うんうん」

 

「助かったよ。ちょっと見張りを頼んでいいか⁇」

 

「こっから先は榛名はからっきしダズル。ニム、ちょっと中で色々頂戴するダズル‼︎」

 

「またそんな事言ってニム…」

 

俺に続いて榛名が中に入り、ニムが後に続く…

 

「あった…」

 

カプセル自体はすぐに見つかった

 

セイレーン・システムと言われていた様に、カプセルは二つあり、それぞれに赤ちゃんが入っている

 

「マーカスさん、これいるニム⁇」

 

ニムが持っていたのは、今正にカプセルに入っている二人の情報が書かれた資料

 

「ありがとう。どれ…」

 

ニムから資料を貰い、内容を見る

 

“TS-01及びPS-203について”

 

TSとは、テスト中のシステムを指す

 

PSとは、テストを終え試作段階のシステムを指す

 

TS-01はセイレーン・システムのテスト中であり、現在知識教育を施している最中

 

髪色が茶髪の方がTS-01

 

テストが終了次第、TS-01は“行動制御識別側”になる予定

 

知識教育をしている最中ではあるが、TS-01は私達を親と認識していない可能性が高い

 

自己防衛なのか捕食活動が活発で、研究員三人が怪我をしている

 

赤子の見た目をしているが、捕食活動が活発な為か、ごく僅かではあるが二次性徴が見られる

 

「捕食ニム…⁇」

 

「食われるって事だ…」

 

「なんか地球外生命体みたいな言われようダズルな」

 

いつの間にか榛名も目を通してくれており、次の資料に移る

 

PS-203はプロトタイプのセイレーンシステムを指す

 

此方は“火器制御側”になる予定

 

TS-01と共に知識教育を進めているが、感情抑制が上手く働いておらず、表だって表情が分かり辛い

 

また、言語機能も着底しておらず、同じく感情が読み辛い

 

電子制御型速射砲実験において、命中しなかったもののセイレーンシステムによる遠隔砲撃を行う

 

テスト完了後は両者共に速やかにカプセルに投入し、行動を抑制する事

 

また、知識教育時のみ行動抑制を解除出来るものとする

 

「まだ赤ちゃんだぞ…」

 

「…お父様とは大違いね」

 

突然ニムが元の人格に戻り、目付きが変わる

 

俺を見て、優しい目をしている…

 

「大丈夫ニム‼︎ニムが面倒見てあげるニム‼︎」

 

ニムはいつものニムに戻り、カプセルの中と俺の顔を交互に見る

 

「よしっ‼︎榛名‼︎手伝ってくれ‼︎」

 

「おっひゃ‼︎まかひぇるらるる‼︎」

 

口をモゴモゴしながら榛名はカプセルの前に来た

 

「…何食ってんだ⁇」

 

「何食べてるニム⁇」

 

榛名は二、三回咀嚼した後、口の中の物を飲み込んだ

 

「あれダズル‼︎」

 

榛名の目線の先には缶詰がある

 

「赤飯の缶詰ダズルな。まぁまぁだったダズル‼︎」

 

「まぁいい。受け止められるか⁇」

 

「受け止める位しかしてやれないダズル」

 

「ギュってしてあげるニム‼︎」

 

「それだけで充分さ‼︎」

 

少しの間、近くのPCを操作する…

 

「お。起きたダズル‼︎」

 

「ガン見してるニム‼︎」

 

二人の嬉しそうな顔を横目で見ながら操作を続ける…

 

「よし、出来た‼︎三つ数えたら出すからな‼︎」

 

「バッチコイダズル‼︎」

 

「準備万端ニム‼︎」

 

「3、2、1‼︎」

 

カプセルの中を取り出すボタンを押す

 

「そっちか‼︎」

 

「あらぁー‼︎どーこ行くんダズル‼︎」

 

「転がって来たニム‼︎」

 

正面から出て来ると思っていた二人は、蓋が開いた途端、思っていたより下の方から出て来た

 

二人は前転するかの様にコロコロ転がり、二人の股下を潜り、少ししたら止まった

 

「ははは‼︎おめめグルグルダズルな‼︎」

 

榛名は軽く首を回して目が回っている茶髪の子の方を抱き上げた

 

「痛かったニム‼︎よしよし‼︎」

 

ニムは水色の髪色をした子を抱き上げる

 

「あは‼︎笑ったダズル‼︎」

 

茶髪の子は目が回り終えるとすぐに榛名を認識し、笑顔を見せた

 

「いでででニム‼︎」

 

水色の髪色の子は無表情だがニムの顔を見ると頬を引っ張り始めた

 

「よし、長居は無用だ。先に上に戻っててくれ」

 

「オメェはどうするダズル」

 

「こいつにお礼を言わなきゃ」

 

俺の背後には、自衛隊が造ったカプセルがある

 

「そうダズルな。ニム、先に上がるダズル」

 

「すぐ来てニム‼︎」

 

四人が先に上に上がり、カプセルに目を戻す

 

「すまない…こんな筈じゃなかったよな…」

 

カプセルに詫びを入れながら、爆弾を設置する

 

二度とここから…ここで生命が産み出されない様に…

 

エレベーターに入り、地上に戻る時にスイッチを押す

 

エレベーターの外でしっかりと爆発音が聞こえた

 

「…」

 

上に上がる時に、ニムから渡された資料を見る

 

「なるほど…そういう訳かっ…」

 

アタッシュケースに資料を入れ、榛名達の所に戻る…

 

「詫びは入れたダズルか⁇」

 

「あぁ。ありがとうな⁇」

 

「気にするこたぁねぇダズル」

 

そうは言いつつ大淀に言われた通り、ちゃんと二人を引き剥がしている榛名とニム

 

「しっかしこの子はさっきからずっと笑ってるな⁇」

 

「外に出たのが嬉しいんダズル‼︎」

 

榛名に抱っこされたTS-01は、カプセルから出てからずっと笑っている

 

笑っているのが標準なのか…⁇

 

「おっ…」

 

「いい子ちゃんダズル‼︎」

 

そうは思いつつ、頬を人差し指で撫でると更に笑った

 

笑っているので間違いは無いみたいだ

 

「今日からお外だぞ〜⁇イデェ‼︎」

 

資料に書いてあった事も忘れ、早速TS-01の捕食行動の餌食になる

 

「こ、これか…捕食行動って…」

 

「満面の笑みで噛んでたダズル‼︎」

 

「さぁ、もうここに用は無い事を祈ろう」

 

「この子達どうするダズル⁇」

 

「先に第三居住区に連れて行きたいんだ。会わせたい奴がいる」

 

「よっしゃ‼︎ニム‼︎第三居住区行くダズル‼︎」

 

「分かったニム‼︎」

 

待っていた高速艇に二人が乗り、俺はグリフォンで第三居住区に向かう

 

今の所、あの二人が暴走する事はなさそうだ

 

仮に暴走したとしても、彼女達を抱っこしている二人が止めてくれる

 

《マーカス様、今どちらに⁇》

 

今度ははっちゃんが通信をくれる

 

「今から第三居住区に向かう所さ。ヨナはどうだ⁇」

 

《とても情報の飲み込みが早いです。今日は色んな食べ物を三人で学びました》

 

「よし、帰ったら聞かせてくれ。一つ仕事を頼んでいいか⁇」

 

《なんなりと‼︎今ここにはプロフェッショナルが三人もいます‼︎》

 

急にはっちゃんのテンションが上がる

 

「横須賀に届いてるんだが、TS-01とPS-203の栄養補給方法を調べて欲しいんだ」

 

《畏まりました。TS-01は柔らかい固形物なら可能、PS-203は流動食です》

 

「早いな…」

 

《まぁ大体創造主が聞くだろうと思ってたでち》

 

《流動食って何ですか⁇》

 

ゴーヤの声が聞こえてすぐ、ヨナの声が聞こえた

 

《流動食ってのは、ドロッとしたご飯の事でち。ヨナナスがそんな感じでちな‼︎》

 

《「おぉー」》

 

俺とはっちゃんが同じリアクションを取る

 

三人と会話しながら、第三居住区へと向かう…

 

「よし、着いた」

 

第三居住区に降り、榛名とニムが着くのを待つ

 

「あんたも忙しい男だな…」

 

「戦争以外なら何だって飛んで行くさ」

 

埠頭で待っていると、隣に横井が来た

 

手に持った二つある缶ジュースを一つ手渡され、それを飲みつつ二人を待つ

 

「すまない。夕食の準備がある」

 

「ありがとうな」

 

「…あんたの口からありがとうと出るとはな」

 

「経歴を見させて貰った」

 

横井は戻ろうとしたが、それを聞いて足を止め、振り返った

 

「人の過去は見るものじゃない」

 

「アンタ、ここしばらく発砲していないな」

 

「見間違いじゃないのか」

 

「いいや、見間違いじゃない。ある日を境に、アンタは発砲を止めてる」

 

「ほう。いつからだ⁇」

 

「自分がよく分かってるんじゃないのか⁇」

 

そう言って、横井の目線から外れる

 

「…」

 

横井は持っていた缶ジュースを落とす

 

「榛名、ニム」

 

「分かったダズル」

 

「分かったニム」

 

榛名とニムに二人を渡され、横井はすぐに二人を抱き締める

 

「良かった…」

 

「はは〜ん⁇これで分かったダズル‼︎」

 

「何がニム⁇」

 

榛名が目線を赤ちゃん二人に向ける

 

ニムが見たのは、自分達に抱き上げられていた時より笑顔になるTS-01

 

そして、横井の顔をずっと見ているPS-203

 

「お腹空いたか⁇ははは、よしよし…私が作ってやろうな」

 

横井は二人を抱っこしたまま、居住区の中へと向かう

 

榛名とニムも横井の背後を着いて行く

 

俺は五人に背を向けたまま、タバコを吸って一息つける

 

今、あの三人に必要なのはあの赤ちゃん二人だ

 

横井が発砲を止めたのは、あの赤ちゃん二人に会って以降だ

 

何か思う所があったのだろう

 

そして榛名とニムは、吹雪で出来た穴を、あの二人で埋めようとしている

 

そこに俺は必要ない

 

何かあれば、手助けしてやればいいだけだ…

 

「もうすぐ出来るからな〜」

 

横井がキッチンに立ち、何かを作っている

 

TS-01は余程お腹が減っているのか、榛名達の所におらず、料理を作っている横井のズボンの裾を満面の笑みで齧っている

 

「捕食行動ってあれニム⁇」

 

「マーカスも噛み付かれてたダズル」

 

TS-01のそれは、格好良く言えば捕食行動

 

優しい言い方をすれば、噛み癖だ

 

「よ〜し、出来た‼︎」

 

「おっ」

 

「あ」

 

榛名とニムの近くにいたPS-203が反応を見せた

 

先程からびっくりする位大人しくしていた彼女だが、横井が持って来たご飯に対して急に動き始めた

 

まるで普段からそうしているかの様に、横井は足にTS-01を付けた状態でちゃぶ台まで来た

 

「鮭のほぐした奴の雑炊だ」

 

「へぇ、美味そうダズルな‼︎」

 

「…」

 

ニムはこの時、二人が“こういう物を食べている”としっかり記憶していた

 

いつの間にかTS-01は横井の横に座っており、PS-203も、ずっと鍋の方を見ている

 

「PS-203をお願いしてもいいか」

 

「分かったダズル」

 

「さ‼︎ご飯ニム‼︎」

 

榛名が雑炊をよそい、ニムがPS-203に前掛けを着ける

 

「二人共、まだ自力では食べられないと思う。あそこでは、誰も教えなかったからな」

 

「どれ…」

 

榛名がスプーンをPS-203に渡すも、ちょっと見ただけで、すぐに雑炊が入った鍋に視線を戻す

 

「あ〜んダズル」

 

榛名が言うと、PS-203はちょっとだけ口を開ける

 

美味しいのか、美味しくないのか、PS-203の表情からは分からない

 

ただ、横井の手から食べているTS-01を見るとバクバク食べているので、きっと美味しいのだろう

 

「美味いか⁇」

 

横井の問いに、TS-01は変わらず満面の笑みを返す

 

横井はTS-01に食べさせながら、話をし始める…

 

「あの日、私はこの子達を見たんだ」

 

「攻撃をやめる前ダズルか」

 

「あの日私は“こんな子達”に頼る様ではこの戦いは負けると思ったんだ。痛い‼︎違うんだ‼︎悪口じゃないさ‼︎」

 

「なはははは‼︎噛まれとるダズル‼︎」

 

まるで気付いたかの様に、横井の指に喰らい付くニコニコ顔のTS-01

 

榛名達の横では雑炊が一瞬寄越されなくなったPS-203がいるが、非常に大人しく待っている

 

「あ。そうダズル。TS-01とか、PS-203とかみたいな呼び方ダメダズルな」

 

「言われてみればそうだな…そうだ、助けてくれたんだ。君達が付けてあげてくれないか」

 

「この子は“フミーちゃん”にするニム‼︎」

 

「フミー、か。可愛い名前だな」

 

「今日からフミーちゃんニム‼︎」

 

元PS-203は、自分の事をフミーだと分かったのか、これ以降フミーと呼ばれるとちゃんと反応する様になる

 

問題はTS-01

 

未だに雑炊をバクバク美味しそうに食べている

 

「んじゃオメェは“白露”ダズル」

 

「白露⁇」

 

榛名のネーミングセンスは、パッと決めた様に思えていつもかなりしっかりしている

 

「白いご飯粒いっぱい頬っぺたに付けて食べる子は頑丈に育つんダズル。それと、白露は雨露みたいにまん丸な顔してるダズル。きっと美人になるダズル」

 

「良かったな、白露」

 

元TS-01、白露は多分分かっていない

 

言われても満面の笑みで横井の雑炊をよそったレンゲを自身の方に向けているからだ

 

「マーカスは何処に行ったんだ⁇何も礼を言っていない」

 

「二人の登録に行ったニム」

 

「なーんで分かるんダズル」

 

「3、2、1…」

 

ニムが急に数を数えると、榛名のタブレットが震えた

 

「何ダズル」

 

《榛名か‼︎今横須賀で二人の登録をしてるんだがな‼︎》

 

榛名は通話を続けながら、ニムを見る

 

ニムは白露と良く似た満面の笑みを榛名に送る

 

《二人の名前が決まったら、俺か横須賀に言ってくれないか⁉︎それで登録が終わる‼︎》

 

「決まったダズル‼︎オメェを噛んだ方が白露‼︎大人しい方がフミーダズル‼︎」

 

《そうか‼︎良い名前だ‼︎また意味を聞かせてくれ‼︎》

 

「今度会ったら聞かせてやるダズル‼︎」

 

《ありがとうな、三人共》

 

「いつだって飛んでくニム‼︎」

 

「ぶっ壊すなら呼んで欲しいダズル‼︎」

 

「…ありがとう、マーカス」

 

横井もここでようやく礼を言えた

 

《横井の口からその言葉を聴けるとはな‼︎じゃあな‼︎》

 

マーカスとの通話が終わる

 

「オメェなーんで分かったダズル」

 

「マーカスさんがしそうな事ニム」

 

「…彼は、いつもあぁなのか⁇」

 

「マーカスは困った奴がいたら、何処にだって来てくれる奴ダズル」

 

「後お医者さんニム‼︎」

 

二人のマーカスの話はしばらくの間尽きる事は無かった…


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